小説『Blood of the scarlet.』
作者:樹緑()

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蒼たちの元に戻ろうという緋芽とはぐれていた妹とともに学校の正門近くのロータリーに集まった。
もちろん、移動する途中にいた<奴ら>は緋芽の槍と兄の短刀によって切り伏せられた。


「お、妹さんはちゃんと見つかったようだね」
「おかげさまで、どうにか見つけられましたよ」
「ところで、その空色の剣はどうした、拾ったのか?」
「無我夢中で桜花を助けようとしたら発現しました」
「それは珍しいことが起きたものだ、普通は十日前後ここにこないと最低でも発現できないのに一日で発現するとは」
「それは、一番自分が驚いてます…」
「何がともあれ全員揃ったことだし外に出るか」
「そうしよう…さすがに疲れた」
「ここに来て、ここまで生き残れたやつはみなそう言ってる、おつかれさん」
「いえいえ、皆さんのおかげで桜花を助けることができました」
「あ、ここの詳しいことは来週の月曜日に話そう、兄妹いっしょに来てね」
「どこで話すのがいいですか?」
「うーん、手っ取り早いのは屋上だけど開いてなければ学校の廊下がむき出しになっている方の一番端とかどうですか?」
「うん、あそこなら人は来ないし気兼ねなく話せるだろう」
「明日の昼休憩に弁当を持って屋上か3号館の端ですね、わかりました」
「話はまとまったことだし外に出るか」


そういう蒼の視線の先を見ると普段は正門のはずのところに緋芽が持っている槍と同じ色の壁があった。


「今回の当番は緋芽らしいな」
「そうみたいですね」


すぅ…という短い呼吸の後、緋芽はひと思いにその壁に槍を斬りつけた。
頑丈そうな壁はいとも簡単に砕け、いつの間にか普段の校門よりそとに立っていた。



しかし、周りには誰もいない…。
いるのは兄妹のみで、ついさっきまで一緒にいた緋芽や蒼もそのほかの人たちも見あたらなかった。
なにやら、夢を見ていたような気分だったが手にはわずかに空色の光が残っていた。
さっきまで持っていた<アイシクルダガー>の残り火?みたいなほんのわずかな光は手を広げると拡散して消えた。


「なんだったのだろうね、あれは」
「何がなにやらさっぱりですよ、本当に」
「たしかにこれは満月堂の団子を賭けるだけの価値はあったね」
「半分は予想していたってさっき言ったが、本当はほんのちょっとしかわからなかった」
「もしかして、嘘を言ってたのー?」
「ブラフって言ってくれ、ブラフと」
「んじゃ、無事だったみたいだし家に帰りますか?」
「とりあえず、自転車を取りに行ってからだ」
「ですねー」



夜は明けることを知らないようにただ黒々しく空を覆うばかりだった。
その中をライトをつけた空色と桜色の自転車が坂を下っていった。

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