小説『君の隣で、』
作者:とも()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

そして気付けば俺は、自然と蒼のことを見なくなっていた。






気が付けば終業式当日、もうこの頃には俺と蒼の間には完璧な距離ができていた。

どちらからも近づくことのない、一定の確かな距離。

俺から歩み寄っても駄目なことくらい分かっていた。

俺は一度蒼に拒否されたのだから。

そんな俺にはもう、どうすることもできない。

このままこの関係が続くのかと思うと、俺の気分は更に落ちる。



終業式を終えて、教室に戻る。

先生が長期休みにおいてのいくつかの注意を話しながら、その注意が書かれたプリントなどが配られる。

けれども俺は窓の外を見て聞き流していた。

蒼と過ごせない休みのことを考えると、到底楽しめるとは思わなかった。

みんなが明日からの休みを待ちわびて喜んでいる中、俺は一人誰にも聞こえないように溜め息を吐いた。



ホームルームも終わり、後は帰るだけとなった。

配られたプリントを鞄に入れていると、鞄を持った薫が俺の方へと歩いてきた。


「直也」

「ん、どした?」


俺はさっさとプリントを鞄に詰めて俺の席の前で立ち止まった薫を見上げる。


「これから暇か?」

「なんで?」

「今日クリスマスイブじゃん。だからこれから一緒に出かけねえ?」

「おいおい、男二人のクリスマスかよ」


誘う理由が何とも言えなくて、俺は少し笑ってしまう。


「いいだろ、別に」


薫は少し拗ねたように頬を膨らませる。

何故だろう、男がそんなことをしても可愛くないのに彼がやるとあまりわざとらしくないように見えるのは。


「ごめんごめん。いいよ、俺今日は暇だし」

鞄を持って立ち上がり、一度笑って答えると、薫はふにゃりと彼特有の笑みを浮かべた。








学校を出た俺達はファミレスで軽食を採り、しばらく他愛も無い話をした後に街中に買い物へ出掛けた。

なんでも薫が買いたいものがあるとのことで、電車で数駅行ったところにある大きなデパートへ行くことになった。

デパートに着いた後、薫について行くと、気付けば婦人服の階にいた。

俺は薫が何を買うのか検討もつかないでいると、薫は足を止め、沢山引っ掛けられているマフラーの一つを手にとった。


「マフラー、買うのか?」

「うん」


薫の横に立って話しかけると、薫は柔らかい笑みを浮かべて答えた。


「今日クリスマスだろ?だから親にプレゼントしようと思ってさ」


そう言って次々とマフラーを手に取りながらどれにしようか考えている薫はとても楽しそうだ。

薫は黙っていれば普通にかっこいいのだが、彼に近付けばほわほわとした彼独特の雰囲気に引き込まれてしまう。

言葉遣いは男らしかったりするのに、彼が喋るとなんだか可愛く聞こえる。

とても優しくてマイペースでのんびり屋な彼なのである。

親にプレゼントすると聞いて俺は少し驚いたが、薫ならやりそうだと納得した。


-35-
Copyright ©とも All Rights Reserved 
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える