序章〜尽きる天命、物語の開幕〜
今、とある世界の一角で、1人の英雄の天命が尽きようとしている。彼は戦乱の地に生まれ、戦乱の世界を巡り、戦乱を鎮めてきた。彼にとってそれは自身に課せられた役目であり、その命が尽きるまでその役目を全うするはずだった。しかし、とある世界に降り立った時、そこで彼にとって守るべき、そして愛すべき者達と出会った。彼はその世界を守り、守った世界で愛する者達と共に生きた。
彼は幸せだった。皆と築いた平和な世界で愛する者達と共に過ごす毎日は戦乱を巡り続けていた彼にとって幸福の限りだった。彼は愛する者達と過ごし、子を成し、幸せな毎日を送った。やがて数十年という年月が経ち、彼の天命が今、尽きようとしている。
彼に悔いはなかった。
彼は満足だった。
彼の意識が徐々に遠のいていく。彼の頭の中には愛する者達の笑顔と思い出が巡っていた。やがて思い出が全て巡り終えると彼の意識が深い深い闇に落ちた。
英雄、御剣昴はたくさんの人達から愛され、惜しまれながらその生涯に幕を下ろした・・。
※ ※ ※
昴side
「――きる・・」
・・ん?
「――きる・・」
声が聞こえる。
「――起きる・・」
何だ? 俺は死んだのではないのか?
「むー、起きろ! 御剣昴!!!」
「っ!? 何だ!?」
俺は耳がキーンとなるほどの大声によりとっさに目を開けた。
「ここは・・」
目を開けると、そこは前後左右上下真っ白な空間だった。
「ようやく目を覚ましたか」
「・・あなたは?」
目を開け、視線を上に向けると、そこには眼鏡を掛け、黒髪を2つに結い、真っ白な法衣なような物を纏った見かけは十代半ば程に見える女性が立っていた。
「あたし? あたしは創造主、だにゃん♪」
「創造主?」
「あらゆる物を創造し、観察する。まあ砕けて言っちゃえば暇人にゃん♪」
? ・・・・よく分からないな、だが今はそれはいい、それよりも・・。
「ここは何処なんだ? 俺は死んだはずじゃ・・」
「もちろん、死んだよ。ここはあちきのあちきのためのあちきによる世界にゃん♪」
「?」
「あーもう! 要するに――!」
創造主とやらの説明によると、ここは創造主の作り出した空間で、俺は死んだ直後にここに連れて来られたらしい。
「なるほど。・・それで、俺に何の用があってここに連れてきたんだ?」
「ふふん♪ 単刀直入に言うにゃん。御剣昴、お前―――」
「転生する気はないか?」
「転生?」
「そう、転生。君には新たな世界に行ってもらいたい」
「・・何故?」
「ん〜・・単純に興味にゃん♪」
「興味?」
「あちきの趣味は人間観察なんだけど、君という人間はその中でもとりわけ面白いのでね。このまま死なすのは惜しいからここに来てもらったにゃん♪」
「なるほど」
光栄と言って良いのかどうか・・。
「それで、勝手に連れてきてなんだけど、転生してくれるかな?」
「いいともー! とは簡単には言えないな。1つ聞きたいんだが良いか?」
「何なりと」
「仮に断ったら俺はどうなるんだ?」
「その時は通常の人間と同様に死後の世界に行って生前の罪や記憶を洗い流してまた新たな存在として生まれ変わるだけにゃん」
「・・ふーん」
一般に伝わる輪廻転生という訳か。
「それを望むなら構わないよ。けど死後の世界に行ってももう君が愛する者はもう1人も居ないよ? 皆もう輪廻転生を迎えちゃったからね」
「・・・」
「もうあの娘達と会える事は限りなく0に近い。仮に会えても互いが互いの事を一切覚えていない。それでも良いの?」
「・・・」
「ゆっくり考えると良いにゃん♪ ここはあらゆる場所や次元から切り離された所だからたくさん悩んだら良いにゃん♪」
自称神は両手をウサギ耳のようにしてヒョコヒョコさせながら飛び跳ねた。
「いや、もう答えは出ている」
転生・・、これも何かの縁・・、いや、運命か。ならば・・。
「・・へぇー、じゃあ聞こうかな?」
「転生、するよ」
「良く言ってくれたにゃん♪」
再び自称神が両手をウサギの耳のようにして飛び跳ね始めた。
「それで? 俺はどんな所に転生するんだ?」
「それは行ってからのお楽しみにゃん♪ まあ、一言だけ言うと、君が今まで行った世界に比べてスケールはかなり大きいよ♪」
「スケール、ねぇ・・。それで、俺は転生した世界で何をしたら良いんだ?」
「にゃ?」
「仮にも自称神が、理由も無しに俺を転生させるとは思えない。俺に何かをさせたいんだろ?」
すると創造主は何かを考えるような仕種を見せ・・。
「ん〜・・別に?」
「は?」
「別にないにゃん♪ 第2の人生、君の自由に生きたら良い。また英雄と呼ばれる行いをしても良いし、はたまた悪行の限りを尽くしても良い。何だったら何もせずにひっそり暮らしたって構わない。・・まあ、強いてお願いするならあちきを楽しませてほしいにゃん♪」
「自由に・・、ねぇ。分かった、ならお言葉に甘えて自由にさせてもらうよ」
「それじゃ、話が決まった所で、転生させるよ? 準備は良いかにゃん?」
「ああ。いつでも構わない」
「了解♪ それじゃ、目を瞑ってー」
俺は言われた通り目を瞑る。
「それでは、いってらー♪」
その声を合図に再び意識が遠くなった。最後に聞こえたのは創造主の『ぐっらーく♪』という何とも間の抜けた声だった。
※ ※ ※
創造主side
御剣昴が光に包まれ、新しい世界へと転生していった。
「さてさて、これから物語が始まるにゃん♪」
創造主はニコニコしながら置かれている水晶を見つめる。
「ひっそりと暮らす・・ねぇ、果たして御剣昴にそんな選択肢を選べるかな? 例え望まぬとも運命が御剣昴を逃がすことはない」
クククッと一笑いし・・。
「楽しませてね、御剣昴。観察、それがあちきの唯一無二の楽しみであり役割なのだから・・」
新たな物語が始まった・・。
続く