小説『トリコ 〜 ネルグ街出身の美食屋! 〜』
作者:ラドゥ()

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美食屋、リュウに全てをうちあける!




アキトサイド



「がつがつがつがつっ!」


「うめー、こんなん食べたことねえ!」


「いっただきー!」


「あ、それは俺んだぞトム!」


「ガッハッハ!まだたくさんあるから慌てず食え」


…なんなんだろ、この状況は。





〜回想


ゴルゾーとの戦いに無事勝利した俺は、気づいたら全く見たことのない部屋にいた。どうやら気を失ってしまっていたらしい。

いや、似たような部屋なら見たことがある。


棚に仕舞ってある薬品の数々に、机の上にあるおそらく人間の人体を写したレントゲン写真のようなもの。そして鼻につくような消毒液の臭い。そして白く獣。…獣!?

バっと見るとそこには一匹の白銀の獣が俺を見つめていた。

すると、

「わおぉん!」

「うわあ!?」

その獣は俺にとびかかってきた。一瞬食われるのかと思ったが、


「はっ、はっ、はっ、はっ!」

ぺろぺろぺろぺろ

「うわっぷっ!?」

…顔を舐められた。それはもう嬉しそうに。

「ちょ、ま、落ち着け!」

俺はとりあえずその獣を引きはがす。良く見るとその獣は戦いの最中にゴルゾーを吹き飛ばしたあの獣だった。

「お前、あの時の?」

「ばう!」

俺の問いに獣は答えた。その顔はどこか笑っているようだった。

俺は獣の姿を観察する。

全身白いその獣にはたてがみがあり、いるだけで王者の風格を感じさせる。…ライオンの種類かこいつ。ホワイトタイガーなら知ってるけど、ホワイトライオンってあったか?

とりあえず俺は気になっていることを目の前のライオンもどきが知っているか期待半分問いただす。


「お前って、あの卵から生まれたのか?」

「ばう!」

「……」


まさか答えてくれるとは思わんかった。というかさっきから思ったけど、人語理解してるっぽいな。

ていうかあの卵から生まれたって事はこいつが俺のパートナーになるのか。そう思うとなんか感慨深いものがあるなあ。


「しかし」


本当にここはどこなんだ?

医療品が散らばってることを考えると、


「病院かなにかか…?」

「少し違うのぉ…」

「!?」


突然聞こえた声にとっさに顔をむけると、入口に1人の大柄な男がたっていた。

一応スーツを着ているようだが、開いた上着からは腹巻が覗いており、足元を下駄で固めているその姿は昔懐かしい下町の親父を彷彿とさせる。

俺は突然現れた闖入者に警戒の視線をむけるが、


「おいおい、仮にも命の恩人にむかってそりゃないだろ」

「…は?」


え?それって…。

そういえば、意識を失う時に聞いた声と似ているような…。


「子供に恩をきせるつもりはねえが、俺たちがかけつけなかったらお前ら死んでたぜ?」


お前ら…?マッチ!!


「すいません、あそこに子供がいませんでしたか!」


俺は男に詰め寄るが、男はほほ笑みながら落ち着いて答えてくれた。


「安心しろい、お前さんの弟分は無事だぜ?」


その言葉に全身の力が抜けるのを感じた。


「良かった…」


すると、俺がその場に座り込んだのを見て、先程から空気になっていた獣がすり寄ってきた。


「くう〜ん」

「大丈夫だよ、ありがとな」

俺はそういって獣の頭をなでた。

するとそれを見た男性が少し目を瞠り、面白いようなものを見たように笑みを浮かべる。


「ほう、まさか子供とはいえ『カイザーレオン』が人に懐くとはなぁ」

「?こいつがなんの動物か知ってるんですか?」

「なんだ、知らんかったのか?」


そういって、男性が説明してくれたものをまとめると、


・こいつの名前は『カイザーレオン』(オリジナル)

・補獲レベルはIGO基準で測定不明

・かつて古代大陸において、伝説の魔獣と謳われた『バトルウルフ』、『デビル大蛇』と並んで最強といわれた魔獣。けっして群れることのないバトルウルフと違い、常に群れで生活しているが、その群れのなかにはカイザーレオンは常に一体だけ。他は自らが守護すると決めた別種の生き物だけである。一部では『守護獣ガーディアン』と呼ばれ、守護神として信仰されている。

・現在では絶滅種であるが、グルメ界のどこかにいまだに生息しているといわれた誇り高き白銀の獅子王。


・その詳しい生態は謎に包まれており、明らかにされていない。



「ま、そんなわけ感じなんだが、どこで拾ってきたんだ?」

「いやあ・・。昔、こいつがちっさい時に倒れてたんですよぉ」


まさか天使からもらった卵から産まれたとはいえないので、俺はそういって誤魔化すしかなかった。


「そ、それでマッチはどこにいるんです?」

「ああ、あいつなら他のガキどもと一緒にいるぞ?」

他のやつらも?

「おう、今案内しよう。と、すまないな。そういえば名前をいってなかったな坊主」

そういって男性は居住まいをただす。

「俺の名前は『リュウ』。グルメヤクザの組長なんかやってるぜ。よろしくな」













…まじかよ!この人があのマッチを拾ったグルメヤクザの?思わぬ重要キャラの登場に驚いていると、

「どうかしたか?」

困惑している俺をおかしく思ったのか、リュウが俺の顔を訝しげに覗きこむ。

「な、なんでもないです!」

「?そうか。じゃあいくぞ」

とりあえず俺はリュウさんの後についていくことにした。





〜回想終了




その後は大変だった。

ガキどもは泣きじゃくるし、マッチは俺が倒れたのが自分のせいだと思いこんで責任感じてうざいからなぐさめなくちゃなんないし、アーサー(カイザーレオンの名前。今さっき決めた)を見てマッチ以外のガキどもが驚いてパニックになるし。

そして落ち着いたところにリュウさんが俺が回復したことを祝って宴会をすることになって今に至るわけである。



「どうもすみません。家のやつらが騒いでしまい」

「がははは。ガキがんなこと気にすんな。ほらお前も飲め」

「…いや俺はまだ酒飲めないんで」

「なんだつまらん」


いや、つまらんて。


「そういえば、お前さんその年にしてはよく鍛え取るな。特に最後の一撃。ありゃあ見事だった」

「ありがとうございます」


やはり一生懸命鍛えたからか、褒められるとむずがゆいが嬉しさを感じる。

そこでリュウさんは自らの杯に口をつける。

俺もカップに注がれているジュースに口をつけるが、


「女を探しているらしいの」

「ぶっ!?」


思わず噴き出してしまう。な、なんでそれを!?


「おう、あそこにいるマッチとかいうガキに聞いたわい」


マッチの野郎!?勝手に喋りやがったな!俺は後でマッチにお仕置きをすることに決めた。


「しかしそれを聞いて不思議に思っての?お前は見た感じ10をやっと超えたくらいの歳だろう。そしてネルグ街の出身だ。そんなお前にネルグ街で見つからない女の知り合いがいるとは思えんのだが?」


…さてどうするか。ここで適当にごまかしが浮かべばいいのだが思いつかんし。

「なんでそんなことを聞くんです?」

「なに。もし俺に出来ることがあれば協力しようと思っての」

「?俺はあなたとは初めてあったはずですけど…」

なのになんで?

そう俺が聞くとリュウさんはニカリとみていて気持ちのいい笑みを浮かべる。

「なに。お前の目が気に入ったのよ」

「目、ですか?」

「おお。あの時の弟分を護るお前さんの目は俺が尊敬する人物とおなじような目だった。あの―――――――IGO会長である一龍会長にな」

「!?IGOの会長と知り合いなんですか!」

「おお、他にも知っているぞ、ノッキングマスター次郎に再生屋与作。節乃のばあさんもな」

…凄い面々だ。待てよ、そういえば、このリュウさんは原作ではかなりの人脈を持ってたはずだ。再生屋の与作なんかはもちろん、トリコがグルメカジノでマッチにあった時には仕事が入ったといって組長をマッチに譲って姿を消したがあれは初代メルクと同じく会長に頼まれた仕事にいったのだろう。そう考えれば不思議はないな。

…全て話して協力してもらうか?これから1人でやっていくのも難しいし。

ここに来る途中でリュウさんに聞いたが、マッチたちはリュウさんたちが将来的に組員になるのを条件に身柄を保護してくれることになった。特にマッチはしごけば一端の立派なヤクザになれると嬉しそうにいっていた。…強く生きろよマッチ。お仕置きは無しにしてやるから。

とりあえず、

「…場所を変えません?」

ここじゃ話なんてできないし。


そうして俺たちは宴会会場から移動することにした。





















ここは組長室。虎のような動物(決して俺のしっている虎の大きさではない)のカーペットや額縁に飾られている達筆な字など、内装は前世の僅かにある記憶のなかにある普通のヤクザと変わらないらしい。

今俺とリュウさんは組長室の中央にむかい合わせになっているソファーに座って、やはりむかい合っている。



「では話してもらおうかな」

「…その前に1つ。今から俺が話すことは他人が聞いたらキチガイと断じられても仕方がないことです。信じてもらえなくてもしかたないですが、少なくとも俺自身は事実と認識しているということを御理解ください」




そう前置きして俺は自分の身に起こった出来事を全て話した。転生管理局に天使の存在。俺が魂をミスで破壊されてしまい、そのせいでこの世界に転生させられたということになったということ。まあさすがにこの世界が漫画の世界だとはいわなかったが。いって無駄に混乱させるのも嫌だしね。


そして一緒に転生した女性がいたがなんの間違いかはぐれてしまったことをはなしたのだが、


「…………」


何故か黙り込んでしまった。どうしたんだろう?


「ふむ、その女の名前は『シャルロット』というのではないか?」

「!?」

なんでその名前を。俺はまだシャルロットの名前は口にだしていないはず。

そんな俺をよそにリュウさんは得心がいったというような笑みを浮かべる。


「なるほどのぉ。どこかで聞いた名前だと思ったが、お主がシャル嬢ののろけ話にでていたアキトだったか」

「シャルロットを知ってるんですか!?」


俺がリュウさんを詰め寄るが、まあ慌てるなと懐から葉巻木をだすと口に咥え、指のスナップだけで火をつける。…トリコと同じことしてる。


「今から9年前ほどの話しでな。節乃のばあさんが店の前で捨て子を拾っての。その子の入っていた籠の中に入っていた手紙に「この子の名前はシャルロットです」という一文が書いてあって、節乃のばあさんはそのとおりにその子に「シャルロット」という名前をつけて自分の孫として引き取ったらしい。その子が数年前に節乃のばあさんにお前さんと同じことをうちあけてな。それを俺も聞いていたからお前さんが
シャル嬢の探していた「アキト」だということがわかったんだ」


…まさか人間食宝のところに引き取られているとは。通りでネルグ街で見つからないはずだ。


「俺の他には一龍会長や与作。次郎殿もその話を知っていてな、アキトを発見したらすぐ連れてくるように節乃のばあさんからはいい聞かされている」


「それじゃあ!」


「ああ、明日ネルグ街を出発するぞ!」



こうして苦節11年。俺はやっと愛しい女性シャルロットと再会することになる。


-3-
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