小説『君の隣で、』
作者:とも()

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「母さんにはマフラーをあげようと思ってるんだけど、父さんには手袋をあげるかネクタイをあげるか迷ってるんだよな。どっちがいいと思う?」



何だか、心が和む。

薫のまったりとした空間に俺は今引き込まれている。

クリスマスに親にプレゼントをあげようと考える優しい男子高校生が、一体この日本にどれくらいいるだろうか。

将来は薫みたいな息子が欲しいと俺はこの時本気で思った、俺が親である限りそんなでき過ぎた子供が育つわけはないのだが。

俺は親身になって薫のために考える。


「…手袋でいいんじゃない?今寒いから通勤の時に使えるし。ネクタイは父の日とかにあげるのはどうかなあ、そしたらどっちもあげられるじゃん」

「おお、それいい」


そうしよ、と呟いた薫はマフラーを決めたのか、クリーム色をした綺麗な白のマフラーを手にとって歩き始めた。

俺はその後ろをついていく、レジで会計を済ませたら次は紳士服のフロアへ向かうのだろう。


「優しいのな、お前」


俺は薫の肩に手の置いて、うんうんと頷きながらしみじみとそう言う。


「そんなことないって。直也は今まで誰かにプレゼントをあげたことはないのか?」

「そうだなあ、親には貰ってばっかだし、彼女もいなかったからあげる相手いなかったっていうか…」

「ふうん」

「…あっ、でも…」


俺は過去のクリスマスを思い返していると、小さい頃のある光景を思い出す。

自然と笑顔になり、それを話そうとして言葉を発したが、急に冷静になって言葉を続けるのを止めた。

「どうした?」


言葉を続けない俺を不思議に思い、薫が足を止めて俺の方を見る。

思考が暗い方にいきそうになった俺ははっとして、適当な笑みを浮かべながら慌てて言葉を続けた。


「小さい時にさ、一度だけあげたことあるけど…今思うとあれはなかったなあと思って」

「え、なになに、聞きたい」


薫がにこにこしながら聞いてくるので、俺は話すことにした。



「あれはたぶん…幼稚園の時だったと思うんだけど、蒼の部屋にすげえ可愛いクマのぬいぐるみがあったんだよ」

「えっ、蒼が?意外」

「だろ。まあそれは蒼のお姉ちゃんが蒼にあげた物だったんだけど、そん時の俺はそのぬいぐるみがお気に入りでさ、蒼の家に行ったらずっと可愛い可愛いって触ってたんだ」


ベッドの頭元にいつも座っているぬいぐるみを、俺はなんのひねりも無く“クマさん”と呼んでいた。

クマさんを腕に抱いて俺は何度もクマさんの頭を撫でていた、…今思うと女の子みたいなことをしていたな。


「そんでさ、クリスマスの日の朝、蒼がラッピングされた袋を持って遊びに来たんだ。その中には…」

「もしかして、そのぬいぐるみが?」

「そう」


俺の部屋まで行って袋を開けると、中からクマさんが顔を覗かせた。

俺はびっくりしたのと同時に、凄く目をキラキラさせていたと思う。


「お前クマさん好きだろ、だからあげる、って。俺すげえ嬉しかったんだ。だから俺も蒼に何かあげなきゃって思って」

「で、何あげたの?」

「…貝」

「貝?」


薫は首を傾げて俺の方を見る。

そんな薫を見て俺は苦笑いをし、話を続けた。


「その年の夏に蒼の家族と俺の家族で海に行ったんだよ。その時にすげえ綺麗な貝殻を見つけて、家に持って帰ったんだ。俺はその貝が宝物だったから、俺の宝物をあげることで蒼はきっと喜んでくれるだろうって、その時の俺は思ったんだろうな。…でも今思うと、貝殻なんて貰っても何も嬉しくないよなあ」


貝をあげた時、蒼はどんな顔をしていただろう。

昔のことなのでそこまでは事細かに覚えてはいない。



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