小説『白昼夢』
作者:桃花鳥()

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 男の子が目覚めたら知らない白い天井がその目に映った。
 よく小説に書かれてたりする表現だが、まさか男の子自身、自分が体験するとは今まで全然思ていなかった。





 ?.現夢





 男の子は、幾度となく見てきた白い世界の夢から目覚めたら知らない白い天井を見たのは初めてであったから少し戸惑ったが、白い部屋で尚且つ独特の医薬品の臭いがするので、ここが病院だとすぐに分かった。
 大体、八畳分くらいの部屋で他に患者がいないのを見ると、どうやら個室であるらしい。
 服や荷物を入れられる細長いクローゼットが男の子から見てベッドの右側にあり、そのさらに右側には大きな窓がある。
 テレビやテーブル、冷蔵庫といった生活用品は左側にあり手を伸ばせばテーブルまでなら届く距離にあった。
 出口は此処からはよく見えないが、左側にある通路の先にあるのだろう。

 男の子は寝る前は自分の部屋にいたのに何故、病院の個室にいるのか分からなかった。
 しかも、寝間着を着ていたはずなのにいつの間にか病院服に代わっているのだ。
 少々混乱してしまうのも無理はなかった。




 男の子は一度気持ちを落ち着かせようと病院の個室を見渡しているとテーブルにある花瓶が目に映った。
 花瓶には美しく咲き誇る色とりどりの花か挿されていたが、男の子は其処で新たな疑問が浮かび上がってきた。
 前にも言ったが、男の子には友達らしい友達はいないし、父親の妹家族とは仲は良くない。
 だと言うのに、まるで“誰かが見舞い”に来なければ飾られないであろう花瓶に挿された花は男の子にとって疑問を持つ材料として十分すぎた。

 気持ちを落ち着かせる為に部屋を眺めたのだが新たな疑問を見つけてしまい、かえって混乱を助長してしまった。



 再度気持ちを落ち着かせようとしたその時、突然ドアが開き、看護婦らしき女性が入ってきた。
 そう、“らしき女性”だ。だって、ありえないだろう。
 その女性は、日本中どころか、世界中の人たちが知っているだろうかの有名なアニメやゲームに出てくる女性ひと、





 ―――ジョーイさんの格好をしていたのだから





 ・・・・・・・・・・・よし。落ち着こう、俺。
 きっと、あれだ。病院内の子供達のために期間限定のコスプレをしているだけなんだよ。
 絶対そうだ。そうに決まっている。
 男の子はそう自分に言い聞かせ、深く考えることを放棄した。
 短期間であまりにも多くの出来事が起こりすぎて色々と正気を保てていなかったからだ。
 男の子が勝手に脳内解決していると、“看護婦らしき女性”改め、“ジョーイさんのコスプレをしている看護婦”は、男の子が起きていることに一瞬目を丸くしたが、すぐに笑顔になった。その笑顔は本当にジョーイさんにそっくりで、男の子はうわあ、本当にそっくりだな。なんて見当違いなことを思っていた。



 「目が覚めたんですね。体の調子はどうですか?」

 「大丈夫です。寧ろ健康そのものですよ」



 咄嗟にそう答えたが、男の子は体に異様なだるさを感じていた。
 だが、この時の男の子はこのだるさを寝過ぎたからだと思っていた。
 窓の外から見える太陽は空高くの上っており、もう真昼時なのだろう。
 普段そこまで寝ることのなかった自身の体が寝ていた事から起こるだるさなのだと思ったのだ。
 ならばそうそう言う事でもない。男の子はそう判断した。
 男の子がそれを言っていない事を知らないジョーイさんのコスプレをしている看護婦はそれはよかったです。と言いながら、男の子に慣れた手つきで、簡単な健康チェックをしていく彼女は素晴らしい仕事ぶりで、男の子は感心した。
 暫くして、簡単な健康チェックを終えたジョーイさんのコスプレをしている看護婦は名簿に結果を書き込んでいるのを男の子はボーとしながら見ていた。
 そんな男の子の様子に気づいたのだろう。ジョーイさんのコスプレをしている看護婦は少し笑い、男の子に笑顔を向けた。



 「これなら、明日には退院できそうですよ」

 「そうですか、それはよかった。ところで、どうして俺は病院にいるのでしょうか?自分の部屋にいたところまでは覚えているのですが・・・・」



 男の子は今まで一番聞きたかったことを聞いた。
 男の子は確かに父親の妹家族の家に作られた自分の部屋で確かに寝ていたのに目覚めたら病院の個室にいたのだ。
 男の子の身に何か起こったのは確かなのだが、男の子には身覚えがなかった。
 ジョーイさんのコスプレをしている看護婦は少し不思議そうな顔をした。
 何か不味い事でも言ったのだろうかと男の子は不安になったが、その不安を振り払い返事を待った。
 ジョーイさんのコスプレをしている看護婦は当たり前の様に言った。



 「覚えていないんですか?貴方が部屋で倒れているのを貴方のお友達が発見して、何度呼びかけても起きなかったから救急車を呼んで病院に搬送されたんですよ。軽いストレスと疲労で倒れただけみたいです」



 後でお友達にお礼を言った方がいいですよ。そう言うジョーイさんのコスプレをしている看護婦は笑顔で言った。
 だが、男の子はそんな声はまるっきり聞こえていなかった。
 なぜなら新たな疑問が浮かんできて、またもや混乱していたからだ。
 友達が部屋で倒れていた男の子を発見した?そんな事はまずない。
 父親の妹家族の誰かが発見したならまだしも友達が発見したなんてあるはずがないし、しつこい様だが男の子には友達らしい友達はいない。
 だと言うのに、ジョーイさんのコスプレをしている看護婦はそう言っている。彼女が嘘をついて利益になる物等無いはずだ。
 ぐるぐると考えが堂々巡りを始めている中、ジョーイさんのコスプレをしている看護婦はそれじゃあ、大人しく安静にして下さいね。と、笑顔で言って部屋から出ようとしたら、勝手にドアが開いてものすごく見覚えのある男女二人組が立っていた。



 ・・・・・・・・・・・・これもコスプレだよね!!そうだよね!!
 そんなことを男の子は自分自身に言い聞かせていると、ジョーイさんのコスプレをしている看護婦は少し驚いていたが、すぐに気を取り直して男女二人に話しかけた。



 「あら、こんにちは。今日もお見舞いに来てくれたのね。丁度良かったわ。“トウヤ君”の目が覚めたから、これから連絡しようと思っていたところだったの」

 「そうなんですか、良かった。ようやく目が覚めて」

 「もう!“トウヤ”、心配したんだからね!!何度呼びかけても全然起きないし、凄くうなされてたし、体が冷たかったし・・・・・。本当に、本当に心配したんだからね!!ねえ!チェレン!!!」



 嘘だ。これは嘘に決まっている。
 男の子はそう自分に言い聞かせた。
 この短期間でかなり自分に言い訳をしているが、そんな事を考え付かないほど男の子は目の前の光景に気を取られていた。
 なぜなら、男の子に世界中の人達が知っているだろうかの有名なゲームのBWに出てくる幼馴染に此処までそっくりな奴は男の子の友達にはいなかったし、何より彼らが何故男の子のことを“トウヤ”と呼ぶのか分からなかったからだ。
 男の子はもちろん“トウヤ”と言う名ではない。男の子の名前は現代日本人とは思えない外国人みたいな名前で、それが原因でからかわれたりしていたのであまり好きではないのだが、今は亡き両親が自分自身にくれた確かな愛情の一つなので嫌いではなかった。
 決して、BWの主人公のような名ではない。



 いや、本当は薄々男の子は分かってるのだ。自分の身に何が起きているのか。
 けれど男の子は認めたくない。認められなかった。
 なぜなら、それを認めてしまったらいけない気がしたからだ。



 視界の端にジョーイさんのコスプレをした看護婦がこっそり部屋から出ていくのが見えた。
 笑顔でまたね。と、手を軽く振っていた。
 恐らく、担当の医師に伝えに行ったに違いない。
 なにより、男の子と見舞客である二人が話しやすいように配慮してくれたのだろう。
 だけど、そんな気遣いは今の男の子は気づかない。と言うよりも、気づけなかった。
 なぜなら、男の子は目の前の男女二人組のことで精一杯だったのだから。



 「ベル、ここは病院だよ。気持ちは分かるけど、静かに。“トウヤ”、あれ程無茶はするなって言ったのにまた無茶なことしたんだろ。部屋で倒れてたのを見た時、本気であっせったよ・・・・・・。まあ、大事に至らなくって良かったけど、メンドーだから次からはちゃんと気を付けてよ。でないと・・・、旅に出れなくなる」

 「そうだよ!“トウヤ”!アララギ博士が“トウヤ”は旅に出さないほうが良いかも、って言った時、あたしもチェレンも全力で説得したんだから!危うくあたし達三人で旅に出る約束が果たせなくなる所だったんだからね!!ねえ、聞いてる?“トウヤ”」

 「“トウヤ”?どうしたんだい?まだ、気分が悪いのか」



 現在進行形でお前たちのせいでな。
 男の子はそう心の中で毒を吐くと、俯いた。
 本当に何が何だか分からなくなってしまったのだ。色んな事が脳内で暴れまわって、頭がパンクしそうになるほどに。
 いや、もしかしたら暴発しそうだと言ったほうが良いのかもしれない。
 そんなことを男の子が考えていると、目の前にコンパクトでどこにでも持ち歩けそうな鏡が突然目の前に現れて、そこに映る自分の姿を見た瞬間、男の子は頭の中が真っ白になった。



 「ほら、顔が真っ青だよ!大丈夫なの?“トウヤ”」



 そういって、男の子に鏡を差し出すベルは男の子を、いや、“トウヤ”になってしまった“男の子”を本当に心配そうに見つめていた。


-2-
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