美食屋、介入する!
『砂浜の洞窟』。
そこは、現在フグ鯨捕獲のために四天王トリコたちをはじめ、多くの美食屋たちが入り込んでいた。
しかし、自らフグ鯨を捕獲しようと意気込む者たちもいれば、そのフグ鯨を捕獲した者たちから奪えばいいと考える者たちもいる。
盗賊に殺し屋。グルメ犯罪者たちである。
しかし、そんな彼らは今、洞窟の入り口で血まみれで倒れていた。全員、既に息を引き取っている。
まぁ、なぜこんな事態になっているのかと聞かれれば、それは正直彼らの自業自得となのだが…。
なにせ彼らは、自分たちが襲いかかった相手に返り討ちにあっただけなのだ。
彼らが襲撃した相手は二人。
一人目は、洞窟から一人・・・で出てきた髪をリーゼントにきめたファンキーな爺さん。
最初はその巨体に怯んだ彼らだったが、見るからに酔っ払った老人にしか彼らには見えなかったので躊躇なく襲いかかったのだが、呆気なくノッキングされて動きを封じられてしまった。ちなみに彼らが襲撃したその老人の名は、ノッキングマスター次郎。ノッキングの達人として知られた伝説の美食屋だったのだから、彼らが返り討ちにあったのも、当然と言えよう。
そのノッキングは、爺さんが去ってからきっかり五分で解けたのだが、ノッキングを受けた者の数名が襲撃を諦め、帰っていったのだが、その者たちは美食四天王ココが見て死相を感じなかった人物たちであったということは、誰も知らなかった。
そして爺さんのノッキングを受けてまだ諦めなかった者たちにこそ、ココが死相を見たということも….
そして洞窟から出てきた二人目。いやその容貌から一匹、もしくは一体と数えたほうがいいのかもしれないが。
なにせ、毛むくじゃらの人型の体に鳥のような顔を持つその物体は、人間ではないのだから。洞窟の前にある死体たちは、こいつが量産したものであった。
この物体の名は『GTロボ』。正式名称を“グルメテレイングジスタンスロボット”といい、食のテロリストといってもいい集団、『美食會』の実力者の力量をそのまま現場にリアルに伝えるほどの性能を誇るグルメロボット。ただのアウトローたちがかなう相手ではなかった。
そんなGTロボの正面に立つ、一人の血まみれの男がいた。
「はぁ…はぁ…はぁ…。くそっ…つえぇ…」
彼は特別グルメ機動隊隊長『トール』。美食屋としても実績豊富な、IGO職員の中でもかなりの実力者でもあるこの男。
今回その実力を買われてGTロボの捕獲任務に着任し、こうして相対しているのだが、彼の実力は目の前のGTロボには全く通じなかった。
それもそのはず。確かにトールはIGOでも実力者ではあった。もしGTロボの操作者オペレーターが、『ベイ』や『ザンパー』などの美食會の戦闘員程度だったら、苦戦はするだろうが、勝ち目はある程度には。
しかし、目の前のGTロボの操作者オペレーターは、美食會最高幹部の一人である副料理長『スタージュン』。いくらGTロボのせいで弱体化・・・してるといっても、支部長クラスにも勝てない程度の実力しかないトールでは勝てるはずもなく、逃げ回るのが精一杯だった。
しかしそれももう限界のようで、トールの体のあちこちからは血が流れ、体もふらついている。
「くそったれ…」
トールは思う。まさかここまでの実力者が操作者オペレーターだったとは。IGOの警備を簡単に越えられるはずだ。
トールは、朦朧とする意識の中、再び構えをとる。手に持つのは特別製の刀。彼は美食屋時代、これで多くの獲物を仕留め、機動隊に入ってからは、多くのグルメ犯罪者たちを、この刀で捕らえてきた。
「(こんなことならアキトさんに協力を依頼するんだった…)」
思い浮かぶのは、ここに来る前に乗った列車で偶然出くわした久しぶりの恩人の顔。すでにグルメ界入りを果たしているという彼の実力ならば、目の前のGTロボも容易く捕らえられるだろうに。
「(まあ今さら言ってもしょうがないか。今は…)」
こいつをどうやって捕らえるか考えなくては。
そんな彼を目の前にして、今まで沈黙を保っていたGTロボから音声が聞こえてきた。
『…ドウシテソコマデスル?』
「あん?」
その音声はノイズ混じりでカタコトの日本語のようにぎこちない、しかししっかりとした意志のこもった言葉だった。今その言葉には疑問の感情が込められていた。
『イクラグルメ警察ポリストイッテモ俺オレト君キミトデハ実力ジツリョクガチガウ』
「はっきり言いやがるな、おい」
『ダガ事実ジジツダ。ソレヲ認ミトメラレナイホド、君キミハ愚オロカデハナイダロウ?』
「…ちっ」
そんなこと、トールは言われるまでもなくわかっていた。
自分では目の前の相手に太刀打ちできないことを。今だって、相手がなぜか手加減しているおかげで生きているのだから。
『ナノニ君キミハ逃ニゲズニ俺オレヘトムカッテキテイル。命イノチガ惜オシクナイノカ?』
その言葉を、トールは鼻で笑った。
「んなもん、惜しいに決まってんだろ」
『ナラ「けどなぁ!」!?』
「俺はグルメ警察ポリスだ。市民のためにグルメ犯罪者を捕まえるのが仕事。お前らから逃げるわけにはいかねんだよ!」
それは男の決意。誇りを胸に宿し叫ぶ不退転の覚悟だった。
その言葉を聞いたGTロボ、いやスタージュンは思う。
敵ながら大した男だと。そしてスタージュンは問う。誇り高い男の名を。
『…殺コロスマエニ名ナヲ聞キイテオコウ』
「…特別グルメ機動隊隊長トールだ。覚えておきな」
『そうか。ではトール…』
――――――シネ
「!?」
トールの視界からスタージュンが消えたかと思うと、一瞬で目の前に現れた。そして、スタージュンの右腕が、トールの心臓をつらぬ
かなかった。
『ナニッ!』
トールの心臓を貫こうとしたスタージュンの腕は何者かの手によって止められていた。
「ふぅ…。どうやら間に合ったらしいな」
トールの危機を救ったこの男。その男をスタージュンは知っていた。
『貴様キサマハッ!!』
「それが噂の新型かい?スタージュン」
近年メキメキと頭角を表し、今では我ら美食會の宿敵の一人と位置付けられているその男の名は、
『ナゼ貴様キサマガココニイル。
美食屋、アキト!!』
美食屋アキト、その人だった。
「よう。まだ生きてるかい?トール」
その口元は不敵に歪んでいた………。