小説『織田信奈の野望  〜姫大名と神喰狼〜』
作者:大喰らいの牙()

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第四話  蝮との会見と『デアルカ!』


〜真紅狼side〜
池の水を汲み上げ終わった後、再び移動する信奈一行。
どうやら、この後会合があるらしい。
で、良晴が何故池の水を汲み上げていたのかと言うと………『少女を生贄なんてさせてたまるかーー!!』らしいです。
要は、先程の池には“龍神が棲みついている”という、いかにもな迷信を信じていた村人に真実を突き付ける為に頑張っていたらしい。
良晴は頑張る代わりに、褒美として「その少女を紹介しろ」と言っていたのだが、その少女には婚約者がいたらしく………良晴の頑張りも空回りで終わった。
という事で、現在良晴はorz状態です。


「まぁ、元気出せよ、良晴」
「あの女ァァ、いつか見てろよ〜〜!!」


と、凄まじい剣幕で睨みつけているが、信奈が見せる可愛らしい表情に一瞬でその決意が溶けて、顔が赤くなっていた。
やっすいな〜、お前の決意。


「なぁ、柴田勝家」
「なんだ?」
「どこに向かってるんだ?」
「これから姫さまは蝮と会うんだ」
「蝮ってことは………斉藤道三か?」
「そうだ」


そう答えた柴田勝家は、今度は良晴に呼びとめられてこの世界の仕組みを教えてもらっていた。
すると、信奈が俺を呼ぶ。


「真紅狼! ちょっと来なさい!!」
「へーい」
「アンタはこれから私と共に付いてきなさい!!」
「何故に?」
「護衛ってヤツよ」
「自分の小姓に頼めばいいだろう? 腕は有るんだし」
「先程の戦いでだいぶ失ってしまったし、アンタがこの先の会見で私を再度守れば完全に疑惑も晴れることが出来るのよ?」


中々、頭がキレるな。


「じゃあ、良晴はどうなんだよ?」
「サルは無害そうだし、そんなことをしなくても大丈夫よ」
「扱い酷くね?」
「仕方がないじゃない。アイツはサル語、アンタは人間の言葉を喋るんだもん」


その原因を引き起こした当事者が何を言う。
そして良晴なんつーか、どんどんと扱いが酷くなっていることを俺は止めきれん。
別に良晴が嫌いってワケじゃないのよ?
どうにかしようと画策してんだけど、アイツが余計な事をどんどん言うから一気に事態が悪化していくんだ。
マイナス状態が加速する感じで、止めきれんのだよ。


「真紅狼、アンタも足軽として仕官するわけ? あのサルと同じで?」
「まぁ、そうなるな。働かせてくれるのか?」
「まだよ! アンタの力が先程の事だけじゃないと私の勘が言ってるわ。じっくり見極めてからね」


そう言いながら、可愛らしい表情を見せる。
確かに、一瞬ドキっと来るな。
………つーか、どこの世界に行っても女のカンは怖えぇ。
どういう第六感してんだ? 性能良過ぎるだろ。
そう思いつつ、信奈一行は会場に着いた。
〜真紅狼side out〜


〜信奈side〜
私達は、蝮との会見の場………正徳寺に辿り着いた。
そこに私の小姓の一人が言伝を持ってやってきた。


「………道三殿はすでに中で待ってるとの事」
「分かったわ、サル! これを持ってなさい!!」


私はサルを呼び付けて、腰にぶら下がっている瓢箪を全て投げつける。


「うおおおおおぉぉぉっっ!??! 危ねぇじゃ………んぎゃっっ!!?」


瓢箪を投げつけられてどうにかして全部受け止めようとしているサルの頭を踏み台にして着地した。
何か悲鳴らしき声が聞こえたけど、気のせいね。


「サル! アンタは犬千代と共に庭で侍ってなさい! 真紅狼、アンタは先に会見の場に行きなさい!!」
「ウィ」
「なんで真紅狼だけ、上がれるんだよ!?」


サルが抗議の声を上げているが私は無視して、着替えることにした。



一時間後………



私は着替え終わって、会見の場に向かうと襖の向こうから道三の間抜けた声が聞こえたので私は声を張り上げて部屋に入った。


『信奈どのは、遅いのぅ〜』


スパーンッ!


「待たせたわね、美濃の蝮!!」


美濃の蝮は聞いていた噂とはまったく違う姿で入ってきたのに驚き、さらには「尾張のうつけ者」がこんな姿しているのに、呆気を取られていた。


「私が織田上総介信奈よ! 幼名は『吉』だけど、アンタにだけは呼ばれたくはないわね!」
「う、う、うう、うむ。わ、儂が斎藤道三である……………」
「デアルカ!」


蝮は、扇子を口元まで持っていき、恥ずかしいと何やら呟いていた。


「さっさと話を進めましょう! あんまりこの姿は嫌いなのよ、男共の視線がウザったいから。特に庭のサル!!」


私の正装に周りの男共のいやらしい視線が集中しているのに、私の後ろで待機している男………真紅狼はそんな視線を向けてくること無く、ただただ静かに場を見ていた。
この男、ただ者じゃないわね。
少なくともさっきの業といい、この動じなさといい、かなり経験を積んでるわ。
それもおそらく強さは六より上かもしれない。
そう思いつつ、話を進めることにした。


「美濃の蝮、私にはアンタの力が必要なの、わたしに妹くれるわよね?」


そう聞くと、蝮は口元をニヤつかせながら切り返してきた。


「どうかのう、織田信奈どの。国内から“尾張のうつけ者”と呼ばれて、尾張一国どころか、家臣団すら纏められない姫大名に力を貸す必要があるのか怪しいのぅ。………場合によっては、この場でお命を頂戴すかもしれん」


と、ドスの利いた眼光と迫力で堂々と暗殺宣言をしてくる。
その言葉を言い終えると同時に、後ろから微かではあるが強烈な殺気が滲み出始めていた。
その殺気に美濃の蝮も感じ取ったのか、「むぅっ!?」と微かに口から声を漏らし、その発生源に視線を向けていた。


「蝮! アンタの相手は真紅狼では無くて、わたしよ!」
「む、そうじゃったな………。ところで一つ聞きたいが、何故美濃を攻めるのじゃ?」
「簡単よ、美濃を獲れば“天下”を取るのに後は一直線だからよ! 東には肥沃な土地が広がり、西には京の都が連なる。美濃を獲った者こそ天下を獲る資格が与えられるのよ!! そういうアンタだって、『天下』取りを目指していたんじゃないの? 蝮」
「周りからは『美濃を奪い取った男』と言われてるワシが『天下』取りじゃと?」
「そうよ! 美濃を獲れば、天然で築き上げられた難攻不落の城があり、兵を養う事が出来、天下を常に伺う事が出来る!! アンタは商人から成りあがった武士だから、この日本を平定したら、商人が自由に商いに精をだし、豊かな国にする………。それがアンタの野望でしょう?」


私は、蝮の考えを口に出していいやった。
蝮は最初は静かだったが、次第に口から笑い声が漏れていった。


「ハッハッハッハッハ。信奈どのも、同じ夢を見てると?」
「違うわ! わたしが見ている先はこの日本じゃないわ………『世界』よ!!」
「なるほどのう、お主が“尾張のうつけ者”と呼ばれる理由が理解した」
「今の話は内緒よ? 所詮、わたしとアンタしか分からない話だわ。他人が聞いたら、うつけどころか気が触れる話だからね」


そう言い聞かせると、蝮の従者の一人が立ち上がり、「ここに理解できる者が一人おりまする!」と立ち上がっていた。
しかし、蝮が十兵衛と呼ばれた少女を窘めた。
そして、もう一人こちらにも居た。


「ここにも居るぜ! ジジイ、俺の名は相良良晴! 身分はしがない信奈の足軽だが、こう見えても俺は未来の日本からやってきたんでね! アンタ等が知らない未来を色々知ってる! 元の世界から帰り道を探すのは後にして、俺も信奈の夢を叶える為に力を貸すぜ!」


庭からサルが興奮したのか、蝮に向かって叫ぶ。
私達は呆気に取られるが、すぐさま気を取り戻して、蝮に言う。


「……聞き流して、蝮。このサルは先の戦で頭の打ちどころが悪くてね」
「うむ。そうじゃな」


私達は何もなかったように、話を進めようとするがサルは黙らなかった。


「おい、なんだ、その仕打ちは!? 真紅狼もなんか言ってくれよ!!」
「……そこでなんで、俺に回す?」
「信奈の話を聞いていただろう?! お前だって叶えたいだろう、その夢を!!」
「………はぁ、発言してもいいか、信奈?」
「ええ、いいわ」


真紅狼は前に出てきた後、道三に礼儀として頭を下げてから想いを口にした。


「ま、確かに叶えたいな、その夢を。けどな、俺は口で協力すると言うよりも行動で示すさ。口じゃ不確かだろ? だけど、行動は裏切らねぇ………。少なくとも俺はそうやって生きてきた。だからこそ、俺はここでは口にしない。代わりに行動で………お前に示す、信奈」


真紅狼の言葉の一つ一つに想いが詰まっていて心に沁みていくような感覚になり、顔が熱く、心臓が早鐘を打っていた。
真紅狼は「………以上だ」と言って、再び奥に引っ込んだ。
誰もが今の言葉の重みに圧倒されて、何も言えずただ奥に引っ込んだ真紅狼に視線を向けていた。
サルも間抜けた口を開けて、呆然としていた。
すると、道三がやっとの思いで口を開いた。


「信奈どのは、良い家臣を持っておるな。まさか、この乱世の中にこのような男がいるとは……………。このような家臣が居るのであれば、夢も叶うだろう。―――だからこそ、その手始めとしてワシ、斎藤道三は美濃を譲渡しよう」


その言葉に私は驚いた。


「蝮!?」
「この場で美濃の『譲り状』をしたたなめさせてもらう。これより信奈ちゃんは我が娘だ。我が娘だからこそ、国を譲るのは父として当然の事」
「ほんとに、いいの?」
「うむ。その男の堅い意志にワシは屈服させられた。老いぼれたジジイには勝てんよ。…………して、これが『美濃譲り状』じゃ」


蝮が筆を取り出して、さらさらと達筆とした筆跡で書き渡してきた。
私は、それを大事に懐にしまった。
そして、後ろで控える真紅狼の事がほんの、ほ・ん・の少しだけ気になり視線を向けると、そこには先程変わらず眼を閉じて静かに鎮座していた。


「して、真紅狼とやら少しいいかのう?」
「……なにか?」
「そんな後ろに居ても意味がない、お主も信奈ちゃんの隣にまいられい」
「なら、信奈、少し失礼するぞ」
「う、うん」


急に真紅狼が隣に来るもんだから、ドキドキする。
私、顔が赤くなっていないわよね?


「お主は一体何者じゃ?」


おそらく、この会見の場に居る者全てが疑問に思う言葉だった。
〜信奈side out〜


〜真紅狼side〜
斎藤道三からの質問により、どこまで答えるか迷っていた。
ま、ギリギリの所まで話すか………嘘も交えながら。


「庭にいる相良良晴と同じ、俺も未来からやってきた人間だよ」
「ほう? しかし、先程、お主が放った殺気は尋常じゃなかったぞ?」
「まぁ、それなりに死線は潜っていたからな、自然と身に付いちまったんだよ」
「なるほど………、お主、相当の手練じゃな? その華奢な雰囲気とは裏腹に中身は凶暴と見えた」
「なかなか見る目があるじゃねぇか、狒々ジジイ」
「伊達に歳は取っていないからの。くっ、くっ、くっ」


俺達は腹の探り合いのような雰囲気を醸し出す。
その異様な雰囲気に信奈達は、呑み込まれていた。


「ねぇ、真紅狼。聞きたいことがあったんだけどいいかしら?」
「なんだ、信奈?」
「その右腰にあるのをアンタは未来の銃って言ったけど、見せてくれないかしら?」
「なんと! 未来の銃があるのか!? ワシも見てみたいのう!!」


信奈を始め、全員が俺の銃に興味を示していた。
やれやれ、仕方がない。
俺は、全員に俺から少し離れる様に言い、ホルスターから外して床に置いた。


「これは俺が未来の日本で特注で創らせた俺専用の銃だ」


全員は、魅入るように銃を眺める。


「これが未来の銃とは………なんとも小さなモノじゃな」
「ねぇ、真紅狼。この銃のココには何が刻まれているの?」


信奈は銃身に刻まれている狼に気が付いた。


「ああ、それは狼の彫刻がされている」
「試しに撃ってみてよ!」


撃ってもいいが、的はどうしようかなっと。
いっそのこと、全弾撃っちまうか?
いや、止めておこう。
良晴が注意深く見てる、下手を撃たない様に一発にしておくか。


「一発だけならいいぜ。俺が銃口を向けた先には誰も立つなよ? 弾が貫通するからな」


俺は庭に出て、何か的になる様な物を探した。
すると、子供が捨てたと思われる汚れた人形が落ちていた。
俺はそれをだいたい5mぐらい離して、狙いを定める。


「よく見とけよ、弾は早いぞ」


俺は右手で構えて、狙いを定め………引き金を引いた。


ダァーーーン!!


「ガンッ!」と音がした後、人形は撃たれた衝撃で全身に罅が入っていた。
俺はそれを拾い上げて、信奈達の前に持っていく。


「……こんな感じだ。貫かれている所は触るなよ。火傷するぞ」
「これが………未来の銃だと?! 凄まじい威力じゃ!!」
「しかも、さっき真紅狼、貴方は“一発”って言ったけど、連発式なの?!」
「ああ、この銃は六発式でな。撃ち終えたら、移動する仕組みになっている」


俺は装填部分を見せる。
面白そうに眺める道三達。


「真紅狼、私も持ってみたいんだけどいいかしら?」
「いいが、ちょっと待て」


俺は中の弾を全部取りだしてから、空の状態で渡した。


「はい。重いから気を付けろよ」
「大丈夫よ、種子島を常に持っている私なら……………ッ!?」


持たせた瞬間、ズシンと来たのか引っ張られそうになった信奈だがなんとか両手で持っていた。


「だから、言ったのに………。忠告は聞けよ………、それと持ち方が違う。両手で持つなら利き手で握って、もう一方の手で自分の手を包み込むように持つんだ」


俺は信奈の手に触れて、持ち方を教える。


「それと銃を相手に向ける時は、腕をまっすぐに伸ばす様に。向けない時は、銃口を上に向けるんだ。そうすれば、何かの表紙に引き金を引いてしまっても弾は上に飛ぶから、安全だ」


信奈に優しく教えると、弾の入っていない銃の引き金を引いた。
カチッカチッと引いて楽しんでいた。


「そろそろいいか?」
「あ、はい。有難う」
「おう」


俺は弾を込め直して、ガチンと装填し直した後、ホルスターに戻した。
こうして、美濃の蝮との会見は良い結果を残してお開きとなった。
帰る際、良晴に預けていたわらじが妙に生暖かったのが信奈には気持ち悪かったらしく、わらじ一つで喧嘩になった。
〜真紅狼side out〜


ホント、良晴の運悪いな。

-4-
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織田信奈の野望 信奈専用お茶碗
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