〜序章〜
「…暑い」
見るからに人っ子一人いない熱帯雨林の獣道を二つの陰が歩み進んでいる。
一人は10代半ばの黒の長髪の少女で、等身大のコンテナを背負っている。
すぐ横には、どういう仕掛けなのか、球状の小型カメラが薄紫色に輝きながらフワフワと宙を漂っている。
「頑張ってください。琥珀大姉さま」
カメラから、琥珀と呼ばれた少女を励ます幼げな声がする。
しかし励まされた当の本人はブスッとした声でカメラに向かって愚痴を溢す。
「頑張れって…、紫苑は良いよねぇ…。今もサポートとか言っときながらエアコンの効いた部屋でソファに寝そべりながら…。」
「ひ、酷いですぅ…。私だってここまで長距離でのサポートは初めてで体力だって結構消耗してるんですよぉ…」
カメラ越しで紫苑という名の少女はいかにも泣き出しそうな声で琥珀に訴える。
「お前ら、少しは黙ってられないのか…」
ふと琥珀の前を歩いていた十代後半あたりの少年が振り向き様に言い放つ。
「ひ、翡翠様ぁ…」
「ふん、翡翠にはこの炎天下の中、馬鹿でっかいコンテナを背負いながら歩く苦しみなんか分からないよ」
二人は、ほぼ手ぶらな状態の翡翠に食って掛かる。
しかし翡翠は二人を無視しながらどんどん前へ進んでいく。
それから1時間ほど経った時、翡翠達は森一面を見渡せる高台に辿り着く。
「紫苑。確認できるか」
「はい、翡翠様」
紫苑は翡翠の問いに答える。
小型カメラに無数の噴射口が開き、中から薄紫色のオーロラ状の生命エネルギーを噴出する。
放出されたエネルギーのオーロラは宙を舞いながら森の中へと吸い込まれる様に消えていった。
暫くすると何かを感知したのだろう、紫苑は徐に声を上げる。
「見つけました。こちらを…」
翡翠と琥珀は小型カメラに掌を添えるとそっと瞳を閉じ、先ほど散布したエネルギーに自分たちの視覚と聴覚を接続する。