小説『ハイスクールD×D〜転生せし守り手〜』
作者:ブリッジ()

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Life.52〜グレモリー家との会食、若手の会合〜














玄関ホールで部長の母君と顔合わせしてから数時間後、俺達はダイニングルームへと案内された。

ところかしこに高価な食器に並ぶ豪華な食事が並んでおり、正直、とてもじゃないが全部食べきれない程の量だ。

席に着いているのは部長とその眷属、そして部長の父君と母君、それとミリキャス様だ。

冥界の空は基本紫色なのだが、人間界で言うところの夜の時間に近づくと、自然と外は暗くなっていった。

「遠慮なく楽しんでくれたまえ」

部長の父君の一言で会食が始まった。

宮廷料理、それも悪魔式の料理を味わう機会なんてほとんどない。ゆっくり味わおう。

目の前に並ぶナイフとフォークを外側から取り、料理を取る。

宮廷暮らしの経験があるからマナーは知っているが、人間界式のやり方でいいのかな? ・・・見たところ、部長も部長のご家族も人間界の食事マナーと変わりなさそうだから大丈夫だろう。

取った料理を口に運ぶ。

・・・・・・うん。やっぱ美味しい。思わずシェフを呼びたくなるほどだ。

それにしても、改めて広い家だよな〜。

ダイニングルームの天井には巨大シャンデリアが釣り下がっている。ここだけじゃなく、案内された俺用の個室にもあった。室内には1人で眠るにはあまりにも持て余す巨大なベッドがあり、他にも風呂、冷蔵庫、トイレ、テレビなどの生活必需品、さらにはキッチンにリビングまで完備されており、その気になれば一世帯が暮らすこともできるほどだった。

視線を席に並ぶ者達に向ける。朱乃さんと木場は女王『クイーン』と騎士『ナイト』だけあり、マナーに則り優雅に食事をしている。アーシアとゼノヴィアは悪戦苦闘しながら食事をしている。ミリキャス様も、教育がよく行き届いており、上手に食事をしている。ギャスパーは、縮こまって涙目になりながら食事を取っている。大勢に囲まれての食事は引きこもりには辛い所業か。一方、小猫ちゃんは・・・。

「?」

食事に一切手を付けていなかった。普段は体格に見合わない程もりもり食べるいるのが印象的なのだが、今日はいつも以上に無表情だ。

そういえば、ここに来るまでも大人しかったような・・・。

ちなみに、アザゼル先生はこの会食に参加していない。どうやら会談が長引いたため、会食に間に合わなかったようだ。

「リアスの眷属諸君、ここを我が家だと思ってくつろいでほしい。必要な物があったら遠慮なくメイドの申しつけるといい。すぐに用意させよう」

と、部長の父君が。

ここまで至れり尽くせりでこれ以上必要な物なんてはたしてあるのか。

思わず俺は愛想笑いを浮かべていた。

「ところで御剣昴君」

「はい。何でしょう?」

部長の父君から不意に呼ばれたので、ナイフとフォークを目の前のお皿に八の字に置き、首をそちらに向けた。

「悪魔の世界にはもう慣れたかな?」

「はい。リアス様より懇切丁寧にご教授を賜りましたので、今では滞りなく責務に励めています」

俺がそう答えると、部長に父君は「そうか・・・」と深く頷いていた。

うむ、本心かつしっかり敬語を使って受け答えできたはずだが。

「御剣昴君」

「はい」

父君から再び名前を呼ばれた。

「今日から私のことをお義父さんと呼んでくれて構わない」

・・・・・・などとおっしゃられた。あまりの言葉に思わず思考が停止してしまう。そういえば、サーゼクス様にも以前「お兄さん」と呼んでくれて構わないとかおっしゃったな。グレモリー家にはこの手にウィットなジョークをするのが定番なのだろうか・・・。

「お父さん・・・ですか。それはあまりにも恐れ多いので・・・」

俺は苦笑を浮かべながらしどろもどろに答えることしかできなかった。

「あなた、それは性急ですわ。まずは順序というものがあるでしょう?」

部長の母君がそっと父君をたしなめた。

「うむ、しかし、紅と赤なのだぞ? それに、万が一他の者に先を越されては・・・」

「浮かれるのはまだ早いわ、あなた。リアスを差し置いて、なんてことにはならないでしょうから心配いらないわ」

「そ、そうか。・・・うむ、いかんな。どうにも私は事を急くきらいがあるようだ」

うーん、この家の発言力は母君の方が強いのだろうか・・・。上級悪魔の一族とは言っても、こういうところは人間とあまり変わらないみたいだな。

「〜〜//」

部長はというと、恥ずかしそうに顔を真っ赤にしていた。

「御剣昴さん。昴さんと呼んでもよろしいかしら?」

今度は部長の母君から声をかけられた。

「もちろん構いません」

むしろ、そう呼んでくれた方がいい。

「暫くはこちらに滞在されるのでしょう?」

「はい。リアス様がこちらにご滞在の間は私も滞在させていただく予定ですが・・・」

「そう。・・・見たところ、礼儀作法はかなり精通されているようですが、念のため、改めてこちらでマナーの勉強してもらい、紳士的な振る舞いを身に付けてもらいます」

「紳士的な振る舞い・・・ですか?」

それはいったい・・・。

俺が疑問符を頭に浮かべていると・・・。

バン!

横からテーブルを叩く音が、視線を向けると、部長がテーブルを叩き、その場で立ち上がっていた。

「お父様! お母様! 先ほどから黙って聞いていれば、私を置いて話を進めるなんてどういうことでしょうか!?」

部長のご両親のやり取りを快く思わなかったのか、部長は怒りを露わにしていた。一方、部長の母君は、その一言を聞いて目を細めていた。憤っているわけではないのだろうが、その表情には先ほど自分達を快く迎え入れてくれた笑顔はなかった。

「お黙りなさい、リアス。あなたは一度ライザーとの婚約を解消していることはわかっているでしょう? 私達がそれを許容しただけでも破格の待遇と思いなさい。お父様とサーゼクスがどれだけ他の上級悪魔方々へ根回しをしたと思っているの? 一部の者には『我が儘娘が伝説のドラゴンを使って婚約を解消した』とまで言われているのですよ? いくら魔王の妹とはいえ、限度というものがあります」

っ! ドラゴンを使って婚約を解消した、か。そんなことになっていたのか。俺自身に後悔はないが、こと、部長のことになると・・・、いや、そう考えるのは部長だけではなく、全て者に失礼か。

「・・・私とお兄様とは―――」

「関係ないとでも? 表向きはそういうことになっていますが、周りはあなたをどうしても魔王の妹として見るわ。三大勢力が協力体制になった今、これまで以上に勝手の振る舞いできないのです。今後、あなたの動向には誰もが注目するでしょう。2度目の我が儘はありません。甘えた考えは捨てなさい。いいですね?」

半ば、咎めるように諭された部長は、納得はできない様子だったが、言い返すことができず、悔しそうに顔を歪めると、勢いよく椅子に腰掛けた。

部長の母君はフゥッと一息吐くと、笑みを俺達に向けた。

「お見苦しいところをお見せしてしまいましたわね。話は戻しますが、ここへ滞在中は昴さんには特別な訓練を受けてもらいます。これから貴族の世界、上流階級に触れる機会が増えるでしょうから」

・・・まあ、部長はグレモリー家の次期当主だし、そういう場に出る機会はそれこそたくさんあるわな。となると、俺がそこに同行することになる可能性もあるわけだ。そうなると、マナーを知らないと、部長に恥を掻かすことになりかねない。

「わかりました。そういうことでしたら、よろしくお願いします」

俺は深く頭を下げ、それを了承した。













          ※ ※ ※


冥界にある部長宅に到着した翌日。俺は朝から教育係の悪魔の方から上級悪魔、上流階級、貴族とはなんであるかの教授を、ミリキャス様と共に賜ることとなった。

冥界については知らないことが多数あったため、ためになることが多く、そのため、気になった質問をいろいろとぶつけてみると、教育係の方は快く答えてくれた。

悪魔の文字についても教授を申し出てくれたのだが、それはすでにマスターしていたので、一度その確認をした程度にとどまった。

新鮮な知識を得ることに喜びを感じていた。

知識を得るっていいな〜、知識が身体に馴染んでいくのがよくわかる。・・・ま、だからって興奮したりはしないけどね。

唯一、引っかかったのが、教育係の方が俺を『若様』と呼ぶことなんだが、これについては何も答えてはくれず、呼び方の変更を申し出てもそれに応じてくれなかった。

ガチャ。

しばらく講義を受けていると、部長の母君が様子を見にやってきた。

「おばあ様!」

そっか、ミリキャス様にとってはお祖母さん当たるんだよな。容姿が端麗で若すぎるせいでどうしても違和感が拭えないな。

「昴さん、ミリキャス。お勉強の方ははかどっているかしら?」

優しい笑顔を浮かべながら俺と教育係の間にやってくる。

「さすがはリアス様が選ばれた方です。悪魔の文字はすでにご自身で学習済みで、上流階級や貴族については特に教えることはありませんでした。上級悪魔についても、とても飲み込みがよく、こちらへご滞在中の間に全ての講義を終えることができるかと思います」

俺の代わりに教育係の方が答えた。

「なるほど、リアスから大変優秀に学業を修めていると聞いておりましたが、それは本当のようですね」

それを聞いて部長の母君は微笑んだ。どうやらとても満足してくれたようだ。

「私の知らなかったことが数多く知ることができ、とても楽しく教授をいただいております」

「結構なことです。もうすぐリアスが帰ってきます。今日は若手悪魔達が魔王領に集まる恒例のしきたり行事があるものですから」

そういや、そんな予定が入っていたな。

部長と同世代の若手悪魔が一堂に会するらしい。全員が正式なレーティングゲームデビュー前の悪魔達。名門や旧家の由緒ある上級悪魔の跡取りが上役のもとに集まって、挨拶をしながら互いに意識しあうらしい。

さて、いったい、どんな者がやってくるのやら。












          ※ ※ ※


部長達が城に戻ってすぐに俺達は例の列車で魔王領へと移動を開始した。途中、宙に展開する巨大な長距離ジャンプ用魔方陣を何度か潜り、3時間程列車に揺られると、魔王領の都市、ルシファードに到着した。

ここから顔合わせの会場には地下鉄に乗り換えて向かうそうだ。表から行くと騒ぎになるかららしいのだが・・・。

「リアス姫さまぁぁぁぁぁっ!!!」

突然、黄色い歓声が轟く。見ると、駅のホームにいる大勢の悪魔達が部長に憧れの眼差しを向けていた。

「部長は魔王の妹で、美人ですから、下級中級悪魔達にとっては憧れの的なんですよ?」

と、朱乃さんが説明してくれた。

確かに、それは納得だ。そりゃ、真正面から行ったら騒ぎになるわな。

ガシッ!

「ん?」

俺の背中に何かがしがみ付く。

「(ガクガクブルブルガクガクブルブル)」

ギャスパーが俺の背中にこの世の終わりのような顔でしがみ付いていた。

・・・引きこもりにゃ辛いか、これは。










          ※ ※ ※


地下鉄に乗り換え、5分程揺られると、都市で一番大きい建物の地下にあるホームに到着した。ここが俺達の目的地であり、ここに若手悪魔、旧家、上級悪魔の上役達が集まる会場だ。部長を先頭に地下からエレベーターに乗り込んだ。全員が乗れる程の広いエレベーターだ。

「もう一度確認するわ。皆、何が起こっても平常心でいること。何を言われても手を出さないこと。上にいるのは将来の私達のライバル達よ。無様な姿は見せられないわ」

いつも以上に気合の入った言葉だ。相手が誰であって負けるつもりはないという気迫が伝わってくる。

やがて、エレベーターが止まり、扉が開くと、広いホールに出た。そこには使用人と思しき人がおり、部長と俺達の会釈をした。

「ようこそ、グレモリー様、こちらへどうぞ」

使用人の案内に従い、通路を進んでいく。その途中、通路の一角に複数の人影が見えてきた。

「サイラオーグ!」

部長はその中の1人と知り合いらしく、声をかけた。対する向こうも、部長の姿を確認すると、こちらに近づいてきた。その者は男性で、黒髪で、背が高く、全身は鍛えに鍛え抜いたような筋肉質な身体で、ワイルドな風貌の男だ。

「久しぶりだな、リアス」

その男は部長とにこやかに握手を交わした。

そのサイラオーグと呼ばれた方の全身からははっきりと見て取れる程の魔力の波動を感じ取れた。そしてその後ろに控える、恐らくこの方の眷属と思われる者達もこちらに視線を送っている。どれも一癖も二癖もありそうな者達だ。

「変わりないようで何よりだわ。初めての者もいるから紹介するわ。彼はサイラオーグ。私の母方の従兄弟でもあるの」

なるほどね。確かに部長とサーゼクス様に少し似ているな。まあ、どっちかというとサーゼクス様の方が似ているか。

「俺はサイオラーグ・バアル。バアル家の次期当主だ」

バアルというと、魔王の次の権力者の『大王』の家か。その次期当主・・・。

「こんなところで何をしていたの?」

部長がそう尋ねると、サイラオーグさんが嘆息する。

「なに、あまりにくだらないので出てきたのだ」

「くだらない? もう他のメンバーも来ているの?」

「アガレスとアスタルトもすでに来ている。その後に来たゼファードルが着いた早々アガレスとやり合い始めてな」

サイラオーグさんが心底不快そうな表情を取った。

その瞬間!

ドオオオオオオォォォォォォォォォォォォンッ!!!!!!

建物が大きく揺れ、巨大な破砕音が近くで轟いた。

「っ!」

俺は部長の前に飛び出し、部長に向けて飛来してきた木片やらガラスやらの一部を右手の指で挟み、直撃を阻止した。

「大した反応だ」

「どうも」

俺の行動にサイラオーグさんは感心したようだ。

「全く、こうなるだろうと思ったから開始前の会合はいらないと進言したんだ」

そう呟き、大きな扉に向かった。その眷属達と部長もその後に続く。

扉が開かれると、破壊に破壊を尽くした大広間があった。椅子やテーブルも見る影もなく破壊されていた。その中央では、両陣営に分かれ、それぞれが眷属を従え、若手悪魔が武器を抜き合って睨みあっていた。その光景はもはや一色触発と言った様相だ。

一方は邪悪そうな格好の格好の魔物や悪魔がおり、それを従えているのが、上半身が裸に近い格好で、身体にタトゥーを彫り込んだ男だろう。もう一方は比較的普通の悪魔がおり、それを従えているのがメガネを掛けた青いローブの女性だろう。双方とも冷たい殺気とオーラを放っている。

「そこで睨みあっている女の方がアガレス家、男の方がグラシャラボラス家、奥で控えているのがアスタルト家。それぞれが次期当主よ」

部長が説明をしてくれた。言われてみると視線の奥、広間の隅で、テーブルを無事に保ったまま、優雅にしている悪魔眷属達がいた。優しげな風貌の男を中心に、フードを深く被った、なんとも不気味な面持ちだ。中央で騒ぎが起こっていても我関せずと言った感じだ。

「ここは時間が来るまで若手同士が軽く挨拶を交わす場なのだが、血の気が多い連中が集まる以上、当然、問題のひとつは出てくる。それを良しとする旧家や上級悪魔の古き悪魔達はどうしようもないな。・・・無駄なものに関わりたくはなかったのだが、仕方がない」

そう言うと、サイラオーグさんは首をコキコキ鳴らしながら睨みあう2人の間に向かっていく。どうやら止めるらしい。

「昴、サイラオーグをよく見ておきなさい」

「はい。あの人、この場の若手悪魔の中で一番強いですよね? 失礼ながら、部長よりも」

部長は否定も肯定もしなかった。

サイラオーグさんが両者の間に入っていった。

「シークヴァイラ、ゼファードル。これ以上続けるなら俺が相手になる。これは最終通告だ。次の言動しだいで容赦なく拳を振るう」

サイラオーグさんの迫力ある一言が発せられる。その一言にグラシャラボラス家の次期当主が青筋を立て、怒りを露わにした。

「バアル家の無能―――」

ドゴン!!!

言い切る前にサイラオーグさんの拳が突き刺さり、広間の壁に叩き飛ばされていった。その一撃でグラシャラボラスの次期当主は気を失い、床に突っ伏した。

一撃か・・・。しかも、今の一撃、全く本気じゃない。軽く触れた程度といったところだろう。今殴り飛ばされた奴だって決して弱くはないだろうに。

その後、殴り飛ばされた眷属達が飛び出しそうになったが、サイラオーグさんの一喝で制止し、主の介抱に向かった。アガレスの次期当主の方も、サイラオーグさんに促され、化粧直しへと向かった。

やがてスタッフがやってきて、広間の修繕を始めた。

あの人が部長の同期になるわけか。少なくとも、戦闘能力だけなら頭1つ抜けてるな。もっとも、王『キング』の価値は戦闘能力だけではないが・・・、前途は多難そうだな。

今、ここに若手悪魔とその眷属達が一堂に会したのだった。








続く

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