小説『魔法少女リリカルなのは〜英霊を召喚する転生者〜』
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「――というわけでさっき友達になったフェイトちゃんなの」

「よ、よろしくおねがいします」

「……いやどういうわけよ」

 少女、アリサは一緒に温泉に来ていた友人であるなのはが金髪の少女フェイトを紹介するのを生八つ橋10個入りの箱を棚に戻しながら、やや困った表情で見ている。

「な〜すずかよォ〜、この『海鳴温泉名物 温泉饅頭』の裏にMADE IN CHINAって書いてあるんだけどよォ〜。これじゃあ海鳴温泉名物じゃなくて中国名物だよな」

「なんでそれを私に聞くの!?」

 すずかも同じく困っているというか俺が困らせている。
 お土産っていっても俺お土産渡すような相手がいないんだよね。タマモは一緒に来てるし三人娘も温泉来てるしテスタロッサ一家にはフェイトが買っていくだろうし。
 点蔵にペナントでも買ってってやるか。

「アリサ・バニングスよ。歳も近そうだし敬語じゃなくていいわ」

「私は月村すずか。なのはちゃんと友達なら私たちとも友達だね」

「う、うんっ」

 フェイトは少し照れくさそうにされどもとても嬉しそうに微笑んでいた。
 よかったねフェイト。

「新しい友達出来た記念に木刀買ってやるよ。どれがいい?」

「木刀限定なの!?」

「友達関係ないし」

 木刀、それは修学旅行でテンションのあがった学生がその場のノリで大金出して購入し、持ち帰る際にはかさばって、いざ家に帰ってみると何故こんなのをわざわざ購入したのかと後悔する魔性の武器だぞ。たかが木刀と侮れば痛い目をみる。木刀だけにね。

「そうだ、みんなで卓球やろうよ。向こうに卓球台があったし」

 なのはの提案でみんなで卓球をやることになる。
 なのは、フェイト、アリサ、すずか、俺でダブルスでやっても一人余るんだけれど……。

「ワンセットマッチ! なのは・フェイトペアトゥサービスプレイ」

「それテニス」

 当然の如くハブられるのは俺なんだよね。風呂入った後だし汗かきたくなかったから好都合だけれどね。それに片方に男がいるとパワーバランスが崩れて不公平なことになるだろうしさ。だから別に悔しくなんてないさ。

 ルールは先に10点獲得したほうの勝ち。延長無しの一本勝負だ。


 キ ン グ ク リ ム ゾ ン ッ


 『なのは・フェイトペアとアリサ・すずかペアが卓球勝負を繰り広げた』という『過程』は消滅し、『2−10でなのは・フェイトペアが無様に敗北した』という『結果』だけが残るッ!!

「……ごめんフェイトちゃん」

「き、気にしなくていいよっ」

 なのはは部屋の隅で体育座りになってしょぼくれている。フェイトはそんななのはを慰めていた。
 無理もないだろう。なのはは終始良いところ無しだったのだから。
 3回に1回くらいの確率で空振りし、フェイトに激突した回数は4回。顔にピンポン球が直撃した回数が2回。2得点はフェイトのスマッシュをアリサが打ち返し損ねたものなので、言っちゃ悪いが傍から見るとなのはがフェイトの邪魔をしていたようにしか見えなかった。
 しかしアリサとすずか、特にすずかが強かったのもまた事実。

「運動音痴もここまで来るとやばいわね……」

「あはは」

 アリサは勝った筈なのに汗をタラリと垂らし、すずかは苦笑いをしている。
 卓球は(競技としてなら)見た目以上に瞬発力や反射神経、持久力がいるスポーツだからね。
 お兄さんの方はガタイもあって運動も得意そうだと思ったが。

 その後はタマモとアルフさんがなのはとすずかのお姉さんやすずかの家のメイドさんを連れてきて卓球を始めた。
 ピンポン球が早すぎて魔術で視覚を強化しないと見えないくらいのラリーが延々と続くなにそれ恐いな卓球になっている。
 タマモとアルフさんはともかく他二人は明らかに人間業じゃない。卓球台の角の部分に当たってイレギュラーなバウンドをしても即反応して打ち返すわ、大きく跳ねた球をテニスのスマッシュみたいに打つわ、さらにそれを平然と返すタマモもすごいがで卓球版テニヌと言っても過言ではないと思う。





 日が落ちて日付が変わろうかという時間帯にジュエルシードが発動したことをフェイトが察知。なのはの方もユーノが察知しジュエルシードがある場所へと向かう。
 俺も放置することは出来ないのでタマモと共に目的地へと赴いた。

「キモッ!」

 そこにいるのは巨大な虫……いや蟲か。
 おそらく何かの虫にでも取り付いたんだろう。ルビーのように赤い目が14個ついていて体は堅そうな装甲に覆われていて芋虫というよりはダンゴムシに近い。
 
 大きさ以外はどうみても|王蟲(オーム)です。本当にありがとうございました。
 
「……|王蟲(オーム)って実際にいたらあんなにキモいんだね」

「「「|王蟲(オーム)って何(さ)!?」」」

 フェイト、アルフさん、ユーノは|王蟲(オーム)について知らないだろう。タマモは家でジ○リをよく視るから知っている。ちなみにお気に入りはもの○け姫、風の谷のナウ○カではない。

「おい、誰か結界張ってくれ」

 能力が未知数な以上、何もしていない今のうちに周囲への被害を少なくしないと。

「あ、じゃあ僕が」

「あたしもやるよ」

 ユーノの下に明るい翠色の魔方陣、アルフさんの下には赤い魔方陣が現れたと思うと周囲の色が変化。結界の中に転移した模様だ。
 それに合わせて俺も首にかけていた斧剣を紐から外して手に持ち、大きさを片手剣くらいの大きさにする。最近これくらいの大きさの方が使い勝手がいいことに気がついた。

「それが彼方君のデバイスなの?」

「デバイス? ……ああ、魔導師の杖のことだっけか。これは違うぞ、礼装っていってデバイスよりもっと原始的な武器だ。なのはのやフェイトのみたく人工知能はついてないしな」

 礼装。魔術礼装ともいうが、これもデバイスと同じくおとぎ話に出てくる「魔法使いの杖」に相当するものだろう。聞いた話によればデバイスは持ち主のサポート役をやったり、自分で勝手に防御魔法やサポート魔法をやってくれるらしい。礼装なんて使う人しだいだからデバイスと比べるとどうしても原始的に見えてしまう。魔術自体古いものだし仕方のないことだ。……ああ、|愉快型自立魔術礼装(カレイドステッキ)なんて例外もあったな。ただし制御が利かない分危険極まりないが。

「|ご主人様(マスター)、ご命令を」

 タマモは俺の少し前に出て俺の指示を仰ぐ。後ろにたなびく7つの尾がゆらゆらと揺らいでいる。

「キャスター、様子見に適当な攻撃を撃ってくれ」

「了解しました!」

 タマモの呪符から炎天とは違った火の玉が放たれて|王蟲(オーム)に直撃。
 
「■■■■■■■■■ーーッ!!?」

 |王蟲(オーム)が火に当たり苦しんでいる。虫だけに火には弱いのか。近づかないで遠くから攻撃していった方がいいな。

「|morphologische(形態) |Veranderung(変化)

 斧剣の形状を弓に変えた。大きさは俺の身長に合わせているせいでかなり小さい。

「「弓になった!?」」

 何故君達はさっきからオーバーリアクションを。なのははまだしもフェイトは自分のデバイスを杖にしたり斧にしたり大剣にしたり出来るだろうに。

「■■■■■■■■■!!」

 先程の攻撃で|王蟲(オーム)は戦闘態勢に入ったようだ。その証拠に目の色が赤から青へと変化している。なにもそこまで似なくてもいいだろうに。

「いくよレイジングハート!」
「おねがい、バルディッシュ」

『All right』
『Yes ser』

 主の呼びかけに杖が呼応する。
 なのはの周りにはピンク色の、フェイトの周りには黄色の光の球が現れる。
 数はパッと見てフェイトの方が多い。経験の差かな。

 俺はしばらく静観していよう。少女達の成長を邪魔してはいけない。本音は楽したい。魔力を温存したい。これからの参考に彼女達の戦い方を見ておきたい。

「ディバインシューター!!」
「フォトンランサー!!」

 ピンクと黄色の光の球を|王蟲(オーム)にぶつける。装甲に当たった分は弾かれたが、目に当たったことで|王蟲(オーム)は仰け反り、足元を崩されて引っ繰り返り、もがき苦しんでいる。裏側は無数の足がうぞうぞ蠢いていてトラウマになりそうなくらいの光景だった。

「ひいいいいっ!」

 事実、なのはは軽く悲鳴を上げているし、フェイトも声には出していないもののその顔は真っ青だった。
 男である俺だって虫はそんなに得意な方じゃない。女の子なら尚更の筈だ。

「いや〜ん、ご主人様怖いです〜!」

 そんな最中、全然怖く無さそうな声色でタマモが抱きついてきた。
 暇なのか? 確かに俺とタマモの出番は無さそうだ。
 今回はスピードワゴンや天津飯のように解説役にでも徹することにしよう。

「なのは、フェイト、今だ! 今の|王蟲(オーム)は引っ繰り返って身動きとれず防御も出来ない。体勢を立て直される前にデカイ一撃を叩き込んで一気に決めてしまえ!」

「うん!」
「わかった!」

 なのはは杖を|王蟲(オーム)に向ける。その杖の先にリング状の魔法陣が4つついて魔力をチャージしている。周りからも魔力をかき集めているようにも見えた。魔術の場合は、魔力が大気中に出ると生命力に戻って霧散してしまうから到底考えられない芸当だ。
 フェイトは杖を天に掲げた。すると上に黒い雲、バチバチと音がするからおそらく雷雲だろう。それが発生した。魔法は天候も操ることが出来るのか。

「ディバイーーンバスターッ!!」
「サンダーーレイジッ!!」

 雷雲から放たれる雷撃の一斉攻撃といかにも貫通力のありそうなピンク色のレーザービームが|王蟲(オーム)を蹂躙していく。|王蟲(オーム)も悲鳴を上げているんだろうが、二人の魔法の音でそれ以外の音が聞こえない。

「えー」

 言葉に出来ない光景が目の前にある。
 確かにデカイ一撃を叩き込めといった覚えはある。しかし『かみなり』と『はかいこうせん』を使ってくるとは夢にも思わなかった。この二人、見た目に反して結構えげつない技を使うんだな。
 
「ああ、どこかで見たことあると思ったら|神官魔術式・(ヘカティック・)|灰の花嫁(グライアー)に似てるんだ」

 流石にアレと威力が同等ってわけではないだろう。実物を見たことないだけで神代の魔術師ってぐらいだからそれこそすさまじい威力の筈。

 魔法の嵐が去った後には丸くなったダンゴムシと??と描かれているジュエルシードが残っていた。

「リリカルマジカル」

「ジュエルシード」

「シリアル??」

「「封印!!」」

 どうでもいいが、あのリリカルマジカルって何? リニスとフェイトは普通に封印してたと思うんだ。
 そうだ。ちょっと録音して成人した頃にでも……って流石に趣味悪いか?
 ともかくこれで残りのジュエルシードは9個か。9個まとめて何処かに落ちてないかな〜と思いながら斧剣を小さくして紐にくくりつけた。

「なのは、あんなに強力な収束砲をどこで習ったの?」

「え? 一番最初にやってみたら出来たけど……」

「ゑ?」

 なのはの返答にフェイトは固まった。
 魔法についてはよく知らない俺でもさっきのレーザービームが初心者用の技ではないことは容易に想像できる。天才っているもんだな。

「フェイトちゃんもあんな凄い魔法が使えるんだね」

「リニス、先生がよかったから。……それに母さんのためにも強くなりたかったから」

「すごいなぁ、私ももっと強くなりたい」

「あはは、なのはならきっとなれるよ(……私もうかうかしていられないな)」

 フェイトの目が心無しか燃えているようにも見える。なのはの才能が彼女の闘争心に火をつけたか。木之本 桜にとっての李 小狼みたいな関係になりそう。
 そしてキマシタワーへ。

「なのは!」

「フェイト! 無事だったかい?」

 結界を張っていた使い魔二人が戻ってきた。二人の魔法少女の無事を確認して胸を撫で下ろす。
 辺りを見回すと周囲の色も元に戻っている。
 便利だな〜。魔術で人払いの結界以外にこういった擬似空間みたいなのって出来ないのかな。固有結界は無理だし。

「お二人さん、というかフェイトはともかくなのはは部屋を抜け出して来たんだからばれない内に戻ったほうがいいんじゃ」

「そうだった! おやすみフェイトちゃん、また明日」

「うん、明日には帰っちゃうから。朝のうちにまた」

 なのははユーノを肩に乗せて駆け足で旅館へと戻っていく。大人組みはまだ起きてる可能性もあるからバレてどやされないことを祈っておこう。

「フェイトはどうする? 俺は部屋に戻って寝るけど」

「私も戻るよ。もうこの辺りにジュエルシードの反応はないし、さっき大技使って少し疲れたから」

「そうか……でもなのはのやつは結構ピンピンしてたような」

 もしかして魔力のスタミナも桁違いなのか。
 フェイトも同じ考えに至ったのか遠い目をしている。

「おやすみ」

「うん、おやすみ」

 何もしてないけどなんとなく疲れた。
 なのはの異常さを目の当りにした。今日はそんな一日だった。

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作者コメ
読者の皆様のお陰でもうそろそろ総ポイントも10,000に届きそう。
いつも愛読ありがとうございます。
この前ISの方を更新したらやたら人気があることに驚きました。
ちょっとしか書いてないのにこっちと差があんまりない。

時々見る絵がある作品って羨ましいですね。
私は絵心というかパソコンで絵が描けないので主人公の姿を頭の中で想像したりするだけで終わるのですが。

アニメでは5話の辺りですが根本的なことが粗方解決しているのであと2話くらいで無印編も終わりそう。気を引き締めてどうぶつの森をやりながら執筆していこうと思います。

では、また次回。

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魔法少女リリカルなのはViVid (6) (カドカワコミックスAエース)
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