「死ね!この幸せ者が!」
結局、あの後は二度寝を察した美柑に起こされ、朝ごはんを食べる暇無くダッシュで登校。
午前中の授業を睡眠学習でやり過ごし、あっという間に昼休み。
美柑の作ってくれたお弁当をつつきながら、前の席を陣取っていた猿山に今朝のことを話すと、半ギレで返ってきたセリフがコレ。
「口に物を入れながらしゃべるな」
「そんなことはどうでもいいんだよ!」
「どうでもいいだと?お前に礼儀を教えてやる」
こっちとしてはよくないんだよ、机にいろいろ飛んでくるし。
というわけで実刑。頭を掴んで握る、所謂アイアンクロー。ちなみに、リンゴも潰せます。
「ちょ、いて、いててててて!?」
「わかったか?」
「すんませんでした!!」
「わかればよし」
手を離した途端に崩れ落ちる猿山。
根性の足らんエロザルだな、そんなんだから人になれないんだよ。
動く様子の無い猿山を無視してお弁当を食べてると、目の前に指が。
「リトくん、あんまりいじめちゃダメだよ!」
傍まで来ていた春菜に、めっ、と人差し指を向けられた。人を指さしてはいけません。
「いや春菜、動物の躾は言葉よりも行動の方がよく覚えるんだ」
「でもやりすぎはダメ」
また指を向けられた。
なんだろう、ダメな子を注意するお姉さん的なこの絵は。
「春菜ー、猿山には言葉通じないんだから」
「そうだよ、サルだし。おにいちゃんの方が正しいよ」
春菜の後ろから、助け舟のリサとミオが登場。
「もう〜、二人とも…」
仕方ないなとため息混じりに呟いた春菜。
こういうときは、さっさと話題を変えるのが吉。
「そんなことよりも、三人はもう食べ終わったのか?」
「私たち、さっきまで先生に呼ばれてたから」
「今から食べるよ」
「おにいちゃんと一緒に!」
猿山を退けて座る春菜たち。
床に寝転がって、しょうがないサルだ。若干にやけてるのがムカついた。
ああ、そういえば。
「なぁミオ、そろそろ『おにいちゃん』はやめないか?」
「え〜!おにいちゃんは『おにいちゃん』だよ?」
「同級生にそれはどうなんだよ」
「ぶ〜〜!」
そんな子供っぽいことをしても、年齢は変わんないぞ。
だから頬を突きそうになってる右手を止める。静まれ俺の右手!
「リトが諦めなって」
「ミオも意外と頑固だから、リトくんが引くしかないよ?」
やり取りを見ていたリサと春菜の意見が冷たい。
「でもなぁ……」
「じゃあ、リトくんは何て呼ばれたいの?」
「普通に名前で」
「ダメ!」
ミオが両手で×を作りながら、くい気味に反対。
そこまで名前を呼びたくないか。
「なら『お兄様』は?」
「残念ながら、リサ、それは使用済みだ」
「そっちの方がビックリ!」
「んー…『兄上』とかは?」
「春菜、いつの時代だ」
「やっぱり『おにいちゃん』がしっくりくるよ!」
「う〜ん…」
「じゃあじゃあ…」
あーでもないこーでもないと言い合った結論。人の呼び方って、たくさんあってもいいよね。
そんなかんじで、昼休みは過ぎていった。