重吾「………ん……此処が……」
目を覚まして最初に目に入った光景は、生い茂る木々達と、ポカポカと暖かい陽射しだった。
重吾「う〜ん……あんまし俺が居た世界と変わんないだな」
グ〜っと大きく伸びをした重吾は、辺りの環境を見てそう呟く。
もしかしたら酷い環境なのかもしれないと少し予想していたが、まともな環境で良かった。暑すぎたり寒過ぎたりしたら気分的にも萎えてしまうから。
重吾「さて、どうすっか……ん?」
これからどうしようかと思案していた重吾は、自分の足元に一冊の本が落ちているのに気が付く。
それを手に取りページをめくってみると、『困った時にはこれを見てね♪ by神様』と大きな文字で書かれていた。
重吾「神様が作ってくれたのか……」
更にページを捲ってみると、この世界の事についての簡単な情報が記されていた。
『IS』という兵器。正式名はインフィニットストラトス。この世界の戦力であり、重吾が持つエクストリームガンダムもそれに含まれる。
コアという、"篠ノ之 束"という科学者が独自に開発した物を同源力にして動かしているようだ。そしてそのISとっての命であるコアは、完全なるブラックボックスとなっており。解析や生産などは不可能。唯一作れるのは開発者である篠ノ之 束らしいが、只今逃亡中らしい。
重吾「スゲんだなISって……へ?」
次のページを捲った重吾の目に、一つの項目が目に入った。
ーーーそれは………。
重吾「ISは女性にしか動かせない欠陥兵器だって!? どゆことォ!!」
衝撃の真実に重吾は声を上げてしまう。
このISが女性にしか動かせないということはだ。もし重吾がそこら辺でISを起動させ、他人の目に触れたらどうなる……簡単だ、大騒ぎどころでは無い。世界の常識がひっくり返る。そして国の人間に拉致され、解剖などもされてしまうかもしれない。
重吾「いやぁぁぁ!!!! 解剖いやぁぁぁぁ!!!」
自分が貼りつけにされ。解剖されて実験されてしまう状況でも想像したのだろうか?
重吾は絶叫を発しながら両腕を上げ、そこらじゅうを走り回った。
重吾「解剖ーーーん? これって……」
走り回っていた重吾の動きを、再び本に記されている一つの項目が止めた。
それはある一人の男についてーーー"織斑 一夏"という人物についての情報だった。
その情報とは、世界で初めて女性にしか動かせない筈のISを起動させた異例の存在。そして『ブリュンヒルデ』の称号を持つ最強のIS使い、"織斑 千冬"を姉に持つ男である。現在はISを学べる世界で有数の場所。『IS学園』で生徒として生活している……と……。
重吾「とゆーことはぁ……この織斑 一夏って奴が居るIS学園に行けば身の保証は安全……なのかも」
若干の不安も残るが。とりあえずはこのIS学園に行けば何とかなるかもしれない。希望を持とう。
重吾はそう考えると、本に表記されていたIS学園の道のりを目指し、気合を入れた表情で歩きだした。
◇◇
重吾「ハァ……ハァ……きっつゥ!!」
IS学園の校門前。
身体中ずぶ濡れで頭にワカメを垂らす重吾は、肩で激しく息をしながらその場に倒れ込んだ。
重吾「し、死ぬ……」
何故こんなにも満身創痍で疲れ果てているのか?
それはこのIS学園までの道のりにあった。
険しい山を登っては下り、登っては下り。そして激しい波が荒れ狂う海を、死に物狂いで泳ぎ渡った。
重吾「ふざけんなよ!! なんでこんな過酷なんだよ!!!!」
大声で雄叫びを上げた重吾は、頭に乗っていたワカメを地面に叩き付ける。しかしその後に激しい嘔吐感が身体を襲い、口元を押さえて顔を歪めた。
重吾「まぁいい……IS学園には着いたんだ。目的を果たそう」
ゆっくりと立ち上がり頬を叩く。
ずぶ濡れだった身体は風にさらされ、カピカピになっており。凄く気持ちが悪い。IS学園に入れたらシャワーでも貸してもらおう。
重吾「よっし。それではIS学園へレッツゴー!!ーーー」
『待ちなさい!!』
重吾「へ?」
意気込んでIS学園の門をくぐろうとしていた重吾を、誰かが引き止める。
呼ばれた方を振り向くと、 警備員の様な服装をした大人の女性が、重吾に向かって怪しそうな人物を見る視線を向けていた。
『あなた……何か用なの?』
どうやらこの女性は、IS学園の関係者らしい。見た感じでは受け付けの人の様な気がする。
重吾「あ、ああ……ハイそうです。ちょっとこの学園に用があって」
『そうなんですか」
重吾「ええ。俺、IS使えるんで入れてもらおうかとーーー」
『イタズラならお引きとりください。それでは』
重吾「ちょっと待ってェェェェ!!!!」
重吾の叫びを無視した女性は、開いていたIS学園の門を閉じる。
そして一人残された重吾は、その場にガックリと頭を項垂れた。
確かに突然。女性でしか扱えない筈のISを動かせると言う男が現れたら、それは無いと思ってしまうだろう。既に男でISを動かせる者が居るとしても、この世界の常識では、ISは女性にしか使えないのだから。
重吾「どうすんだよ……」
IS学園の門にもたれかかり、腰を落とす。
これからどうする?。いっその事自分がISを動かせるという事を見せる為、エクストリームガンダムを起動させてみるか? いや、それは駄目だ。最悪冗談抜きで大問題に発展する気がする。
完全に手詰まり。チェックメイトな状況だ。
ーーーしかしそんな重吾に。
千冬「貴様。こんな所で何をやっている?」
重吾「ーーー誰?」
ーーー『一人の女性』が現れた。
◇◇
突然現れた謎の女性。
しかし重吾はその女性との運命的な出会い感じた。恋愛などの類では無い、必然的な何かをーーー
重吾「信じてくれてありがとうございます」
自分の目の前を歩く女性。その女性に重吾は礼を送る。
千冬「なに。少し気になっただけだ」
重吾の礼を貰った女性は、歩みを進めながらそう言う。
目の前に現れたこの女性は、受け付けの女性に全く信じてもらえなかったIS起動の事を、何と信じてくれた。
そして幸運な事に、IS学園の教師であったこの女性は、重吾の話しを聞いてやると持ちかけてきたのだ。
受け付けの女性に閉め出された時は凹んだが、これは運が良い。
千冬「ーーーここだ」
重吾「ここって……」
女性に大人しく着いった重吾は、広大なグラウンドが広がる。オリンピックでも出来そうな程広いアリーナに案内された。
千冬「此処に案内したのは、貴様のISを見る為だ。すまんが起動してもらうぞ」
重吾「成る程」
重吾は何故こんな場所に案内されたのかと疑問に思っていたが、直ぐにガッテンがいく。
楯無「遅いですよ織斑先生♪」
重吾「うわおうッ!!」
肩にポンッと手が置かれ。重吾は驚きの声を漏らす。
気配も何も無く現れた青い髪をした女性は、重吾からしたら魔法でも使ったのではないかと思う程の突然だった。
重吾「だ、誰ですか!?」
重吾はドキドキと胸が高鳴り。青髪の女性を見つめる。
楯無「…………」(パチリッ♪
重吾「………ッ!?///」
重吾の視線に気付いた女性が、異性から見ればとても魅力的に映るウインクをしてきた。
その魅力的なウインクを見た瞬間重吾は、顔を真っ赤にして女性から顔を逸らす。
楯無「うふッ♪ 可愛い反応♪」
重吾「うぅぅ……///」
重吾は女の子に対して余り免疫が無かった。話せない……とまではいかないが、こんな風に人をからかったりして楽しむ女の子が特に苦手だった。天敵とまでも言える。
千冬「おい"更識 楯無"。余り時間を消費するのは辞めろ」
楯無「いや〜」
更識 楯無と呼ばれた女性は、可愛く舌を出し。頭に手をやる。その仕草がとても可愛いらしく、重吾の鼓動は激しく高鳴り、更に顔を赤くする原因となった。
千冬「さて……少し無駄があったが。貴様とはコイツとの模擬戦をしてもらう。勿論ISのな」
重吾「俺がこの人と?」
楯無「あら不服かしら? これでもIS学園最強の異名を持つんだけどな〜。お姉さんショック」
重吾「さ、最強!?」
千冬「まあ恐れる事は無い。死にはしない」
確かにISでの戦闘などで死人が出る事は絶対にと言っていい程あることは無い。
『絶対防御』と呼ばれる、操縦者を護る盾。死ぬ運命にある者を、自らと引き換えに護る守護。それがある限り、ISを駆る者達が死ぬ事は無いのだ。
しかしだからといって、最強に挑むのとは訳が違う。
重吾はISの操作も何も知らない初心者も同然。そして楯無は重吾と違って最強と称される程の実力者。二人を例えるならば小さな『蟻』と、巨大な『象』といったところだ。
小さな蟻が象に敵う訳が無い。勝敗など既に決まっているも同然。
千冬「ではお前達。準備をしろ」
重吾「無理無理無理無理ッ!!!! 」
楯無「さあ始めましょっか?」
重吾「嫌ァァァァ!!!!!」
………………
………………………
………………………………
………………………………………
アリーナの中央のグラウンド。風がヒュウッと吹き、肌寒さを感じさせる。季節は春という比較的暖かい気候の筈なのに、妙な悪寒が身体をかけ走る。
楯無「…………さてと」
重吾(死にたくない死にたくない死にたくない)
そんなアリーナに対峙する二人は、全くもっての逆。
気合充分の楯無に対して、重吾は今にも泣き出しそうな程に顔が青ざめている。
重吾「やるっきゃねえかぁ……」
仕方なしといった感じでため息を吐いた重吾は、首にかかるアクセサリーを握る。
目を瞑り。心の中でエクストリームガンダムを求めると、眩い光が辺りを一瞬照らし。晴れた時にはエクストリームガンダムを纏っていた。
楯無「ふ〜ん。動かせるのは本当みたいねぇ……」
楯無が重吾のエクストリームガンダムを興味深そうに観察する。対する重吾も楯無のISを観察するが、何がどう凄いだとかが全く分からない。
重吾「ん?」
すると突然。目の前に何かのデータが表示される。
重吾は何とかしてそのデータが閲覧出来ないかと思うと、そのデータは重吾が思った通りにデータの中身を表示した。まるで重吾の考えを読みとっているかの様に。
重吾「え〜と何々……『ミステリアス・レイディ』……?」
表示されたデータには、ISに関する情報が表記されていた。
よく中身を確認すると、このISは楯無が纏っているISと非常に酷似している。色も、装備も装甲も何もかもがだ。
重吾「もしかしてこれってエクストリームガンダムのデータ収穫的な何か?」
重吾は腕を組んでそんな事を考えてみるが、頭に浮かぶのは?マークのみ。頭を傾げて眉を顰めるだけだった。
千冬「そろそろ始めるぞ」
楯無「は〜い」
重吾「ひゃ、ひゃい!!」
試合開始が迫ってきた事に緊張して声が思わず上ずってしまう。こんなことでは駄目だと、重吾は頬を叩いて喝を入れた。
千冬「勝敗はどちらかのSE『シールドエネルギー』が尽きるか、降参するかだ。いいな?」
楯無・重吾「「はいッ!!」」
千冬「よし……それではーーー始めッ!!!!」
千冬の掛け声で試合の火蓋が落とされる。
楯無「せいっ!!」
先に動いたのは楯無。
ダッ! と力強い一歩を踏み出して重吾に接近し、拳を握りしめそれを放つ。
重吾「うおぉッ!?」
重吾は楯無の拳を、身をかがめる事で回避したが、その行動が隙を作る事になり。ガンダムフェイスで覆われた頭部に、楯無の勢いをつけた踵落としがヒットした。
重吾「………ッ!?」
グワンと目の前が揺れ、意識が持っていかれそうになる。
これは本気でいかなければやられる。ただでさえ自分は初心者なのだ、こんな事では一発でKOされてしまう。
楯無「どんどんイクわよッ♪」
重吾( 容赦ねぇなこの人!! )
再び踵落としを見舞おうとした楯無の攻撃を、身体を後転させて離脱し、エクストリームガンダムのブースターを吹かせて一気に距離を離す。
武器はないかと捜したが、装備されているのは左腕にある『シールド』だけ。
重吾「そ、そうだ! 背中に『ビームサーベル』があった筈ッ!」
背中に手をやり、一本の細長い棒を掴んで引き抜く。
抜かれたそれには、ビームの粒子で生成された光の剣が形作り。ほのかな光を発している。
楯無「ビーム兵器ッ!?」
重吾「とりあえずはこれでッ!!」
ビームサーベルを握りしめた重吾は、雄叫びを上げながら楯無に近づく。
楯無はそれに真っ向から挑み、手のひらに出現させたミステリアス・レイディの武装。『蒼流旋』でビームサーベルを受け止めた。
楯無「お姉さんに真っ向から挑んだのは素晴らしいけど、ちょっと頑張り過ぎたかな〜」
重吾「なにをーーーグアハァッ!!」
腹に衝撃が走り、喉奥から何かが込み上げる。
楯無は蒼流旋で、ビームサーベルを逸らして降り上げる動きを取り。ビームサーベルを弾いて、無防備になった重吾を蹴り付けたのだ。
重吾「ゲホッゲホッ!!」
吹き飛ばされた重吾は、ガンダムフェイスに包まれた顔で苦渋の表情を浮かべる。
ここまで力の差を感じてしまうと逆に笑えてくる。正直舐めていたのかもしれない。
ISでの戦闘を……模擬戦だからと……。
重吾「クッソ……!」
ギリッと歯を噛み締めた重吾は、拳を握りしめ。痛む身体を強引に起こす。
重吾( 悪あがき……してみっかぁ…)
楯無「さあさあ頑張りなさい。何度でも受けて立つわよ」
重吾「いいましたね……それならッ!!」
ーーーガンッ!!
楯無「なッ!?」
重吾がエクストリームガンダムの装甲で包まれた拳を地面に叩き付け、周り砂煙を立ち上げられて姿を消した事に動揺する。
楯無「考えたじゃない……やっるぅ♪」
楯無はとっさに身構え、何処からくるか分からない攻撃に備えた。
そして少しした後、姿煙の中から何かが飛び出し。楯無を正確に狙った角度で襲ってくる。
楯無「ビームサーベル!」
よく見るとそれはエクストリームガンダムのビームサーベル。
狙われた攻撃を蒼流旋で『上』へと弾いた楯無は、ビームサーベルが出てきた方向に向かって。蒼流旋に内蔵されているガトリング弾を無造作にばら撒いた。
楯無「今度は後ろッ!?」
ミステリアス・レイディのセンサーが後ろに物体を感知したのを知った楯無は、後ろを降り向き、砂煙の中から再び出てきた何かに対処する。
楯無「シールドですって?……さっきから何をーーーハッ!?」
飛び出してきたのはシールドで、別段避ける必要も無かった楯無は、弾く動作をせずただ避けた。
しかしシールドが目の前を通過した瞬間、センサーが下にある地面を探知し、警報を鳴らした瞬間ーーー
重吾「貰ったァァァッ!!!!」
ーーー地面の中からビームサーベルの切っ先を上に向けて構えた重吾が、眼下から勢い良く飛び出してきた。
楯無「クッ!!」
とっさにに楯無は紙一重で回避したが、鼻すれすれまで接近していたビームサーベルが、チリッと髪を掠める。
髪を女の命。
少しといえど髪を痛めつけられた事に多少の怒りを憶えた楯無は、ガッと重吾の顔面を鷲掴みにし、地面に力いっぱいに叩き付けた。
重吾「カッ……ハァッ……!?」
叩き付けられた重吾は、肺の中にある酸素を強制的に排出される。
楯無「良かったわよ貴方の攻撃。お姉さんビックリしちゃった♪……だけどぉ……女の子の髪を痛めちゃうのは駄目だな〜♪」
重吾「そ、それはすみません……」
楯無「まあこんぐらいならいいわよ。今度からは気をつけるように」
重吾「は、はい……ガフッ…」
素直に謝罪の言葉を送った重吾は、力尽きたといった感じで、頭をガクリと下げた。
この模擬戦の勝者、更識 楯無。最初から勝者は決まっていたようなものだが、重吾も中々に頑張った。
楯無もここまでまさかするとは思わなかったのか、額に光る汗を拭いながら、良い勝負が出来たといった風に満面の笑顔でいる。
千冬「どうだったコイツは?」
重吾と楯無の模擬戦を観戦していた千冬が楯無に意見を求めてくる。
楯無「面白い子ですよ」
千冬「そうか。確かにセンスは感じたが……まだまだひよっこだな」
楯無「とりあえずIS学園には入れるんですよね?」
千冬「ああ。元からそのつもりだ」
楯無「でしたらこの子、生徒会で使わせもらいます」
千冬「好きにしろ……だが余り苛めてやるなよ?」
楯無「さ〜てどうでしょ〜?」
千冬「フンッ……」
鼻を鳴らした千冬は、腕を組んでアリーナを後にした。
楯無「よいしょっと」
それを見送った楯無は、倒れている重吾を背負うと、小悪魔的な笑みを浮かべて。鼻歌交じりに千冬同様アリーナを去っていった。