小説『トリコ 〜 ネルグ街出身の美食屋! 〜』
作者:ラドゥ()

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美食屋、嫁と再会し、夢語り、弟子入りをする!


ここはIGOの本部のとある一室。ここに今日は錚々たる面々が集まっていた。


美食神『アカシア』の弟子であるIGO会長である『一龍いちりゅう』に、『ノッキングマスター』と謳われた伝説の美食屋、『次郎じろう』。その次郎のコンビを務めていた『美食人間国宝』の称号を持つ料理人『節乃せつの』に、再生屋『血まみれの与作よさく』。そして他の組とは一線を画すグルメヤクザ、『リュウ組』の組長である『リュウ』。


もしこの光景を、彼らの仇敵である『美食會びしょくかい総長』にしてアカシア三番目の弟子である『三虎みどら』が見れば、ついにIGOが自分達に戦争を仕掛ける気なのだと誤解したかもしれない。このメンバーたちはそれほどの実力者たちだった。


しかし、今日の主役は彼らではなく、



「アキト!会いたかったよー!」


「シャルロット…」


今、抱き合っている2人の若人であった。

「やっと、やっと会えた…」

「アキト…」

2人はもう、それはもう嬉しそうである。

それもそうだろう。彼らは天界で初めて出会い、お互い一目ぼれののような感情を持ち、恋人同士となったわけだが、それ故にお互いにお互いに対する愛情はそこいらのカップルよりも高かった。

それが転生して早々に離れ離れになり、今まで会えなかったのである。故に2人の再開できた時の喜びは極限にまで高まっていた。…人目を忘れてしまうほどに。


「ごほん!」

「「!?」」

「そろそろいいかの?」


咳払いして2人の世界に割って入ったのは、IGO会長である一龍であった。

「す、すみません!」

「つい嬉しくって…」

「ガッハッハ!それはそうだろうよ。久しぶりの恋人の再会だからな!」

そういうのは、バンダナを頭に巻いた大柄の男。再生屋の与作だった。

「しっかし、まさか輪廻転生なんてのが、本当にあるなんてなあ。今でも少し信じられねえぜ」

「しかし、今わしらの目の前にいる2人は実際にそれを為した。嘘をついているならわしらに分からんわけがないしの」


そう与作に返すのは、ノッキングマスター次郎。今回は真面目な場面ゆえ酒を断っているのか、髪が黒々となっている。


「しかし、なるほど。カイザーレオンほどの動物をどうやって手に入れたのか気になっていたが、まさか大天使などという存在からもらった卵から産まれたとはのう。それなら納得だ」

顎に手をやりそういうのはグルメヤクザ組長の『リュウ』。何故リュウが卵について知っているかというと、最初はアーサーが仲間になった経緯を「どうせ信じてくれない」と思いリュウに話さなかったアキトであったが、転生のことを話す際に話さないわけにはいかなかったから、鏡心の卵についても話したのだ。

しかし、アキトの説明に納得していたようにも思えたが、どうやら分かった上で流してくれていたようだ。(ちなみにアーサーはこの場についてきているが、空気を呼んで部屋の隅で待ての状態にある)


そんなふうに話し合う面々をよそに、1人シャルロットとアキトの2人に近づく影があった。

美食人間国宝。節乃である。



「お前さんが、シャルロットのいっていたアキトかの?」


節乃に話しかけられたアキトは居住まいを正す。節乃はシャルロットを拾って今まで世話を見てくれた、いわば恋人シャルロットのこの世界の親で恩人だ。失礼な態度をとるのはアキトの矜持が許せなかった。


「はい。節乃さんにはシャルロットがお世話になり、ありがとうございます」

「ふふふ、なあに。シャルロットには店の仕込みを手伝ってもらっているし、とても助かってるんだ。それに孫ができたみたいで嬉しかったしの」


そういうと、節乃さんは俺の顔を覗きこみ、じーっと、見つめてきた。


「えっと、節乃さん?」

「…ふむ。なるほどのお。ふふ。すまんの。シャルロットにはいつもお主の話を聞いていたからの?どんな男かと興味があったのじゃよ。―――――――なるほど、なかなかの「いけめん」じゃの。シャルロットが惚れるのもわかるわい」

「は、はあ。そうですか」


まあ当然かな?節乃さんはシャルロットのことを孫みたいに思ってくれたといっているし、変な男にひっかけるわけにはいかなかったのだろう。ということは俺は合格ということかな?


そこえ、リュウさんが俺に話しかけてきた。



「ところでアキトよ。これからどうする?」

「?これからって、どういうことでしょう」

「お前さんの第一の目標は、そのシャル嬢との再会だったのだろう?それが終わった今、これからどうするのかと聞いているのだ。俺の組にも入る気はないだろうし」


あ、そこらへんはわかってたんだ。まあ嘘ついたら分かるっていうぐらいだし、そんぐらいはばれるか。


「美食屋を目指したいと思っています」

「ふむ、それは何故か聞いても良いかの?」


そう会話に入ってきたのは一龍会長。見れば他の全員も、アキトの言葉に注目していた。

それに若干の緊張を覚えながらも話を続ける。


「皆さんはネルグ街がどういう場所か知っていると思います。IGO非加盟のために『犯罪グルメ都市』の一つとなっているその都市のことを。俺はそこで産まれてそこで育ちました。ネルグ街の出身者の一割はグルメ犯罪者のために、ネルグ街出身者というだけで犯罪者のように差別されてしまう。――――――――俺はそれを変えたい!」


「……続けてくれ」


俺は会長に促されるままに喋る。漫画の世界としてではなく、実際にネルグ街の住人として。


「確かにネルグ街の出身者は犯罪者が多いし、それ以外の住民もアウトローのような生活を送っています。しかし、そうじゃない人もいるんです!」

そういって思い出す。俺を育ててくれた母親に、娼館の皆。そして俺のような青二才を兄貴としたってくれたマッチをはじめとした子供たち。


「俺は自らがその1人だという模範となります。今はグルメ時代と呼ばれるほどに美食に注目が集まっている。美食屋として有名になればネルグ街への見方が変わる。それに、美食屋になればネルグ街の子供たちに美味い物を食わせてやれます。ネルグ街出身者がグルメ犯罪に走るのは、美味い物を子供のころに食えなかったからだと思うんです。美味い物を食えば少なくとも人様に迷惑をかけようとはしないと思います」


実際、リュウさんにご飯を御馳走してもらったマッチたちの顔は印象的だった。それは漫画での彼らの表現通り、野良犬から人間へと変わったような、そんな感じだった。


「だから、俺は美食屋になりたい。ただの美食屋ではなく、人々が「あれがネルグ街のアキトか」といわれるような、ネルグ街の子供たちが目標とするような、そんな美食屋に!」


俺はそう締めくくると、会長たちの反応を待つ。俺の思いの丈はぶつけた。

最初は俺もこの世界は漫画の世界だと認識して、どこか現実味を感じなかった。だからこそ、訓練したとしても、未だ子供のうちにゴルゾーのような悪党どもを襲撃するなどという無茶を行うことができたのだと思う。

しかしネルグ街に産まれ、子供たちの面倒を見て、いつも腹をすかせているその子たちを見ているうちに、この世界が現実だとやっと認識したのだ。そしてこうも思った。なんでこいつらがこんな目にあわなきゃいけないんだと。だからこそ、俺は美食屋になりたいんだと思ったんだ。









「くくく」

俺が考えにふけっていると、目の前の会長が小さく笑い声を洩らす。そして、









「ハーーーーーーーハッハッハッハ!いい。いいぞ、アキトよ。お前は合格だ!」




へ?



「いやあ、すまんのアキトや。すこし試させてもらったぞ?」


そういうのは横から見守っていた節乃さんだった。


「どういうことですか?」


「なあに。お前さんの弟子入り試験が終わったのよ」


弟子入りって…。


そこで会長のほうをむくと、真剣な目で俺のことを見つめていた。


「のお、アキト。お前さん。わしらの弟子にならんか?」

「わしら?」

「わしと一ちゃんのことじゃよ」


そういって、前にでてきたのは、次郎さんだった。

え、ひょっとして…。


「お二人が修業をつけてくれるんですか…?」

「そうじゃ、不満かの?」

「と、とんでもない!?」


美食神アカシアの直弟子2人が直接指導をつけてくれるんだ。断る理由がない!でも…、


「なぜ、そこまでしてくれるんですか?」

俺はなんで彼らがそこまでしてくれるのかがわからなかった。俺は彼らにとって、偶然友人の1人が拾ったというだけの子供にすぎないはずだ。なのにどうして…。


そういうと、会長はにかりと笑う。


「なあに、お前さんの子供たちに美味い物を食わせてやりたい、故郷のために上に上がりたいという心意気を気に入ったのよ!後はシャルちゃんのためでもあるかの」


「シャルロットの?」


俺は会長の言葉にシャルロットのほうをむく。

そんな俺にシャルロットはほほ笑む。


「僕、節乃おばあちゃんの弟子になったんだ」

「節乃さんの弟子!?」

俺は驚愕の声をあげるが、節乃さんは、いたって当然という顔をする。

「なあに、シャルロットは今じゃ私の孫も同然じゃ。自分の技術を教えるのは当然じゃろ。それにシャルロットの希望でもあったしの」

「シャルロットの?」


俺の声にシャルロットが頷く。


「うん、アキトならこの美食屋を目指すと思って。そんなアキトの力になりたく僕がおばあちゃんに頼んだんだ。『僕に料理を教えてください』って」

「それって…」

「うん。将来的にはアキトと『コンビ』を組みたいと思ってる」

「!!」


『コンビ』

美食屋と料理人のその関係は、この世界においてはある意味夫婦よりも固い絆のことを意味している。なにしろ、文字通り命がけの苦労を共にすることになるんだから。


「これでわかったろう。わしらがシャルちゃんのためでもあるといった意味が。――――――――それで、どうするかの?」

会長は試すような笑みを俺にむけて返事を待つ。まったく、ここまでされたら答えなんか一つだろうに。








「はい!これからご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いします!!」



そうして俺はなんとも豪華なコーチ陣に修業をつけてもらうこととなった…。





…あ、マッチたちになんて言おう。


-4-
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