小説『がんばって短編『光』『殺人鬼の…』『この道は…』』
作者:maruzhiye(aaa)

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この道はどこに通ずるか?



 すべての道がローマに通ずるか、否か。答えは単純明快でしょう。
 僕の家の玄関を抜け、アスファルトの道路に出たところで右に曲がる。右手には田植えを終えたばかりの田んぼが広がる、大した広さはない。少し歩くと田んぼは住宅に道を譲る。十字路に行き着き辺りを見わたすと左手にタバコの自販機が見える。自販機まで歩を進めると、僕は無性にタバコを吸いたくなって、ポケットをまさぐる。
 タバコは最後の一本。後で湯鬱になるくらいなら、ここでひと箱買っておくのが得策だろう。今度は左のポケットをまさぐる。
 手に数枚の小銭の感触。
 どうして小銭はああも厄介者だろう。手をポケットから引き抜くと同時に、一枚のさびれた十円玉が飛びだした。奇怪なスタイルで必死に平衡感覚を保ちながら、十円玉は転がっていく、僕はいつもそれを追いかけなくちゃならない。十円玉に意識があって、自己主張しているのであれば、あのよたよたの平衡感覚ではお話にならない。可愛げはあるがクールさに欠ける。僕は十円玉を踏みつけて拾い上げると、顔をあげた。
 いままでに見たことのない道、僕の知らない道がそこにあった。
 アスファルトの切れ目があり、日の当たらないその道は、暗く、いつかの雨をそこに残して、泥となりいまだぐずっている。
 僕は泥を避け道を進んでいく。
 
 おかしな人がいたものだ。小さなお宮があって、中途半端に浮き彫りにされた石のお地蔵様が祀(まつ)ってある。燃え残った蝋燭。奇妙なお供え物……だれがお供えしたものだろう、山積みの『ハッピーターン』なんて。僕は最後の一本の煙草をくわえ、マッチを擦った。ついでに蝋燭に火をつけてみる気になった。タバコの煙が漂って目の前で、霧のように漂い、揺れて見せる……。
 背骨が崩壊するような、脳が崩壊するかのような電気信号。誰かが僕の頬を舐めあげる。生暖かい舌、思わずマッチを取り落した。あたりは暗く静かになった。
 マッチをもう一本すり辺りを見わたす。目の前には壁があった。壁に大きなアインシュタインの落書き。行き止まりだ。
 ハッピーターン……くだらないユーモア。そして壁に描かれたアインシュタイン、真っ赤な舌は醜悪なユーモア。そこに書かれた文字『ゆきてかえらむ』。誰かの脳に迷い込んだみたいだ。
 誰の脳だろうか……。ガラクタばかりだ……。
 博士ならば、なんていうだろう、知的で聡明で、品行方正で、誇大妄想の僕の博士ならば……。

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