Life.22〜赤き龍の目覚め、乱入〜
とても暗い場所。俺はそこにいた。
何も見えない・・・。
何も聞こえない・・・。
平衡感覚もなく、自分が今まっすぐ立っているのかどうかもわからない。
ここは何処なんだ・・・。
『永き眠りからようやく解き放たれたか』
っ!?
突如、俺の耳にそんな声が届いた。
ボォッ!!!
それと同時に先程まで暗かった空間に大きな炎が立ち上り、辺りを照らした。
俺のすぐ傍で炎が発現しているにもかかわらず、不思議とその熱を感じない。
ボォフッ!!!
立ち上った炎が弾けた。弾けた炎の中から現れたのはとても巨大な赤き生き物だ。血のように赤い瞳、耳まで裂けた口に鋭い牙、頭部にはとても太い角が並び、後は太い腕、足、鋭い爪を持っており、その全身は真っ赤な鱗に覆われている。そう、これは・・・。
ドラゴン・・・。
そう、あれはドラゴンだ。
そのドラゴンは俺の姿を捉えると、口の端を吊り上げ、笑った・・・ように見えた。
『ほう? お前がそうなのか・・・』
その赤いドラゴンは俺を見て何かを納得した。
何を言っているんだ?
『くくくっ、いかなる魔術をもってしても、赤と白の因縁は絶てなかったと見える』
・・・1人で盛り上がらないでほしいな。
俺の頭にはクエスチョンマークが浮かぶばかりだ。
『自己紹介がまだだったな。俺は赤い龍の帝王(ウェルシュ・ドラゴン)、名はドライグだ』
赤い龍の帝王(ウェルシュ・ドラゴン)・・・ドライグ・・・。
お前は何者なんだ?
俺は怪訝そうな顔を浮かべながら尋ねた。
『そんな顔をするな。俺はお前の相棒となるものだ』
相棒? ますますわけわからなくなってきた。
『俺はお前の左腕に宿る存在。かつては白い奴と共に二天龍と称されていた。今では神器(セイクリッド・ギア)に封じられた身だがな』
・・・話がよくわからねぇ、俺の左腕に宿る存在って・・・。
俺が自身の左腕に視線を移してみると・・・。
ボォォォォッ!!!
っ!?
俺の左腕が炎に包まれていた。
おいおい! 払っても払っても炎が消えないぞ!
『落ち着け。その炎はお前に害を及ぼすものではない。現に熱を感じないだろ?』
あ・・・確かに・・・。
さっきからゴーゴーと燃えているが全く熱くない。
『その炎はお前の力となる。神器(セイクリッド・ギア)にその姿を変えてな』
その炎は徐々に姿を変えていき、やがて赤い籠手となり、俺の左腕に装着された。
『その籠手の名は赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)。神器の中でも強大な力を有する神器、神滅具(ロンギヌス)と呼ばれる物だ。極めれば神も魔王も超えることができるものだ』
・・・マジかよ、この赤い籠手にそんな力が・・・。
『眠りにつき、永い永い旅をし、お前の元に行き着いた。そしてお前が強大な力を振るったことにより俺はその眠りから解き放たれ、再び現世(うつしよ)へとその姿を現した』
・・・。
『お前もそろそろ目を覚ませ。その左腕を通して事情は把握している。寝ている場合ではないぞ』
その瞬間、眩いほどの光が差し込んだ。
くっ! まぶし・・・。
※ ※ ※
「う・・・」
目を開けると、そこには見知った天井が目に映った。
俺の部屋・・・、俺はどうしてここに・・・。
俺は身体を起こした。徐に俺は自分の左腕に視線を移した。
あれは夢・・・だったのか?・・・・・・!? そうだ! そんなことより・・・。
レーティング・ゲームはどうなったんだ!? 七星閃氣の武曲を解放してからの記憶がない。勝敗!? 部長は!?
「目が覚めたようですね」
枕元にいる女性に声をかけられ、俺はそちらを向いた。そこにはグレモリー家のメイドであるグレイフィアさんがいた。
「何でここに・・・いや、それより、勝負どうなったんですか? 部長は何処に・・・」
「勝負はライザー様の勝利です。リアスお嬢様は投了(リザイン)されました」
「えっ!?」
投了(リザイン)!? 何故だ・・・。部長はあんなに夢を語っていたはずなのに。
「・・・覚えてらっしゃらないのですか?」
「覚えてない? いったい何を・・・っ!」
ズキッ!
俺の頭に痛みが走った。
『・・・なさい』
「!?」
俺の頭の中に言葉が走った。それと同時に胸をかきむしりたくなるような痛みも。
『・・・を・・・たくなかったから・・・』
俺の頭の中に徐々に記憶が甦ってきた。
※ ※ ※
「お願い! もうやめてーーーっ!」
「オォォォォォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!!」
俺は力を限界以上に引き出し、ライザーへと突っ込んだ。身体の筋肉という筋肉は千切れ、血液も大量に身体から吹き出している。それでもお構いなしに突っ込む。
絶対に勝つ! 主のために! この命を引き換えにしてでも!
「オォォォォォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!!」
絶叫をあげ、拳を握り、その拳をライザーに突き刺すためにただ前へと突き進む。俺の拳がライザーに突き刺さろうとしたその時・・・。
「投了(リザイン)します」
「!?」
俺の拳はライザーの眼前で止まる。
部長の声だ。聞き違えるはずがない。
投了(リザイン)? どうして・・・。
声のした方角に視線を向けると、俺のすぐ近くに部長がいた。
「部長・・・」
その瞳からは一筋の涙が流れていた。
「ごめんなさい・・・」
部長は一言謝罪し、俺にゆっくり一歩ずつ歩みを進めてくる。
「どうして・・・、どうして諦めたんですか・・・。俺はまだ健在ですよ? これから勝利を・・・」
部長は流れる涙を拭うこともせず、ただ首を横に振った。
「あなたを失いたくなかったから。勝負に勝っても、あなたを失ったら、私は一生後悔する。だから、ごめんなさい」
部長はただただごめんなさいと謝り続けた。
どうして・・・、俺は死んでもいいという覚悟はあった。それは部長もわかっていたはずなのに。どうして・・・。
「ゴホッ!」
俺は口から大量の吐血をした。その瞬間、身体の力を失い、膝から崩れ落ちた。
「昴!」
俺の意識がどんどん薄れていく。薄れゆく意識の中で、俺を抱きかかえた部長が、悲痛の表情でアーシア呼ぶ姿だった。
※ ※ ※
「・・・思い出した」
そうだ、部長は投了(リザイン)したんだ。俺のために・・・。どうして部長は! 俺は死ぬ覚悟はできていたのに!・・・いや、違う。
ゲームの時と違い、今の俺は幾分か頭の冷えている。悪いのは部長ではなく、俺だ。誰かのために死ぬことは容易い。だが、自分のために死なれることは辛い。部長は利己的に見えて情が深い。自分の私情で仲間が死ぬことに耐えられなかったのだろう。部長は責めることはできない。多分、俺でも同じ選択をしていたと思うから。
「何やってんだよ、俺・・・」
アーシアを守れず、今度は部長を・・・。俺は、何も守れてないじゃないか! 結局俺は・・・・・・いや、まだだ! まだ間に合うはずだ!
「グレイフィアさん、部長は今何処にいますか?」
「お嬢様は現在、ライザー様との婚約パーティーの会場におられます」
「他の皆もそこに?」
「リアス様の願いで、アーシア様だけはここに残られて昴様を見ておられます」
「そうですか・・・」
事情は理解した。なら・・・。
「グレイフィアさん、俺を、パーティー会場に連れてってください」
俺はグレイフィアさんに頭を下げた。
終わらせてはいけない。俺達の戦いも、部長の夢も!
「・・・納得されていませんか?」
グレイフィアさんは俺の真意を察したのだろう。そんな質問をぶつけてきた。
「できるはずかない」
無理やりに結婚させられようとしてるんだ。部長の意思を無視して。
「リアスお嬢様は、御家の決定に従ったのですよ?」
「どうでもいいことです。俺はリアス・グレモリー様の兵士『ポーン』、御剣昴。俺はただ、主のために動く」
俺はそう言って、グレイフィアさんの目を真正面から見つめた。
「・・・」
そんな俺をグレイフィアさんは無言で見返す。暫しの間、見つめ合っていると・・・。
「ふふふ」
今まで表情を表に出すことがなかったグレイフィアさんが小さく笑った。
「あなたは本当に面白い方ですね。長年、いろいろな悪魔を見てきましたが、あなたのように己の意思を曲げず、純粋にただ主のためにその力と忠義を振るう方は初めてです。私の主、サーゼクス様もあなたの活躍を他の場所で見ていて、『面白い』とおっしゃっていたのですよ?」
魔王様が・・・。光栄な話だな。
すると、グレイフィアさんが懐から1枚の紙切れを取り出した。そこには魔方陣が描かれている。
「この魔方陣は、グレモリー家とフェニックス家の婚約パーティーの会場へ転移できるものです」
「!?」
これが・・・。
「サーゼクス様からのお言葉をあなたへお伝えします。『妹を助けたいなら、会場に殴り込んできなさい』、だそうです。その紙の裏側にも魔方陣があります。お嬢様を奪還した際にお使いください。必ず役に立つと思いますので」
魔王様がこんな物を・・・。
俺は渡された紙を裏表を交互に見ていく。
グレイフィアさんは俺にその紙を渡すと、立ち上がり、部屋の扉へと足を向けた。
「戦いの折に、あなたの中で強大な力が解き放たれました。忌々しき力が・・・」
「えっ?」
俺は咄嗟に自分の左腕に視線を移した。
強大な力・・・。じゃああれは、夢ではなかった・・・。
「その力をもってすれば、あるいは・・・」
それだけ言い残し、グレイフィアさんは部屋を後にした。
「ありがとうございます」
俺は部屋から出ていったグレイフィアさんに頭を下げ、礼を言った。
「そうと決まれば、準備しないとな」
俺はベッドから降り、机の上を確認すると、新品の駒王学園の制服が置かれていた。
制服は戦いで黒焦げになったはずなんだが、おそらく、グレイフィアさん辺りが新しく用意してくれたんだろうな。
俺が新しい駒王学園の制服に袖を通していく。制服の全てのボタンを留め終えた時・・・。
バチャン!!!
「スバルさん・・・」
部屋の扉の方から何か音が響いた。振り向くと、そこにはアーシアが立っていた。足元には洗面器が転がっており、周辺には水が飛び散っていた。
「っ! スバルさん!」
アーシアが俺の姿を確認すると、俺の胸に飛び込んできた。
「よかった。本当によかったです。怪我を治療しても2日間も眠ったままで・・・。」
アーシアは俺の胸で泣き出してしまった。
2日か、随分と寝坊しちまったな。
「アーシア、聞いてくれ。これから部長のところへ行ってくる」
「っ!?」
俺は胸の中のアーシアに告げる。それを聞いたアーシアは顔を強張らせる。
「・・・お祝い・・・じゃ、ありませんよね・・・」
「ああ。ちょっくら、花嫁泥棒してくるよ」
俺はケラケラ笑いながらアーシアに言った。
「私も・・・っ!」
俺はアーシアの口に人差し指を当て、首を横に振った。
「アーシアはここにいろ」
「嫌です! 魔力だって使えるようになりました! 私だってお役に立てます!」
アーシアは俺の胸にすがりつきながら連れていってくれと懇願した。
「ダメだ。アーシアはここで待ってろ。心配すんな。必ず部長を取り戻す。大丈夫。俺には秘策が・・・」
「大丈夫なんかじゃありません!」
アーシアが涙を流しながら声を張り上げた。
「私、怖かったです。あんなに血を流しながら戦って、いつまで経っても目を覚まさなくて、私、見ていられませんでした。もう、あんなスバルさんは見たくありません・・・」
「アーシア・・・」
アーシアは優しい娘だ。仲間が倒れる姿はアーシアにとっては耐えられないものだろう。
「ごめんな。心配かけて。でも、それでも俺は行かなきゃならない。部長のために。俺の意地のために・・・」
「スバルさん・・・」
「でも約束する。俺は絶対死なない。必ず帰ってくる。俺は絶対にアーシアのところに帰ってくる。だから、アーシアは待っていてくれ」
俺はアーシアに満面の笑みを向ける。アーシアはそんな俺を見て涙を拭い・・・。
「それなら、もう1つだけ約束してください。必ず、部長さんと帰ってきてください」
アーシアは無理やりに笑顔を作り、俺に問いかける。
「ああ。約束するよ」
俺はウィンクで了承した。
「アーシア、君に頼みたいことがあるんだ」
俺はアーシアに頼みごとを伝えると、アーシアは俺の部屋を出ていった。
これでいい。後は・・・。
俺は左腕を前に出し・・・。
「赤い龍の帝王(ウェルシュ・ドラゴン)ドライグ。あれが夢でないのなら、聞こえてるんだろ? 俺の言葉に答えろ」
俺が左腕に話しかけた。すると、すぐさま返事が返ってきた。
『聞こえているぞ。どうした?』
「いくつか聞きたいことがある」
※ ※ ※
木場side
レーティングゲームが終了して2日が経った。
僕達はゲームに負け、部長とライザー・フェニックスとの婚約が決定した。
ゲームが終了してすぐに婚約パーティーの準備が進められ、ゲームの2日後、婚約パーティーが行われた。
部長と僕達眷属は、未だに目を覚まさない御剣君をアーシアさんに任せ、パーティー会場へと向かった。会場では様々な悪魔の面々が談笑している。傍らではライザーさんの妹君であるレイヴェル・フェニックスさんが会場の悪魔に自慢事を話している。
内容は、こちらには耳が痛い内容だ。勝負は拮抗していたんだけどね。
ボォッ!!!
会場の舞台上に一筋の炎が現れ、それと共にライザー・フェニックスさんが姿を見せた。
「冥界に名だたる貴族の皆様! ご参集下さり、フェニックス家を代表して、御礼申し上げます。本日皆様においで願ったのは、この私、ライザー・フェニックスと、名門、グレモリー家の次期当主、リアス・グレモリーの婚約という、歴史的瞬間を共有していただきたいと願ったからであります」
ライザーさんは、両腕を広げ、挨拶を進める。
「それではご紹介致します! 我が妃、リアス・グレモリー!」
ライザーの紹介と共に同じ舞台上に魔方陣が現れ、ドレス姿の部長が現れた。華やかな衣装ではあるが、部長の表情は硬い。
まあ、当然だよね。
ライザーさんが改めて部長を会場に集まる方々に紹介しようとしたその時・・・。
ドォォォォォーーーーン!!!!!
突如、僕達の後方から大きな爆発が起き、轟音が会場に響き渡った。振り返ると、会場への通用口の扉が粉々に壊され、粉塵が舞っていた。
会場中が何事かと騒然としている。
「やれやれ、ようやくお目覚めかい?」
全く、待ちくたびれたよ。
粉塵が徐々に収まっていく。それと同時に人の姿のシルエットが見えてきた。
そこには、新しい駒王学園の制服に身を包み、左手には彼の得物である長刀村雨、右手には花束を持った、僕達、グレモリー眷属の兵士『ポーン』、御剣昴君の姿があった。
続く