長い夢の始まり
青を基調とした今時の子供が使っていそうな部屋には十代前半くらいの男の子がベッドに横になり、DSを操作していた。
カチカチッ、と操作する音が部屋に鳴り響く。
今は音声を切っているのかBGMは聞こえず、操作する音しか聞こえない。
男の子はまるで受験勉強をしているみたいに真剣な表情でDSの画面を見ている。
男の子は小さい時から勝負事やゲームには全力で取り組むタイプで、時々近しい人達が引くほどだった。
それでも本人は周りを気にせずしていたのだが。
それが駄目だったのか分からないが、男の子には胸を張って友達だと言える人が気が付いたらいなかった。
男の子自身それはそれで悲しかったのだが、人との関わりに特に何の問題もなかったので気にせずに日々を過ごしていた。
幸せとも不幸せとも言えない毎日。
そんな人生を男の子は今まで送り、そしてこれから先もそうやって過ごすのだと、この時の男の子は思っていた。
「・・・・・駄目か」
DSを操作する音しかなかった部屋に男の子の声が響いた。
その次にDSが閉じられた音がした。
どうやらゲームは終わりにするらしい。
男の子は一度起き上がってDSを自分の机の上に置き、時間を確認する為に壁にかけてある時計を見た。
短い針が12を差し、長い針が19を差していた。
そのことに道理で眠たいと思ったと思いながら男の子は寝支度を始めた。
明日は休日であったし、別に夜更かしをして構わないのだが、男の子は幼い時に両親が死んでしまい、父親の妹家族に引き取られた身なのだ。
事情がどうであれ、男の子は言わば居候の身。
遅くに起きて文句を言われるのは嫌だったので、いつも早めに起きて家の手伝いをしていた。
言われたらすぐに手伝いをこなしていたが、それでも父親の妹家族の目は早く家から出で行けと語っていた。
だから、中学を卒業したら寮のある高校に入って出て行ってやろうと男の子は思っている。
首にかけてある母の唯一の形見のペンダントを外して電気を消し、暗くなったのを確認するとベッドに潜り込んだ。
暗い中、目が慣れ部屋がぼんやりと見えたのを最後に男の子は目を閉じ、夜に人が過ごすべき世界である眠りの世界へと旅立った。
男の子はふと目を覚ますと男の子の部屋ではない場所にいた。
その場所は果てのない白い世界が広がっていた。
上下左右真っ白で、その先は何処まで続いているのかわからない。
普通、こんな世界に放り出されてしまえば、人は発狂してしまうと何処かで男の子は聞いたような気がした。
だが、男の子は不思議とこの白い世界で正気を保っていた。
何故なら、男の子はこの情景を過去に幾度となく夢として見てきたからだ。
だからこそ、また、この夢かと思いながらこの白い世界に身をゆだねていた。
何時もなら暫くすると目が覚め、何時もの現実の世界に戻れるからだ。
だが今回の夢は何時もの夢とは少し違った。
ふと、何処からか子供の声が聞こえてきたのだ。
まるで、友達と話しているかのような弾んだ声。
男の子は子供が誰に話しかけているのかわからないが、それは、とても微笑ましく思うと同時に、心の底から懐かしく思った。
そこで、ふと気が付いた。
何故それが懐かしく思うのだろうかと。
そして、何か大切なことを忘れてしまっている様な感覚に不愉快を感じた。
それは何処か遠い昔にあった、とてもとても大切な記憶であった様な気がするのに全くと言っていいほど思い出せないからだ。
ついにそれを思い出すことは叶わず、男の子の意識が浮上し始めた。
これが、新たな日々の開幕ベルだとはこの時の男の子は知らなかった。