小説『アイプロ!(7)?才能の覚醒?』
作者:ラベンダー()

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「あのさ…」

相澤が、圭一と雄一のダンスのレッスンを見ながら、隣の明良に尋ねた。

「何です?」

明良が体を乗り出して、相澤に向いた。

「圭一さ…あいつ、クラシックバレエ…やったことあるのか?」
「!?…どうしてです?」
「優雅なんだよ。…姉貴も言ってたけどさ。…なんか基礎がしっかりしてんの。」
「ええ?」

ずっと独学だった明良にはわからなかったが、確かに手先の使い方や、脚先の伸ばし方が相澤の踊りに似ている。

「雄一は体操部にいたって言ってたけど…圭一、何も言ってないか?」
「ええ…。今度聞いてみましょうか。」
「ま、機会があったらでいいけど…。別に悪い事じゃないし。」
「そうですね。」

明良はそう言って、体を戻した。
以前、能田にも「育ちがいいんじゃないか」と言われていたし、初めて2人で食事をした時もマナーができているように思っていた。

(血の繋がっていないお父さんは役所勤めだと言ってたけど…その時のことかな…)

明良は圭一を見ながら、いろいろ考えを巡らせていた。

・・・・・・

「クラシックバレエですか?」

圭一がレッスン室を出た廊下を、バッグを肩にかけて前を歩いている。そしてそう振り向かずに明良に言った。

(おかしいな…)

と明良は思った。人の顔を見ないで話す子ではない。
圭一は、ちらと明良に振り返った。

「…だからなんなんです?」
「いや…社長からそうじゃないかって言われてね。」
「……やってました…小学校6年生まで…」

圭一はまた前を向いて言った。

「そうだったのか…。基礎ができていると社長が褒めていたよ。」
「…そうですか…」

圭一は「すいません。帰ります。」と言い、明良の顔を見ずに頭を下げると、廊下を走り去って行った。

「……」

明良はただ黙って見送った。


……

夜−

圭一は、独り家の中で壁にもたれて、窓の外を見ていた。真っ暗な中、月明かりだけが窓から差し込んでいる。

『クラシックバレエしてたのか?』

明良の声が思い出された。
圭一は声楽家の父親とバレリーナの母親の間に生まれた。小学校6年生の時に父親が破産し、両親は離婚した。
実の父親が破産するまで、圭一は声楽とクラシックバレエの稽古を毎日させられた。その頃は辛い思いもしたが、今、圭一がこうしてタレント事務所にいられるのは、その時の稽古のおかげだと思う。

そして圭一が中学2年生になった時、母が再婚した。
それから圭一の堕落が始まった。
新しい父親と対立し家へ帰らなくなった。その時に知り合った暴走族のリーダーに誘われ、暴走族に入った。
暴走族は、その時の圭一には楽しかった。喧嘩のノウハウを学び、人に迷惑をかけることに優越感を感じた。汚い言葉を使い、煙草を吸い、やりたい放題遊んだ。…今は、それの何が楽しかったのか分からない。

(母さん、どうしてるだろう?)

急に母親のことを思い出した。離婚後、生活苦から公務員の父親と再婚した。とても愛のある家庭とは言えなかった。新しい父親は外面はいいが、家ではずっと威張り散らしていた。時には暴力を振るうこともあった。
家を追い出された時、母親が圭一を追おうとして泣き叫んでいる姿を思い出した。父親はその母親の腕を掴んで、家の中に引きずるようにして入れ、玄関をぴしゃりと閉めた。

・・・・・・・

圭一は両手で顔を伏せた。


「…圭一?いるのか?」

その声に圭一は、はっと顔を上げた。
ドアを遠慮がちにノックしている。

「…父さん…」

圭一はすぐに立ち上がり、鍵をあけた。
明良が立っていた。
圭一は、稽古の帰りに明良に失礼な態度を取ったことを思い出し、少し顔を伏せた。

「どうした?明かりもつけないで。」

明良が心配そうに言った。

「う、うん。…月が出てるから…いいかなって…」
「…そうか。」

圭一の咄嗟の返答に明良は微笑んだ。

「入っていいか?」
「はい!もちろん!」

明良は何かを手に持っていた。それをキッチンにあるテーブルに置いた。

「ケーキ…食べるか?」
「こんな夜に?」
「それもそうだが…」

明良が苦笑した。

「電気をつけるぞ。」
「はい。」

明良は、ひもをひっぱって明かりをつけた。
少し眩しすぎるように感じた。

「圭一…今日、何の日か覚えているか?」
「?…」

圭一は考えたが、思い出せない。

「…忘れているのか…」

明良が少し涙を堪えるような表情をした。
圭一は慌てた。

「ちょ、ちょっと待って!…ええと…副社長と何か一緒にした日?あれ?でも、去年の今日は、僕まだプロダクションには入ってませんけど…」

明良は慌てる圭一の肩を優しく叩いた。

「お前の誕生日だよ。」
「!!!」

圭一は驚いた。…自分の誕生日すら忘れていたのだった。

「19歳、おめでとう。」

明良はそう言って、ケーキの箱を開いた。見ると手作りのように見える。

「菜々子さんが今日、お昼に一生懸命作っていたんだ。」
「!!」
「本当は家に呼ぶつもりだった…。でも、稽古の時お前の様子がおかしかったのと、携帯がつながらなかったから、このケーキを持って、様子を見に来たんだ。」

圭一の目から涙が溢れた。

「よかったら、今からうちに来ないか?」

明良は、涙している圭一に気付いて、そっと抱きしめた。

「…さ、行こう。…菜々子さんがたくさん料理を作って待ってるから。」

圭一は明良の肩でうなずいた。


・・・・・


明良の家で、圭一は食後のコーヒーを飲んでいた。菜々子の手料理とケーキを平らげた後だ。

「専務のごちそう…美味しかったです。」
「圭一君のお口に合って良かったわ。」

菜々子の言葉に、圭一はまた泣きそうになっている。
隣に座っている明良が、そんな圭一の背中を軽く叩いた。

「…今日は泣く日じゃないぞ。」

圭一はうなずいた。

「…お祝いしてもらったの…小6以来やから…」
「!!」

明良と菜々子は驚いて顔を見合わせた。

「…どうして?…何かあったのか?」

明良がそう聞くと、菜々子が「明良さん」と言って首を振った。聞かない方がいいんじゃないかという風である。
明良はぎくりとした表情になった。が、圭一はそれに気づかないように話しだした。

「父が破産したんです。」
「!」
「父はテノール歌手で、母はバレエをしていました。父が音楽学校を作る言うて借金したんですけど、結局手続きとか大変で認可が下りなかったどころか、その借金もいろんな準備や業者の手回しとかに使ってしまって、返せなくなってしもて…。破産して、家も何もかも取りあげられたんです。」
「…そうか…。ごめん…辛いことを思い出させたね。」

明良が、圭一の肩に手を乗せた。
圭一が首を振った。

「それまでずっと僕は、毎日、声楽のレッスンと、クラシックバレエのレッスンをさせられていたんです。…今になってもそれが残っているなんて思ってもなかったから…今日副社長に聞かれた時、びっくりしてしもて。」
「気がついたのは、先輩だ。百合さんも褒めていたよ。」

その明良の言葉に、圭一はうれしそうな顔を明良に向けた。

「…声楽もやっていたのか…」
「ええ。いつ頃からかは忘れたんですけど…。父はスパルタで、小学生の僕に「イタリア歌曲」歌わせるんですよ。もちろんイタリア語で。…意味わからんと歌ってましたけど…。」
「…今でも歌える?」
「え?」

圭一はその明良の言葉に、首をかしげた。

「練習し直したら、思い出せるとは思いますけど…。」
「1度聞かせて欲しいな。…圭一のオペラ。」
「そうね!私も聞きたい!」
「えー…」

圭一は明良と菜々子の顔を交互に見ながら、照れ臭そうに笑った。

「…じゃ、今夜のお礼いうたらなんやけど…明日ちょっと練習してみます。」
「ほんと!?楽しみだわ。」

菜々子が小さく拍手しながら言った。
明良が「レッスン室、1つ空けとくから。」と言った。

「…いつ聞けるのかしら?」
「うーん…」

菜々子の言葉に、圭一は首をかしげて、

「じゃ明日のダンスのレッスンが終わったら。」

と言った。明良は驚いた。

「そんなにすぐに?」
「ダンスで体温まった後やから、声出やすいと思います。」
「社長も呼んでいいかい?」
「え?それは待って下さい…。人数多いと緊張してまうから、副社長達だけがいいです。」
「よし…わかった…。イタリア歌曲の楽譜とかはあるのかい?…あ、後、ピアノの講師も呼んでおかないと駄目だな。」
「楽譜はあります。」
「!…そうか…。」
「でも、僕、別に歌いたい曲があるんです。」
「?…何だ?」
「モルダウ」
「!!」

明良と菜々子が驚いた。圭一が照れ臭そうに言った。

「…僕がこのプロダクションのオーディション受けたの…副社長の「モルダウの流れ」聞いたからなんです。」
「!?…え…あれを!?…はっきり言って、うまいとは言えないぞ。」

菜々子が笑った。

「明良さん、シングル出しといて、うまくないって…」
「いや、だって…。あれ、先輩に無理やり歌わされたからな…。正直、自信はなかったんだ。」

明良が照れ臭そうに言った。圭一は「あれ良かった。」と言った。

「副社長の声…特にモルダウ歌ってる声は…子守唄聞いてるような、気持ちが落ち着くような感じなんです。」

菜々子もうなずいている。

「そうそう!私もそれは思うわ。」

明良は照れ臭そうに、片手を額に当てている。

「でも、圭一のを聞いてしまったら、きっと自分のを聞くのが嫌になるな。シングル廃番にしてもらおうか。」

明良がそう言って笑うと「やめて下さい!」と圭一が笑いながら言った。

「まだ僕の聞いてないのに…。」
「聞かなくてもわかるよ。」

明良はそう言って、圭一の肩を叩いた。

「明日、楽しみにしてるからな。」

圭一はうなずいた。


……

翌日、圭一のダンスレッスンが終わった頃の時間に、明良と菜々子は、声楽レッスン室にいた。
ピアノの講師もスタンバイしている。

「モルダウ歌われるんですね。」

講師が言った。明良は照れ臭そうにうなずいた。

「後『プライド』も頼まれているんですよ。」

その講師の言葉に、明良達は驚いた。

「『威風堂々』のことですか?」
「ええ。エルガーを歌われるそうです。」
「!…『希望と栄光の国』ですね。」
「よくご存知ですねぇ。」

講師が明良に言った。菜々子も驚いた表情で明良を見ている。

「聞いたらわかりますよ。…いや…若い時に歌のレッスンで、クラシックをやらされたことがあったんです。…でも、全く太刀打ちできなくてね。」
「そうなの…。じゃぁ、一層楽しみね。」
「ん。」

明良がそう答えた時、圭一がかばんを担いだまま、入ってきた。

「すいません。レッスンが長引いて…」

圭一は息を切らしている。

「構わないよ。…大丈夫か?歌えるの?」

明良がそう言うと圭一は「ちょっと休ませて。」と言った。
明良達がうなずいた。すると圭一はピアノの講師に向かって言った。

「すいません。モルダウの伴奏のところ、弾いてもらえますか?耳で確かめますから。」
「いいですよ。」

講師がモルダウの流れを引き出した。

圭一は汗を拭きながら、その場にしゃがみ、目を閉じて口ずさんでいる。
すべて終わった時点で、圭一は立ち上がった。

「…じゃぁ…」

明良と菜々子は息をのんで待った。

ピアノが鳴り出した。

…圭一が歌いだした。

……

明良と菜々子は驚きで身動きがとれないほどだった。

圭一の歌声は、18歳とは思えない深みと迫力を持ったものだった。
マイクもないのに、レッスン室の空気の震えまで感じる。

歌い終わった後拍手も忘れて、明良と菜々子は息をのんでいた。

ずっと目を閉じて歌っていた圭一は、目を開き、ふーーーっと息を吐いた。

「あかんわ…やっぱり、肺活量落ちてる。」

圭一はそう言ってその場に座り込み、息を弾ませた。

「!…大丈夫か!?」

明良が思わず言ったが、圭一は「大丈夫です」と微笑んだ。

「まるで別人だな。」

明良がそう言うと、菜々子がうなずいて「ほんと。違う人が歌ってるみたい。」と言った。

「口ぱくやないですよ。」

圭一がそう言って笑った。明良達はその言葉に笑った。

「先生『プライド』の伴奏お願いします。」

圭一のその言葉に、ピアノ講師がうなずいて楽譜を替えた。
『プライド』の伴奏が流れる。圭一は座り込んだまま目を閉じ、またぶつぶつ呟くようにして歌った。

「…じゃ『プライド』いきます。」

圭一がそう言って、立ち上がった。
明良達は、椅子に座り直すようにして待った。

ピアノが鳴り出した。

圭一は歌いだした。英語だ。エルガーの曲をそのまま歌っている。イギリスの第2の国歌とも言われていて、皆聞き覚えのあるものだ。
モルダウとは全く違った迫力のある声が響き渡った。
体中の力を絞り出すようにして、歌う圭一の姿は、本当にテノール歌手そのものだった。

…ピアノが終わった時、明良と菜々子は拍手をした。

圭一は息を弾ませて腰に手を当てると、明良達に背を向けて息を整えた。

「ねぇ…明良さん。」
「ん?」
「圭一君…このオペラでもデビューさせてあげましょうよ。」
「!!」

明良は目を見開いた。どうしてそれを考えなかったのだろうともはや後悔している。

「それはやめた方がいいです。」

その圭一の声に、明良と菜々子が圭一を見た。

「これを本当のオペラ歌手に聞かれたら、失笑されるのがおちです。」
「そうなのか?」
「ねぇ、圭一君。」
「?はい。」
「あなたは、アイドルとしてオペラを歌えばいいのよ。オペラ歌手としてではなくて。」
「!!」

この菜々子の言葉は、明良も驚いた。

「プロには失笑されるかもしれないけど、今の若い子たちにクラシックに興味を持たせるスタンスでいいんじゃない?圭一君をアイドルとしてしか見ていない人が、突然、今のを聞いたら、インパクトがすごくあると思うの。」

明良はその菜々子の言葉に感心したようにうなずいている。
圭一も少し目を見張ったようにして菜々子の言葉を聞いていた。

「ねぇ先生…どうかしら?」

菜々子がピアノ講師に向かって尋ねた。

「私もいいと思います。確かにテノール歌手としてはまだまだかもしれませんけど「ライトクラシック」というような形で歌えばいいんじゃないかしら。…でも歌だからやっぱり「ライトオペラ」かしら…。」
「『ライトオペラ』ね…」

講師の言葉に、明良が少し考え込むようにした。

「…雄一とのユニットも続けたままでいいですか?」

圭一が言った。明良が「そりゃ、もちろん」と言い、

「逆にその方がいいんじゃないか?」

と付け加えた。菜々子が隣でうなずいている。

「…あんまり自信ないけど、やってみたいです。」
「よし。じゃぁ、社長と相談するから、明日も歌う用意をしておいてくれ。先生もいいですか?」

ピアノ講師が、明良のその言葉にうなずいた。

「明日1日空けておきますわ。私も伴奏の練習しなきゃ。」

そう嬉しそうに言った。


・・・・・

翌日 夕方ー

圭一のちょっとしたコンサートが行われた。
相澤、明良、菜々子をはじめ、雄一達、同期生も聞きに来た。
圭一は、かなり緊張している。まさか、雄一達まで来るとは思っていなかったのである。

ピアノ講師が「いい?」と、圭一に尋ねた。
圭一は、1つ息をつくと「はい」と言った。

1曲目は、短いがエドガーの「希望と栄光の国」だった。


いきなりサビから歌いだしたような感じなので、圭一が発声した途端、皆、体を硬直させた。いつもの圭一とは、全く違う深い声に、相澤達が驚いている。圭一が歌い終わると、しばらくその場がシーンとなった。
誰も息を呑んだようになって、拍手をするのを忘れている。

圭一は大きく息をついて背中を向け、息を整えた。
やっと明良が拍手をした。周りが、はっと気がついたように拍手する。

「別人や…圭一ちゃうわ。」

雄一がそう呟いたのを聞いて、圭一は笑いながら、雄一に振り返った。

「僕や、圭一やって。」

圭一が笑いながら言うと、雄一も笑った。

「…びっくりして…言葉がないな…」

相澤が明良に言った。

その後、2曲目に「モルダウの流れ」を歌った。
1曲目は目を見張って聞いていた相澤達だったが、モルダウは目を閉じて聞いている。
圭一が歌い終わった後、静かな拍手が起こった。
圭一は頭を下げた。

「参った…。なんだー?これ?…不思議な感動って言うか…すごいな。」
「デビューさせてもらえますか?」

感動している相澤に、明良がそう言うと相澤が「もちろん」と言った。

「『ライトオペラ』ね。準備を早速始めよう。」

圭一は膝に手を置いて、また息を弾ませている。

「あかん…これを克服せな…。歌うたびにぜえぜえ言ってたら、しゃれならん。」
「大丈夫か?」

思わず呟いている圭一に、明良が言った。

「発声と呼吸の仕方…理屈ではわかってるんですけど、体が思い出してくれないんです…。がんばってデビューまでに克服します。」

圭一がそう言って、明良に微笑んだ。
……


明良の車の中−

圭一が、助手席で何か神妙な顔をしていた。
それに気づいた明良が「圭一?」と声をかけた。

「あ…はい。」

圭一が明良に向いた。

「何か、考え事か?」

明良がそう言うと、圭一が苦笑して下を向いた。

「『ライトオペラ』でデビューしたら…お父さん見てくれるかなって…」
「!!」

実の父親のことを思い出していたのか、と明良は思った。

「今、そのお父さんはどうしてるのか知ってる?」
「いいえ。どこにいるのかも、生きてるのかも知りません。」
「…そうか…」

明良は悲しそうな表情をした。圭一が言った。

「見てくれたら嬉しいんですが…。」
「そうだな…」

明良もそう答えた。それで何らかの連絡をくれれば、もっと圭一の笑顔が増えるのに…と明良は思った。

「副社長…」
「ん?」
「…ユニットでは下の名前の「圭一」だけなんですけど、独りの時は「北条圭一」って名前にしていいですか?」
「!?」

明良は驚いて圭一の顔を見た。が慌てて前を向いた。運転中だ。

「圭一…」
「せめて名前だけでも…副社長の息子になりたいんです。」

圭一がそう言って明良を見た。明良は胸が熱くなるのを感じた。思ってもいないことだった。
明良は前を向いたまま、うなずいた。

「いいよ…」
「!…本当に!?」
「もちろんだ。…私の方がお願いしなきゃいけないくらいだよ。」

圭一は本当に嬉しそうにしていた。今まで見たことのないような満面の笑みを浮かべている。
明良は片手をハンドルから離して、そっと涙を拭った。

逆に、圭一からプレゼントをもらったような気持ちだった。

(終)

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