小説『IS 戦う少年と守護の楯』
作者:天地無用生もの注意()

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強さとは何か?
クラス代表戦からずっと考えてきた。いや、たぶんずっと前から……。

私自身が強ければ、あの人がISを発表した後も国に保護される必要は無かった。
だから私は強さを求めた。

私を害する人がいると、説明を国から教わったときに、ならばその害する人たちよりも力強くなればいい。
幸い私の家は剣術道場だったので、強くなる手段は目の前にあった。
―――だからこそ、剣の道を進めば強くなると思っていた。

だが、クラス代表を決める前の妙子の「模擬戦で勝つことは無い」という言葉に苛立った。
しかも、あのアイギスという警備会社に属しているのに、勝つつもりは無いとハッキリ言っていた。
正直、軟弱者だと思ったし、そういう目で見ていた。
しかも、これから対決するはずの一夏とセシリアを仲良くさせようとしていたのだから、何も知らない平和主義だと決め付けていた。

だが、クラス対抗戦のとき私のとった行動で妙子が怪我をした。
私が馬鹿だった。

あのとき一夏に期待したのは、小学生の頃私を庇ってしかも、相手をやっつけるあの背中をもう一度見たいという欲求だったのかもしれない。
そして、一夏との繋がりを再確認したかったのだろう……。相手の火力を考えずに無謀な事をしたんだ。

一夏なら大丈夫だと思っていた。
そして、あの人が作ったIS。絶対防御があるIS。私はISを嫌いながら絶対の信頼していただけなんだ。
だが、あの防御に優れているエライヤでさえ絶対防御が働いたのだ。もし、もし他のISなら攻撃を受けていたら、絶対防御が働いた後も攻撃を受け続けてこの世から消え去っていた可能性が大きいと教わった。

分からない。

あそこまで自分の事を犠牲にしてまでも護る事が『強さ』なのか。
それとも、刃のように自身を鍛えぬく事が『強さ』なのか……。







20話 如月修史としての受難



うう、見られてる。
見られてると言うより凝視されてるといった方がいいのかな。
ハッキリ言いましょうすごくやり難い。

「ええーと、箒さん?」

「箒で良い。前に妙子で良いと言ったではないか。ならば公平に名前だけで十分だろう」

確かに仰るとおりなのですが、自分が性別を偽っていると思うと、どうしても罪悪感があるので、

「えーと、前にいた学校。女子校なのですが年上のお姉さまには様付けで呼ぶのが普通だったんです。
どうしてもそこで暮らしていた習慣で、同級生でさえ、さん付けが普通なので、女の子を呼ぶときは癖で…」

「女の子?」

い! ヤバイ! どうしたら良い? いくらあたしが同級生の設定だとしても、さすがに女の子呼ばわりするのは変だ。

「あ、えーと。あたしはアイギスの中で育ったものですから、知り合いがみんな年上だったんです。
だからどうしても同級生の娘を『女の子』って呼んじゃうんですよ。設子さんのさま付けと同じなんです」

なにやら思う事があるのか、箒さんは納得したように頷いてくれる。

「ほう……。この班はずいぶんと余裕だな、山田妙子。
私はどうやら『ちょっと不器用』らしいから、他の班より遅れたらお前の苦手な射撃訓練を追加してやろう。
なに。心配することは無い。先ほど見たとおり山田先生は銃の扱いには慣れているし、教育者としても誇りを持っている。
それにどうやらお前はスキンシップというのが苦手なようだ。山田先生に手取り足取りしっかり教わるんだな」

ひぃ!

いつの間にここへ? それよりもその目は『あの』バ課長や束と同じ人をからかう目ですよ。
あきらかにあたしが女性が苦手という事を知っていますよね?

とにかく、山田先生はムリです。ムリなんですって。
顔つきはあたしと同じように年齢を偽っているんじゃないか? って思うのに、あの軟らかい体はなんなんですか!
さっき腕が触っ…。押し付けてしまったときにビックリしたくらい軟らかいのに…軟らかいだけじゃなくて、軟骨って言っていいのか(?)とにかく、
軟らかいくせに堅さと弾力が混じっているんですよ。
女の人の体って訳が分からない……。

それにさっきの設子さんを見たでしょ。
普段冷静な分メチャクチャ嫉妬深いんです。そんな事になったらいったいどんな目に会うか……。

「タエタエ? タエちゃん? タエピー??」

「うわ!! 本音さん抱きつかないで下さい。びっくりしますから」

「うんうん。タエタエはトリップしやすいのかな? ダメだよ。織斑先生の授業で気を抜いたら本当に補習を受けるからね。
それにしても、タエタエって胸が小さいよね〜。スタイルがいいのにもったいないよ。揉むと育つって言うから揉んであげようかな〜」

「結構です!」

何が悲しくて男が胸を大きくしなきゃいけないんですか。

「それじゃ、織斑先生に怒られる前に実地訓練をやりましょうか。
シュミレーターとは違って、かなり歩きにくいです。
うーん、そうですね。感覚的には竹馬を使っている感じです。又は、ハイヒールとか…。とりあえず、普段の歩き方と違和感があると思うので順番にやりましょう」

さすがは世界に一つだけのIS学園。
基本はできているし、あたしが戸惑ったところをちょっと教えれば、あっという間に自分のモノにする。

出来ていないのは一夏さんの班くらいかな?
しかし、どうもワザと失敗しているような気が……。

「妙子。ちょっといいか?」

「なんでしょう。箒さん?」

一夏さんの特訓で打鉄を使っていたからスムーズに終わったのに。
何か気になることでもあるのでしょうか?

「改めて尋ねたい。山田妙子。お前にとって『強さ』とはなんだ?」

はい? いったいどういう流れでそんな事を聞いてくるんでしょうか??

それにしても『強さ』とはね……。
あたしも課長…とは言わないまでも、あの体格があったなら、自信を持って答えられるのに。

「そうですね。『強さ』って人によって変わるのではないでしょうか?
親が子を守る強さ。
子供を産む為に地獄のような痛みを堪える強さ。
あっ、ガードとしては、護衛対象に『この人がいれば大丈夫』と思われる存在感とか、
一夏さんのように目標をしっかり持っていて、その為に努力するのも『強さ』の一つですね」

子供を産む為には鼻からスイカを引きずり出すくらいの痛みがあるって、昔聞いた事がある。
痛みには体性があるが、正直そんな事望んでするつもりはないし、出来もしない。
この学園のほとんどが、将来そんな思いをするんだから頭が下がります。

だけど、箒さんはこんな模範解答は興味が無いらしい。

「いや、そうでは無く。あの時妙子は、自分の身を挺して襲撃者から私を守ってくれた。一夏にしてもそうだ。
ISの絶対防御が在ると分かっていても同じ行動を取れたか…。そう思うと、私には正直自信が無い」

ですよね〜。やっぱりこの回答はお気に召さなかったし、わたしだって箒さんの求める『強さ』の種類は分かります。

「と、まあ。建前はそれくらいにして、あたしにとって強さって、自分が確実に出来る事を行える事だと思うんです。
あのとき、あたしはエライヤという身を守る手段があったので、前に出ましたが、生身だったらあの行動は勇気では無く、無謀なんです。
だから、あたしが思う『強さ』とは、普段から鍛え上げる肉体、又はきちんと整備した道具で自分が出来る最善の事を当たり前のように出来る事。
その為には、常に感覚を研ぎ澄ます事も重要ですし、ISの事にも通じないといけないんじゃないでしょうか?」

あれ? もしかして、あたし。すごく良い事言ってますかね??

「と言っても、言葉だけじゃ分からないと思うので打鉄で斬りかかってください」

うん。そうです。こういった事って実感できないと本当に理解できない事が多いんです。
それに、この前みたいに無茶な事をする前にちょっと矯正してもらわないと、あたしの身も危ないですしね。

「いいのか?」と箒さんが言って打鉄で構える。
うーん。確認していますが、十分やる気はあるみたい。まあ、あたしなりの答えを出したのを確認したいのでしょうね。

さて、っと。

イグニッション・ブーストは完全にはモノに出来ていない。
『楯』は使用可だけど、今回ばかりは箒さんの為に使わない方がいいと思う。
―――ならば、エライヤの超高速移動と体術だけで無力化する。

打鉄が正眼の構えをとるのに対して、真正面で肩を落とし足に無駄な力を入れないように構える。

ISのセンサーを打鉄のみに絞りそれ以外をカットする。
この瞬間だけは余計な情報は要らない。

打鉄が僅かに後ろ足を地面に密着させた瞬間に、上半身を前に倒し前に出る。

ほんの一瞬。本当に刹那の勝負だった。

「え?」ちょっと間が抜けた声が周囲から聞こえてくる。
ハイバー・センサーが周囲の情報を送ってくる。

箒さんの予想以上の踏み込みにあたしは本気を出さざるを得なかった。
それに箒さんの反射神経も恐ろしいくらい優れている。

「ほう。無刀取りか……。だが完全ではないな」

「はい。織斑先生の仰る通り、完全には出来ませんでした」

本来なら、振り下ろされる腕を掴み、体を反転させ相手を地面に叩きつけると同時に関節を極める。
それが、箒さんはあたしが体を入れ替える瞬間に開いていた体を丸め関節を極める事が出来ずにゴロゴロ……と。

そのおかげで現在織斑先生が上から覗き込む形になっています。

「楯で剣速を落とせば十分に出来たはずだが、残念だったな」

「はい。相手が打鉄のスペックくらいなら十分に出来ると思っていたんですが……、見誤りました」

「確かに訓練機相手ならできない事は無いだろう。
ところで、山田妙子。私は実習を命じたのだが、何故こんな事になっているのだ?」

あれ? もしかしてわたしピンチですか……。

「山田先生。私はこの馬鹿と話し合いをしなくてはいけなくなった。
残りの時間はあの班の面倒をお願いします。
山田妙子。せっかくだから職員室に行こうか」

ア、アウトです。箒さん。自分の実力を見誤ると、痛い目を会うんですよ〜…すよ〜……。






「さて、山田妙子。何故あんな事をした?」

アレ? 問答無用の説教コースではない。

「この前の騒ぎのときに、箒さんが無謀な事をしました。
力強さという事に対して、思うことがあったのだと思います。ですので、あたしが思う強さの定義を押し付けただけです」

何でだろうか。この人って、アイギスの教官みたいな感じだから、簡潔に言わないと怒られそうな気がする。もちろん言い訳なんかしたら大変なことに…。

「ほう。本来は教師の役目なんだが、お前は実戦経験がある分、間違ってはいないだろう」

綺麗に整頓された。イヤ、何も無い机の引き出しからファイルを取り出すと「ホレ」と手渡された。

「『シャルロット・デュノア』と『ラウラ・ボーデヴィッヒ』の表向きの資料だ」

「シャルロット?? シャルルではなくてシャルロットなのですか?」

しかも『表向きの資料』と言っていることは、やはりあの人物は女の子なんだろうか……。

「なんだ、気が付かなかったのか? しかし、本当にISに関しては素人のよ……。
すまん。内線のようだ。もしもし?」

ふむ、ならばこの資料を

読もうと思ったところに、受話器が差し出されている。ハテ?

「お前に電話だ。確かにISに関してはこいつ以上詳しい奴はいない。―――まったく、どうやってこの回線に……」

「もしもし、山田妙子ですが」

『ハロハロ〜。タエちゃん元気してる〜? って言うか、あんまり箒ちゃんをいじめないでね♪』

「織斑先生。どうやら間違い電話のようです」

どうやら言いたいことが分かっているのか、額に手を当てたまま追い払うように手を振っている。
この人でも現実逃避をしたくなるようなんですね。

『うーん。タエちゃんって何気に酷いよね。ウサギさんは寂しいと死んじゃうんだぞ〜♪」

うん。説得力が無いな。

「それで、いったい何のようなんですか?」

『うわ。相変わらずのスルー。まっいいか。
ではでは『第二回なぜなにIS』をめちゃおう! ドンドン! ヒューヒュー! パフパフ!」

あぁ、頭が痛くなってきた。

『タエちゃんも知っての通り、「アラスカ条約」でコアの取引は禁止されているんだよね。
本当は誰にでも使って欲しいのに勝手に決めちゃって、だから組織って嫌いなんだよね。あ、もちろん適正がある程度無いと宇宙空間での作業に問題があるから仕方が無い所もあるんだけどさ。
まあ、とにかくコア自体は国がある程度管理しているんだよ』

まあ、確かにそうしないと他国へ売り渡す奴もいるだろうな。

『でねでね、専用機となると最初に最適化するじゃない?
その時に当然ながら個人情報もコアに教えるわけ。そうじゃないと、他の人が使えるわけですよね〜。
IS学園で使っている訓練機なんかはそういう理由なのですよ』

「あー、そこらへんは授業でやっていますので、本題の方をお願いします」

『タエちゃんって、意外と頭の中残念な人?』

否定は出来ないが、ハッキリ言う人は…結構居たな……。

『まぁ、いっか。とりあえず専用機持ちって「国際IS委員会」にも登録されているんだよね。
つまり、「勝手に専用機持ち」の変えはきかないって事』

「だ・か・ら。簡潔に話して下さい」

『アッハハハ。やっぱり残念な子なんだね。
専用機持ちの名前を変えるには、初期化しないといけないんだよ。ただ、それまでコア蓄積した経験を丸ごとぜーんぶ消さないといけない訳。
そんな事、国が簡単に許すと思う? もしかしたら第二形態になる可能性を摘むんだよ。少なくても束さんならやらないね』

―――なるほど。そう言われれば確かに。

『タエちゃんはフランスのISをきちんと確認したのかな?
していたら、きっと「フランス所属 操縦者 シャルロット・ディノア IC機体ネーム ラファール・リヴァイヴ・カスタム?」ってエライヤが確認しているはずだよ。
フランス政府も初期化に許可を出していないから、何か問題があったらディノア社の独断でやった事になるんだよね。いや〜大人って汚いよね。
まぁ、それはともかく。いっくんの白式でさえ確認していたのに……。束さんちょ〜と心配になっちゃうな』

うっ…。もしかしてかなりのミスをした。

「ちょっと待て、何でアンタが知っているんだ?」

『え! ―――まあ、そこらへんは蛇の道はって事で。
とりあえず、ちーちゃんに変わってもらえるかな? 束さんからはちょっと言いにくい事もあるしね』

それ以来、受話器から束の声が途絶える。あぁ、もう。本当に我が道を行くタイプだ。
仕方がなしに織斑先生に受話器を渡して、今は相手の情報を頭に入れないと。

「はぁ!! 何故私がそんな事を告げなくちゃいけないんだ。……大体そういうことは前もって話してあるんじゃないのか? ……後で覚えてろよ」

織斑先生がかなり物騒な事を言っているんだが、正直聞くのが怖いな。

「―――山田妙子。あの馬鹿の知り合いとして頭を下げさせてくれ。
私はてっきり知っているものだと思っていたが、どうやら何も聞かされていないらしいな」

「どうも上司と依頼主が、結託しているので嫌な予感しかないのですが、落ち着いて聞きましょう」

織斑先生が口を開くとすぐに閉じてしまう。いつも明瞭な織斑先生がかなり言葉を選んでいる。
やはり嫌な予感しかない。

「ディノアに関しては専用機持ちなら分かる事だ。ISに係わって時間の少ないお前が気が付かなかったのもしょうがない。
現に山田先生はその書類に疑問を持たなかったからな」

えーと、フォローはいいです。それよりも嫌な予感を早く話してください。
まるでアイギスのナンバーズになる為の試験を受けた後の結果待ち、という宙ぶらりんのこの状況の方が心臓に悪いんですから。

「山田妙子。―――気をしっかり持って聞いてくれ。
どうやらお前は『山田妙子』として日本国籍を持っている」

ん? まあ、そうじゃなかったらこの学園に入れないから当たり前だろう。
それでも、織斑先生はかなりゆっくりとあたしに言い聞かせる為にゆっくりと言葉を続ける。
大体、あのバ課長だって本名かどうか怪しいくらいだからな。

「日本国籍だけではない。『国際IS委員会』にも『山田妙子』として登録されているんだ。
間違っても本来の姿でISを起動させるなよ」

それはもちろん。一応ISを動かせるのは女性だけなんだから当たり前の事じゃないですか。
そんな当たり前の事を一々確認しなくても男の体でエライヤを起動させたら恥ずかしくて死にそうですよ。

「う、ああ……。もっと分かりやすく言おう。
ここにいるのは山田妙子。正式に存在する人物だ」

「あの。もう少し分かりやすくお願いします」

「うっ。つまりお前個人は女として国際的に認められている。
簡単に言うと、―――お前は男と結婚が出来るんだ」

…はて? いったいなにを言っているのだろうか? 
いくら変装(女装なんて言わない)しているからって、男が男と結婚できるわけがないじゃないですか。少なくても日本では。

未だによく分からない事を言っている織斑先生は悲壮感、いや。罪悪感でいっぱいの顔をして、

「もう一度言う。公的にはISは一夏以外に男性の操縦者は存在しない。
よって、『山田妙子』という女性操縦者は登録されている。
だが、それには戸籍が必要だ。そしてあの馬鹿はその戸籍を新たに…」

さすがに残念な子と言われた頭でもようやく理解した。

「つまりお前は、一つの体に二つの同じ国の戸籍を持っているんだ。ただ、性別は別なんだ」


もし、ここが職員室でなければきっと叫んでいたんだろう。


『あの天災の馬鹿野郎〜〜!!』と。


「すまん。私が頭を下げても怒りが収まらないと思うが、本当に迷惑をかける」






後書きみたいなもの

難産でした。
まさかこの言葉を使うことがあると思わなかったくらい難産でした。

修史くんはみんなの玩具もちろんこの話になるようにしていましたが、思うように指が進まず困りました。

それにしても二巻の重要人物がほとんど出てこないって、どうしてだろうか??

ま、いっか。


-20-
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