小説『始まりはいつも唐突で』
作者:孤狐()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

生きていると思うのだが、月日が流れるのは早い。光陰矢の如しとは、昔の人はよく言ったものだ。
この世に生を受けて、気付けば高校生。なかなかに波瀾万丈なスリルある人生を送ったものだと、我がことながら感心する。道に迷って知らない場所に行った事も数知れない。
地元を離れ、国を離れ、星を離れ、世界を離れたりもした。

そんな過去を送ったんだから、少しくらい休んでもいいと思うんだ。

今日は平日。
元気に登校する児童の声が聞こえ、大人たちが仕事へ向かうそんな中、俺は布団で睡眠体勢。
さっき見た時計は、いつもなら登校の準備をしている時刻だった。
眠気に勝てず、夢へ向かう意識で最後を思う。
おやすみなさい。

「お兄ちゃん!!なんでまだ寝てるの!?」

あと少しで眠りにつけるところで、ドアが激しく開け放たれた。少し引いてしまった眠気よ帰って来い。
寝ぼけた視線だけでもをドアへ送る。

「ほら、さっさと支度しないと遅刻するでしょ!」

「なんだ、美柑か」

我が家のかわいい妹さんじゃないか。

「なんだ、じゃない!ほんとに時間危ないから!」

「ダメだ。あと7時間は寝なければ」

「い い か ら !起きなさい!!ほら、布団からも出る!」

強硬手段にでたのか、掛け布団がはぎ取られた。あぁ〜俺のオアシス。
手だけをパタパタと動かして温もりを求める。
おお? 何か掴んだ。

「全くもう。ほら着替えて…ってきゃあ!?」

掴んだ温もりを引っ張って抱え込む。
ふむ。抱き枕ってあんまり使ったこと無いけど、これは寝れそうだ。

「〜〜〜〜〜っ!?」

ジタバタするのを抱き締めて抑える。
俺の睡眠の犠牲になってくれ。

「っ!? ………」

動かなくなってしまった。大丈夫だよな?
確認のために、薄目を開けて腕の中を見る。

「………………」

顔どころか、体まで真っ赤な美柑と目が合った。少し潤んだ瞳が可愛らしい。
写真でも撮って残しておきたいくらいだ。

「ま、まだ朝なのに……でも、どうしてもって言うなら、その、仕方ないけど!」

「素直に起きますので、それ以上顔を近づけるのは勘弁して下さい」

おはようのちゅーなんて、兄妹でするものじゃないだろ?
…いや、仲がいいならありなのか?

「ほら、着替えるから」

ドアの方を指さして退室を促す。これ以上は、美柑も遅刻することになりそうだ。
皆勤賞は先生受けがいいんだからな?

「む〜!」

「むくれるなむくれるな。時間が無いんだろ」

ベッドから降り、背中を押して追い出す。
部屋へ振り返ると、伸びをしながら深呼吸。

「よし」

すぐにベッドにダイブ。
落ちてた布団を被ると準備完了だ。

「おやすみなさい」

そんなこんなが、割とある朝の1コマ。

-1-
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える