小説『百獣の王』
作者:羽毛蛇()

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”転生者”



〜Side タクミ〜
 
  
 
「やったーーーーーーーーーーーーーー!!!」

「うぉっ!? お、お前は何なんだ!!? いきなりどうした? Mか!? Mなのか?」


 俺は間違いなく「ONE PIECE」の世界にやってきた。それを理解した1番素直な気持ちがさっきの叫びだった。

 だって「ONE PIECE」だぞ!? 珍獣だらけじゃねぇか!!

 ろくな遊び道具も与えられず、英才教育だかなんだか知らんが、物心ついた時から勉強ばかりさせられていた俺にとって、家の本棚の百科事典に載っていた動物たちの挿絵を見るのは当時の唯一の楽しみだったんだ。

 いつか自分の目でこいつらを見てみたい。夢の中の俺は世界中の動物たちと友達だったな。

 幼稚園のお受験には初歩的な動物の知識も必要だったからだろうか、両親は百科事典じゃない動物だけの図鑑も俺が頼めば買ってくれて、勉強は好きだった俺は、そんな感じで俺はイイ子ちゃんに育った。

 そう、アレを見た時までは。小学校五年生の時、宿泊学習に友達が漫画を持ってきた。某ハンターが主人公のその漫画は、俺の心を大きく揺さぶった。衝撃だったんだ。欲しいものを自由に追い求めるその職業が。俺は将来ハンターになる。当時の俺はそんな子供らしい夢を持った。


 家に帰って両親にその話をすると、親父がキレた。それも烈火のごとく。

 そして、頭ごなしに否定する親父に俺もキレた。こちらも烈火のごとく。『健全な精神は、強靭な(?)肉体に宿る』とか言って俺に空手と柔道、ついでにサバットまで習わせていたくせに、自分はメタボだった親父は、小学五年生にそりゃあもうあっさりと負けた。

 表面上はすぐに和解したが、親父の関心が二つ下の弟に移ったのをいいことに、俺は本格的にハンターになる準備を始めた。

 あの一件以来俺の頼みを大概聞いてくれるようになったに親父に頼んで、俺はネット環境を整え、知識を吸収。中学になる頃にはさすがにハンターになろうとは思っていなかったが、それでも世界の生き物を見て回ることは夢見ていたんだ。


 高校を卒業すると同時に、大学進学予定のなかった俺は突然家から放り出され、自分で生きていくことになったんだが、親父が用意したマンションには、一ヶ月分の家賃しか払われてなかったので、慌てて仕事を探すことになってしまった。

 バイトすらした事のなかった俺は、夜の街で途方に暮れていた所を、ホストクラブの代表に声をかけられ、月締め即給、前借有りというその店のシステムに引かれた俺は、取りあえず体験入店した。

 まあ結果を言えば、ホストは不本意ながら俺の天職だった。そこそこ大きな店だったが、入店三ヶ月で俺はNo.1になり、それから6年間もの間、その地位を守り続けて稼ぎまくった。

 ホストブームも落ち着いたご時世であったにも拘らず、少々贅沢をしても遊んで暮らせる金はとっくにあったのだが、俺は世界を旅するつもりだったのでまだまだ稼ぐつもりだった。

 いきなりこの世界に飛ばされてしまい金は無駄になったが、この世界には元の世界じゃ考えられないような珍獣がわんさかいる。

 最低限に体を鍛えたら、どこかの調査船団にでも厄介になろう。この世界での旅を想うと、俺は楽しみでしょうがない。


「聞けぇーーー!! 頼むから話を聞いてくれ」


 どうやら俺が長い回想に浸っている間、ガイモンはずっと俺に話しかけ、もとい叫んでいたらしい。無視され続けて若干涙目になっている。悪いことをしてしまったな。


「いやぁ、すみません。この島にこれたのが嬉しくて」

「なに!? お前はそんな小さななりで海賊か? いや、鶏を放さねぇ所を見ると密猟者か!?」


 だからこいつは狸だってのに、いや、一回もツッこんでなかったか。

 それはイイとして、小さななり? 俺は24歳、身長は186cmだぞ? 小さくはないだろ? まあこの世界では身長3mとかの人間がいるからデカくもないだろうが……そういえば、俺の声がずいぶん高く感じるし目線が低い。

 …………イヤな予感しかしないな。


「おっさんは鏡もってるか? この狸を放してやるから貸してくれ」

「鏡? ほれ、ちゃんとそいつを放せよな!!」


 ガイモンが鏡を放ってよこす。要求しといてなんだが、ガイモンが普通に鏡を持ち歩いてることに驚いた……が、この際それはスルーだ。えらくかわいらしいデザインにも驚いた(若干引いた)が、それもスルーだ。俺のスルースキルは高い。

 恐る恐る鏡を覗き込み……俺は愕然とした。


「誰だお前!?」


 昔の事はハッキリと覚えているのに、本名は思い出せない。そんな奇妙な記憶の抜け落ち方も、この容姿を見てしまうと納得だ。

 …………不意に思い出したのは”最後”の記憶。俺はバースデイイベントであまりに飲みすぎて急アルで倒れたんだ。なぜか意識はあった。呼吸が止まっていくのもなんとなく理解できていた。



「あぁ、俺、死んだんだな」



 どうやら俺は異世界漂流者ではなく、異世界転生者だったようだ。転生したというのなら赤ん坊、もしくは自我が芽生える頃からの記憶があるハズなんだが、転生してから砂浜で起き上がるまでの記憶はない。

 もしかしたら憑依したのかもしれないと一瞬考えたが、一緒に打ち上げられていたっぽい大きめの鞄の中には、かなり上質な紙(この世界では貴重なものらしい)で出来た分厚い動物図鑑、サバイバルナイフ、釣竿、キャンプ用品、手帳に筆記用具。さらには見た目7歳程度なのにかなり鍛えられた身体。

 おそらくこの世界で俺は幼き頃の夢、ハンターを目指していたんだろう。こんな思考の子供がいるわけないので、やはり俺は記憶をなくした転生者って事だ。

 ガイモンによるとこの近海を、昨夜大嵐が襲ったらしいから、それでこの島に流れ着いたのだろう。まあ俺のことだから最初からこの島を目指していた可能性もあるけどな。

 そんな事より、何で俺の容姿がデビルメイクライのダンテなんだ? まぁ、まだ小さいけど。殆どのパーツがダンテと同じで、髪は当然のように銀髪なんだが、何故か目は碧眼ではなく灰色だった。何故だ?? まあ、別段不都合もないし、身体能力がダンテ並だとしたらラッキーだな。

 それにダンテは、ゲームキャラの中ではかなり好きだし、そこはかとなく嬉しかったりする。ただ、エボニー&アイボリーをはじめとする武器類が無い事が悔やまれる。

 俗に言う”転生特典”ってヤツで持たせてくれればイイものを……俺は神の手違いでのテンプレ転生ってヤツじゃないのかもな。俺が望んだ特典が”ダンテの容姿”だったとしたら、転生直前の俺は只のアホな酔っ払いだったとしか思えん。

 必要最低限の事しか話さず、考え込んだりしてばかりいる俺を、最初はガイモンも不審がっていたが、狸(ここは譲れない)を開放したことと、動物談義をしたことによって今は仲良くなった。もはや親友レベルと言ってもいいだろう。ガイモンさん!! 今まで珍獣島を守ってくれてありがとう!! 一動物好きとして、この島にいる間は俺も手伝う事にしようと思う。



〜Side ガイモン〜



 可笑しなヤツだ。


 最初は海賊か密猟者かと思った。大海賊時代は子供に残酷だ。おれのいた一味みてェに、気のいいヤツ等ばかりじゃねェ。海賊に親を殺された孤児なんて五万といる。

 そんなヤツ等が海賊になることなんて別に珍しい事でもねェ。だが、どうやらこいつは違うようだ。こいつの鞄の中身を見たときはやっぱり密猟者じゃねェかと思ったが、味の記録の為に一匹仕留める以外、必要以上には狩らないらしい。

 どうやら生き物のすべてに興味があるらしく、姿や生態、可能ならば食用時の味まで記録した動物図鑑を作るのが子供の頃からの夢だそうだ。今でも十分に子供だと思うのだがそのことを聞くとはぐらかされた。

 アイザワ・タクミって自分の名前と、ハンターという職業(駆け出しらしい)だった事以外は、自分の事をほとんど覚えてないそうだ。

 しばらくこの島の調査をしたいと言い出してきたので、こいつの眼をじっと見据えると、真っ直ぐないい眼をしてやがった。

 二つ返事でおれが了承してやると、


「俺たちは親友だ!!」


 なんて、こっぱずかしいことを言いながら抱きついてきやがった。

 この島に取り残され、長い事ひとりで生活してきたおれにとって、それは忘れかけていた人の温もりだった。


 ……可笑しなヤツだ。
 
 
 

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