◆第六話
結局、俺はあの後も寝込み、完全に復帰したのは水曜日のこと。
二学期も残りわずか一週間となった。
沙希ちゃんからメールは来なくなった。
風邪で寝込んでいる間、一切メールの返事をしていなかったからだ。
何にしても好都合だった、沙希ちゃんからまた蒼の話題を持ちかけられても、俺はどう返事をしていいのか分からない。
ましてや蒼には好きな人がいて、その好きな人は俺です、なんて、絶対に言えるわけがなかった。
教室に入ると、久々に学校に訪れた俺を見つけた友達が何人も俺の元へ駆け寄って来た。
大丈夫なのか、と心配する奴もいれば、さぼってたんじゃねえの、なんてからかってくる奴もいる。
そんな彼らと適当な会話をしながら、俺はちらっと蒼の方を見た。
蒼は他のクラスメイトと笑顔で言葉を交わしていた。
それを見た瞬間、俺の胸はちくりと痛み、誤魔化すように俺に絡んでくる友達とのやり取りへと意識を向けた。
それから数日で分かったこと。
避けられている、というわけではない。
同じクラスなのだ、全く話さないというわけにはいかない。
俺の苗字は「加藤」で蒼の苗字は「葛城」、出席番号が並んでいるために掃除当番は一緒の場所なわけで。
掃除の最中や移動は一緒に行動するし、最低限の会話も普通に交わす。
ただ必要以上に共に行動することもなかった。
以前は休み時間になるたびに話をしていた、けれど今はそんなことも無い。
お互い違う相手と話をし、違う相手と笑い合う。
ただの、クラスメイトになったのだ。
登下校も一人、放課後も一人。
俺は一人で考える時間が増えた。
考えるのはいつも蒼のことで、俺は蒼の泣きそうな顔や泣いていた蒼の背中を思い出しては、そうさせた自分を憎らしく思った。
蒼にこれ以上迷惑をかけたくない、蒼を苦しめたくない。
そのためには、俺は蒼と関わっちゃいけない。
…蒼がいなくても大丈夫だ。
一人で、頑張っていこう。
そう思った。
けれどやはり自分の気持ちに嘘はつけない、ただただ寂しくて辛かった。
少し視線を移せば友達と笑い合っている蒼がいる。
近くにいるのに、遠い。
今にも蒼のところへ駆けて行ってしまいそうな自分を、なんとか心の中で引き止める。
最初は目で追っていた。
こっちを向いてくれやしないかと、ずっと蒼のことを目で追っていたのだ。
けれど、数日経って、それは止めた。
蒼と楽しそうに笑い合うクラスメイト。
本来ならあそこにいるのは自分であるはずだった。
蒼の隣は俺の居場所、そう思っていたのに。
今、彼の隣で笑っているのは俺以外の人なのだ。
それが悔しくて、悲しくて…とにかく凄く嫌だった。