No.17 操り人形からの脱却
【side 聖來】
「神越さん、ちょっとよろしいかしら?」
「はい?」
ふと呼ばれて振り向いてみると少し緊張した様子のセシリアが立っている。
「あ、あの……その……ランチをご一緒しませんか?」
「いいよ。セシリアさん、行こっか」
「は、はいですわ!」
あの日以来セシリアは少し柔らかくなったというか人当たりがよくなった。
最近では一夏のISの特訓に付き合ってくれてるし、俺に対してもこのように時々、お昼を誘ってくれたりしてくれてる。
ーピルルルー
「ん?」
携帯を取り出し画面を見る。
どうやらメールがきていたようでそのメールに書かれていたのは……
「……」
「どうしたのですの?そのような浮かない顔をして……」
「いや、なんでもないよ」
「?」
心配そうにこちらを見るセシリアに笑いかける聖來。
しかし、その胸の中は穏やかではない。
『No.00-Sko370 明日ノ18:00、送付データニ書カカレテイル場所ヘ来イ……』
現在の携帯は束が俺の昔の端末を改造したものだ。
それがマナーモードにもかかわらず音を出してなったこと……そして、束以外に誰も知らないはずの俺の名前を知っていることやこのメールの内容……
まだ生き残りがいたのか……
聖來は自分の胸の中に燃え上がる黒い炎を感じていた。
【side ???】
「神越……聖來……」
これからここに来るであろう男の名を呟く少女。
少女が彼に抱いている気持ち……それは尊敬であり、憎しみであり、怒りであった。
ーコツコツコツー
「No.00-Sko370、待ってたよ」
振り返らずともわかるこの気配。
私はそのまま相手の名前を呼ぶ。
「可愛い女の子に待って貰えてるってのは光栄なんだけどさ……君は……」
「私はNo.00-Sko380OC、No.00-Sko370……いえ……聖來お兄さんの遺伝子を複製、改造して作られた生命体……いや実験体だよ……」
「……」
「そんな顔しないでよ。別にお兄さんが悪いってわけじゃないし、でも……まぁ……恨んではいるし、怒ってるけどね……なんで私がこんな目に合わないといけないんだよってね……今だって、お兄さんのせいでこんな面倒な命令を遂行しないといけないし……」
少女は何処からか槍を取り出し、聖來の方を向きながら構える。
相対して見る聖來の顔、それは画像で見るよりもずっと格好良くて、そして……強そうだった。
……ああは言ったけど……もう、恨みや命令なんてどうでもいい……今はただ、この人と戦って自分の存在意味を見つけ……この人を超えたいって……
「……だから……ここで……あなたを殺します!」
少女は眼に意志を宿らせ、槍を手に聖來に向かっていった。
【side 聖來】
「ふ、ふははっはははは、あはぁ!」
真っ直ぐ自分の首に向かってくる鎌を避け、俺の心臓目掛け槍を突き出す少女。
左手を突き出し、手の甲を貫かれながらも少女の槍を掴み、動きを止める。
「なッ……」
一瞬、驚いた表情を見せる少女だったが、すぐさま槍を離し、胸への掌底を放ってくる。
その一撃は槍を持っていた時と劣らぬ威圧感を放っており、当たれば無事では済まない威力を持っているだろう。
「はッ!」
鎌を離した手で少女の手を取り、合気で地面に叩きつける。
そしてすかさず少女に馬乗りになり拳を振り上げる。
「勝負あったな」
「あぁ……負けたか……でも、まぁいっか……楽しかったしな……」
少女の目は穏やかであり、満足気な表情をしている。
「なぁ……お兄さん……」
「ん?」
「私はもう満足したからさ……気分の良いまま殺してくれよ……あいつらに殺されるよりもお兄さんに殺される方が何倍も良い」
そう言って目を閉じる少女。
その顔は徐々に青くなってきており監視用ナノマシンが作動していることがわかる。
多分、自分に埋め込まれていたものと同じものだろう……なら、なんとかできる。
俺は手に刺さったままの槍を引き抜き、その手から流れ落ちる血液を少女の口へと流しこむ。
「!?……あぶッ……な、なにすんだ……ゴクッ……」
「いいから飲め」
こちらを睨みながらバタバタと暴れる少女の顔には生気が蘇っている。
それを確認して俺は少女の口から手を放す。
「よし、ナノマシンは死滅できたか……」
「よし……じゃねぇよ!なにすんだ!」
ーパチンー
意識が飛びそうになるほどの張り手をくらい体をのけぞらせながら立ち上がる聖來。
「いてて……何って、お前に埋め込まれてたナノマシンを除去したんだよ。俺の血にはそういった成分が入ってるからな……普通の人なら死ぬだろうけど、まぁ、俺の遺伝子をベースにしてるだけあって拒絶反応は出てないみたいだな。よかったよかった……」
「よかった……じゃない!なんでそんなことをするのよ!」
「生きてて欲しかったんだよ」
「え?」
「俺もお前と似たような存在だしな、お前がどんなことを思っているかとか少しならわかる……」
俺だって束に会うまでは自由になることを望みながらずっと双蛇廻会を恨み、壊滅させることだけを思って生きていたしな。
「でも、お前さっき言っただろ。楽しいって……生きてたらもっと楽しいことだってあるんだから、こんなところで諦めるなよ」
「でも、もう……私には何も残ってない……居場所も目的も何もかも……」
「なけりゃ、見つけりゃいいだろ?よっと……」
倒れたままの少女の体を抱き上げる。
「な、なななな……!」
「お前はこれから自由の身だ。監視用のナノマシンもなくなったし、No.00-Sko380OCというただの操り人形は死んだ。これからは一人の少女として人生を謳歌していけよ……な?」
「1人の少女?」
「あぁ、ただの少女として笑って泣いて青春バンザイ的な人生を送っていってもいいだろ?居場所なら俺が作ってやるから、知り合いにそういうの得意な奴もいるしな。目的だって俺と一緒に見つけていこうぜ?」
「一緒に?」
「あぁ、なんたって遺伝子レベルで繋がりがあるわけだし……それにお前みたいな奴好きだしな……ってわけでよろしく」
「えっと……よ、よろしく……」
呆気にとられた顔をしながら頷く少女。
それが聖來と少女の初めての出会いであり、これから続く二人の奇妙な関係の始まりだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーあとがきーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
年末年始で少し太ってしまいました……運動せねば……