小説『ハイスクールD×D〜転生せし守り手〜』
作者:ブリッジ()

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Life.27〜交渉、激突する激情〜














「よく無事だったわね」

部長が俺を抱きしめた。

あの後、例の2人はすぐに帰っていった。それから数分程経つと、部長とアーシアが血相を変えて帰ってきた。アーシアは途中で部長と鉢合わせをし、事情を聞いて一緒に帰ってきたらしい。

「怪我はない? 何もされてない? どうなの?」

部長は心底心配そうに尋ねてくる。

「大丈夫ですよ。向こうはハナから戦う気はなかったみたいですし」

まあ、仮に戦いになっても最悪逃げることぐらいは可能だっただろう。

「もしかして、私にわざわざ商店街まで買い物に行かせたのは、私を危険から引き離すためだったんですか?」

「ん〜、まあその・・・」

それが一番の理由だが、向こうがどう動くか知りたかったのもある。

俺が頬を掻きながら返答に困っていると、アーシアが俺の制服の裾をちょんとつまんだ。

「・・・私だってスバルさんのお役に立てます。ですからこれからは私も頼ってください」

アーシアは怒っているというより、少し寂し気に言った。

「私の可愛い下僕達に何かあったと思ったら、居てもたってもいられなかったわ。もし、あんな別れをしたままあなたを失っていたら・・・。とにかく無事でよかったわ」

「部長・・・」

俺は部長に愛されてるんだなってつくづく思う。ホント、いい主に恵まれたなぁ。

暫し、抱き合っていると、頬を膨らませたアーシアが背後から俺を抱きしめてきた。

そして、3人とも落ち着いたところで部長が話を始めた。

それは、事前に例の2人と接触したソーナ会長から、2人がこの街を縄張りにしている部長と交渉したいとのことだった。

「教会側の人間がねぇ・・・それは、契約なんですか? それとも依頼ですか?」

「どういうつもりかはわからないけれど、明日の放課後に彼女達は旧校舎の部室に訪問してくる予定よ。こちらに対して一切の攻撃を加えないと神に誓ったらしいわ」

「・・・それは信用できるんですか?」

ついさっき会った時は奴らに戦意や敵意は見られなかった。それでもまだ信用をするわけにはいかない。

「信じるしかないわね。彼女達の信仰を。わざわざ私達悪魔に依頼するぐらいなのだから、かなりの厄介事であることは確実ね」

「まあ、そうでしょうね」

教会側にとって俺達悪魔はたぶん、見敵必殺と言っても過言ではないだろう。そんな俺達に依頼をするということは、そうまでしなければならない事態か、でなけりゃ、俺達悪魔を一網打尽にしたいか、2つに1つだろう。

どちらにしろ、何かが起きるのは確実だな。

やれやれ、ついこないだ、部長の婚約騒動が終わったばかりだというのに、忙しいことだな。
















          ※ ※ ※


翌日の放課後。

グレモリー眷属の悪魔は全員部室へと集まった。現在部室のソファーに部長と朱乃さん。対面には昨日に2人が座っていた。

部長と朱乃さんの表情を真剣そのものだ。

これからこの2人の依頼とやらを聞くわけだが・・・。

「・・・」

俺の横にいる木場はさっきから殺気を垂れ流している。憎しみの象徴である、現役信徒を目の前にしているからだろう。今にも斬りかかりそうな面持ちだ。早まらなければいいんだがな。

まずは自己紹介から始まった。栗毛の女の子の名前が紫藤イリナ。その隣に座る、髪に緑色のメッシュを入れた女の子の名前がゼノヴィアというらしい。

自己紹介が終わると、その依頼とやらの話が始まった。

「先日、カトリック教会本部ヴァチカン及び、プロテスタント側、正教会側に保管、管理されていた聖剣エクスカリバーが奪われました」

エクスカリバーが・・・そりゃ、大事件だな。・・・ん?

「エクスカリバーって、数本も存在するのか?」

俺はついそんな質問してしまった。

「聖剣エクスカリバーそのものは現存してないわ」

部長が俺の質問に答えてくれた。

その後、紫藤イリナがしてくれた説明によると、大昔の戦争で折れ、四散した。その折れた刃の破片を拾い集め、錬金術によって新たに7本のエクスカリバーに生まれ変わったらしい。

「その1つが昨日君に見せたこれさ」

ゼノヴィアが昨日俺に見せた布に巻かれた物を前に出した。そして布をシュルシュルと外した。

なるほど、名前の通りの物だな。身体に伝わる戦慄が布が巻かれた時の比じゃない。

「このエクスカリバーは、破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)。7つに分かれた聖剣の1つだよ。カトリックが管理している」

紹介を終えると、ゼノヴィアは再びそのエクスカリバーに布を巻き付けていった。すると、聖剣から発するオーラが止んだ。どうやらあの布には聖剣を抑える効果があるみたいだな。

今度は紫藤イリナが懐から長い紐のようなものを取り出した。すると、その紐は意志を持ったかのようにうねうね動きだし、1本の日本刀へと姿を変えた。やはり、先ほどと同様に俺の身体に戦慄が襲った。

「私の方は擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)。こんな風に形を自由自在にできるから、持ち運びにすっごく便利なんだから。こちらはプロテスタント側が管理しているわ」

ほぉ・・・。

いいな、それ。俺の村雨なんて幅が広いから普段外に持ち歩けないのが悩みなんだよな。

なるほど、その7本のエクスカリバーにはそれぞれ特殊な能力を有しているというわけか。

・・・っ!

俺の横から大質量の殺気を感知した。

木場だ。

2人がエクスカリバーを出した途端、鬼のような形相で2人を睨み付けていた。いつ飛び出すともわからない様相だ。

いざとなったら俺が止めるが、できればそうさせてくれるなよ。

エクスカリバーの披露が終わったところで、2人は話を進めていった。

その7本のエクスカリバーの内の2本が奪われたらしい。奪ったのは、堕天使の組織のである、神の子を見張る者(グリゴリ)の幹部のコカビエルだという。

コカビエルといえば、聖書にも記される程の者だったな。そんな奴が教会の聖剣に手を出したのか・・・。

そのコカビエルは、聖剣を奪った後、日本のこの地に持ち運び、潜伏したらしい。

「私達の依頼・・・いや、注文だが、私達と堕天使のエクスカリバー争奪の戦いにこの街に巣食う悪魔が一切介入してこないこと。つまり、そちらに今回の事件に関わるなと言いに来た」

と、ゼノヴィアが随分な物言いをしてきた。その物言いに部長はかなり不機嫌そうな表情を浮かべる。

「随分な言い方ね。私達が堕天使と組んで聖剣をどうにかするとでも思っているの?」

「本部はその可能性がないわけではないと思っている」

ゼノヴィアがそう答えた瞬間、部長の瞳に冷たいものが宿った。相当憤りを感じている。

まあ、無理もない。向こうが人ん家の縄張りに厄介事を持ち込んだってのに、手ぇ出すなってんだから、誰であっても怒り心頭だろ。

俺は部長をなだめる意味も込めて口を挿んだ。

「ま、いいんじゃないんですか? そっちが責任持って解決するって言ってるんですから。要は、この2人が無事聖剣を取り返すか、はたまた返り討ちに合うか。俺達(悪魔側)にとってはそれだけの話ですよ」

「昴・・・」

部長が俺の言葉に少し驚いたようだった。とりあえずこれで少しは落ち着いたようだ。

「そういうことだ。無論、私達は死ぬつもりはないけどね」

「へぇー、自信あるみたいだな。何か秘策でもあるのかな? その君が今見せたエクスカリバー以外で・・・」

「さてね・・・」

「・・・」

語らずか、ま、何かがあるのは確実だな。別に興味はないがな。

その後、場が特に荒れることもなく話し合いは進んだ。やがて話し合いは終わり、2人は席を立った。2人はそのまま部室を出ていく・・・と、思った矢先、2人の視線が1箇所に集まった。2人の視線の先は、アーシアだ。

「一目見て、まさかとは思ったが、君は『魔女』アーシア・アルジェントか? まさかこの地で会おうとは」

魔女と呼ばれ、アーシアは一瞬身体を震わせた。紫藤イリナもアーシアを興味深そうな目でまじまじと見つめた。

「あなたが一時期内部で噂になった元『聖女』さん? 追放され、どこかに流れたと聞いていたけれど、悪魔になっているとは思わなかったわ」

「あ、あの、私は・・・」

2人に言い寄られ、アーシアは対応に困っている。

「大丈夫よ。ここで見たことは上には伝えないから安心して。今のあなたの状況を話したら、皆ショックを受けるでしょうからね」

「・・・っ!」

その言葉を聞いてアーシアは複雑そうな表情を浮かべた。

「しかし、『聖女』と呼ばれていた者が今は悪魔か。堕ちるところまで堕ちたものだな」

ゼノヴィアはアーシアの気持ちなど一切考えずに非情の言葉を投げかける。

「・・・」

好き勝手言ってくれるな。

「まだ、我らの神を信じているか?」

「悪魔になった彼女が主を信仰しているとは思えないけど、どうなの?」

アーシアはその問いに目を伏せながら、悲しそうな表情で答えた。

「・・・捨てきれないだけです。ずっと信じてきたのですから・・・」

それを聞くと、ゼノヴィアは布を巻いた聖剣の切っ先をアーシアに向けた。

「そうか。それならば、今すぐ私達に斬られるといい。今なら神の名の下に断罪しよう。罪深くとも、我らの神ならば救いの手を・・・」

俺はゼノヴィアが言い切る前に動いていた。俺はゼノヴィアの首筋に鞘に納めたままの刀身を当てた。

「・・・何の真似だ?」

「ん? 俺のことは気にしないで話を進めろよ。もっとも、首と胴がお別れすることになるがな」

俺は無表情で限りなく冷めた目でゼノヴィアに告げた。

「黙って聞いてれば、随分な物言いだな。お前がアーシアの何を知っている?」

「知っているさ。『魔女』の烙印を押された異端者さ」

ゼノヴィアは意にも返さずに言う。

「はっ! 木を見て森を見ずとはよく言ったものだな。聞きかじりの情報と自分の価値観だけで全てを判断するとは愚かだな。勝手に祀り上げて、意にそぐわなければとっとと追い出す。神の慈悲とやらが聞いて呆れる」

「・・・その辺にしておいた方がいい。存在ごと消し飛ばされたくなければね」

ゼノヴィアも少々苛立った様子で俺に告げた。神を侮辱されのがお気に召さなかったのだろう。

「お前に合わせたんだよ。いいか小娘共。誰にもな、触れてはならないものがある。そこに触れたらそっから先は命のやり取りになっても文句は言えない。よく覚えておけよ。礼儀と一緒にな」

俺はゼノヴィアの首筋から村雨を離した。

「一介の悪魔にすぎない者が、教会の者に刃を向け、あまつさえ、神を侮辱するとはね。グレモリー、教育不足では?」

「これは俺の問題だ。部長は関係ない。・・・ところで、もう1つ聞いておきたい。コカビエルとやらは、お前達2人で相手するのか?」

「?・・・そうだ。それがどうかしたのか?」

ゼノヴィアは俺の質問に疑問を抱きながらも答えた。

「ふーん・・・、コカビエルってのは雑魚なんだな」

「・・・何が言いたい」

ゼノヴィアが目を細め、殺気まじりに俺に問い返す。

「お前達2人如きで勝てる相手なんだろう? 雑魚だろ?」

俺はバカにするかのような口調で言った。

「そうでなきゃ、教会は相手の力量も測れないバカしかいないかの2択だな。ま、後者だろうな。自分んところの宝物をみすみす仇敵に奪われちまうような奴等の集まりだからな」

その言葉についに2人の我慢の限界も超えたみたいだ。

「そうか。君は私達によほど裁いてもらいたいみたいだね。良いだろう。望みどおりにしてあげよう」

ゼノヴィアがエクスカリバーを俺に向けた。紫藤イリナも懐からさっきの紐のエクスカリバーを取り出した。

「昴、お止め―――」

部長が俺を止めようとしたその時・・・。

「昴君。僕も混ざってもいいかな?」

木場が俺の前に介入した。膨大な殺気を放ちながら。

「君は?」

「君達の先輩だよ。もっとも、失敗だったそうだけどね」

木場が不敵に笑う。その瞬間、この部室内に無数の魔剣が出現した。

木場・・・乗って来たか。とりあえずこれで、エクスカリバーに向き合うきっかけは与えられる。

後は木場しだいだ。

俺は一種の賭けを打った。














続く

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