Side:A
最高の冒険が、ここにある!
勇者になって、仲間と共にモンスター退治をするか、勇者狩りをする魔王になるか、プレイヤーのあなた次第!
ステージは全部で二十種類以上! モンスターの種類は二百種類! 装備などのアイテム数は五十種類!
キャラクターのデザインも、あなたの自由にカスタマイズできます!
さあ! 冒険の世界へ旅立とう!!
それが、そのネトゲの誘い文句だった。
よくあるモンスターハント系でも、魔王退治のRPGでもない内容は、ある種の目新しさがあった。
大半のプレイヤーは、パーティーを組んで、モンスターハントやアイテム収集を楽しむ。だが、捻(ひね)くれた奴は、魔王になって、このゲームを楽しむ。
そう。このゲームの面白いところは、プレイヤーの選択で魔王になれることだ。
自分のキャラクターのレベルを上げて、モンスターハントをしている別のプレイヤーを攻撃する。すると、そのプレイヤーが、それまで貯めていた経験値を丸ごとこっちが総取りできるのだ。
普通は、プレイヤーを故意に攻撃できないようにプログラミングするか、できたとしても、そういう悪質なプレイヤーは排除される。ところが、このゲームは、そう言った悪質なプレイを認めている。
まさにゲームの中で、弱肉強食が楽しめるのだ。
プレイヤーを狩るプレイヤーは、勇者狩りの魔王と呼ばれ、警戒すべき敵だ。
だが、魔王に立ち向かってくる勇者は多い。
魔王は大抵、単独だが、勇者はパーティーを組んでいる。数でも有利だし、プレイヤーを倒せば、経験値を総取りのルールは勇者にも当てはまる。
つまり、魔王側だって、いつ狩られるか、スリルを楽しめるというわけである。
それが、オンラインゲーム『エンドレス・エデン』の世界だった。
大きな口を開けて、あくびをしながら歩いていたら、肩を叩かれた。
「おはよ、美鶴(みつる)。また遅くまでゲームしてたの?」
振り掛けると、黒髪を肩の上で切り揃えた女の子が立っていた。
黒いセーラー服は、俺たちの暮らす小さな港町の中学校の制服だった。その上には、濃紺のピーコートに、白いマフラーを巻いていた。
二月半ばの寒い時期なので、俺も似たような格好をしている。
大きな目が特徴で、童顔な彼女は、俺の幼馴染である津軽(つがる)留衣(るい)だ。
幼稚園から中学まで、ずっと同じ学校に通っていた。そして、四月からも、それは変わらない。
俺も留衣も、すでに神奈川県にある黒曜(こくよう)学園への進学が決まっている。
一足早く受験から解放された俺は、とあるネトゲに嵌っていた。