様々な喧騒や、軽快なメロディを奏でる機械。多種多様なゲーム機械が設置してあるこの空間は、退屈凌ぎや娯楽を求める人々で溢れ返っていた。
退屈凌ぎや娯楽なんて言ってしまうと、ただの暇人が集まる陰気臭い場所な感じがしてしまうが、決してその様な場所では無い。見て見ると休日の休みなのか、子ども連れの親子や、いい雰囲気で一緒に遊ぶ楽しそうなカップルなど。いろいろな人物が居たりもする。
そんな空間のとある一角。他のゲーム機械のコーナーよりも、一際高い熱気で包まれる空間が存在していた。
その空間には、数多くの人だかりが出来ており。腕を降り上げ歓声を上げたりする者や、中央に設置されている大きなモニター画面に映る、何かの機動兵器同志の戦いに目を釘付けている者などが居る。
『ウオォォォ!!!! 勝ったッ!!』
モニターの画面に、勝利を意味する『win』の文字が表示され。それを見た観戦者達が大声上げる。 しかし反対に数人の人物は、肩をガックリと落とし。その場を跡にした。
重吾「ーーーふぅ……」
熱狂と歓喜に渦巻かれた空間の息苦しさに息を吐いた男。『井伊月 重吾』は、勝利の文字を満足気な表情で見つめる。
このゲームは、四つの起動兵器で二対二のチームを作り。それぞれの操縦技術を駆使して戦うといった対戦ゲームだ。 昔から稼働していたこのゲームは、爆発的人気で次々と新たなシリーズを作り。最近また新しく作り替えかえられ、さらに新たなファンを獲得した。
重吾「よっしゃ。帰るか」
重吾はその高い密度によって暑苦しい空間を、逃げる様にくぐり抜け。背筋を伸ばし。肺に溜まった二酸化炭素を一斉に吐き出して新鮮な酸素を補給した。
外を出ると暖かな陽射しが照らしていた。
暑くもなく寒くもない。この『春』だからこその気候を、心地よく感じた重吾は、ポカポカの陽射しを浴びながら自宅への帰路を目指した。
重吾「やっぱし『エクストリームガンダム』は強いしカッケェな!」
自宅へと帰る途中に通る横断歩道。
その横断歩道の信号の色が青へと変わるのを待つ重吾は、腕組みをして先ほどの戦いで自分が使っていた起動兵器のことを思い出す。
あのゲームには他にもいろんな起動兵器が出るが、重吾のお気に入りはエクストリームガンダムという。『格闘』『射撃』、そして『ファンネル』という無人遠隔操作機などの三形態を操る機体が好きだった。
重吾「ふふ〜ん♪ 今日は勝てたし。明日もやるぞォ!!」
腕を天に突き上げ、信号が変わったのを確認する。
両腕を行進隊の様に振り、鼻歌交じりに横断歩道を渡る重吾は、その時にはまだ気づいていなかったーーー
重吾「らら〜ん♪」
ーーー猛スピードで接近する。
重吾「極限進化ァ〜♪ーーーへ?」
ーーー大型トラックの存在に。
ーーードグシャァッ!!!!
避ける行動も取れない程。突然の出来事だった。
トラックにぶち当たった身体が回転しながら宙を舞い。血や、よく分からない物体を撒き散らしながら地面に叩きつけられる。
重吾(死ぬのかな……俺……)
身体の感覚がだんだんと無くなっていき。瞼が重たくなっていく。
直感で自分の終わりを悟った重吾は、心の中でこの不運さを呪い。今まで歩んできた生涯に、あっけないと言ってしまうほどーーー幕を閉じた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
死んだ後に行くのは死後の世界。
天国や地獄。他の国ではヴァルハラなんてあの世もあるらしいが、殆どは天国などが挙げられるだろう。
しかし死んでしまうと本当に天国か地獄かに行ってしまうかなんて、死んだ者にしか分からない。知ろうと思っても死んだ人間が口を開く訳が無い。
では何処に行くのか?
本当に天国地獄か。それとも何も存在しない『虚無』か………やはりそれは、死んだ者にしか知り得ない事なのかーーー
重吾「ーーーハッ!?」
ーーー井伊月 重吾は、そこで目を覚ました。
身体をゆっくりと起こし。首を動かして自分の居場所を確認する。
重吾「何処だ……ここ……?」
『白』で統一された異様な空間。どっちが上でどっちが下か分からない。平衡感覚が狂ってしまいそうだ。
軽い眩暈を感じた重吾は、ふらつきながら立ち上がり。自分の胸を触って、鼓動があるのを確かめた。
重吾「俺……死んだんだよな?」
重吾は自分の意識が途切れる直前、トラックに引かれた事を思い出す。
身体が凄い勢いで吹き飛び、腕や足がいろんな方向に向いていた。そして自分の血が妙に温かかったのも憶えている
身体が氷の様に冷たくなっていくのに対し、あの血は自分に温もりを与えた。あの気持ちの悪い感覚は、忘れるに忘れられない。
重吾「にしても何処だァ……?」
重吾は自分が死んだか死んでいないかを自問するのが気味悪いと感じ、頭を振ってその思考を遮断した。
とりあえず此処が何処かだけでも知りたい。もし自分が生きているのであれば、家にも帰りたい。
重吾「駄目だ。全く出口が分かんねぇ」
歩けど歩けど同じ光景が続くだけ。出口を探したところで現れるのはこの空間の白のみ。
重吾「クッソ……考えたくねぇけど。死後の世界ってやつじゃあねえよな?」
視界に入る白色が、目を予想以上に疲れさせる。
休憩も兼ねてその場に座り込んだ重吾は、遮断していた自分の死についての推測を再開した。
今居る場所は、何となく浮世離れした場所のような……この世から隔離された『彼方』のような気がしてならない。実際にも、出口を求めても同じ光景が永遠と続くだけ。重吾以外人間はおろか、生き物一匹見つかっていない。
重吾「別世界なのか……?」
『そうだ。よく分かったね』
重吾「のわぁぁぁぁぁぁッ!!!!」
何も無い場所からの突然の声。
後ろから発せられたその声に驚いた重吾は、思わず前のめりに倒れてしまい。顔を思いっきり打ち付けてしまった。
『あはは。ごめんごめん、驚かせちゃったね』
白いローブを身に纏い。爽やかな印象を受ける青年が、微笑みながら手を差し出す。
重吾「だ、誰ですか?」
打ち付けた顔を摩りながら、差し出された手を掴んだ重吾は、突然現れた青年に問う。
『神様だ』(キリッ
重吾「…………」
青年がキメ顔で返してきた答えに、重吾は口をだらしなく開け、ポカンとしてしまった。そしてしばらくした後、強烈な何かが重吾を襲い、グッと唇を噛み締めて上を向いた。
そんな重吾の姿はまるで……可哀想な人を見て涙を堪えている様に見えた……。
『ちょ、ちょい待ち! 君何か勘違いしてないかい?』
重吾「そう……ですね……」
『やっぱり勘違いしてるよ君!!』
………………
………………………
………………………………
………………………………………
重吾「成る程……貴方は本当に正真正銘の神様で。俺が死んだのは貴方のミスと……」
『本当にすみませんでしたァァァ!!!! 謝っても謝りきれない程の事をしてしまったのは分かってる。だけど本当にごめんなさいィィィ!!!!!』
頭を擦り付け、神様は何度も何度も重吾に謝罪を贈った。
重吾「もういいですよ……神様だってミスはするんだ……しない方がおかしいですよ」
最初は落ち込みこそしたが、いつまでもそんなマイナス思考では駄目だと思い。重吾は神様にそう言葉を送った。
『キミは優し過ぎるよ……そうだ!! キミを転生させてあげる!!』
重吾「転生……?」
グッと拳を握って立ち上がった神様が言った事に、頭を傾げる重吾。理解不能といった感じだ。
『転生ってのはね。キミが居た世界とは別の世界に行かせてあげられるんだよ』
重吾「って事は。俺が行きたいって思う所にも?」
『勿論さ!』
重吾「それってスゲェ!!」
重吾は目をキラキラと輝かせる。その様子からは、ついさっき自分が死んだ事を知った者とは思えない。
重吾「いやまてよ……」
重吾はそこであることに気付く。
もし自分が行きたい世界に転生させてもらったとしよう。楽しくて仕方がないとか、毎日がハッピーだとか。いろんな感情が芽生えるだろう。
しかしだ。ここで一つの問題が生まれる。
重吾が好きな世界……それは起動兵器を駆る者達が生死を賭け、互いの命を削り合う戦場。次々と散っていく生命達が生きる世界。
お分かりいただけただろうか?
そうーーー
重吾(死ぬ、死んじゃう!! 俺が行きたい世界行ったら絶対死んじゃうよ!!)
死亡フラグがビンビンなのだ。
重吾「すみません神様! 起動兵器が出て、尚且つ日常的に人が死なない世界ってありますか?」
そんな死亡フラグが溢れる世界には断固として行きたくない重吾は、少し無理を言って出した条件に該当する世界を捜してもらった。
『う〜んそうだねぇ……ならこの『インフィニットストラトス』って世界はどうかな? 人もあまり死なないし、キミが望む起動兵器も存在するよ?』
重吾「そこにします!! そこでお願いします!!」
人が死ななければ……バンバン死んでいかない世界であれば、重吾は最早どこでも良かった。
『じゃあそこでOKね……あ! あと一つだけ。このインフィニットストラトスの世界でキミが使う起動兵器を作ってあげられるよ』
重吾「………それって……なんでもいいの?」
『当たり前だのクラッカーさ』
重吾「じゃ、じゃあエクストリーム!! エクストリームガンダムでお願いします!!」
鼻息荒く。若干興奮気味に神様に詰め寄った重吾は、自分が使いたい機体を大声で発言した。
その重吾の凄まじい迫力に、神様はハハハと苦笑いを浮かべる。しかし苦笑いを浮かべた後、神様は自分の人差し指をこめかみに当てると、瞑想する僧侶の様にゆっくりと瞼を閉じた。
『ーーーハァッ!!』
神様は閉じていた瞼を開け、こめかみに当てていた人差し指を前に突き出すと、眩い光と共に人が着るのに丁度いいサイズのエクストリームガンダムを出現させる。
重吾「スゲェェェェ!!!!」
出現したエクストリームガンダムに雄叫びを上げる重吾。神様はそんな喜ぶ重吾を笑顔で見ながら、再び人差し指をこめかみに当て。前方に突き出した。
するとエクストリームガンダムは『EXA』と表記されたアクセサリーへと変化し、重吾の首にかかる。
『さあこれがキミのエクストリームガンダムだよ』
重吾「何回も言うけどスゲェ……」
首にかかったアクセサリーを手に取り、感動の言葉を漏らす重吾。
『もう一度だけ。キミを死なせてしまってすまない。そして、新たな世界での物語……楽しんできてね♪』
重吾「ありがとうございます!!」
次第に辺りが光で満ちてくる。
神様に礼を贈った重吾は、これから始まる新たな人生に心躍らせ。光に包まれていったのだったーーー