≪『龍喰者(ドラゴン・イーター)』サマエル、天輪聖王(チャクラヴァルティン)≫
神風の過去話は終局を迎え、今まさに戦闘開始の空気が渦巻いていた
オーフィスが静かに口を開く
「曹操、我を狙う?」
「ああ、オーフィス。俺達にはオーフィスが必要だが、今のあなたは必要ではないと判断した」
「わからない。けど、我、曹操に負けない」
「そうだろうな。あなたはあまりに強過ぎる。正直、正面からやったらどうなるか。――――でも、ちょっとやってみるか」
曹操は立ち上がって聖槍を器用に回し、槍の先端が開いて光の刃が現れる
直後に曹操の姿が消え、ズンッとオーフィスの腹を深々と貫いた
大抵の者なら瞬殺の一撃だが、更に曹操は槍を持つ手に力を込めて叫ぶ
「――――輝け、神を滅ぼす槍よっ!」
カァァァァァァァッ!
突き刺したと同時に槍から膨大な閃光が溢れ出していく
「これはマズいにゃ。ルフェイ」
黒歌とルフェイが共に呪文のような何かを呟き、周囲に闇の霧が発生していく
「光を大きく軽減する闇の霧です。かなりの濃さなので霧をあまり吸い込まないでくださいね!体に毒ですから!でもこれぐらいしないと聖槍の光は軽減出来ません!」
「しかも私とルフェイの二重にゃ」
闇の霧が全員を覆い隠すも、聖槍から発生する光の奔流はホテル内に広がる
霧の中にいても聖槍が放つ光の目映(まばゆ)さは凄まじく、霧が無ければかなりのダメージを受けていた事が容易に想像出来る
やがて聖槍の光が止み、闇の霧も消えたトコロで視線を曹操とオーフィスに向けた
腹部を聖槍で刺されたままのオーフィスは血が出ないドコロか、表情を全く変えずに立っていた
曹操は槍を引き抜くが、オーフィスの腹部はただ穴が空いただけで直ぐに塞がっていく
「悪魔なら瞬殺の攻撃。それ以外の相手でも余裕で消し飛ぶ程の力の込めようだったんだが……。この槍が弱点となる神仏なら力の半分を奪う程だった」
呆れ顔で言った曹操は次に視線を新と一誠に向ける
「見たか?赤龍帝、闇皇。これがオーフィスだ。最強の神滅具(ロンギヌス)でも致命傷を負わす事が出来ない。ダメージは通っている。――――が、無限の存在を削るにはこの槍を持ってしても届かないと言う事だ」
「オーフィスその物が無限だから、『黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)』だろうが何だろうが、どんなに攻撃しても意味が無いって事か……。俺も一応、無限の称号を持つグラファディオスの欠片から創られたが……次元が違い過ぎる……ッ!」
新も『無限の災厄龍(インフェルニティ・ドラゴン)』の一部から創られた存在だが、グラファディオスはオーフィスと違って無限の存在ではなく、無限の災厄を与え続けるだけのドラゴン
大昔に死滅していたので命に限りがある
しかし……オーフィスは無限ゆえに命が尽きる事は無い……
「攻撃をした俺に反撃もしてこない。理由は簡単だ。――――いつでも俺を殺せるから。だから、こんな事をしてもやろうともしない。グレートレッド以外、興味が無いんだよ。基本的にな。グレートレッドを抜かした全勢力の中で五指に入るであろう強者――――1番がオーフィスであり2番めとの間には別次元とも言える程の差が生じている。無限の体現者とはこう言う事だ」
曹操はオーフィスを狙っているが、『黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)』でも倒す事が出来ない
この事実を踏まえ、オーフィスをどうするつもりだと言う疑問が生じた
その時、黒歌とルフェイの足下に転移魔方陣が発生
「にゃはは、余興をしてくれている間に繋がったにゃ。――――いくよ、ルフェイ。そろそろあいつを呼んでやらにゃーダメっしょ♪」
魔方陣の中心にフェンリルが歩み、魔方陣の輝きが強さを増して弾けていく
光が止み、そこにはフェンリルと入れ替わる様に召喚された男がいた
銀髪と碧眼を持つ白龍皇ヴァーリ・ルシファー
ヴァーリの登場に曹操は苦笑する
「ご苦労だった、黒歌、ルフェイ。――――面と向かって会うのは久しいな、曹操」
「ヴァーリ、これはまた驚きの召喚だ」
「キヒヒッ。君が噂の白龍皇か〜。直接会うのは初めてだね〜♪」
「お前が闇人の『ビショップ』とやらか。いつから闇人は英雄派と手を組む様になった?」
「残念っ。今はボクと英雄派にとって一番邪魔な存在を消す、と言う利害が一致してるから行動を共にしてるに過ぎないよ。白龍皇、君も邪魔だからぁ……一緒に消してあげよっか?それにしても、入れ替わり制の転移魔方陣か。やるねぇ」
ヴァーリを挑発する神風だが、ヴァーリは一切表情を変えずに見据え、ルフェイが魔法の杖で宙に円を描きながら言う
「フェンリルちゃんとの入れ替わりによる転移法でヴァーリさまをここに呼び寄せました」
「フェンリルには俺の代わりにあちらにいる美猴逹と共に英雄派の別働隊と戦ってもらう事にした。曹操がこちらに赴く事は予想出来たからな。保険はつけておいた。――――さて、お前との決着をつけようか。曹操。しかし、ゲオルクと2人だけとは剛胆な英雄だな」
どうやらヴァーリはこっちに曹操が来る事を予想していたようだ
曹操が不敵な笑みを見せる
「剛胆と言うよりも俺とゲオルクだけで充分だと踏んだだけだよ、ヴァーリ。闇人の『ビショップ』には手を出させないさ」
「強気なものだな、曹操。例の『龍喰者(ドラゴン・イーター)』なる者を奥の手に有していると言う事か?英雄派が作り出した龍殺し(ドラゴン・スレイヤー)に特化した神器(セイクリッド・ギア)所有者か、新たな神滅具(ロンギヌス)所有者と言ったところだろう?」
ヴァーリの言葉に曹操は首を横に振る
「違う。違うんだよ、ヴァーリ。『龍喰者(ドラゴン・イーター)』とは現存する存在に俺達が付けたコードネームみたいなもの。作った訳じゃない。既に作られていた。――――『聖書に記されし神』が、あれを」
「曹操、良いのか?」
「ああ、頃合いだ、ゲオルク。ヴァーリもいる、オーフィスもいる、赤龍帝もいる。そして龍の力を秘めた闇皇もいる。無限の龍神、無限の災厄龍に二天龍だ。これ以上無い組み合わせじゃないか。――――呼ぼう。地獄の釜の蓋を開ける時だ」
「了解だ。――――無限を食う時が来たか」
口の端を吊り上げたゲオルクが広いロビー全体に巨大な魔方陣を出現させ、ホテル全体が激しく揺れる
現れた魔方陣からドス黒く禍々しいオーラが発生し、嘗て無いプレッシャーを感じた
『……これは、この気配は。ドラゴンだけに向けられた圧倒的なまでの悪意……っ!』
『あぁ。我々ドラゴンと言う生物が震えを止められない悪意……』
一誠に宿るドライグ、新の中にいるグラファディオスの声が震える
禍々しいオーラを放つ魔方陣から、巨大な何かが徐々にせり上がっていく……
頭、胴体、黒い羽、十字架
全身を強烈に締め上げている拘束具、不気味な文字が浮かんでおり、目にまで拘束具が存在していた
そして全身が現れた瞬間、あまりにも異様な存在に息を飲まざるを得なくなった……
下半身が長細いドラゴンの様な姿となっており、手や尻尾など――――あらゆる部位に無数の釘が打ち込まれていた
簡単に表現すれば、磔にされた堕天使型のドラゴン
磔具合はまるで罪人に対する重刑並みだった……
『オオオオオォォォォォォォオオオオオオオォォォォォォォオ……』
不気味な声が発せられ、牙剥き出しの口から血と唾液が吐き出されていく
苦しみ、妬み、痛み、恨み、あらゆる負の感情が混ざり合ったかの如く苦悶に満ちた低い声音
何者かの憎悪を全てぶつけられた様な存在だった……
アザゼルが目元をひくつかせて憤怒の形相となり、神風は狂喜に満ちた表情で笑い声を漏らした
「……こ、こいつは……。なんてものを……。コキュートスの封印を解いたのか……ッ!」
「キヒ、キヒヒヒヒヒヒ……ッ!凄い、凄いよこいつは……!まさか現物を見れるなんて思ってなかったよ……ッ!」
「――――曰く、『神の毒』。――――曰く、『神の悪意』。エデンにいた者に知恵の実を食わせた禁忌の存在。今は亡き聖書の神の呪いが未だ渦巻く原初の罪――――。『龍喰者(ドラゴン・イーター)』、サマエル。蛇とドラゴンを嫌った神の呪いを一身に受けた天使であり、ドラゴンだ。そう、存在を抹消されたドラゴン――――」
拘束具を付けられた眼前の堕天使ドラゴン――――サマエルの名に一誠以外の全員が驚愕の表情となった
「……先生、何ですか、あれ……。俺でもヤバいって見ただけでも分かるんですけど」
一誠がアザゼルに訊く
「アダムとイブの話は知っているか?」
「え、ええ、それぐらいは」
「蛇に化け、アダムとイブに知恵の実を食わせるように仕向けたのがあれだ。それが『聖書に記されし神』の怒りに触れてな。神は極度の蛇――――ドラゴン嫌いになった。教会の書物の数々でドラゴンが悪として描かれた由縁だよ。奴はドラゴンを憎悪した神の悪意、毒、呪いと言うものをその身に全て受けた存在だ。神聖である筈の神の悪意は本来あり得ない。故にそれだけの猛毒。ドラゴン以外にも影響が出る上、ドラゴンを絶滅しかねない理由から、コキュートスの深奥に封じられていた筈だ。あいつに掛けられた神の呪いは究極の龍殺し(ドラゴン・スレイヤー)。それだけにこいつの存在自体が凶悪な龍殺し(ドラゴン・スレイヤー)なんだよ……ッ!」
「つまり、一誠やヴァーリは勿論……ドラゴンの欠片から創られた俺、とにかく全てのドラゴンに対する天敵だ……ッ!」
アザゼルと新の説明を聞いてサマエルの危険度を認知した一誠
アザゼルが怒号を発する
「冥界の下層――――冥府を司るオリュンポスの神ハーデスは何を考えてやがる……?――――ッ!ま、まさか……っ!」
「そう、ハーデス殿と交渉してね。何重もの制限を設けた上で彼の召喚を許可してもらったのさ」
「……野郎!ゼウスが各勢力との協力態勢に入ったのがそんなに気にくわなかったのかよッ!」
曹操の言葉にアザゼルは憎々しげに吐き捨てた
そこから察するに、ハーデスは英雄派に力を貸したと言う事だろう
曹操は聖槍を回して矛先を新逹に向けた
「と言うわけで、アザゼル殿、ヴァーリ、赤龍帝、闇皇、彼の持つ呪いはドラゴンを食らい殺す。彼はドラゴンだけは確実に殺せるからだ。龍殺し(ドラゴン・スレイヤー)の聖剣など比ではない。比べるに値しない程だ。アスカロンは彼に比べたら爪楊枝だよ、兵藤一誠」
「それを使ってどうするつもりだ!?ドラゴンを絶滅させる気か!?……いや、お前ら……オーフィスを……?」
アザゼルの問いに曹操は口の端を吊り上げ、指を鳴らした
「――――喰らえ」
ギュンッ!バグンッ!
新逹の横を高速の何かが通り過ぎ、何かを飲み込む奇怪な音が聞こえる
振り返ると――――オーフィスが居た場所に黒い塊が存在し、黒い塊から触手の様な舌がサマエルの口元に伸びていた
「キャハハハハハッ!凄いねぇ!サマエルがあのオーフィスを飲み込んじゃったよッ!」
神風は拍手しながら喜び、一瞬当惑していた一誠が塊に話し掛ける
「おい、オーフィス!返事しろ!」
返事は無し
かなりマズい状況にリアスが「祐斗!斬って!」と指示を飛ばし、祐斗は聖魔剣を創って黒い塊に斬り掛かった
しかし、黒い塊は聖魔剣の刃先を消滅させてしまった
「……聖魔剣を消した?この黒い塊は攻撃をそのまま消し去るのか?」
祐斗は再び聖魔剣を創り、今度はサマエルの舌に斬り掛かったが、塊と同様に刃が消滅した