小説『影は黄金の腹心で水銀の親友』
作者:BK201()

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第十七話 教会での結末



前書き

六つ目が開いたからアルフレートと分体の実力も高くなってる。とはいってもアルフレート消耗してるし、分体の実力は明らかに差があるんだけどねwww

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「残念、それは無理だ」

ナウヨックスの野郎がそういって教会から出てきたのを俺は確認した。

「どういうことだァ、オイ。返答しだいじゃテメエをぶっ殺してやるぞ」

今の言葉に嘘偽りは一切無い。シュライバーとの戦いで消耗したことに変わりは無いが、今の高揚した感情の中で抑えきれないものがあるのも事実だ。そして今のナウヨックスが疲弊していることは俺の目でも明らかだ。
何があってそうなったかに関してはどうでもいいが、俺の勝ちを奪い去ろうってんなら容赦する気はねえ。

「いやいや、事実だよ。君は残念ながらライニ…ラインハルト殿に認められるような英雄の容ではないんだよ。君のその創造のあり方では。
ああ、だからといってそう悲観することはない。八つ開けば当然、恩恵は受けれるんだからそれまでの辛抱というだけの話なんだよ」

「なあ、ナウヨックス―――そりゃァ喧嘩売ってるって受け取っていいんだよなァ?」

俺が『あの人』の牙になれないだと。戯言を抜かすんじゃねえ。

「いいや、そんなつもりは無いけど君は白になれないということは替えようの無い事実だというだけの話なんだよ。勿論、ラインハルト殿の牙として認められては居るだろうし、その勝利を奪うなどという無粋な真似はしない。
だけど、彼のことを意志を汲んでくれるのなら白の証を譲って貰いたい。
了承してくれるなら……そうだな、君が気に掛けていた彼、司狼だったかな?彼との戦いの場を整えることを約束しよう」

「ハァ?テメエそれ本気で言ってんのかァ?それとも六十年、眠ってボケたのかよ」

白を譲れだ云々は置いておくにしてもこいつの意図するところが見えねえ。いや、そんなこたぁ前々からそうだったが、それにしたってコイツがこうもまくし立てるように交渉するのは珍しい。

「解せねえな…、いつものテメエらしくねえじゃねえか。テメエなら口八丁手八丁で俺を誤魔化すなんざいくらでも出来るだろうに」

「それをする余裕が無い位には焦ってるのさ。今の僕は消耗してるんだよ。だから急いている。対価は惜しまないつもりだ。だからこそ白を譲って欲しいんだけどね」

なるほど、これほど消耗してるのも苛立ってんのも納得は出来た。確かにコイツに恩を売っといて損することはねえだろうな。だけどよ、

「俺がそんな提案に頷くような野郎だと思ってんのかァ?そういう交渉はよォ、マレウスやブレンナー、クリストフの野郎にでも言ってこいや」

「交渉は…決裂かな?」

「決まってんだろ、それともここで死ぬかァッ!」

右腕を振り上げ、ナウヨックスの心臓を貫く。何らあわてる様子もないナウヨックス。それに一瞬、疑問を持つが既にその腕はナウヨックスを貫通しようとしている。

「まあ、そう慌てなくてもいいだろ?ちょっと止まりなよ」

「なッ!?」

ナウヨックスに当たる直前で俺の腕が止まる。どういうことだ?

「テメエ……何しやがった……ッ」

「いや何、たいしたことじゃないよ。君はティベリウスを取り込んだだろう。彼自身の忠義は本物でも、彼を現界させた僕は君に対して……というよりも分体に対して一定以上の信頼をしていないんだ。仕掛けは施してあって当然だろう。君は一時的に、ほんの僅かな間だけど僕に害なすことは出来ないんだよ。
(とはいっても発動する効果対象が分体そのものじゃなく、そいつを喰らった聖遺物持ちにしか効果が無いんだけどね)」

「……どうするつもりだ?俺を殺す気か?」

いや、認めたかねえがコイツがそんな安直な方法を取るとは思えねえ。だとすると何をする気だ?

「いいや、そんなことをするつもりはないよ。君の後ろで未だにもがいている白騎士を喰らうだけの話だよ。そうすると水騎士(アグレド)としての役割を果たすことが出来るのさ。代替の三色の騎士として機能できる。それを邪魔しなければ言いだけの話なんだよ」

「そういうことか……今ままで、俺はテメエが何なのかは気にしたことも無え。いや、今も気にしちゃいねえんだが……そういうことなんだな。テメエはクラフトの同種だったってワケか……」

「ん?同種?やだなあ、彼とは確かに信頼しあえる仲ではあるけど同種ってどう言うことだよ?僕は彼みたいな趣味、性癖は持ち合わせていないんだけど?」

「ああ、アァ、いいんだぜ。別にテメエがクラフトの野郎と同類だとか同属だとか言いたいわけじゃねえよ。俺はあくまで同種だってことを理解しただけだ」

クラフトの野郎は蛇だ。それが理解できりゃ、ある意味コイツが何なのかも理解できる。だが、コイツ自身はおそらく気付いちゃいねえんだろうがな。だったら利用させてもらおうじゃねえか。

「ともかく、気にすんじゃねえよ。俺は気にしちゃいねえ。別に同種だからってテメエがアイツと同じワケじゃねえんだ。俺は俺の好きなようにやらしてもらうだけだ。いいぜェ、今更だがテメエの条件受け入れようじゃねえか。七面倒なことしなくてもいいように俺とアイツが戦える状況を整えてくれんだろ」

俺の突然の心変わりにナウヨックスは困惑している。なに、たいした理由じゃねえよ。テメエは気が付いちゃいねえだろうが俺にとってもこの交渉にテメエが考えていること以外の得があっただけの話だ。

「まあ、受け入れてくれるならありがたいよ。じゃあ、その拘束も解くとしよう」

そういって俺の体を内側から拘束していた何かが消え去る。拘束された感じからして多分こいつはそう何度も使えない。俺の体にあるティベリウスの聖遺物が完全に馴染んだら効果が無くなるんだろう。ならそれまでの間、待ってやらいいだけの話だ。



******



シュライバーの魂を喰らいながら僕は疑問に思っていたことを聞く。

「そういえばあくまでも客観的見解なんだけど、君は一体どうやって彼を斃したんだい?」

いかに『死森の薔薇騎士』が白騎士に有効な手段だとしても魂の総量で劣っていることに変わりは無い。結局はジリ貧で長期戦になれば勝てないのは必然だ。それに対する解は僕にとっても予想だにしなかったものだった。

「は……二重の創造?」

「あ?テメエが仕込んだんじゃねえのか?『分体』に聖遺物持たせてんだから出来んだろ」

間違ってもそんな機能、僕は仕込んだ覚えは無い。それどころか聖遺物を二つ持つとかいうことにすら関与していないし。

「いやいや、そんな設定した覚えはないよ。そもそも聖遺物を二つ持つことだって出来ないはずだよ。いや、待てよ……君につけた分体はティベリウスだったよね。だとしたら……」

不可能というわけじゃない。あれはあくまで聖遺物の仕組みを利用した贋作という捕らえ方をしていたけど、彼にはヴィルヘルムに仕え尽くしたいという渇望だったはず。なら容そのものが同じとまで言わないでも似通った物にはなるんじゃ。

「だとしても創造を二重に発動させるのは無茶が過ぎる。二つ目の聖遺物を手に入れた時点で規格の合わないスポーツカーに飛行機のエンジンを積み込んだような状況なのに、その上で創造なんてニトロを起動させたようなものだよ。
だからこそ警告しておく。その二重の創造は使うな。いや、使うことが不可能だというべきだろう。君はあの環境での戦闘下だったからこそできた所業だ。これは推測に過ぎないけど白騎士との戦いであり、ティベリウスが完全に消滅しきる直前だったからこそ君は魂を維持させることが出来たんだと思うよ」

「つまりは俺がアレを使うことはもう出来ねえっていうのか?」

「そう捕らえて構わない。事実、二つの聖遺物を持っている現状ですら危険な状態だと言ってもいいんだから」

二つの聖遺物を持つことが出来るのは二つ目の意志を分体として用意させているからこそだ。しかし、今のヴィルヘルムはティベリウスの意志を完全に喰らい尽くしてるから意志は一つしか存在していないことになる。
いつ拒絶反応が起きるかもしれない今の状況は正直避けて欲しいところだ。使える駒が減ってしまうかもしれない。だがまあ、だとするなら駒として使えるうちに酷使すればいいだけの話だ。直に夜も明ける。明日にでも残りのスワスチカが開かせるとしよう。ジークハイル・ヴィクトーリア―――



******



「なあ、遊佐司狼。このままだと二人して捕まったままになるけど如何しようか?」

ティトゥスは事なげも無くそう尋ねる。パシアスによって司狼と共に捕らえられているティトゥスだがその顔には笑みが浮かんでおり今の状況を楽しんでいるようにすら見える。

「如何するってもなー。まあ今のまんまじゃ先輩は助けれられないよな。何か手あるか?」

「向こうは影を使ってるんだよ。だったら自ずとその対策も立てられるのさ」

そういって縛られた後ろ手から缶のような物をパシアスの死角になるようにしながら見せる。司狼の知識が間違っていなければ確かにそれは閃光手榴弾だった。

「オイオイ、ちょっと待てよ。照らした程度でどうにかなるもんじゃねえだろ」

ルサルカから聖遺物を奪ったことで得ている知識から確認する。確かに現実に影を方向さえ間違えなければ影は遠ざかるだろう。しかし、あくまでそれは普通の影である場合だ。魂が直接影に込められている『食人影(ナハツェーラー)』に対して光の位置は関係ないといえる。しかし、ティトゥスはそれを否定した。

「それはパシアスが食べちゃった中身の能力だよ。俺ら『分体』が持つ能力はいっちゃ何だけど猿真似みたいなものさ。だからあの影も現実の縛りを少なからず受けている。そうしないと形を保てないからな」

「って言うことはアイツにはそれが効くって事か?」

若干の期待を込めて司狼はティトゥスに問う。うまくすれば目の前の女を斃して玲愛を救うことが出来るかもしれない。しかし、その期待は他ならぬティトゥス自身の発言によって否定される。

「無理だな。彼女が幾ら油断しても今消耗している俺らだけじゃ氷室玲愛を抱えて逃げれないさ。片方が囮になれば別かもしれないかもしれないけどね」

「じゃあ、オレがおと「いいや、俺が囮になるよ」……そんな事いうなら勝算はあるわけだな?」

「ああ、分体のことは同じ分体が良く知ってるってことさ。あと、現界してからあんまり経っていないからね。地下道がどうなってるのかわかんないんだよ。まあ、気にしなくても問題ないよ。すぐに彼女を斃して外から堂々と出させてもらうからさ」

そう言って司狼の返答を聞く前に閃光手榴弾のピンを引き抜く。
瞬間、空気が爆発するような音と共に光が教会を埋め尽くす。突然の閃光に拘束していた影が崩れる。

「喰らいなッ!!」

司狼のデザートイーグルがパシアスを玲愛に近づけさせないために牽制を放つ。

「早いとこ逃げなよ。彼女、嫉妬深いからね、って!?」

「ごめんなさいねぇ〜、彼女は渡しちゃいけないらしいから」

「チョットチョット、そりゃないでしょ。こっちの苦労も考えて欲しいんだけどさあ」

近づけさせないために放った牽制は意味を成さず玲愛はパシアスの腕の中に納まる。そしてそれを止めることが出来なかった二人。何故、と疑問に思うと同時に奪い返すための次の一手を打とうとするが、

「くッ!?」

「ッやっるねぇ!容赦なし!?」

複数の影が攻め手を緩めることなく襲い掛かることで二人とも近づくことが出来ない。何故こうも差が出てくるのか。単純な話、六つ目のスワスチカが開いたからだった。
基礎能力がスワスチカに左右されるアルフレートの分体である以上、スワスチカの数で力の差が出てくるのは当然であり、ましてルサルカの魂を奪い取っているパシアスは司狼、ティトゥスは勿論、下手をするとアルフレートよりも現状上回っている可能性が高い。
そして、ティトゥスはアルフレートの管理下から脱却した以上、基礎能力が上がることは無い。故に敵わないことを察知した司狼とティトゥスは躊躇わず撤退の判断を下す。パシアスは面倒なのか追う様子を見せず司狼達は地下道を通じて逃げ出すことに成功する。

「チッ、先輩を連れてこれなかったか。しかし、一体ありゃどう言うことだよ。先輩をどうやって自分のとこに持ってきたんだ?」

「嵌められだんだろうね。影に実体を持たせていたんだろうさ。それですぐに手元に手繰り寄せたんだと思うよ」

駆け足気味で警戒しながら移動する二人は玲愛を助けれなかったことを悔やみながらも原因やその後の行動、疑問の解消を行う。

「で、お前はいつからオレのなかに居たんだよ?」

「意識が覚醒したのは四つ目が開いたときだけど居たのは学校で話してたときからだね」

「なるほどな。あのヤロウ忠告だとか言っといて騙しやがったな、クソッ!」

六つ目のスワスチカが開き、物語は佳境を迎えるが役者は様変わりを呈する。夜は明け、時は満ち、誰も予想しない、予測できない物語の幕を引くのは誰になるか。今は誰にもわかりえない。




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後書き

分体がそれぞれのメンバーに取り憑いたタイミングはアルフレート自身に最初から、神父は五話の後半、ヴィルヘルムは九話で腕に貫かれたとき、ルサルカは八話でボコッたとき、司狼とは八話の雑談時に。実はあと一人、取り憑いてる相手が居るけど未だに目を覚ましていない。

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