小説『影は黄金の腹心で水銀の親友』
作者:BK201()

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閑話 死者(四者)は何を夢想するのか




前書き

前の話を含めての二話連続投稿なのでご注意を。

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【カリグラ】

元々カリグラの基となった俺という人物は親衛隊髑髏部隊の一人だった。餓鬼の頃から親父は居なくて、お袋は酒や薬(ダウナー系の依存性の低いものだったが)に溺れて娼婦をやっていた。お袋は俺のことを育てることは殆ど無く、俺の世話をしてくれたのは母方の伯父とお袋の職場の他の娼婦だった。
娼婦には学自体は無くとも世渡りの知恵というものが有り、そういった事を細やかに教え込んでくれた。
一方で伯父の方は直接的な金銭面での手助けをしてくれた。尤も伯父は俺の事を嫌っており、俺みたいな餓鬼の為というよりもお袋の為に仕方なくといった様子だったが。
そんな俺が親衛隊髑髏部隊に入れたのは運が良かったとしか言いようが無い。来るべき大戦の為に多くの兵士を登用していたのも理由の一つといえるだろう。

******

戦争が始まり本来なら役職上の都合で戦線に立つことは早々無いものであったが、戦局が傾きだし、持ち直した赤軍とそれに乗じて反撃を繰り出してきたイギリスを主軸に据えた連合軍によって、そして何より拡大しすぎた戦線によって本来なら後方の人間である俺も戦場へと立たされたのだった。
別段、憤りなどと言ったものは無く、むしろ武功を立てると言う意味で俺は意気込んでいた。戦いは一進一退の攻防を見せたものだ。勝つときもあれば負けて撤退するときもあった。
だがそんなことよりも俺を苛立たせたのは俺の考えていた以上に人間というものが屑だったことにだった。たかが生まれで優劣を決める考えも、戦争だからといって何もかも虐殺するかのように殺すその精神性も、泣き叫ぶ母娘を陵辱する畜生のような生き方も何もかも気に入らなかった。
そして、それは敵も味方も関係なかった。赤軍も連合軍も同盟国の軍隊も自分達を誇りある存在などと勘違いしたドイツ人でもそうだった。

「俺は違う。あんな屑みたいな輩とは俺は違うんだ」

悪態を吐きながら俺はまるで獣と変わらない、いや獣以下の屑どもを見下だしていた。餓鬼の頃から屑みたいな両親のせいでそういった相手を俺は嫌っていた。
当然、俺のそんな態度が気に入らない奴等もいたが俺はそんな奴等を全部無視していた。だが、だからこそなのか俺に絡んでくる奴はかなり多かった。

「なあ何生意気にこっち無視してんだよ。少しは先輩の顔を立てるぐらいのことはし―――グバァッ!?」

「テメエ!?」「ヤロウってのか!」

だからこういった輩が来るたびに殴り飛ばしてやった。相手は大概三人、多くても五、六人だ。余程の相手が居ない限り最初にリーダー格の奴を殴り倒せば大概何とかなった。
しかし部隊長はそういった行動を取る俺の扱いに困ったらしい。だから俺は単独任務での戦いが自然と多くなった。別に気にするほどの事じゃない。
単独であっても大概戦場ではどいつもこいつもバラバラに行動することになるのが殆どだからだ。俺自身別に個人で行動して困ったことは殆ど無かった。

「だからって、こうなることも予測しろってことかよ……」

いや、本当に人間っていうのは屑ばっからしい。まさか気に入らないとかいう理由だけで後ろから味方によって撃たれる事になるとは思わなかった。
事故を装ったものであったとしても味方を撃ち殺したとなれば軍事裁判ものだ。しかも奴等にとっては都合の悪いことに俺はそれなりに戦果を上げていたから余計にそういったことで俺が死ねば問題になる筈である。
だからこそ、その程度の計算は頭に入っているはずだと思った。だが最大の誤算は後ろから俺を撃った人間は頭の良い遠くを見据える視野を持った人間ではなく、頭の悪い短絡的な思考しか持たないチンピラ風情の馬鹿だったということだった。

「クソが、本当に人間ってのは屑だな」

運良く当たりはしなかった。だが一発の凶弾は戦線をあっという間に崩壊させた。考えてみて欲しい。緊迫した戦場の中で互いに撃ち合う距離に入ってもいない状態で突然、味方が味方を撃ち殺そうとするのだ。
周りはパニックになり、その隙を敵は見逃すはずも無い。結果、味方は死んだ。逃げた奴も当然居るがこの状況じゃ立て直すなんてことはできないだろう。逃げた奴等はそのまま戦線を切り捨てて撤退すると予想できた。

「た、たすけて……」

止む得ないので俺も撤退していると負傷して動けずにいる何人かの味方が助けを求めてきた。正直、俺は迷った。
こいつらは俺に絡んだりしたわけではないが、助けようともせず無視していた輩だ。周りに居たような屑と同類。だが俺が此処で見捨てれば俺もまた屑と同じになるんじゃないか。そう思った。だからこそ結果的に助けてやった。

******

暫くたって助けた相手に礼を言われたりした。一緒に酒盛りに行ったり、賭け事をして遊んだりもした。悪くないものだと思ったりもしたが同時にこれまでの空虚さも沁みてきた。悪い気はしない。しかし、良い気分かと言われると分からなかった。俺は生まれたときからずっと好意というものを受けたことが無かったからだ。
父はおらず、母は俺を見向きもせず、伯父はむしろ嫌っており、娼婦は打算か同情の視線で俺を見る。軍に所属してもその評価は変わらない。大概が歓楽街(そういうところ)の出だと分かると避けるか絡んでくるかの二択だ。だから結果的にそれでも生きてこれた俺は好意というものを要らないものだと感じていた。
だがそれでも俺はその感情を好感的な何かだと理解して、暫く経ってから、初めてそれが喜びというものだったということを知った。

******

裏切られた。大したことじゃない。先日助けた相手と同じ部隊として行動し、危険な状況に陥った際に見捨てられた、それだけだ。その部隊は俺とそう長い付き合いがあったわけでもない。
危険な状況になれば最も短い交友関係であった俺を見捨てるのはある意味当然だろう。そういったことは何度もあった。俺を利用して、あわよくば目障りだった俺が死ねばいいとそう思っていたのだろう。そう、何度もあった。そのはずなのに……

「なんでこんなことで俺は……」

涙をいつの間にか流していた。胸の内が針に刺されるような痛みを感じた。何故、何故こうも苦しみを味わう。今までと変わらない出来事だったはずなのに。此れならば、こんな事になるならば、いっそ……


「出会いなど無ければよかった」(出会いなど無ければよかった、かね?)


突如、俺が呟いた言葉と全く同じ言葉が同時に何も無いところで聴こえた。

「―――なッ!?」

(実に興味深い。そして人間らしい。これまでに感情を得なかった。故に相反するようにより大きな感情を持つ。君は最も人らしく生きているよ)

「巫山戯るな!俺はあんな奴等とは違う!!」

人間らしい、だと。いうに事欠いてそれか!俺はあんな他人を見捨てるような奴でもなければ非道を行う下郎でもない!

(その通り。君は誰よりも孤高だ。気高さとそれに見合う誇りを持っている。故に人間らしいんだよ。人は弱い。それを否と断じる為に他者より優れることを望みより高みへと向かう。それを良しとするのが人間の本質だ)

「孤高…誇り……」

(そう、君は生まれながらにして上に立つことを望む人間だ。それは非常に人間らしいことだ。だからこそ望むならば答えよう。契約を結ばないか?その身を昇華させ君は更なる高みに至ることとなる)

そうして俺は死に、カリグラという名を渡され、アルフレートの兵士となった。だが、それは同時に枷でもあった。その高みには上がいる。アルフレートが存在する。だから俺は奪うのだ。奴の地位も力も総てを奪い、更なる高みへと至り、孤高を得る。
そうすれば、もう誰も誰一人として信用する必要はない。たった一人で生きていけるのだと。俺はそう確信している。


【パシアス】

―――私はあの時から彼に永遠にこの魂を縛られることを、愛されることを望んだ。

私が運命によって彼と出会ったのは牢の中でだった。日々を惰性で過ごすことを良しとしなかった私は刺激的な日々を送りたいと感じていた。求めていた非日常。だから私はその娼館で力と情報を集めた。
妹や娘ぐらいの年の後輩の娼婦の世話をして私の元に就かせる。そして、その娘の相手した男性から得た情報を私が集める。勿論、嘘を吐かない様に躾を施して小遣いを与えてやる。
欲しいのは刺激的な日々であって金銭が目的ではないのだから惜しくも無い。そうして得た情報は個々では役に立たなくとも整理すれば様々なものになる。そうしてお得意様相手にそれを売りつける。そうするとまたそのお得意様が新しい情報をくれるのだ。
そうやって集めた情報は危険なものも多くある。でも構わない。私はそういった日々を望んでいたのだから。
だが、そうして過ごして居る内にある日気がついてしまった。この日々に慣れを感じ始めたことを。慣れ、つまりはそれが日常となってしまったということだ。
愕然とした。非日常を求めても日常に陥る。変化しない日々はそれがどれだけ他者から見て異常でも日常と化してしまう。だから変化を求めた。こっそりと危険な情報を持っているのだと分かるように流してやった。変化を求めたからだ。
結果は成功といえた。将校軍人がその噂を聞きつけ利用しようとしたのだ。当時まだ開戦しておらず仮想敵国である連合諸国でのスパイごっこ。断れば死という安直な脅しまでつけて命令してきた。
表立っては怯えて見せたが内心では狂喜乱舞していた。より大きな変化が無ければ今の日常を変える事などできないとわかっていたからだ。
だがその任務もまた数年の時間も持たず日常と化した。どうすれば非日常を永遠に求められるのか、必死になって探し続けた。そこからでた結論は今在る現状の崩壊だった。内部から手引きして敵国に情報を送る。一種の二重スパイにもなるそれを行った。そして最後にはどっちにもばれてどちらも崩れた。私にとって安穏とした日常は崩壊し、軍との追いかけっこの日々が始まった。
それなりにこれも刺激的だった。築き上げて来たコネを使って逃げたり、逆に軍人を籠絡して利用したりとなかなかに面白おかしく過ごした。
でもある日、碌な用意も出来ずに森に逃げることになった。食糧も装備もなくなって飢えに飢えた私は自分の血を啜って生きた。
それでも困窮とした状況でいつの間にか私は意識を失い、軍に捕まっていた。
そうして牢獄の日々にも慣れて処刑される日をまっていた時に彼と出逢った。
私達娼婦はある意味で恋愛ごとに冷めている。だから育んでいく愛というものを知らないし、欲しいとも思わない。娼館に来る人間の中には当然妻子を持つ人間も居るのだ。そういったものを見れば愛などという形が無く、目に見えて壊れやすいものに幻想を懐くものなど居ない。
だが世の中には往々として例外が存在する。一目惚れというものだ。育てていた何人かの後輩の中でもある日、突然誰かを愛して、そしてそれまでの価値観が崩壊してく。そして何の益も無いであろうにその愛した相手に尽くす。そういったものだ。
だからこそ私はそういったものがあり、それは誰であろうとも止めることは出来ないものだと分かっている。今の私の様に。
彼に恋をした。いや恋などと言う薄いものではない。愛したのだ、と。そう理解した。これまでの日常が崩壊した。非日常は目の前の彼が(もたら)してくれると直感した。だから彼に私の総てを捧げることを誓った。

「だから私と契約して。業の深い裏側の住人よ。私は貴方を愛してその側で生きていたいの」

(……驚いた。契約者と見抜いて自分から契約を成そうとした人間は君が初めてだよ。いいだろうその愛に答える事など今は無いが君と契約するのは面白そうだ。役割を完全に果たせたならば君を愛してもいいかもしれない)

牢獄に囚われし一人の女は消えた。その世界に何の足跡も残すことなく。


【ティトゥス】

トーゥレ協会は少年を使ったオカルトめいた私兵を造る事を望んでいたらしい。らしいというのは俺自身がその私兵の一人であり数少ない傑作で失敗作だったからさ。
少年兵。現代ではさほど珍しくも無いその戦争体系。だけど、一次大戦や二次大戦においてそんなものは存在していない。まあ公式的には、ってことになるんだけど。勿論、当時から少年下士官というものは存在している。
だがそれは幼い年齢の人間に次代の戦力としての政治的なものだったり、一種のプロパガンダだったりしたものであり直接戦場に立たせるためのモノではない。そんな中で僅かながらの人間が少年兵の有用性を考慮して作り出されたのが俺達だった。
幼い人間に戦闘に於ける英才教育という名の人体実験を行うことで優秀な兵器を造り出すという考えによって生まれた部隊。
尤もドイツは元々人口が少ないということもあって(レーベンスボルンなどは人口を増やす為に作られた組織の最たる例である)少年兵などというのはうまくいくことはないと見切られていたんだけど。
結果的には少数の例外である俺を含む幾人かを除いて、ほぼ総てが大した戦力になりはしなかった。その数人もトゥーレ協会が解体すると共に処分されたり、次の実験施設へ連れて行かれたり、戦場に放逐されたり、教会に預けられたりした。尤も一番ましそうであった教会に預けられたものもドイツ人神父のオカルトの真似事で生贄に使われたらしいけど。
そんな中でまあ俺は次の実験施設に連れて行かれた人間だった。訳の分からない薬の投薬、負荷の差異を比べるための拷問、自然治癒の経過を見るだけの為に負わされた怪我、まあ色々とやらされた訳だけど、それなりに優秀だったお陰で同期やいつの間にか変わっていた先輩、後輩のように処分だけは免れてたんだ。あ、ここでいう処分は明らかに致死にいたるであろう実験のことだよ。

「私はお前の事を高く買ってるんだぞ■■■■。その反射神経、筋肉や骨格の理想的な付き方、神経系の精密さ。特に反射速度は0.1秒を切る。それは視界に写っているなら銃弾すら躱せるということじゃないか。流石はありとあらゆる技術を費やした傑作だけの事はある。何故これを上は失敗作と断ずるのだ?私の理論は間違っていないというのに」

目の前でブツブツと一人呟いているのは俺をこういう風にした奴だ。別に恨んだりしてはいないけど一々実験をする時に興奮してる変態だ。どうやらこいつにとっては俺という存在は人間ではなく、■■■■という自分が造り上げた物だと思っているらしい。だから俺という物を使っている過ぎないとこの研究者は感じているようだった。

「そりゃあやっぱりコストの問題なんじゃ「黙れッ!!」……」

言い切る前に研究者は俺を殴る。実験途中で拘束されて動けない俺はそれを見切ることは出来ても避けようが無いのからそのまま殴られた。

「人形が喋るな!お前は私の作品なんだ!喋っていいのも勝手に行動して良いのも私が許可したときだけだと何度言えば分かる!」

反抗的な態度。それが俺が失敗作だといわれる所以らしい。初めて許可を出された自由行動の時に他のご同輩が何もしない状況で俺だけが自由気ままに行動したこと。その際に相手から喧嘩を吹っかけられて全員殺したのが上からしたら不味かったらしい。上はこれを見て首輪をするのが難しいと判断したらしい。まあ、あながち間違ってもいないだろうけど。
そんな理由で失敗作と決定されたことを目の前の研究者は許せないらしい。だから以後、俺は自由に喋ったり行動しようとすれば物理的に大人しくさせられた。ある時なんかは俺の精神を一度壊して作り変えようとしたみたいだ。まあ失敗に終わったけど。
だけどずっとこうやって閉じ込められたんじゃあ楽しく生きれないじゃない。そう思うようになり始めて何日も何日も何日も待って待って待ってそれで我慢できなくなった。

「それじゃあ、バイバイ〜」

俺の事を物として扱っていた研究者の管理は正直いって杜撰極まりなく、そこら中にあったガラクタと一緒に放置の状態だった。だから勝手に脱走して好きなように生きることにした。

******

自由に生きてみて分かったことは俺は他人とは違いすぎていたことだった。身体能力もそうだが何より価値観が違ったのだ。強いて言うなら俺は刹那快楽主義者だった。そうなるのも正直無理ないと思う。
だって周りの人間は先輩だろうと同期だろうと後輩だろうとも次々と死んでいくのだ。そして次の日には不思議なことに、隣には新しいお友達が、って感じでそれこそ友達百人でっきるかな(注:故人に限る)の状況だ。正直そんな中じゃ今この時を楽しく生きようって思うようになってもおかしくないだろう。
そういった人間であるからこそより深い闇に引かれ世間の裏に触れるようになっていた。だから今、目の前で起きていることも当然の出来事といえる。

「グッ!?」

銃弾より明らかに速いそれは白い獣だった。一瞬だけ見えたのは白い髪にドイツの軍服。圧倒的な速さで同業者を蹂躙し、返り血すら浴びることなく二十は超えるであろう人間を屠った。
躱せたのは全くの偶然、視界に写って避けたのではなく何時かの投薬時に得た超人的な直感のお陰だ。身体だけでなく銃も使っての反動によって脚を掠める程度にとどめた。

「クソ野郎がッ、撃て!撃ち殺せ!!」

同業者の一人がそう叫び殺されなかった同業者が闇雲に撃ち始める。だがそれらは一発たりとも中てるどころか目標を捉えることさえ許さない。そうして聴こえたのは同業者の悲鳴と銃声、そして敵の嗤い声だった。

「アハハハ!遅いんだよッ!!」

声からして少年のそれ。ご同類かとも思ったが桁が違う。俺は凡そ現実的に造れる限界値の身体能力を持ったものだが明らかにアレはそんな限界を超えた異常なものだ。

「君が速いんだろ…ッと!」

唯一対抗できる異常は俺の持っている超直感のみ。勘で捉えた敵が迫っていることを認識して右手に銃を構え放ち、左手にナイフを掴んで断ち切ろうとする。しかし、

「ヘェ?」
「!?」

銃もナイフも当たることなく俺の目の前まで来て立ち止まる。予想通り俺と然して変わらない年齢の少女のようにも見える美少年、狂喜に歪めた満面の笑みを浮かべるその姿は右目の眼帯が酷く目立つ。

「君、今僕を殺そうとしたよね?さっきの奴等みたいに適当に撃ってたわけじゃないみたいだね。でもさぁ、僕を殺そうとしたってことは僕に殺されても文句言えないよねエェ―――!!」

瞬間、視界に納めていたはずの相手は見失い、絶句すると同時に打っ飛んだ快感を覚える。

「クハッ、ハハハハッ――――――!!」

これだ、これなのだ。強者との戦い。圧倒的不利な状況に如何にして相手を打ち倒すか。考えただけで絶頂しそうになった。

「ハハ、最高だよッ!まさに此処は失楽園って事かァ―――!」

拳銃だけでなく、古びた手榴弾を殴りつけるように投げ叩き、腰に差してある投げナイフを飛ばす。そして爆音と同時に俺は死戦場へと駆けた。

******

結論を言えば敗北。こちらの攻撃など苦ともせず一方的に蹂躙された。半ば崩れ、燃え上がる(・・・・・)建物と上半身と下半身で二つに千切れ焼け焦げた(・・・・・)跡と共に臓物が飛び出しており、死にかけだ。特に下半身は炭のようなものになっていたのを目で確認した。まだ意識が保っているのは強化されたお陰か、人間の神秘か。どちらにせよもうすぐ死ぬことには変わりない。これまでに無くあの一時に満足すると同時にもう機会がないのかと惜しむ自分が居る。

(望むか、その魂を対価に二度目の生を?)

それもまた良いかもしれない。今このときが楽しいなら未来は要らないという自分がいるが次があるのならそれに手を伸ばすのも有りだ。

(なら契約は成立といこう。君は運が良い、何せ最後の六人目に選ばれたのだから)

死者は語らない。生者も堅く口を閉ざす。ならば誰が彼等の行く末を知ることが出来ようか。


【アルフレート】

―――ラインハルト執務室―――

記憶にある情景である意味一番馴染み深かったのはこの執務室であると長く生きていて彼はそう思った。今目の前に写る光景は夢であると理解している。何故なら彼は先ほど第八の贄となったのだから。

(そう言えば死者は夢を見るのだろうか?)

結局のところ此処が本当に夢であるかどうかは彼自身には判断できない。多分夢じゃないかと勝手に彼が判断しているだけに過ぎないのだから。

「それにしても……思えば遠くに来たものだ」

呆然としながら使い古されているであろう言葉を呟く。六十年以上前に多くの時を過ごした場所を見て染み染みとアルフレートはそう感じていた。
力を得たのは何時だったか。それ以前に力を持っていると認知したのだ何時だったのか。

「魔業、魔導、聖遺物、術式そんな身に余るであろう代物を使い出したのは何時からだ?」

元々数多くの事を知っている(・・・・・)アルフレートは己の生に疑問を浮かべることなど多々あった。記憶などという曖昧なものではない。知識という記録でもない。情報という端末ですらない。だが、それらの出来事を知っているのだ。
しかし、その度に彼にとってはそれは如何でもいいことだと感じている。ラインハルトとメルクリウス。彼等の願いが叶うというのならば彼にとっては力は幾ら有っても構わないのだ。

「そう、例えそれが悪魔の業であったとしても最早僕に止める術は無いし、元より止めるつもりも無い」

彼の持つ聖遺物はメルクリウスによって(もたら)されたものではない。メルクリウスと会う前、正確には彼と会う直前に思い出すかのようにそれは現れた。影、或いは闇。便宜的にその聖遺物はそう言われているのだ。その本質は彼自身ですら知らず、理解の範疇を超えたものであると知らされている。
触れようとすれば狂う事となる。だからこそ彼はそれに出来るだけ遠ざかるであろう聖を詠唱として置いた。十全足る能力の発揮こそないが同時に暴走も起きることはない。僅かに有り得るかも知れない流出位階に至ることのある可能性を全て潰すことで、それの本質をそれ自身に押し付けているのだ。

「だがまて。どうやって僕はそれを知り、どうやってそうすることを選択した、いや出来たんだ?」

触れれば狂う、それは触れなければ狂うなどという事前情報が無ければならない。初めから彼の内に存在したそれを他者を使って確かめることが出来ない以上、彼はどのようにしてもそれが如何いう物であるかを知るには触れるしか無い筈なのである。
にもかかわらず知っていた。それが意味すること、それは即ち……

(知りえる機会があった。それだけに過ぎない)

「如何言うことだ。何時それを知る機会なんて得たんだ?それに僕は如何して彼等を従えていた?」

(それは666(Nrw Ksr)の事か?それとも『七皇帝の分体』の六人の事か?前者は偶然の産物に過ぎないが後者というのならば説明せねばならないだろうな)

思考の渦に嵌り込むアルフレート。しかし、死者となり生き急ぐことがなくなったからか。漸く彼は気が付いた。『僕に話しかけているのは誰なのか』と。その自らの根本を問う疑念に。

「お前は、誰だ?」

(()はお前だ。そして、ある意味ではお前は()じゃない)

「だったら、一体…お前は、僕は何だって言うんだ!?」

(その問いに答えるにはまだ時は満ちていない。案ずるな、既に役目は果たした。後は彼等がその決戦を行い穴が繋がるまで待てばいい)

アルフレート・ナウヨックスはラインハルトの軍勢(レギオン)に下った。だが未だその正体は明かされない。そして時は刻まれる事となる。






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後書き

全員を一言でまとめると……

カリグラ「周り屑ばっかやー、もう俺ぐらいしかまともな奴おらんって( +・`ω・´)☆ キラーン」

パシアス「危険な日常が楽しくて死にそうになってたら運命の人と出会ったわ(〃ω〃) キャァ♪」

ティトゥス「強化人間になって脱走したら悪名高き狼に食い殺されちゃった(・ω<) テヘペロ」

アルフレート「なんか自分のルーツとか知るフラグ来た?( ̄□ ̄;)ギョッ!」

書いてて思ったが、何このカオスorz

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