小説『影は黄金の腹心で水銀の親友』
作者:BK201()

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閑話 神父と兵卒




前書き

この時点で分かってるでしょうがこれはフラグです。やっぱり死ななかったみたいな展開ではないから安心して読んでください。

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俺はまあ栄えあるドイツ軍人だが今日より収容所勤務になってしまった。俺としては前線にでて同胞と共に祖国の為に戦い抜き、あわよくば昇進したいものだが、まあこれも祖国のためではあるので真面目に仕事はしようと思う。というわけで愚痴を書きなぐるメモを用意した。これで書きたいときに上司の悪口が書ける(笑)


1941年2月17日
我らがゲシュタポの方々が新たに教会の神父をひっ捕らえたらしい。ようこそアウシュヴィッツ=ビルケナウ強制収容所へ。まあ、コルベだとか言うドイツ名のポーランド人に他四人の神父(むろんこいつらもドイツ人じゃない)らしいが栄えあるドイツ人に生まれ無かったことを後悔してればいいさ。
それにしてもナチ批判の日刊紙なんざよく書いたもんだな。とっとと死んじまえ。

同年3月中旬
どうやら捕まった神父殿(笑)は囚人共に聖書を読み上げてるらしい。ご苦労なことだ。上司は煩いから黙らせてこいというがそんなに鬱陶しいなら自分で行けと思う。まあ、鬱陶しいのは事実なんで、ユダヤ人どもを何人か見せしめ代わりに叩いてやったら黙るようになった。いい様だ。

同年4月上旬
ユダヤ人は愚かポーランド人ですら頭は猿以下らしい。見せしめに叩いたのは先月だってのにまた聖書が読まれてるらしい。面倒なので今度は神父のほうを叩いてやった。もちろんポーランド人だ。俺はドイツ人は叩かないからな。

同年6月上旬
叩いてないドイツ人のほうの神父と話してみたがそれなりに面白い奴だとわかった。魔術が如何とかハーケンクロイツの意味だとか色々とオカルト染みちゃいるが祖国への愛国心は人並みにあるらしい。トーゥレ協会にいたらしいが37年に無くなってそれ以来、神父をやってるらしい。曰く蛇の道は蛇だとか。コイツはドイツ人だし上司に話して釈放してもらってもいいかもしれん。

同年7月下旬
脱走者が出たらしい。らしいとは言ってるが前に書いてたドイツ人神父だ。周りの看守からもドイツ人であること含めて気に入られていた。オカルト話は良い酒の肴になったしな。どうやらそれが原因で十人ほど飢餓刑になるらしいがポーランド人やユダヤ人ばかりだからどうでもいいことだろう。

1943年1月20日
二年近くたってようやく職場が変わった。次の職場は南東の前線らしい。人並み以上に出世欲も愛国心もあるから前線に配属されてむしろ嬉しいくらいだな。

同年3月
あの神父と久しぶりに出会った。まだ生きていたのかとも思うと同時にこんな前線で何をしてるんだとも思った。まあ、お互いに顔合わせぐらいはして時々話し合うぐらいの仲にはなれた。でも脱走者だから一応犯罪者だよな?

同年4月
神父の今の職業は従軍司祭みたいなものらしい。まあ、結構大変な職業ではあるだろう。何せここは前線だ。死人なんて出まくる。まあ、だからこそ脱走者でも就けたんだろうが。

同年6月
アイツのいっていたオカルト話に巻き込まれそうになった。ヤベえよ。何だよアレは。戦車の主砲の直撃を受けてもビクともしないわ、何も無い所から砲撃みたいなの撃つわ、訳のわからんものばかりだった。結果的にはそれのお陰でこっちの戦線は持ったけど正直冗談じゃねえな。

同年7月
俺はオカルトの犠牲者の一人になった。訳分からんもんにぶっ飛ばされて脚の骨や肋骨が折れたらしい。こうなった輩の大概は前線から帰らされる。そんで田舎に帰るのが普通だ。笑えねえ。



******



「あっ?何だって?」

神父の奴が見舞いに来てまたオカルトやら何やらの話をしにきた。

「ですから私ならあなたを治療できるやもしれぬ、といったのだが」

「あー、またいつものオカルト話な。そういうのはあるって分かったし出来るんだろうけどよ、いらねえよ。そんなもん」

そういや、俺コイツのこといつも神父神父いってるけど結局名前もしらねえな。

「何故なんです?あなたの目の前に助かる方法があるというのにそれに何故縋ろうとせんのだ?」

「そりゃあオカルトが在るのは知ったけど俺は普通に生きてたいんだよ。オカルト何ざ真っ平ゴメンだ。この傷でも実家の田舎に帰ってやれる仕事何ざいくらでもあるしな」

普通に生きて普通に死ぬ。人間生きてりゃ知らないほうが良いってもんもたくさんあるだろうよ。

「だがその考えは矛盾しています。既に知ってしまっている以上、それに頼って生きていくのが普通だろうに。普通なんてものはそもそも自分を基準に決めるべきものでしょうし」

そっからまちがってるだろう。普通ってのは俺からしたら社会が決めるもんだし。何より、

「矛盾してて何が悪いのさ。別にいいだろ。世の中は矛盾で罷り通ってることなんざぁいくらでもあるんだからよ」

笑ってそう言ってやった。




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後書き

神父=クラウディウスです。今回は何も知らない第三者からの視点。典型的なドイツ主義の下っ端軍人です。これで次話への複線は完了だ。

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