小説『影は黄金の腹心で水銀の親友』
作者:BK201()

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第十一話 創造―――晃世界




今更な登場。周りから見ればそんな評価を貰える事だろう。今、彼ことアルフレートは屋上へと辿り着いたリザ・ブレンナーを心臓部を狙い突き刺していた。

「なッ―――!?」

螢は驚愕を顕にする。これまで病院にいると思っていなかった人物が突然現れ、そしてそれは同胞であるはずのリザをその手で貫いているのだ。それも彼を見たのが自分の隣にいるそれも彼女が見張っていた存在が貫かれるまで気が付かなかったことも含めて。

「あ、あなたは……」

「久しぶりと言うべきかい、リザ?」

彼は極々平然と何も疑問に思うことも無くリザを貫いていた本人はそう言った。

「いや〜良かったね。これで数がまだ合う。安心しなよ、君の心配はこれで杞憂となった」

むしろ愉快気に彼は酔っているかのように彼女に話しかける。自分が貫いている彼女に対して。

「ぐ、本当に……憎いわね……」

「ありがとう、僕も君のような売女は嫌いなんだ。偽善者さん」

笑顔でまるでこれまでの道中の苛立ちを隠すかの様に笑みで応える。

「残念、君じゃ役不足だ。分不相応の力を与えても拒絶反応を起こすだけだろうし。だから気にしなくていいよ。君は死んで、スワスチカは気にせずとも元通りその数は合う、その上で君の制御から降りた彼は僕が引き継ぐことにしよう」

「…なッ……させ、ないわよ…」

「君の了承は必要ない。もうじき死ぬだけなんだ。自殺できない程度の覚悟しかもたないんだから代わりにその役目を果たしてあげるだけだよ。なに、安心しなよ。彼、いいや彼女の持つ武器はしっかり預かるから」

一部を除き二人だけにしか理解できない会話。いや一方的な最後通告。リザはこのとき初めて怯えを見せた。何故、彼が知っているのかと。

「だからね、これはヴァレリアにも言ったこと何だけど、ただ知っていた。それだけの話なんだよ」

「いい加減にしろ、貴様ら。さっきから聞いておれば憎いだ何だと。第一ハイドリヒ卿は態々私に開けと命じたのだぞ。それを貴様は相も変わらず狐のように女々しい真似をしよって。それは私だけでなく、ハイドリヒ卿に対しても侮辱であるぞ」

そう言われこれ以上リザと会話することは不可と断じたアルフレートは止めを刺す。

さようなら(アウフヴィーダーゼン)、バビロン・マグダレーナ」

彼が何故、最後に名ではなく称号で別れを告げたかは本人達を除く誰もが理解し得なかった。




******




「さて、率直に言わしてもらいたい。彼らを見逃せ、エレオノーレ」

俺は何であいつにそんなことを言われたか理解できなかった。

「分かりやすく説明してやろう。僕はあいつを認めた。だからこれは彼の行いに対する対価だ」

おい、何勝手なこと言ってやがる。あいつは一体何がしたい。何であいつはシスターを殺した。何であいつは俺を庇っている。

「ほう、貴様自分が何を言ったのか理解しているつもりか?貴様のその言い草であるなら、私の主命を無視したことに対してはどう謝罪するつもりだ?」

「別に、どう言うわけでもない。唯、もはやここのスワスチカが開いた以上、貴女がこの病院ごと破壊することも僕や彼を殺すことにメリットはない。だから、その状況下で彼だけでなく彼が守ろうとした病院ごと見逃せ、と言っているだけだ」

瞬間、激動が走る。怒りを如実に表すエレオノーレと飄々とした態度を改めないアルフレートはぶつかり合う。

「そう言えば貴様、軍服を着ておらんがそれはどういった了見だ」

「唯の観光、この国の言葉であるだろう、郷に入っては郷に従え、と。土地柄の服装にあわせるのは基本的なことだと思うが?」

互いに軽口を交わしながら戦いを続ける。エレオノーレは未だに俺を狙い打とうとし、アルフレートはそれを防ぎつつ反撃を繰り出す。エレオノーレからすればもはやこれ以上戦う義理はないかもしれないが、だからと言ってこうも一方的にされたことを許すわけにも行かないのだろう。
実際、問題としては何よりアルフレートという存在自体を彼女は許せずにいた部分があった。黄金の祝福を受けた自分達よりも尚、近い所にいる存在。副首領(クラフト)のように立場が上と言うわけでもなく、彼の立場は平団員のそれ以下でありながら黄金にもっとも近しい存在でもある。許せないと言うのも当然だろう。

「五つ目だ。貴様これの意味が理解できていような!」

「逆に聞こう、君こそ本当に僕の聖遺物を理解しているのかい?」

相性によって最強にもなりうる彼の手札。闇、粒子、影、当たりはしない。彼女の砲撃を必要最低限に逸らし、弾き、喰らいつくす。魂の総量こそ未だに劣るが、もはやその差は地力で覆せる程度のものとなっていた。

「ふ、ざけんなよ……」

何が見逃せだ、何が対価だ。お前見たいな奴から貰うもんなんて無いんだよ。さっさとどっか行きやがれ。お前が俺を庇うなんてな、

「勝手なこと、してんじゃ、ねぇ―――!」

「阿呆が、とっとと逃げればよかったものを」

「馬鹿が、誰もお前を助けるとまでは言ってないだろ」

瞬間、火砲と影がこちらを向く。だが、それが如何した。元より俺たちはそういう関係だろ。
まずは俺の近くにいたアルフレートを狙う。狙いは首、威力だけじゃない。あいつは粒子に闇になると言うのなら首を狙えばいい。こちらの理を優先させればいい。だが、

「舞い踊れ、これまでとは格が違うぞ」

躱される。それどころか反撃を仕掛けてくる。だが、

「甘いな、お前の立場が一番危ういのだぞ」

アルフレートがこちらに向き直ると俺ごと巻き込む火力で放たれる。

「―――ぐぅッ!!」

ギリギリで防御するアルフレートだがその余波は防がれることがなく、

「なッ!?」

俺はその余波の直撃を受ける。いくら直線状の攻撃とはいえアルフレートが邪魔になって、見えない位置からの攻撃タイミングがつかめず受けてしまう。

「どうした、貴様は奴を庇い立てしていたのではないのか?」

「見逃せ、と言ったんだ。自分から向かってきたならそれは自業自得だ」

吹き飛ばされる。その威力はさっき受けた攻撃を上回っていた。

「…ッぐ…あ……」

意識が……



******



「レンに手を出さないで」

藤井蓮が倒れ、そのまま庇いながら面倒な戦いをすることになるのかとアルフレートが思っているとその展開が訪れることはなかった。

「ほう……」

「健気だね、マルグリットちゃん。でも目の前に立つということは」

「痛みを享受することだとご理解していただいていますか。姫君」

エレオノーレがアルフレートが牙を向ける。当然、両者共に手を抜いてはいる。しかし、例えそれだけ弱く打ち付けた攻撃であったとしてもその痛みは大きかった。

「……痛い」

「水銀はさ、君を溺愛してて過保護だけど、僕はあまりそういうことはしない。痛みも経験だ」

「ふん、貴様と同意見だとはな。だがまあ、確かに痛みを学習するのも、悪い経験ではない。女はすべからく、それに強くあるべきだ」

エレオノーレが蹴りをいれる。苦痛に悶えるマリィ。

「すごいな……」

理解した。ああ、この子はやっぱり強い子だ。水銀が目をかけなくても彼女は強い。だからこそ、

「君の元に戻ることは無いんじゃないかな、水銀」

彼の恋は成就させたいと思う。だから、僕は例え君に嫌われても彼女を奪う方法に近くても君の元に来るようにするかもしれないよ。だからこれは僕なりの決別。僕は君を今でも親友と思ってるけどメルクリウス(・・・・・・)、僕は僕なりの方法で君の恋を成就させるさ。

「目が覚めて、頭は冷えたか藤井蓮?」

「……てめえ等、なに俺の女ボコってんだ、殺すぞ」

「それが僕なりの対価だ。行いには相応の対価を。それは当然、悪い方向にも向くと言うことだよ」

マリィの目つきが変わる。だからこそ分かる。ああ、彼女の心はもう向かない。

「わたしの男ボコってんじゃないわよ、誰にも渡さないんだから」

「ふふ、ふふふふ……」

「はははっは、はははは……君にはやっぱり女運は無いよメルクリウス」

そして、彼等は驚くほど速やかに戦いの形態へと移行する。これは下手をすれば彼等も創造を行うかも知れないな。

「なら、先手を打たせてもらうよ」

正直、余り好まない。そもそも神に祈ること自体お門違いだ。僕の本筋で行くなら真逆なんだから。

「天におられる我らの父よ (Vater unser im Himmel)
み名が聖とされますように み国が来られますように (Wie heiligen Namen zu sehen Gesehen als Reich komme)
みこころが天に行われるとおり (Dein Wille wie im Himmel getan werden)
地にも行われますように (Wie auf der Erde getan)
我らの日ごとの糧を今日もお与えください (Bitte gib uns heute unser tagliches Brot taglich von)
我らの罪をおゆるしください (Bitte vergib die Sunden unserer)
我らも人をゆるします (Auberdem konnen wir die menschliche)
我らを誘惑におちいらせず (Ohne in eine Versuchung fur uns)
■からお救いください (Bitte erlose uns von dem ■)
 創造 (Briah―――)
晃世界 主の祈り (アールヴヘイム―――パティームノスティア)」

彼の創造が今このときを持って顕現する。今ならば彼は藤井蓮もエレオノーレ・フォン・ヴィッテンブルグも斃すことが出来る。彼の創造こそ突き詰めれば相性に左右されるものであり、彼等二人相手には相性が良いといえるのだから。
だからこそ、誰もがこの場でアルフレートを警戒した。蚊帳の外に置いていかれた螢ですら彼に警戒をせざるえなかった。故に誰もがその登場に驚き止まった。

屋上の床を突き破って、突如現れた巨人兵。誰もが一瞬反応が遅れる。臨戦態勢を総ての方向に最大限警戒していたアルフレートですらそうであった。故に

「―――がぁ!?」

吹き飛ばされる。雷(インドラ)と大剣の攻撃の直撃をアルフレートはもろに受けた。一瞬、その一瞬にトバルカインに弾かれる程度の攻撃だが反撃出来たのは、一重に彼の実力とも言えよう。だが、それでトバルカインを止めることなど出来ず当然の様に大打撃を受けた。その攻撃によって負った体はヴィルヘルムのときよりも重症だった。
アルフレートは不意打ちに弱い。認識している敵に対しての攻撃を最小限に逸らし、防ぎ、押さえ込むのが彼の戦闘方法なのだから。故にこの結果、アルフレートは血塗れとなり、その元凶となった人物の名を叫ぶ。

「リザ・ブレンナァァァッ―――!!」

影は闇は粒子は■は蠢き立つ。殺してやると、その身を蹂躙して、砕いて、犯して、穿って、潰して、喰らってやると。怒りを顕に顔を押さえながら叫びだす。もう既に死んでいる?お前が殺した?知るか知るか知るか知るか!!俺(・)がアイツヲクラッテヤル。

「そこまで無様な様子を見せればもはや獣だな、シュライバーとでも戯れてくれば如何だ?」

エレオノーレがそんなことを言う。確かあいつもリザと同じBDM(ユーゲント)の所属だったな。だったらアイツモドウザイダ。アイツノチニクヲジュウリンシテヤル。
憤怒が思考を支配する。傲慢が頭を冷やす。強欲が彼女を支配しろと叫ぶ。色欲が彼女をメスのように扱えと叫ぶ。暴食が喰らい尽くせと言う。嫉妬が敵の力を奪えと言う。怠惰はそれら総てが如何だっていいと思考を止める。

「お前から殺すぞエレオノーレ?」

「やって見せろ、吠えるだけの獣畜生が」

共に全力、ここで動けばエレオノーレは創造を使うだろう。アルフレートはそれごと喰らおうとするだろう。そして、そこで構え動き互いに攻撃をしようとしたところで、

「―――双方引け」

そこでまずエレオノーレが動きを止める。獣になったアルフレートは身体を竦めるもすぐさま駆けれるようにする。

「ここでこれ以上の流血に意味はない」

今度こそ完全に内で渦巻いていた感情の獣が死ぬ。今これには勝てない、絶対に。理解した獣は瓦解した。

「聖槍十三騎士団黒円卓第七位ゲッツ・フォン・ベルリッヒンゲン……懐かしいな、兄弟」

彼が現れアルフレートが落ち着きを取り戻してみれば既にトバルカインは螢を連れ逃げきっており、下を見ればヴァレリアが少し呆然としていた。

「退けザミエル。ここが潮だ。おまえの任務とやらは果たしたのだろう。先程までのおまえの戦いは私闘の部類だ。
貴様もだアルフレート。俺はおまえを好かんがこれ以上の闘争に意味はあるまい。
双方もし、聞き分けず、退かぬというなら……」

「……了解。了解だ、心得ているよ英雄殿。まあ、少し熱くなったのは認めるがね。性分だ、許せ」

「申し訳ない、ゲッツ殿。行いには対価をと言いつつ自分がそれを守れぬのであれば意味を成さないな」

「私を呼び捨てにしながらマキナにはゲッツ殿か、つくづく様々な方面で馬鹿にしてるかのようだな」

「そんなつもりはないさ。気に喰わないと言うなら言い直すがエレオノーレ殿とでも」

「怖気が走る。そのような戯言は止めろ。それよりも鼠がいるがどうする?」

鼠、ヴァレリアはエレオノーレに等々見つかる。そして、エレオノーレはその処分をしてくれとマキナに話しかけていた。

「それはおまえの不手際だろう、ザミエル。私刑も構わんが、俺に頼るな」

「そう言うなよ。私が聖餐杯に手を出せんことは知っているだろう。貴様がご執心の小僧はあれで、中々良いぞ。決戦に便宜を図ってやる。手を貸せ」

「ああ、楽しみにしていいよ。彼は本当に良かった」

「…………」

アルフレートはその場に残り、二人の騎士は消え去る。

「本当に厄介だな彼らは。これは|白化(アルベド)にするのが最善かな」

闇夜に彼は白を選んだ。その結末は未だ誰にも分からない。いや、或いはメルクリウスなら分かるかも知れないがどちらにせよ、今宵における、藤井蓮にとっての|恐怖劇(グランギニョル)は終わりを迎えた。

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