小説『影は黄金の腹心で水銀の親友』
作者:BK201()

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第十九話 強奪と僅かな休息



前書き

ハーメルンに息抜きの為に書いた短編のISの作品を投稿しました。もし良かったら読んでください。タイトルは「Ill Sinner 御旗楯無も御照覧あれ」です。

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アルフレートと螢の戦いは結果を見ればどうみても螢の大敗だった。トバルカインの聖遺物はカリグラに奪われ、アルフレートに向けて放った攻撃はまともに通ることもなかった。
アルフレートは螢に対して軽くあしらうように相手にしていた。無論、本来ならそこまでの差が出ることは無かったのだろうが状況が悪すぎた。一分でも早く、一秒でも早く決着をつけなければならない。そんな状況下で勝てるほどアルフレートは甘い相手ではない。

「君はこの場において敗者となった。トバルカインを救うには至らなかったということだ。しかし、それでも尚、諦めきれないというのならスワスチカを開いてラインハルト殿に懇願すればいい。彼を生き返らしてくれ、と。尤も彼の手によって生き返るということがどういうことなのか理解している今の君に出来るかは疑問だけどね」

「ふざ、けるな……ッ!」

唇を噛みながら搾り出すように声を出す螢。彼はそれを一瞥しただけで先程までトバルカインだった者―――今はもうカリグラというべきだろう―――人物を見る。そして気付いた。

「全く、あの女はどこまで警戒してたのだか……流石はバビロン・マグダレーナというべきか。ヴァレリアとエレオノーレを警戒してのことだったんだろうな。尤も剣だけ残っても継承する人間が居ないのなら意味が無いだろうに」

(問題はこれが故意に起きたことなのか偶然なのか。隠していたのは確実だろうけど厄介だな)

そう言って彼はカリグラの持つ「黒円卓(ヴェヴェルスブルグ)の聖槍(・ロンギヌス)」の内側に存在した剣を出すように命令する。自分の主であるアルフレートの命令を聞いたカリグラは己の物となった「黒円卓(ヴェヴェルスブルグ)の聖槍(・ロンギヌス)」の内側を確認し、その剣を取り出した。
その見た目は剣というよりも歪な形をした軍刀だった。騎士の剣というに相応しい風格を有しており、アルフレートですらそれを見て懐かしさと同時に「ほうっ」と感嘆の溜息をつく。
そしてアルフレートに手渡されたその剣はフリードリヒ三世の宝剣を素体とした十一年も前に死んだであろうベアトリス・キルヒアイゼンの聖遺物であった。

「何、で……?」

アルフレートは興味深げに反応しただけだが螢はそれをみて驚愕した。姉のように慕っていたベアトリスの剣がトバルカインの剣に取り込まれていた。それが意味することを予想してしまい彼女は愕然とする。

「さあ、十一年前にこの町に居なかった僕には分からないけど、君なら分かるんじゃないかな?」

そう、呪を持つ剣に取り込まれていた。少なくとも櫻井螢はそこから推測できる出来事は一つしかなかった。

「嘘よ!兄さんがベアトリスを殺すなんて…そんなの絶対、認めないッ!!」

櫻井螢という人物は誰よりも諦めが悪い。だからせめて彼を斃してカインを取り戻したい。そう思い再び剣を構えてアルフレートに向かい合う。

「ハハハ、認めないねえ。いいよ、別にそれでも。そう思いたいならそうしなよ。なんならこの剣も君に上げようじゃないか」

そういって手に取っていた剣を投げ螢の目の前に突き刺さる。あっけに取られる彼女だが反射的にそれを手に取り、抱くかのように胸に抱える。

「何故、って聞こうとするなよ。さっきから疑問しか発して無いんだから少しは自分で考えなよ」

先にそう忠告された彼女は疑問を発することが出来ず、しかし疑問を解消できなくなり如何した物かと困惑していた。それを見かねたのか彼は仕方が無いとばかりに答える。

「はあ、カリグラにとって聖遺物が二つあったところで使えんよ。呪を押さえ込むので精一杯なんだからな。僕や他の分体も聖性に対する耐性を持ちえない。だから僕達にそれを使うことが出来ない。圧し折っても構わないんだけど、その必要性も感じない。持ち手がいない聖遺物にまで気を掛ける必要なんて感じないからね」

そう言って彼は剣を握っていた右手を見せる。その掌はただ握っていただけにも拘わらず火傷を負っていた。
そして理由を言ったからこれで話はお終い、とばかりにアルフレートは公園から出て行こうとする。当然、櫻井はそれを止めようとするが止めることができないままに彼はカリグラをつれてその場を離れていった。
後に残ったのは最初にトバルカインが抉った地面と一人静かに涙を流す櫻井だった。



******



―――昼・ボトムレスピット―――

俺は神父とクラウディウスの三人でアルフレートと三騎士に対抗するための作戦を練っていた。
実際、戦力的には六つ目が開いてる時点でアルフレートの実力は三騎士と同等のものになっていることを含めて考えると勝率は低い。俺自身一度、実際に赤騎士に敗北している。クラウディウスは自身の戦闘技能が低いものであると明言しており、神父に関しては未知数ではあるが、少なくとも複数人を相手に勝てるほど甘くは無いのだろう。

「で、結局は櫻井の手を借りることは出来なかったわけだが如何する気だ?」

彼我の戦力差は三対四。その上実力的にもこちらが下回っている。となれば取れる策も自ずと限られる。

「策としては大別して二つ。各個撃破と一点集中のどちらかでしょうね。そして我々は最低でも二人を倒さねばならない以上、例え戦力が戦力で劣っていようとも各個撃破をとるしかありません。であれば後は誰が誰を相手にするかにかかっています」

「今の状況じゃ俺たちの内、誰か一人は二対一になるってことだよな?」

「だとしたらその役目は私が負うべき役割でしょう」

そういって現れるクラウディウス。二対一の状況を自ら受け入れる。それはつまり自己の死を理解したうえでの発言だろう。勝率を計算して、その上で最も勝てる可能性が高いものを選んだだけなのだ。その先にたとえ自己の死があるとしても。

「貴方の覚悟に水を差すようで悪いのですが、貴方ひとりで果たして四人の内の二人も足止めできるのですか?貴方自身が言った発言ですが貴方は戦闘向けではないのでしょう。ならば我々がまだ戦っている間に貴方だけ敗れて我々二人は同時に二対一になることも押して知るべしです。些か無謀では?」

そう、確かに戦略としては最も弱いクラウディウスが時間稼ぎに徹するのは正しい。が三騎士もアルフレートもこの場において弱者であるクラウディウスが時間を稼げる程、甘い相手ではない。

「でも、実際それしか手はない。一対一ですら勝てるか分からない相手に二対一なんて無謀だ。それを理解した上で話してるんだから足止めの策ぐらいあるんだろ?」

「肯定です。アルフレート一人に関してならその場に完全に釘付けすることが出来ます。そうすれば後は三騎士の一人を足止めするだけです」

敢えて三騎士の一人を足止めする事を『だけ』と豪語するクラウディウス。それは自らの命を犠牲にしてでも止めるという決意だと二人は感じる。

「貴方がそこまで言うのならばわかりました。アルフレートと三騎士のうちの一人は任せます」

その後も三人は今夜の戦いのために策を練り続け、蓮は司狼がここにくることを待ちながら英気を養っていた。



******


―――昼・病院周辺―――


司狼とティトゥスは教会から逃げ切った後、病院の近くまで来ていた。教会から遠目で見て破壊されていないことからもしかしたらスワスチカが開いていないかもしれないと希望的観測をもってきたのだが、

「こりゃ洒落にならねえな」

「全くだね」

ティトゥスが近くのコンビニで買ってきた飲食物をティトゥスと司狼は食べながら病院をみているのだが、

「やっぱ如何みても開いてるよなー。っていうか俺らはともかくここにいる奴ら全員やばくねえか?」

「そうだね、実際問題やばいどころじゃないよ。君みたいな馬鹿はともかくここにいる一般人、ましてや患者にとっては下手すれば死ぬ結果になるだろうしね」

「馬鹿ってお前な……まあ、香純の奴が居るみたいだから連れ出しては来たけど如何っすかね〜」

司狼の座っているベンチの隣には寝ている香純が居た。発言どおりティトゥスがコンビニに行ってる間に病院に忍び込んで連れて来たのだ。勿論無断で。

「後先考えずに行動して獣みたいに幼馴染に欲情してつれてきた君は充分馬鹿の類だと思うけど」

「阿呆、オレがコイツなんかに勃つかよ」

「ほう、じゃあ男に興味お有りで?俺にそっちの気はないから勘弁して欲しいなー。それとも藤井蓮だったかな。彼一筋?」

「テメエな…これ以上ふざけるなら潰すぞ」

「おっかな〜。分かりました、分かりましたよ……で好みは胸の大きい子?」

ジャキ

銃口がティトゥスの額に当てられる。撃たれることはないと分かっていても、いや待て、こいつだったらマジで撃ちそうな気がしてきたと冷や汗を流すティトゥス。流石に不味かったかと思い謝ろうとすると、

「あえて言うなら尻が柔らかいほうだな」

してやったりといった感じのいい笑みを浮かべている司狼だった。

「参った、参りました。もうからかわないから」

両手を挙げて降参を示すティトゥス。冗談だと笑うがティトゥスには冗談に見えなかった。

「っとまあ、無駄話してる暇ねえよな。俺とお前はともかく香純にはちっとばかしきついだろうからな。とりあえずどこに行きゃいいかね」

「彼女の住んでる場所でいいんじゃない?休ませれるベットがあるような場所なんてそうそう無いんだし」

「じゃあついでにそこで待ってるとするか。蓮のやつが香純探しに来るとしたらそこに行くだろうしな」

互いが互いに行くだろうと予測した場所に向かった結果、皮肉にも司狼も蓮も会えること無く昼を終えることになる。



******



―――昼・教会地下―――

煙草を吸うザミエルは目に見えて不機嫌な様子だった。誰が原因かと言えばアルフレートその人である。病院での先の戦い自体は自分なりに終わった物と既に認めている。それに関して彼女が不機嫌なわけではない。彼女が不機嫌な理由は今、自分の円卓の前に置いてあった書置きと一つの皿だった。

『現世への一時的な帰還お疲れ様です。つきましては故郷の味を思い出して頂きたくケーキを焼いておきました。是非御賞味を アルフレート
追伸 茶葉は棚にしまっておりますのでそれと一緒にお召し上がりください』

「何をしているのだ、あの馬鹿者は……」

頭を押さえ、相変わらず女々しい真似をと思いながら流石に食べ物自体に罪は無いと思い、一応追伸通り茶葉を用意し紅茶を入れることにする。

「ザミエル、俺にも頼む」

そしていざ茶葉を出しお湯を沸かそうとした段階でマキナが現れた。

「何?貴様もか」

「ああ、俺の机にも同じようにおいてあった。お前のとは種類が違うようだが茶葉の方は一種類だろう」

「ああ、その通りだ。いいだろう、紅茶の一杯や二杯さして変わるまい」

教会の地下、ザミエルとマキナ、ついでに玲愛による三人の奇妙な茶会が開かれた。




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後書き

最後のはぶっちゃけはじけました。まあ、最初の螢とアルフレートのお話以外はあんまり重要な話じゃないし。そういえばふと思ったんですけどザミエル卿って料理できなさそうですよね。お湯沸かすぐらいなら出来そうだけど、なんか「火力が足らんわァッ!!」とか言って自分で沸騰させそうな気がするのは俺だけだろうか。

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