No.16 代表戦
【side セシリア・オルコット】
「な、なんですの!?」
驚きながらも私はブルー・ティアーズのビットでの攻撃を続けて目の前の相手にレーザを放つ。
「無駄だよ」
セシリアに近づこうとする聖來に4基のビットから放たれたレーザが直撃するのだがそれを物ともせずセシリアに近付いていく聖來。
「そ、そんなことありませんわ!」
自分の得意のビット攻撃が避けられるでもなく防がれるでもなく……全く効果がない……
それは何か悪い悪夢を見ているようなそんなわけのわからない状況……
できることなら、早くこの勝負を終わらせたい……
目の前の死神のような真っ黒な全身装甲のIS、それがセシリアの恐怖を更に煽る。
「喰らいなさい!」
その恐怖が彼女の判断力を大きく鈍らせ、奥の手のはずの2基のミサイルと4基のレーザ、そしてスターライトmkIIIの一斉攻撃を仕掛けさせる。
それは彼女にとって最大の悪手、このような一斉攻撃など動かない的にしか当たらない稚拙な攻撃……
しかも、それが外れた場合のリスクは大きすぎる。
しかし、聖來はそれを避けず彼女の最大攻撃を受ける。
「光曜撹銀紗幕」
ードォオンー
ミサイルが炸裂した音が聞こえ、聖來の姿が爆煙に飲み込まれる。
それに吸い込まれるように打ち込まれる5本のレーザー……しかし、
ードォンー
「え!?」
次の瞬間に同じ軌道で4基のビット、そして私に向かい打ち出されるレーザー。
何とか私自身に向かってきたレーザーは避けるが4つのビットは破壊されてしまう。
驚くセシリア。
それも仕方ないだろう。
聖來が行ったのは光曜撹銀紗幕という簡単に言えば高電圧のイオン化された分子を使い、光線を屈折して弾く咒式。
それによってセシリアの放ったレーザーはそのまま返されてしまったというわけだ。
「戦闘中だよ、オルコットさん」
ミサイルの直撃によって発生した煙が晴れ、現れる蒼玫瑰の姿。
「なんですの……あれは……」
その黒いボディの全面にはピンク色の六角形のバリアーらしきものが幾つかつながって彼の体を守っていた。
「ネタバレするとさっきまで君の攻撃を防いでいたのはこれなんだよ」
「で、でも、そんなものは……」
「まぁ、見えないだろうね。レーザーの着弾時に着弾面積分しか展開させていないわけだし」
そう言って、目の前に展開されているバリアの面積をどんどん小さくさせていく聖來。
その風景にセシリアは驚愕と絶望を覚える。
……レベルが違い過ぎますわ……
ほんの数センチの着弾点をピンポイントで瞬時に予想するなんてこの世の誰にも出来ないだろう……機械であっても無理だ……
それなのに……でも……
私はスターライトmkIIIを構える。
どんな相手であろうと私は諦めない、今までやってきたことが無駄だなんて思いたくないから……
「やっぱり、君は凄いね」
そう言って、初めて腕から鎌のような物を取り出し、戦闘態勢を取る聖來。
そして次の瞬間……
「え……消えた!?」
目の前から瞬時に消えた黒い死神。
ハイパーセンサーでもその姿は捉えられない。
しかし、凄く大きな風切り音が私の周りに鳴り響いていることから彼が私の周りにいることはわかる。
今、何が起こっているのか……それはとても単純なこと。
彼は現在、瞬時加速を行なっているだけなのだ。
ただし、通常の瞬時加速と異なるのは使用するエネルギー量の違いだ。
ナルエナジールによって生み出された膨大なエネルギーの大部分が蒼玫瑰のスラスターで圧縮され放出。
通常では空気抵抗や圧力の関係で軌道を変えることができないのだが、蒼玫瑰のスラスターは6つありそれを神業的な操作で操ることで立体的な動きを可能にしているわけだ。
しかし……
「これでは……」
彼の体にどれだけの負荷がかかるか……
いくらISが優れたものであろうと中に乗っているのは生身の人間。
つまり、あんな無茶な動きなんかしてたら……
「胚胎律動癒」
鳴り響く聖來の声。
セシリアの予想通り彼のその動きは人間の耐久力を超えており、彼の体を壊す諸刃の剣。
それを聖來は肉体の修復をしながら行なっていたのだ。
「終わりだね」
「なッ」
突然、目の前に現れた蒼玫瑰。
その腕には赤く光る死神の鎌が掲げられており……
それが私へと振り下ろされた……
【side 聖來】
「あぁ、疲れた……」
「無理しすぎ……」
呆れたような目でこちらを見ながらちゅるちゅるとうどんを啜る簪。
聖來は肉うどん、簪はかき揚げうどんをそれぞれ、目の前に置いて食べている。
机の真ん中にはエビや卵、野菜の天麩羅が盛られており、その他にもおにぎりが置かれている。
「まぁ……あんなになるとは思わんかった……」
そう言って、俺はおにぎりを手に取り、口の中へと放り込む。
取り敢えず、今は1kcalでも多くのカロリーを摂取したい。
「聖來、馬鹿。あんなことしたら体持たない」
咒式によって体を修復しながらの超高速移動。
それは予想以上に機体、そして自分に負担がかかり、俺はセシリアとの勝負の後、一夏との勝負を行える気力はなく、代表決定戦を辞退して観戦に回ったわけだ。
「あぁ、流石に俺もあれには懲りたからな滅多なことがない限りはしないよ。ISも直さないといけないし……まぁ、そっちはクラス代表も辞退したし暫くは暇だろうから大丈夫かな」
「なんで?」
「なんでって……そりゃ、クラス代表になったら大変そうだしな、それに俺にとってはお前との約束の方がずっと大事だしな」
「……」
「なんだ?照れたのか?」
「聖來の馬鹿……嫌い……」
プイとそっぽを向く簪。
「ははは……ごめんって簪。ちょっと浮かれてた……」
「……」
「お前が名前を呼び捨てしようって言ってくれたのが嬉しくてさ……ついつい……」
「聖來……子供……」
「男の子はいつまでも子供なんだよ……」
「ふふ……聖來……可愛いから……許してあげる……でも、やりすぎるとほんとに嫌いになるからね……」
「はは……ありがと……気をつけるよ……」
悪戯っぽく笑うお姫様に苦笑いしながら聖來は目の前の海老の天ぷらに箸を伸ばし口に含む。
「美味いな。流石、俺」
「うん。美味しい……」
幸せそうにかき揚げをとって、うどんの汁につける簪。
まぁ、俺はサクサク派なんだけど、どちらにしても自分の料理を人に食べてもらって喜んでもらえるのは嬉しいよな。
そんなことを思いながら聖來は心地良い疲労感の中和やかなふたりきりの団欒を楽しんでいた。
【side ???】
誰もいない暗い部屋の中、1人の少女が佇んでいた。
長く艶やかな黒髪、その髪を上げるようにして付けている眼鏡、尖った八重歯が特徴的な端正な顔立ちの少女。
その可愛らしい顔に感情の色はなく只々、何もない空間を眺めている。
周りには胸が穿たれた死体が数体転がっている。
ーピルルルルルー
『No.00-Sko380OC、No.00-Sko370ノ存在ヲ確認シタ。直ニ標的ヲ消去セヨ』
突然光り出し、音を発する端末、そしてそこに映しだされているのは少女によく似た少年の顔。
「神越……聖來……」
端末を見ながら声を発する少女の顔に初めて感情らしきものが浮かぶ。
それは怒りであり、喜びであり、悲しみであり様々な感情が入り乱れている複雑な色。
そんな表情をしながら少女は暗闇の中へと消えていった。
ーーーーーーーーーーーーーーあとがきーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
以下、LaboPedia一部抜粋
化学錬成系第五階位『光曜撹銀紗幕』:
高電圧のイオン化された分子の幕の内部では電磁波の位相速度が極度に早くなり、
電離層が電波を反射するように光線が屈折して弾かれる
この咒式の前では、光学兵器はほぼ無効化される
生体生成系第四階位『胚胎律動癒』:
未分化細胞による肉体の修復を行う。
かなりの大怪我でもすぐに治ってしまう便利な治療咒式