小説『織田信奈の野望  〜姫大名と神喰狼〜』
作者:大喰らいの牙()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

第三話  織田信奈


飛ばされると同時に、聞こえてくるのは剣戟音。
確実に戦音だな、こりゃ。
そして、俺の服装もまったく変わることなく、黒コートに黒のジーンズ。それと紅いワイシャツか。
まぁ、このコート、一応防刃、防弾、耐火として編んであるし、通気性に返り血が付いても落ちやすい仕様だから大丈夫なんだけどよ。
さらに、ジイサンのプレゼントとして水晶で作られた小さな狼の彫刻が“真紅の執行者”のグリップのしたに鎖で付けられていた。
ストラップみたいだな。
“鬼神”は普段、腰の辺りについてる碇型のアクセサリに収納されている。
念じれば、取り出し可能だ。
右腰には、“真紅の執行者”のホルスター及び長銃本体が収まっている。
俺は、自分の体のどこに何があるか、まず把握した。
そして、剣戟のする方に向かう事を決めた。


どうやら戦をしているのは、今川軍と織田軍だった。
今川の家紋は“引両紋”という中で“丸の内に二つ引き”であり、対して織田軍は五瓜が家紋となっている。
草陰に隠れながら、戦況を伺っていると馬に乗っている女性が大声で叫んでいた。


『足軽ども! 本陣に戻り、御主君をお守りせよ!』


と叫んでいるが、足軽達は敵の首を一つでも多く取ろうと躍起になっていた。
まぁそうだよな。
世は戦国乱世。手柄を多く獲れば誰もが出世できる世の中。その機会が目の前にたくさん転がっているんだ、そんな発言が耳に入るわけがない。
その中に、一人学生服の男が鎧を付けて、本陣に戻る姿が見えた。
俺も後を追う事にした。
青年は槍をただ闇雲に振り回しながら威嚇していたが、今川の決死隊にすぐにバレたので、気配を消しながら『七ツ夜』を抜き、その決死隊を背後から消した。


「「…………ッぁ!」」
「「いつ………の………間に………?!」」


背後から頸動脈を躊躇わず斬り裂き、血を噴き出しながら今川の決死隊は地に倒れた。


「おい、アンタ、大丈夫か?」
「あ、ああ。その格好………お前もこの時代に飛ばされてきたのか!?」
「あー、まぁ………そういうことになるな」


この青年の容姿から見て、だいたい高校生ってところか。
そういや、この青年が誰かを助けてたように戦っていたが、その助けた人物はどこにいるんだ?
俺が青年の周りをキョロキョロと見回していると、向こう側から先程の武将っぽい女性がやってきた。


「御主君! 戦はお味方により大勝利です!」


そう高々と叫びながらやってくるが、今川の決死隊の姿を見ると腰にぶら下がっている刀の柄に手を添えながらやって来る。
すると、青年は向かってくる青年の胸をまじまじと見ていた………いや、凝視していた。


『お、お前がこれをやったのか?』
『いや、俺じゃなくて、コイツが………』


二人は会話をし、そして女性が柄に手を掴んだ瞬間を俺は見逃すことなく、向き合う。


「貴様、どこの者だ………?」
「流れ者だよ」
「貴様、ふざけているのか! 貴様の腕は………」


そう言って、刀を引き抜こうとその時、青年の手によって助けられた人物が声を上げた。


「止めなさい、六!!」
「しかし、姫さま。コイツは………!!」
「確かにコイツ等は素性の知れない者達だわ。けど、私の命を救ってくれた者達よ、褒美を与えなきゃ」


ちょーーーっと、待て。
今、『六』って言ったよなァ?!
俺が戦国の世で“六”なんて、思い当たる人物なんて一人しかいないぞ。
このポニーテールで茶髪の女性があの“柴田権六勝家”かよ!!
また、このオチか!?
どうして、俺が行く先は歴史上の人物が女性に性転換してんだよ!!
おかしいだろ!


「なんと! それはまことですか!?」
「ええ。こっちのサル顔は槍を振りまわして、敵を近づけない様にしている内にこの男が背後から討ったのよ」


そう説明するが、柴田勝家は俺に対して疑いの目をやめなかった。


「サル顔の方は無害だと分かりましたが、この男は他国の暗殺者ではありませんか? ただ単に今川の手柄にしたくない為に殺したかもしれませんし………」


ふむ、一理あるな。
だが、いつまでも疑われていても気分が悪いし。
ここは………


「ちょっといいか?」
「なによ?」
「いやなに、柴田勝家は俺が他国の暗殺者と疑っているようだがな。もし仮に俺が暗殺者だったら、先程の今川の決死達が突入したと同時に背後から襲ってるよ。だが、俺は襲わず、むしろその決死隊を殺しているんだぜ?」
「と、言う事よ。六、何か文句ある?」
「御主君がよろしいのであれば、私はそれに従います」


と、なんとか俺の身の潔白が証明された。……………と思っていたら。


「ただし、少しでも妙な真似をしたら斬り捨てる! 覚悟しておけ!」


釘を刺された。
ところで、織田軍の大将、織田信長はどこよ?
柴田勝家が女性だったのは驚いたが、信長は男だよな?
そう思っていると、隣に居る学生服の青年の口の中に種子島が突っ込まれて、「名前は?」と金髪の女の子が訊ねてくる。
おい、まさか…………


「さ・・・が(中略)・・は・・・る」
「よく聞こえなかったけど、サルね!」


ひでぇ。
種子島を抜いてやれよ。
つーか、この時代は種子島が最新の武器か。
俺が持っている武器をみたら、ジェネレーション・ギャップが激しいな。


「次! アンタは?」
「蒼騎真紅狼。ところで一ついいか?」
「なに?」
「織田信長か?」
「ハァ? 何言ってんのよ、アンタ? 私の名前は織田信奈よ!! の・ぶ・な!!」
「それは、済まなかった」


ああ、やっぱりですか。
OK.この時代の人物構造がなんとなく把握できた。
これでもう驚かないぞ。


「ところで、アンタ達妙な恰好してるわね。特に真紅狼! アンタの右腰についてるのは何よ?」


なんで、俺だけ注目すんだよ。
全員がこっちを見ている。
………こっちみんな。


「まぁ、信じてくれないと思うが、先程相良が言ったように俺達は未来から跳ばされてやってきたんだよ。これは俺達が居た世界の長銃だ。この世界では、信奈、お前が持っている種子島の何百年も未来の銃だ」


そう言って、俺はホルスターから取り出し、右手で構える。
銃身に狼の彫刻が紅く彫られていて、それ以外は銀の長銃のリボルバー。


「これが銃? 言っておくけど、私は神とか仏とか怪異とか信じないのよ、合理主義だから!」


聞いといてそれはねぇだろ。
俺は何か言おうとしたが、それよりも早く信奈が先を押さえる。


「何か、言いたそうだけど、あとで聞くわ! 今はそれ所じゃないのよ」


信奈は馬に跨り、相良の首に縄を巻き付けて引き摺っていった。
俺は取り敢えず置いてかれない様に、走っていった。



移動中………



辿り着いた先は、山奥の池の畔に着いた。


「………アンタ、どういう体してんのよ?」
「こういう体をしております」
「駆けている馬に離されない様に走って追いかけて来るなんて、人間じゃないわよ?!」


うん、だって、“人外”(にんげん)だもん。
ん? 文字がおかしいだって? いやいや、合ってるよ、これで。


俺が信奈達の質問を受けている間、相良は何故か燃えながら池の水をくみ上げていたのである。




アイツは何やってんだ?

-3-
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える




織田信奈の野望 抱き枕カバー 竹中半兵衛
新品 \12979
中古 \
(参考価格:\10290)