美食屋、戦う!
とりあえず俺は、目の前にいるGTロボを右拳で殴り飛ばした。
『グウゥッ!?』
だが相手のGTロボの性能が予想より高かったせいか、もしくは乗り手の技量が高かったせいか(感じられる気配の質から見てスタージュンのやつだろう)粉砕までにはいたらなかった。それほど強く殴ってないにしても、少しショックだ。
まぁさすがに無傷とはいかなかったのか、右肩あたりが破損して中身が見えているが。
俺はいまだに戦闘の意志を消さない相手に気を配りながら、背後にいる血まみれになったトールに声をかける。
「よう、派手にやられたな、トール」
「アキトさん…、なんでここに?」
トールは驚愕の顔で俺を見てくる。よほど俺の登場が意外だったらしい。
「なあに、洞窟からでる時に偶然お前がボロボロにされてんのを見つけたんだよ」
ちなみにこれは嘘。せっかく原作にでている場所に来たのだからと、次郎さんに先にいってもらっと一人で洞窟を探検中に、原作でトールがGTロボに殺されていたのを思い出して、急いで駆けつけたわけである。
「全く、そんなになっちまって。だらしねぇ…と言いたいが今回ばかりは仕方ないな。なにせ相手が相手のようだし」
その俺の言葉にトールは不思議そうな顔で口を開く。
「そういえば、先ほどスタージュンと言ってましたけど、トールさんは、あのGTロボの操作者オペレーターが誰だかご存知で?」
いや、ご存知でってお前…。
「知らないで戦ってたのか?あいつの名前は『スタージュン』。美食會の幹部。副料理長の一人だぞ?」
「なっ!?本当ですか、それは!!」
本当に知らないで戦ってたのか。よく生きてられたなこいつ。
「とりあえず、怪我見せてみな。治してやっから」
「は?それはどういう……」
俺はトールへ右手をかざす。
「『治癒キュア』」
俺がそういうと、かざした右手が光り出し、トールの傷を完璧に治した。
覚えていない人もいるかと思うが、これは俺が転生するときにもらった能力である治癒能力だ。転生した時はかすり傷程度も治せなかったが、グルメ界の環境を克服するまで成長した今は、たいていの怪我や病はこれで治すことができるようになった。……まあ、この能力を不用意に見せたせいで、あやうくIGOの研究者たちの実験動物になりそうになったけれど。会長たちがいなきゃ、シャルと一緒にグルメ犯罪者になって生きなきゃならなくなるところだったからな。あの人たちには本当に頭があがらないよ、まったく。
「こ、これは!?」
「傷が治ったならさがってな」
トールが俺の能力に驚いているようだが、別に教えてやる義理はないからスルーしておく。というか俺のことを調べればすぐにわかることだしな。
俺は先ほどから仕かけてこずに、じっとこちらの様子をうかがっている人物(いや、今の状態だとロボか?)に話しかける。
「さて、久しぶりといっておこうか、スタージュン」
『……ナゼ貴様キサマガココニイル』
「おいおい、俺は仮にも美食屋だぜ?フグ鯨の産卵なんてイベント見逃すわけねえじゃねえか」
俺の声に答えるスタージュンの声はどことなく苦々しく感じる。
それもそうだろう。やつと俺は仕事先で何度か殺りあったことはあるが、実力は俺の方が上。ただでさえ生身でも勝てない俺をやつにとって実力を制限する効果しかないGTロボで相手にすることは、つまりはやつの任務が完全に失敗したことを意味するのだから。
しかしやつはそれがわかっているはずなのにやつは構えをとかず、殺気をはらんだ視線(ロボ越しだが)でこちらを見てくる。
「おいおい。んなガラクタ纏ったまま俺に勝てると思ってんのかよ」
『…無理ムリダロウナ。シカシ貴様キサマハ我ワレラ美食會ビショクカイノ野望ヤボウヲ阻ハバモウトスル危険人物キケンジンブツ。敵カナワナイマデモ手傷テキズクライ負オワセナケレバナ!!』
その言葉と共に、やつの体から大量の何かが俺にむかってくるのがわかる。
俺はあれが原作知識から、GTロボの体毛を高速で飛ばして、相手の肉体を削る『食技・ピーラーショット』という技だと推察した。
今俺の後ろにはトールがいるが、あいつにこの技をかわすのは難しいだろう。なるほどあいつは俺がこの技からトールを体をはって守ると思っているのか?だが、
「甘いなぁ」
俺は瞬時にボクシングのフリッカースタイルの構えをとると、そのままジャブをマシンガンのように打ちだし、スタージュンが打ち出した体毛をたたき落とす。
『狩りとる(ハンティング)散弾ショットガン』。それがこの技の名前。
高速で拳を散弾のように打ちだすこの技は俺の技の中でも二番目・・・の速さで、その速さは光と同等。GTロボ(ガラクタ)ごときの小技をたたき落とすくらいわけがない。
「それじゃあ、今度はこちらからいくぞ?」
俺は一歩でスタージュンの懐にもぐりこむ。
それに気づいたスタージュンは迎撃しようと右腕を振りかぶる。
『ミキサーパンチ』
俺の体をえぐりとろうとドリルのように回転するスタージュンの腕(凶器)が俺へと迫る。
が、俺はそれを片手で掴み、回転を止める。
『ナニ!?』
スタージュンは驚いているようだが、こんなもの、グルメ界入りを果たした人間にとっては児戯に等しい。
俺は右の拳を握る。
「これで終わりにしようか」
その言葉と共に、俺は拳をふるう。
「狩りとる(ハンティング)流星拳ミーティア!!」
俺が初めて作った技、『ハンティング・ブロウ』を昇華させた技で、この技は光の速度を超え、神速といえるスピードで拳を放つ最速の拳。その拳がGTロボに連続で突き刺さり、動きを止める。
そして数秒経った後、俺が指を鳴らす。
パチン!
ズガガガガガガガガガ!!
『ガアァァアァ!?!』
GTロボはその音とともに破裂し、粉々となった。
こうして、スタージュン(GTロボ搭乗)と俺の砂浜の洞窟前での戦いは、俺の勝利で幕を閉じた。
……ちなみに調子になってトールが確保してIGOに持っていく予定だったGTロボを粉微塵にしてしまったためにトールに怒られてしまったのは完全なる余談である。
今度からはもう少し自重することにしよう。
さて、トールも助けることができたので、後の処理はトールのやつに任せて、俺は現在自宅のあるネルグ街へと帰ろうとしたその時、
「あー!?なんの騒ぎかと思ったらアキトじゃねえか!」
大声で俺の名前を呼ぶ声が聞こえた。それにデジャヴを感じながらも振り向くと、そこには三人の男がいた。
一人はぶたっ鼻が特徴的な小柄な男。おそらく連れの男がなんで大声をだしたのかわからないのだろう。困惑した表情でこちらを見ている。
もう一人は全身をぴっちりと覆ったスーツを着て頭にターバンのような布を巻いた優男が目を驚きで見開いている。
そして最後の一人は山のような筋肉の鎧に覆われた青毛の大男。顔に刻まれた三本の引っかき傷が特徴的なその男は、驚きと嬉しさの混じった顔でこちらを見ている。
俺はそんな彼らのことを知っていた。もっとも、小柄な男のほうは直接的な面識はないが。
そう、彼らの名前は、『ココ』に『小松』。そして『トリコ』。
この世界の物語の中心人物たちであった・・・。