小説『ハイスクールD×D〜転生せし守り手〜』
作者:ブリッジ()

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Life.28〜聖剣との激突、越えられぬ憎しみ〜















その後、部長が間に入った。ここでもし、悪魔側と教会側が死闘を繰り広げれば、それは両勢力全体の問題になりかねない。紫藤イリナとゼノヴィアに至ってはこの後コカビエルとも戦わなければならないので、無益に消耗はしたくはない。だが、このままでは両者とも収まりがつかない。そこで、腕試しという形で戦うことになった。

現在、俺達は、球技大会の練習をしていた場所に移動した。少し離れたところに木場が、その俺達と対峙するように紫藤イリナとゼノヴィアがいる。

俺達の周辺には、丸ごと囲むように紅い魔力の結界が張られていた。この結界の中なら多少無茶をしても大丈夫らしい。結界の外には他の部員達が見守っている。

「では、始めようか」

そう言って、紫藤イリナとゼノヴィアは白いローブを脱ぎ、黒いボンテージのような戦闘服姿になった。

俺の前には紫藤イリナが、木場の前にはゼノヴィアが立った。ゼノヴィアは俺の方を向いた。

「本当は君に神の裁きを与えてやりたいが、そっちはイリナに任せよう。私は、『先輩』とやらの力が気になる。こちらの相手をしよう」

俺の相手は栗毛の女の子の紫藤イリナか。

そちらに視線を移すと、紫藤イリナは鋭い視線をこちらにぶつけている。よほど、さっきの俺の発言が気に入らなかったと見える。

「昴、ただの手合いとはいえ、聖剣には充分気を付けなさい」

「了解です」

悪魔は触れるだけでも危険らしいからな。一応用心しよう。

木場の様子を見てみると、木場はすでに神器を発動し、周囲に魔剣を数本出現させていた。

「笑っているのか?」

ゼノヴィアが木場に尋ねる。

「うん。倒したくて、、壊したくて仕方なかったものが目の前に現れたんだ。うれしくてさ。まさか、こんなにも早く巡り合えるだなんてね」

木場は殺意、怒気、怨嗟が入り混じったような殺気を発現させていた。

木場・・・。ここで聖剣を乗り越えてくれよ。

俺は木場のことはひとまず横に置き、紫藤イリナに視線を移した。向こうは変わらずその表情は険しい。

「御剣昴さん。あなたの主への侮辱、断じて許すわけにはいきません。主がいかに偉大であるかをあなたに教えてあげるわ」

「そりゃご丁寧にどうも。ならこっちは、その見返りに格の違いを教えてあげよう」

「・・・どうやら、あなたには身の程も教えなければならないようですね。いいでしょう。あなたのその罪、裁いてあげるわ! アーメン!」

そう言うと、紫藤イリナの持つ紐が、刀へとその姿を変えた。

「・・・」

この子は神とやらの信仰が一際強いらしいな。傍から見たら異常とも感じるだろう。だが、俺の目からは・・・。

羨ましいな。

そう感じた。この子は神を信じたことで救われ、神を信じ続けたことで救われているのだろう。俺が歩んできた人生は、神を信じたところで自分も誰も救われなかった。もっと言えば、俺自身が神であるかのように振る舞い、世界を変えていかなければ誰も救えなかった。

『来るぞ』

物思いに耽っていると、ドライグから声をかけられた。

おっと、物思いに耽るのはここまでとしよう。

『気をつけろよ』

そんな忠告がドライグからされる。俺はフッと笑い。

「何だ? 俺があの子に負けるとでも思っているのか?」

俺がそう返すと、ドライグもフッと笑った。

『そうではない。やりすぎるなよという意味だ』

「そりゃ失礼。問題はない」

さて、やるか。

「出ろ! ブーステッド・ギア!」

『Boost(ブースト)!』

音声と共に赤い籠手が現れた。同時に俺の力が倍になった。籠手の状態だと、10秒ごとに倍になるらしい。今ので倍。今は制約がかかっているため、3回の倍化しかできない。つまり、あと20秒で最大になる。ま、使わなくても勝てる相手だろうが、向こうには触れるだけで危険なエクスカリバーがある。何より、この神器に慣れておきたい。

「神滅具(ロンギヌス)・・・」

「それって、赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)? 昔に姿を消したって聞いていたけど、再び姿を現したの?」

2人共顔をしかめていた。

「昴君に気を取られていると、怪我では済まなくなるよ!」

ギィン!!!

木場がゼノヴィアに斬りかかった。

「こっちも始めようか」

俺は村雨に手をかけた。

「その刀。大事な物なら置いてきた方がいいわよ。折れちゃうでしょうから」

「心配ご無用。この刀はあらゆる者の夢、想い、信念を込めて戦ってきた俺の最高の相棒だ。バラバラになった劣化エクスカリバー如きでは傷1つ付けられないよ」

「そう・・・。忠告はしたからね!」

ビュン!!!

紫藤イリナが勢いよく斬りかかる。俺は身をよじってこれを避ける。

「まだまだ!」

ブォン! ブン! ビュン!

その後も間髪入れずに俺に斬撃を振るってくる。

『Boost(ブースト)!』

さらに俺の力が倍になった。どうせなら最大の3回まで倍化させちまおう。

俺は特にこちらからは仕掛けず、回避に徹した。

「やるわね! なら、これならどう!」

ギュン!!!

紫藤イリナのエクスカリバーが伸び、俺に襲いかかる。

「おっと」

俺は首を曲げてそれを避けた。

「まだまだ!」

そのエクスカリバーはの切っ先が複数に枝分かれし、俺に襲いかかった。

俺はそれを上体を揺らし、絶えず身体の移動をしてそれを避け続けた。

すると横で・・・。

ギィィィィィン!!!

何かが砕ける音が聞こえた。音の方角に視線を移すと、木場に魔剣が粉々にされていた。

「我が剣は破壊の権化。砕けぬものはない」

ゼノヴィアは手に持った剣を天にかざし、それを地面に振り下した。

ドオォォォォォォン!!!

その瞬間、轟音が鳴り響き、激しく地響きが起こった。

「ちっ」

俺は咄嗟にジャンプし、空中に逃げた。

周囲に舞い散った土煙が消えると、そこには地面が抉れ、大きなクレーターができていた。

「これが私のエクスカリバーだ。有象無象の全てを破壊する。破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)の名は伊達ではない」

その力を目の当たりにした木場の表情は険しい。

「なるほど、破壊の聖剣とはよく言ったものだ」

俺は地面に着地した。

「もう! ゼノヴィアったら、突然地面を壊すのだもの! 土だらけだわ!・・・向こうもそろそろ終わりそうだし、こっちも終わりにするわよ!」

ドォン!!!

紫藤イリナが一気に距離を詰めてきた。

これが全力か。

『Boost(ブースト)!』

最後の倍化がここで終わった。

「いくか。ブーステッド・ギア!」

『Explosion(エクスプロージョン)!!』

ドクン!!!

俺の身体に膨大な量の力が溢れてきた。

ブォン!!!

紫藤イリナの斬撃をかわす。

すごいな・・・。

倍化した力を取り入れた瞬間、力だけではなく、俺の動体視力にも影響が現れた。感覚を研ぎ澄ませると、紫藤イリナの動きがコマ送りしてるかのようにスローモーションに見える。

ブォン!!!

紫藤イリナの聖剣が俺の顔1センチのところを通過する。

「今のは惜しかった。でも、次で捉えるわ!」

手応えを感じたのか、さらに俺に斬撃の嵐を見舞ってくる。

今度はもう少し距離を縮めてみよう。

8ミリ・・・、6ミリ・・・、3ミリ・・・おっと、この距離だと肌に聖剣の余波が届いちまうのか、なら5ミリだな。

俺は常に紫藤イリナの斬撃を5ミリの距離でかわし続けた。最初はあともう少しの手応えと感じていた紫藤イリナも、だんだんと紙一重にわざとかわされている事実に気付き、表情が強張ってきている。

もういいな。

俺は腰に帯びた村雨に手をかけ・・・。

ガキィィィィィン!!!

一瞬の抜刀・・・斬撃で紫藤イリナの聖剣を弾き飛ばし、すぐさま鞘に戻した。当の本人は何故自分の得物が弾かれたのか理解できておらず、一瞬茫然としていたが、すぐにハッと正気を取り戻し、後ろ向きのまま後方に飛び、弾かれたエクスカリバーを手に取り、構えた。だが・・・。

「っ!?」

視線の先には俺はおらず、紫藤イリナが飛んだと同時に背後を取り、村雨を首筋に当てた。

「これで終わりだ。いかにエクスカリバーが強力でも、使い手が君では、玩具とさほど変わらん」

紫藤イリナは格の違いを肌で感じ取り、戦意を失った。

「・・・くっ! 私の負けよ」

紫藤イリナは地面に膝を着き、項垂れた。俺はそれを確認すると、村雨を鞘に納めた。

「腕を磨け、君は資質がありそうだ。死にもの狂いで鍛錬を積めば、近い将来互角に戦えるようになるだろう。そうなったら改めて手合せしような」

俺はニコッと笑顔を向けた。

「// つ、次は絶対裁いてあげるんだから!」

紫藤イリナは俺から視線を逸らしながら言った。

「その聖剣の破壊力と僕の魔剣の破壊力! どちらが上か勝負だ!」

横からそんな声が。見ると木場が全長2メートルもあろう魔剣を発現させていた。

バカ! それは悪手だ! それではお前の特性を生かせないだろ!

ガキィィィィン!!!

ゼノヴィアの聖剣とぶつかると、木場の巨大な魔剣は砕けた。

ドンッ!!!

ゼノヴィアはすかさず木場の腹部に聖剣の柄を抉り込んだ。

「ガハッ!」

木場は苦悶の声をあげ、その場に崩れ落ちた。ゼノヴィアは落胆したかのような顔を浮かべた。

「選択を間違えたな。あの魔剣では君の自慢の動きが封じられてしまうだけだ。破壊力なんて君には不要なはずだ。そんなこともわからないとはな・・・」

ゼノヴィアは木場に背を向け、歩き出した。

「イリナは負けたのか。やれやれ、そっちの相手をすれば良かったな」

「・・・まだだよ」

木場が震える足を強引に奮い立たせ、立ち上がる。

「僕はまだ負けてない。・・・いや、絶対に負けられない。・・・そのエクスカリバーだけには、絶対に負けない!」

ドン!!!

木場は再び魔剣を発現させ、ゼノヴィアに飛びかかった。

「やれやれ、仕方がない。聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)が傍にいるなら、多少大怪我を負っても問題はないだろう」

ゼノヴィアが聖剣を再び構えた。

ちっ! 両方とも手合せの域を超えようとしてやがる!

俺はすぐさま両者の間に飛び込み・・・。

ガキィィィィィィン!!!

「「っ!?」」

木場の魔剣は左手の籠手で掴み、ゼノヴィアの聖剣は村雨を背中に構えて受け止めた。

聖剣を受けた村雨からその威力が俺に伝わる。

ぐっ! これが破壊力重視の聖剣の威力か。腕が一発で痺れてしまった。

「そこまでだ。俺が言うのもあれだが、これは手合せのはずだ。今のは明らかにそれを超えている。だから止めさせてもらった。勝負は着いた。これ以上続けるなら俺が力ずくで止めるぞ」

俺は両者に殺気を飛ばしながら告げた。2人はしばし睨みあうと、先にゼノヴィアが剣を引いた。

「そうさせてもらおう」

そう言って改めて紫藤イリナの元に向かった。

「ま、待て!」

木場が手を伸ばすが、朱乃さんは結界を解いてしまった。

「次はもう少し冷静になって立ち向かってください、『先輩』」

それだけ告げて紫藤イリナの元まで行った。そして去り際に俺の方を向き・・・。

「赤龍帝。大した強さだ。もし、白い龍(バニシング・ドラゴン)とぶつかればどうなるか・・・」

それだけ言い残し、足早に去っていった。

白い龍(バニシング・ドラゴン)。以前にドライグが言っていた白い奴とかいう奴のことか? 今度改めて聞いておかないとな。

「待ちなさい! 裕斗!」

部長の制止の声が聞こえる。ふと見ると、木場がその場を立ち去ろうとしている。

「僕は、同志達のおかげであそこから逃げ出せた。だからこそ、彼らの恨みを魔剣に込めないといけないんだ・・・」

それだけ言い残して木場はその場から消えた。

「裕斗、どうして・・・」

部長の悲痛な声が俺の耳に届いた。

「・・・」

くそ。まだ早かったか・・・。これでは逆効果だ。これではいっそう木場は・・・。

俺はギュッと拳を握った。俺の拳からは血が滴った。

エクスカリバーとの戦い。木場は負け、俺も事実上の敗北を喫した。












続く

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