小説『がんばって短編『光』『殺人鬼の…』『この道は…』』
作者:maruzhiye(aaa)

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「ガラクタだ……わたしの発明はいつだって手遅れなんだ……」
 彼は突然現実にぶちあたる。それは大発明をなし終えた直後にやってくる。彼の脳みそは時代遅れもはなはだしい。
 助手の彼女が哀れに思えてくるぐらいに。
「先生、発見しましたよ!地理の教科書にありました!」
 助手の彼女はこうしていつも博士に尽くしている。ちびだけど、笑顔がかわいくて、ほんとに頭がいい、博士の時代遅れは泥の中のミミズだって知っていることだから、彼女が知らないはずはない。
「わたしの仕事は発見ではない!!発明だ!」
「わかってますよ、でも、博士があまりにも歩いてローマに行きたい、すべての道はローマに通じているのか確かめてみたいっていうものだから……」
「バカも休み休みいいなさい『すべての道はローマに通ずる』この言葉はローマ帝国の繁栄を表現している。いかにローマが強大であったか、世界の中心であったのかだ。歴史だよ。歴史を詩的に表現した言葉だ」
「でも、博士は……」
「あれはロマンチックに浸ってみただけだ……」
「わ……わかりました。でも、見てください!この地理の教科書。わたしが押入れを引っ掻き回して持ってきました。78ページ、アンダーライン引いておきました!」
「……ど、ど、ドゥルルルル、ドゥルルルルるりゅうことだ!これは!」
 博士の赤い舌は長すぎて興奮するといつだって巻き舌になる。
「ねッ!!」
 この笑顔だ……。博士はこういう可愛げのあるところを助手に見せられるといつも思う。彼女がいつも短いスカートをはいているのはなぜだろうか?聞くに聞けないこの思いをせっかくだから聞いてみるのもいいだろう。
「どうしてそんな短いスカートをいつも穿いてるんだ?」
「とくに理由なんてないんです、しいて言うなら博士のやる気のため……」
 だとしたら…いや、だとしてもだ、お楽しみは後ほどだ……。
「ムムム……『すべての道はローマに通ずる』……この地理の教科書、教科書のくせに嘘を教えるつもりか……」
「え!?う、うそなんですか?
「嘘に決まっている!!」
「そうでしょうか……?」
「そうに決まっている!!」
「だったら、博士、うそ発見器にかけてみましょう!」
「あんな時代遅れの発明がなんになる?」
「やってみなけりゃ、わかりませんよ」
 助手は高く積まれたガラクタに分け入り、登っていく。ごそごそと手当たり次第にそこらじゅうをひっくり返している。
「博士!!これなんでしたっけ!?きらきら光ってとてもきれい」
「シーデーだ!」
「シーデー?」
「わたしがそれを発明したとき、すでに町中にシーデー屋さんが立ち並んでいた!」
「この小さな箱に入ったシーデーはなに!?取り出して首飾りにしたいの!」
「それはエムデーだ!」
「エムデー?」
「わたしがそれを発明したとき、すでにシーデー屋さんの店先にならんでいた!」
「博士!!この紙切れはなに?そしてこの赤丸は!?」
「懐かしいな、カレンダーだ!その赤丸は私のバースデーだ!」
「ふん……。博士!この重たい箱はなに!?」
「チンだ!!」
「チン……?」
「町の奴らは電子レンジなどと呼んでいる!ふざけたネーミングだ!」
 博士は目の前のガラクタに成り果てた発明品を手当たり次第に蹴りはじめた。
「こんなものになんの価値があるか!?ガラクタどもめ!くそ!おまえら処分するのにいくらかかるとおもってやがんだ!!」
「博士!あぶない!」
「……なんだ?」
 ガラクタの山は崩れ落ち、雪崩となって博士の上に覆いかぶさってくる。助手は足場を失いガラクタに飲み込まれてしまった。博士の足元に電気が駆け回り、火花が上がる。ズボンに火がついた。あたふたと逃げ惑う博士の背後から、ワイド版箱型電波受信機なるものが頭を痛打した。博士は気を失った。

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