まったく、修史の奴は護衛対象をほっといて何をやっているんだ?
織斑先生の授業であんな事をすれば結果なんてすぐに分かるはずなのに。
ただでさえ、修史は護衛対象者から好意を寄せられるのに。そのたびに私の心がヤキモキさせられる。
もしも、山田妙子として活動しなくて、如月修史としてガードに当たっていたら、悪い虫が付いてしまうではないか。
本人が無意識でも、いつの間にか修史を中心に動いてしまう。
きっと、何事も一生懸命だからだ。
―――そして、その思想に裏表が無い。だからこそ私は引かれた。
それに、私のことを…「綺麗だ」と……。あのとき驚いた顔で言ってくれたのに……。
その後だって、私のことを頼りになる相棒と呼んでくれたのに。
きっと地獄に落ちるだけの人生を送ってきたのに、そこから引きずりあげてくれた傷だらけの男の人。
まともにやり合えばきっと、否、最後に立っているのは私だ。
だがそれでも、修史という男は地を這いながらでも諦める事は無いだろう。
自分を裏切る事がない人。
ほんの少し状況が変わるだけで立場が逆転してしまったかもしれない人。
似て非なる過去を持つ人。
守護者と暗殺者。正反対に位置するのに惹かれあった。
醜い嫉妬だと分かっていても、心が乱されてしまう。
まったく厄介な感情だ。
―――だが、それでも悪くは無い。
またこんな試すような事をすると、嫌われるのじゃないかと思ってしまいますが、一度組織に裏切られた事のあるわたくしは、
どうしても距離を測るためにこんな事を思いついてしまいます。どうか嫌わないでくださいね。
それでは妙子さま? 今回はどんなお仕置がいいでしょうか? ふふふ……。
21話 山田妙子と真田設子の怪しい関係
「すまん!!」
ほへ?
教室のドアを開けて、一歩踏み出したところに箒さんがあたしめがけて走ってきたと思ったらいきなり九十度の姿勢で頭を下げてきた。
って、勢いがつき過ぎて髪が「ベシッ」って、意外と痛いですってば。
「織斑先生の事なら気にしなくていいですよ。―――説教とか慣れてますし」
自分で言っていて情けなくなるが、アイギスだけでなくテレジアでもしょっちゅう怒られていたからなぁ。
「い、いや。それだけですまなそうだ。
設子が……。あの笑顔が。とても怖い」
え? 何で?? どうしてそうなったんだ。
一夏さんの傍でガードとしての仕事をまっとうしているが、特に変わったところは無いはず。
「一夏さま? 殿方は食事の際に『あーん』というのが理想だと、小父様から聞いたのですが、一夏さまもそのような願望があるのでしょうか?」
「いや、えーと。お、俺はそんなに気にしない方だな」
その言葉に反応したのは、ほぼクラスの全員。中でもセシリアさんと箒さん。
あー。面倒なので鈴さんも加わったら一夏ラバーズとでも呼びますか。
「え!? 何かおかしいか??
千冬姉がおかずで欲しそうな物があったら、俺は普通にあげていたぞ。
大体、俺だって子供の頃は風邪を引いたときなんかは、千冬姉に食べさせてもらっていたし。
家族なんだから、相手の好みとかって分かるだろ。
女子がファミレスなんかで交換するのと同じようなもんだろ?」
ぜんぜん違いますよ!! そりゃぁ課長が好きな物くらいは知っていますが、ただでくれてやる必要なんか無いし。
そして、織斑先生の私生活を暴露した一夏さん。もしもこの情報が織斑先生の耳に入ったら、たぶん無事では済まされないでしょう。
「シスコン」
「わたくし、日本人はこういった事に奥手だと聞いていましたが。どうやら違っていたみたいですね」
「僕は日本人の知り合いが居たんだけど、たぶん一夏が特別なんだと思うよ」
「え? 違うの?」と同意を求めても、「弟からそんな事されたら引くわ〜」といった反応あった為あえなく撃沈。
「ねえねえ、おりむー。ポッキー半分食べる? 袋開けちゃったんだけど、もうすぐ授業だから捨てるのももったいないし、ベタベタになっちゃうんだ」
いつの間にか本音さんが登場して、一夏さんの顔の前でポッキーを一本ぐるぐると回している。
トンボじゃないんですから、という前に何のためらいも無く一夏さんはパクッと口にくわえると、
反対側を本音さんが!!
「ちょちょょょっっと! あなたはい、いったい何をなさるのですか!!」
一番初めに我にかえったのがセシリアさん。
さすがにあたしもびっくりしましたよ。まあ、それ以上にびっくりしているのは一夏さんでしょうけど。
「にゃははは。さすがのおりむーもポッキーゲームは難易度が高いのか〜。
あ、セッシー。これはただの好奇心だから気にしないでね♪
それに、おりむーの情報って高く売れるんだ〜。これでおいしいお菓子も食べ放題なのだ〜」
その場、というか。この教室全体を凍りつかせた本音さんは残ったポッキーをもぐもぐと食べながら自分の席に戻っていく。
まったくもってマイペースな人ですね。
「女って。怖いなー……」
一夏さんの呟きと共に授業開始のチャイムが鳴る。
今頃分かったなんて、一夏さん鈍すぎます。
◇ ◇ ◇
午前中の授業が終わって、さあメシの時間。
そういえば、何で学校って十二時ちょうどでは無いのは何でだろう?
たぶん、俺以外は「どうでもいいよ」と言われそうな事を考えていると、勢い良く教室の扉が開いて、
「一夏! ご飯食べよう!! 前に約束していた酢豚作ったから屋上で食べようよ」
あちゃー。シャルルと一緒にメシにしようとしていたのに。
「何よ! 文句あるの? 一夏のくせに生意気よね」
「そうじゃなくて、ほら。千冬姉からシャルルの事を頼まれたからさ」
千冬姉の名前を出すと苦虫をかみつぶしたような顔になって「そ、それならしょうがないわね」と。
鈴よ。お前はどれだけ千冬姉を苦手にしているんだ?
もっとも、千冬姉に逆らう事なんて考えるだけでも恐ろしいんだがな。
「あ、僕のことは気にしないでいいから食べてきてよ」
「おおう。シャルルはなんていい奴なんだ。
だがな、ここに来た以上覚えていた方がいいのが、『逆らってはいけない人がいる』と言う事だ。
具体的に言うと俺にとっては千冬姉もそうだが、束さんもその一人。あの人に変に歪曲して行動を起こす」
思い出すだけでもかなりやばい事があったな……。
「ちょっと、抜け駆けは無しのはずですわよ」
「はぁ? だったらアンタも来ればいいじゃない。アタシの酢豚の美味しさに敵うとでもでも思ってるの?」
人間の体はどこまで柔らかくなるのかとかの実験で、お酢を一本飲まされたことがあるし。
あれは結局、雑技団(?)の人がお酢が好きだったからそこから生まれた迷信だったんだそうだ。
だが、それを実際に証明する為に飲む前と、飲んだ後の筋肉の動きを測定するとか。常人には理解しがたい。
「その挑戦受けてさしあげますわ。ならば公平に審判を付けたいのですけど、かまいませんよね?」
「望むところよ! 例えどんな相手でもアタシが勝つに決まっているんだけどね」
他にもいろいろあったな〜。
生命の神秘を知りたいとかで、男体の方は自分では調べられないからって、俺の体を調べようとしたし。
さすがにあの時は千冬姉に泣きついて無事に済んだけど。
「大体なんで、料理を作ってきたのでしょうか? ここには食堂だってあるのに?」
「それは……。この前設子が一夏に料理を教わっているのを見たから、そういえばアタシが一夏に腕が上がったかどうか確かめてもらおうと」
「なっ、設子さん。貴女余計な事を」
「あら。セシリアさま。殿方の胃袋を掴む事が相手に逃げられない一番の近道らしいですわよ」
「まあまあ、二人とも落ち着きましょうよ。一夏さんだって困っているようですし」
「あら、妙子さま。小父様の台詞じゃないですけど、こんな事もあろうかと、あれから実験を繰り返して、美味しい肉じゃがを作ったので召し上がって下さいね」
「―――設子さん。『実験』って言いませんでした?」
「あの〜。一夏。僕には収拾がつかなくなってきたんだけど……。えっと、購買部とかっていうのを一度見てみたいな〜、って思ったり?」
「アンタが噂の転校生って奴? 男だったら流されんじゃないわよ」
「え、もしかして僕が責められているの?」
「―――(どう見ても女にしか見えないのに。何でみんな気が付かないんだろう? そして何であたしの事気が付かないんだろう??)」
「妙子? 何ブツブツ言っているんだ? 言いたいことがあるならハッキリした方がいいと私は思うのだが?」
「いえ…。何故か世の中の理不尽をちょっと……」
「い、一夏!? ちょっと戻ってきてよ!! 僕じゃ止まらないんだけど」
止まらない。そうだよな。何故か俺の近くにいる女の人って、暴走特急みたいに止まらないんだろうか?
ちなみに俺は、途中下車する方が好きなんだがな。―――たまに予想外の出会いもあるし。
「おやおや、いきなり途中下車して、今日は何をいただくのでしょうかね〜?」
「え? 一夏。帰ってきてよ。それに途中下車ってなに??」
「あれ。もしかして声に出してた??」
シャルルがコクコクと頷いている。だが、元ネタは知らないみたいだ。
ISが開発されたのが日本だから、ISを学ぶために日本語が世界中に浸透しているが、さすがにちょっと古かったか。
「あのさ。一夏ってば、たまに自分の世界に入っちゃうのよ。気にしたら負けなんだから」
鈴。それはフォローなのか? それとも馬鹿にしているのだろうか。
「ま。馬鹿はほっといて、購買部にでも行きましょうよ」
もしかして、俺の立場ってメチャクチャ低いのか……。
「僕。リアルであんな事しているのはじめて見た」
「奇遇ね。アタシもよ」
「フランスって、恋愛に情熱的だと思っていたんだが、見たことは無いのか?
ちなみに私は、千冬さんと一夏がやっているのを見たことがあるが、さすがに同性同士だとはじめて見るな」
「箒さん。さすがにナイフとフォークを日常的に使っている国は人に見られる場所ではやりませんよ。
でも、あの二人なら普段からやってそうですね」
「え!? でも設子さんは相手がいるって言っていたぞ」
「それ、アタシも聞いた。だから変なのよね」
「ねえねえ、一夏。あーゆーのを日本では百合って言うんだよね? 他にもバカップルとか」
シャルル。いったいどこでそんな言葉を覚えてきたんだ?
いつまでたっても日本が誤解されちゃうじゃないか。
―――だけど、目の前の光景を見たら否定は出来ないんだよな。
たぶんみんな(?)が予想しているように、設子さんが妙子さんに向けて肉じゃがを口に運んでいる。
妙子さんは始めこそ抵抗していたが、食堂の混雑を嫌い、時間を潰していた千冬姉の「恥をかかせるのはどうかと思うぞ?」との一言によりあえなく陥落した。
でも、おかしいよな? 設子さんの好きな相手って、見たことは無いけど確実に『殿方』と言っていたし……。
「設子さん! 他の人が居るときはもう少し大人しくしましょうよ」
皆の視線に我慢できなくなったのか、ついに妙子さんがキレてしまった。
だが、俺は聞いてしまった。
―――他の人が居なければOKなんでしょうか?
「ねえ、あんたさぁ。好きな男がいるって言っていたわよね? なんでそんなそんな事してんのよ」
鈴えらいぞ。あいにく俺はその甘ったるい空気の中に入る勇気は無い!!
「あら。鈴さまも女性ですよね? それならば、可愛いものを常に持っていたいとか思いませんか?」
「あ゛ー、もう。そうじゃなくて、好きな男がいるのに女にはしるのは変って言いたいわけよ。わかる!?」
鈴を見ていると猪突猛進って言葉を思い出すな。
でも、猪にしては可愛らしいから、ウリ坊だな。
「鈴さま。少々勘違いをしているようですね。可愛いは正義です!!
い い で す か ?!
『あーん』と口を開いて無防備に全てを任せるような表情!
それに伴ない。もしかしたら、箸が喉に当たるかもと、恐怖心からくる震えるような瞳!
そんな心の内を押し殺して、全てを食べさせてくれる相手に絶対の信頼をしているんですよ!!
それに萌えないで人間として間違っています!!!」
間違っているのはきっとあなたの思考回路だろう。
シャルルなんて、完全に引いてるし他のメンバーは普段を知っているだけにドン引きですよ。設子さん。
「失礼しました。
ですが、一度経験すれば、雛鳥に餌付けをしている親鳥の気持ちが分かるかと思います。
小父様にこの教えをいただいてからわたくし自身このような考えに行き着きました。
皆さんも一度試すと癖になりますよ」
犯人はあの人か……。
すごい人だと思っていたけど、別の意味ですごすぎです。
「それに、鈴さま?
いくらこの世界が女尊男卑が当たり前になっていますが、恋愛に関しては基本的に殿方の方が有利なんです。
一夏さま? たとえ話ですが、気を悪くしないでくださいね」
なんとなく、嫌な予感しかしないんだが。
それもわざわざ口に出しているし。
「一夏さま。あ、今ではディノアさまもそうですが、ISを動かせる殿方は二人しか居ません。―――もちろんこの先現れるかもしれませんが、とりあえず今は二人だけです。
そして、このIS学園は世界各地から色々な思想を持った方が集まっています。
もしも、そう。もしも。その中で、ISを動かせる殿方との間に子供が出来れば、適正能力の高い……、もしかしたら男の子が産まれる可能性もあるのではないでしょうか?」
俺とシャルルに向かってニッコリと笑いながら「可能性はなくわ無いでしょう?」その言葉に、初めてIS学園での危機感を感じた。
俺の白式の武器は『雪片二型』。そして、千冬姉が使っていたのは『雪片』。両方とも同じ単一仕様能力。
姉弟だから似てくるものなのかなー。と単純に思っていたが、設子さんの言う事が正しければ間違いなく俺も狙われる。
昔、誘拐されたときのように。
それどころか、生きている間中女子に心を許してはいけないかもしれない。
シャルルも何か感じるものがあるのか、かなり堅い顔になっている。
「とりあえず……。そこの女とアンタの個人の主張は理解できたわ。でも今は、一夏の事とアンタの事は関係ないでしょう?」
「そこ扱いですか……」と妙子さんがぼそりと呟いているが、他の人はあえて無視したようだ。
気にするな。妙子さん。鈴はこうゆう奴なんだから。
「あら、すみません。てっきり鈴さまが一夏さまの事を……。
わたくしと妙子さまの事でしたら、妙子さまの反応が私の好きな人と同じ反応するもので、とても楽しいのです」
俺と鈴は幼馴染なんだが、鈴は何でそんなに焦っているんだ?
「あ、それと。その相手の事でしたら、妙子さまの方が知っていると思いますよ。
わたくしからだとどうしても色眼鏡をかけてしまいますから」
その一言でほぼ全員が妙子さんへと視線を向ける。
いやー、恋話ってどこの国でも女子は好きだな。
「妙子! アンタ知っていて黙っていたの? 相手の顔は? 身長は??」
「ちょっと鈴さん。そんな事よりも文武両道の設子さんの相手ですわよ。学校の成績や血筋の方を聞いたほうが良いのでは?」
「え? ええ!! えーと、身長はあたし位で、顔は童顔だと言われています。
相手は一応社会人なので、学校の成績は分かりません」
「ふむ、では妙子。社会人と言うからには、どこに勤めているのだ? できれば写真等あれば見てみたいのだが」
「写真は持っていないです! 一応、アイギスに勤めている。ここまでは言えるんですが、それ以上は機密事項に入るので!」
「機密事項ですわね? と言う事はそれなりに重要な仕事を任されていると考えて良さそうです。
では、設子さんとお相手の馴れ初めなどは知っていますか??」
「ひーん。それ以上は聞かないで下さい!!」
設子さん。妙子さんをエスケープゴートにしたようだ。
それなのに、とてもにこやかに俺とシャルルの方へ歩いて来る。
「あら、デュノアさま? 顔色が悪いようですがどうしましたか?」
「え? ぼ、僕は特に何も気にしていないよ?」
「あら、そうでしたか。どうやら見間違いのようですね。
でも、気を付けて下さい。殿方が二人も居るという事はこの学園では女の子達から常に見張られていると思った方がいいと思いますから」
設子さん。笑顔が怖いです。
後書きみたいなもの
遅くなってすみません。
体を壊して休みの日の記憶が寝ているだけのおいらです。
一応設子さんもガーディアンとして、シャルに心を許していませんよ。
何度も書いたりしたのですが、キャラクターの性格がぶれたりしたので何度も手直ししました。
(でも、設子さんが壊れてしまいました。原因は課長です。←書いたのはおいらですが)
暖かくなったり寒くなったりする季節。どうか体調管理には気を付けて下さい。
(風邪をひいたおいらが言うのもなんですけどね)
OPみたいなものは一部『とある』の台詞を流用しています。(「地獄の底から引きずり上げるしかないよな」の台詞)
やっぱり上条さんカッコいいな〜
ちなみに『一夏ラバーズ』はISと同じハーレム物の『SHUFFE!』の『土見ラバーズ』から。
そういえば原作者ってゲームのシナリオライターだった。
そう考えればIS本編に謎や矛盾点が多くても、個別ルートで補填しようとシナリオライターのノリで書いていたのかもしれない。
まぁ、これはおいらの勝手な妄想ですけどね。