小説『百獣の王』
作者:羽毛蛇()

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”一人の漂流者”



〜Side ???〜



「コケコッコ〜!!」


「……ん?」


 突然聞こえてきた鶏の鳴き声に俺が目覚めると、そこは見知らぬ砂浜だった。

 左手に打ち寄せる小波が、まだ覚醒していない俺の意識を徐々にクリアにしていく。

 …………は?

 いやいやいや、ここは何処だ!?

 落ち着け、こんな事は何度かあった。新人の頃はまだそこまで酒に強くもなかったし、帰りの電車を降りすごして山口まで行った事だって三回はある。

 今だって気がつけばあれこれ余計なモノを買って帰って散財したりしてるじゃないか。

 でも、ココは本当に何処なんだ? 百道浜?……百道にこんな森はないよな。第一俺は泳げないから、絶対に海には近づかない。学生時代に海では酷いめにあったモノだ。

 俺は取りあえず持ち物を確認する為にズボンのポケットを漁ったんだが、財布、タバコ、名刺ケース、何も無かった。


「またかよ……コレで何度目だ?」


 周囲に人は皆無で、俺の質問には誰も答えてくれない。もっとも、俺自身も覚えていないような情報を他の誰かが覚えているとは思えないが……いや、アイツらならひょっとして?


「優斗ーーーー!!! 詩音ーーーー!!……肝心な時にいねぇのかよ。あの役立たずの居候ども!!」


 Club ”Secret”中洲ではそこそこ名の知れたホストクラブが俺の勤務先。源氏名は「藍沢(アイザワ)(タクミ)

 優斗と詩音は同じ店のホストなんだが、売れないヘルプ専門ホストな為、金が無い。前借の常連で、寮費の支払いすら危うくなったアイツらは、半ば転がり込むような形で俺のマンションの居候となったんだが、役に立つ事といえば酔いつぶれた俺を家まで運ぶ事くらいだ。

 アイツらなら俺が最近財布を失くしたり、その場のノリであげたり、名刺を全てバラ撒いたりした回数を覚えてるかも知れないが、俺をこんなところに放置していくような恩知らずはすぐにでも叩き出してやろう。

 俺が酷いヤツみたいに見えるかもしれないけれど、ホストなんてやってるヤツはだいたいそんなもんだ。俺はアイツらの本名すら知らないし、自分の本名だって教えていない……あれ?……何で本名が思い出せないんだ?

 ヤバイな。昨日は相当飲んだみたいだ。一時的な記憶障害か何かってことか?

 俺は好きでホストなんかやってるわけじゃない。世界中の生き物を見て回る為の資金集めで、仕方なくこんな仕事をやってるんだから、記憶障害になるまで飲むなんて馬鹿らしい。まあ、酒は好きだけど。

 じっとしていてもしょうがないし、アイツらへの制裁を考えるのは後回しにして、どっか見覚えのある場所まで歩こう。流石に酔っ払って福岡から脱出してることはもう無いだろうしな。



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「コケコッコ〜!!」


 さて、歩き始めて一時間は経った…………海、ただひたすらに海だな。

 流石におかしいだろ!? 海岸沿いに一時間も歩き回って左手に海、右手に森。ウチの店の近辺にこんな場所があるのは知らないし、福岡県外っていうかもはや国外にいるような気がしてきたぞ!?

 そういう観点から考えると、アレは森っていうよりジャングルに見えてきたな。なんかジャングルから鶏の声が何度も聴こえてくるのも意味不明だし……ちょっと見にいってみるか。

 砂浜からジャングルへの距離は僅か十数メートル、動物好きというより最早マニアの俺が、一時間もコチラに足を運ばなかった事が悔やまれる。

 結論から言うと、こんな鶏はいない!! 鶏冠があるし尾は鶏なんだが、顔と体は何故か狸っぽかった。

 UMAを発見した俺は大興奮で捕獲!! 取りあえず携帯で写メろうと思い胸ポケットを漁ってみたのだが、何故か携帯がなかった。

 この時点で俺は、この受け入れがたい現状を、残念ながら夢だと断定した。今まで財布なんかを何度も失くしてきたが、何があっても商売道具の携帯を俺が手放す事はなかったからな。

 コレは夢なんだから、兎みたいな蛇がいても、ライオンみたいな豚がいてもしょうがない。先ほどの興奮も一気に冷めた俺は、スルーライフを決めこんだ。

 ……でも、この変な生き物を何処かで見たことがある気がするんだよな。大好きな漫画で……某ハンター漫画だったか?

 そんな事を考えながらズボンのポケットから、ダメ元で再びタバコを探してみるのだが、スーツを着ていない事に今頃になって気がついた。

 まあ、夢でまで仕事をしたくはないし、それは別に構わないのだが、


「それ以上踏み込むな!!」


 突然、何処からか、ていうか箱からアフロが生えてる辺りから声がした。

 あぁアレは……多分”ガイモン”だ。アフロのサイズが思っていたほどデカくないが、箱に入ったアフロなんて奇天烈な生き物は、二次元でもヤツ以外にいないだろう。

 という事は、この夢は「ONE PIECE」の世界って事か。「ONE PIECE」は二番目に好きな漫画だし、しばらく夢を観てるのもイイかな? どうせなら金獅子が出る映画版のエピソードの夢を見たかったが……


「くらぁ!! 無視すんな!! さっきからボケっとしやがって!! 早くソイツを放せ!!」

「ソイツ?」


 声の発信源からして、そこに誰かいるのはバレバレなんだが、ガイモンは相変わらず後ろを向いて箱に詰まったアフロとして、森と一体化してるつもりみたいだ。

 どう考えても森にアフロが詰まった箱があるのはおかしいだろ。それで誤魔化せると思っているコイツの思考は、ちょっと残念なようだな。


「お前が抱えてる鶏だよ!! ソイツを放さなければ貴様は森の裁きを受け、その身を滅ぼす事になるのか?」


 やっぱそこは疑問系なんだ。そんなこと言われてもな、夢の中でしか触れないような不思議生物なんだから、そう簡単には手放せない。

 それにコイツはどちらかというと鶏っぽい狸だ……そういえば夢の中なのに、なんで俺はこのモフモフ感を感じられるんだ?


「だから無視するなって!!! もういい!! 森の裁きを受けろォ!!!」


 そう叫ぶとガイモンは振り向きざまに、見るからに旧式のピストルを発射する。確かフリントロック式ってヤツだ。

 火縄銃なんかに比べれば連射性能はイイ方だが、単発式で命中精度も大した事は無い。


「っ痛ぇ!!!?」


 なんだこの痛み!!? どうせ夢なんだから、ピストルなんかにビビる必要はないと思ってたのに!!? チリチリと焼ける様な痛みがする頬を撫でると、手には真紅の血。


 その生温い血と、徐々に麻痺していく頬の痛みは余りにもリアルで、俺は本当に「ONE PIECE」の世界に来て仕舞ったんだと唐突に理解した。
 
 
 
 
 
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〜後書き〜



 はじめまして、作者の羽毛蛇です。

 この『百獣の王』は、あらすじにも書いてある通り、他サイトからの移転作品になります。アットノベルス様では、後書きを入力する機能が無いようですので、お伝えしたい事がある際には、こういった形で後書きを書かせていただきます。

 私が二次創作を執筆するのは、この作品が初めてになります。表現の稚拙さや、地の文の少なさ、誤字など、お見苦しい点がいくつもありますが、半年に渡って執筆を続けてこれたのは、コメントを下さる読者様のおかげです。

 これからはアットノベルス様でお世話になる事になりますが、コメントを糧に執筆していくスタンスは変わりません。表現の見直しなど、出来る限りの声に、応えていきたいと思っております。


 コメント欄での私はもっと軽いノリなので、感想でもご指摘でも、お気軽にお寄せ下さい。
 
 
 

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