小説『影は黄金の腹心で水銀の親友』
作者:BK201()

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第二十七話 戦闘開始




前書き

遅くなりました。申し訳ありません。引っ越しでネット環境が整ってなくて。ケータイでちまちま書いてはいたんでこれから更新します。

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―――諏訪原タワー―――

その詠唱が謳い上げられ、今度こそ戦いは幕を開ける。

「潰せ、マキナよ。卿が勝てばカールの約定通り私のグラズヘイムから解放してやる」

そう言って現れたのは自らの名も忘れた戦奴だった。彼はこの最後の聖戦の開戦の号砲をあげたのだ。そして触れてはいけない彼のその拳を躱し、その余波によって吹き飛ばされる蓮。
それと同時に橋と教会に衝撃が奔る。飛ばされた二者の決戦も始まりを告げたのだ。

「―――――ッ!?」

「蠱毒の生き損ない同士で喰らいあうが良い。ウロボロスか、カドゥケウスか、同じ蛇でも異なろう。さあ、存在を勝ち取るのはどちらだ?」

三者三様の決戦は今此処に始まる。



******



「俺はお前を殺さぬ限り終われない」

その叩きつけるような殺意は俺を圧倒する。

「創造 (Briah―― )
人世界・終焉変生 (Midgardr Volsunga Saga )」

「―――いきなりかよ」

俺に現状を打開する策は今の所、何一つ存在していない。その気配に様子見や小手調べなどといったものは一切なく全て必殺で行くということをありありと示される。
漆黒に染まる鋼鉄の双腕は大気を震わせ、その不吉な気配は触れれば死を与えるという何よりの証明であると見せ付けられた。
あの絶対的な防御力を誇っていたヴァレリア・トリファですら斃した拳なのだ。その攻撃の必殺性は必然、俺を上回る。

「さあ、行くぞ」

自分の身体を引きちぎるようにして何とか距離を取る。

「――――――なッ!?」

再度、振り下ろされる必滅の拳はまるで俺の回避する位置を分かっていたかのように、一切の無駄なく立ち回って見せた。
何故、と思うがそんなことを考えている場合ではないと同時に思う。

「グッ――――――ああああァァッ……!」

もっと速く、もっと遅らせて、創造を発動している俺がコイツの拳を躱せない筈が無いんだ!

「死ね」

その言葉を聞き悟る。コイツは俺を殺すことしか考えていない。明らかに今までの奴等とは毛色が違った。愉悦も狂騒も使命感も有りはしない。唯一つ機械のように追い求めている。
ふざけるなよ。何の恨みがあるのか知らないが、

俺はお前なんか(・・・・・・・)知らない(・・・・)ッ!!」

その瞬間、何故か身体が消えるかのような感覚に襲われる。次の瞬間、身体が勝手にこうすればよいと機械のように動きマキナを蹴り飛ばした。そして、

『いいえ、知っている筈よ。貴方はそれを忘れているだけ』

突如襲った寒気にも似た感覚、後ろから聞こえた声も、目の前で起き上がるマキナも俺はこれを、置き忘れたかのようなこの感覚に覚えがある。そしてそれを知るのが果てしなく怖い。

「誰、だ……?」

後ろから聞こえる声はアルフレートが伏して嘆いていたパシアスの声、だがまるで全く別人のように感じ、それは何か愛しいまるでかつての恋人(・・)のような……

『貴方も良く知っているでしょ?それとも思い出せない?そうね、自分の事を理解しきれる人間なんてそういないでしょうし』

ありえない。何が言いたい。何が起きている。そう思う最中にマキナは起き上がり、俺に話しかけてくる。

「お前も俺も共にカール・クラフトの玩具だ。兄弟にそんな目で見られるのは心外だな」

「兄弟…?違う……」

未だ後ろから声を掛けていたパシアスに気付いた様子が無いかのように俺に話しかけるマキナ。だが、おかしい。俺の方を向いているマキナは俺の後ろにいるはずのパシアスに気が付かない道理が無い。
そして何より俺は兄弟と言われたことに納得と同時に違和感を覚えた。

「比喩的な表現だが意味は違わん。俺はお前の事を良く知っているぞ」

知っているから兄弟?違う。俺達には同じ血が流れている。奴が言いたいことも、俺が感じた違和感もそんな事じゃない。

「ある日気付けば、俺はハイドリヒの城に居た」

「城にいただと?」

マキナの拳を全身を使い懸命に紙一重で躱しながら口だけは勝手に動いていた。

「やはりな。正直、俺はお前に同情している。渇望に喰われ、単一思考しか出来なくなった人ですらない存在。お前は繰り返したいんだろう」

「――――――」

『だからある意味ではそれを止めるために私はここにいる』

俺は、俺の中で少しずつ何かが壊れ始める感覚を感じ、世界の螺旋が狂い始めているのを理解した。



******



―――諏訪原大橋―――

「奴にお膳立てされたことは気に食わんが、まあこの際その程度の些事はどうでも良い」

苦笑しながら橋上で向かい合う相手に言葉を継ぐエレオノーレ。

「毎度の事ながら奴はクラフトと同様に些か芸が過ぎる。我々ですら舞台に立たせようという気概そのものは認めるし、奴の数少ない好ましい点ではあるが……少々度が過ぎるのが奴の悪い癖だ」

奴、つまりはアルフレートの事をそう評価するエレオノーレ。まるで世間話でもするかのように敵である櫻井螢に話しかける。いや事実、彼女からしてみれば螢は世間話をする相手と然して変わらないのだ。
螢の放つ大火を前にしてもそれは揺らがない。当たり前だ。エレオノーレからしてみれば螢の火は小さすぎる。

「でだ、小娘。少しは対策を練ってきたか?」

そう螢に問いかけるエレオノーレ。その剣尖を少しは磨いてきたのかと尋ねる。いくら傷を負わせたとはいえ所詮は猫の引っ掻き傷程度のもの。まともな打撃を与えるならばもっと策は練らねばならない。と暗に忠告しているのだ。

「貴様を一応は敵を認めたのだ。期待はずれならばすぐにでも灰すら残らんことになるぞ」

「やけに口が過ぎますね。普段の貴方ならもっと行動で示すんじゃないですか?」

「貴様……不愉快だ。劣等の分際で私の部下を愚弄するな」

先程までの機嫌の良さは何処かへ行ったかのように顔を顰める。その目が雄弁と語っていた。その黄色い肌で、黒い髪で、似ても似つかぬ無様を晒しながら我が戦乙女(ヴァルキュリア)を語るなと。

「ああ、本当に、あなたは変わってしまわれた」

気に入らない、その全く似ていない様相で、さも自分は彼女であるかのような振る舞いをする。それが気に入らんのだ。たとえ本当に彼女だったとしても、今のお前は彼女ではない。そうエレオノーレは叫びたくなる。

「まだ目が覚めないというなら“中尉”……私があなたを救いましょう」

腰に刺していた軍刀を引き抜く。左手には先程から構えていた緋々色金を、右手には今引き抜いたベアトリスの剣である戦雷の聖剣(スルーズ・ワルキューレ)を構えた。
型などありはしない。本来、櫻井螢が学んできた剣技の数々は一刀を基にしたものであり、螢は二刀流など学んでいないのだから当然だ。しかし、それに意味は無い。剣技など聖遺物同士での戦いにおいて重要視されることは少ない。
そして、その言葉と剣の構えは決定的な引き金となった。
閃光が迸る。烈しく、そして清冽に。その稲妻はまるで彼女が生きている証かの様に。
螢はつい先程、恋のような感情を自覚した。だからそれを否定したら彼女の目の前にいる軍人のようになってしまう。それは嫌だと思った。

“嫌だから、負けられない”

それだけの馬鹿みたいな理由だが、それでも嫌なものは嫌だとそう思った。だから、

「あなたにだけは負けない。それは同じ女として我慢がならない」

「ほざくな、小娘」

弾ける魔性の大火砲。紙一重にそれを躱し、その号砲と同時にタワーと教会でも音が響く。螢はそんなことに目を向けることなど無く、目の前の敵を打ち倒さんと剣を突き立て動いた。
もしこの状況でエレオノーレが怒りに視野を狭めてなければ、或いは螢が橋という他者を気にせずに闘える戦場に飛ばされることが無ければ、その様子を見ている一つの影があることに両者は気付いたかもしれない。




******




―――教会―――

「オラオラ、どうしたァ!勢いがあるのは威勢だけかァ?」

ヴィルヘルムは乱雑に、まるで狙いを定めていないかのように杭で打ち抜こうとする。
杭による面の制圧。それは威力、数、範囲といった多くの点で勝っており、司狼とティトゥスは致命傷となり得るものだけを撃ち落し、或いは躱していた。

「あの時の戦いの焼き直しって感じだな。取りあえずまあ、喰らっとけやッ!」

上空に飛び跳ね空中で姿勢を維持したままに連続して銃弾を放つ。

「そりゃもう効かねぇッて言っただろうがァッ!!」

それらの威力を大したことないと判断しそのまま突き殺そうとするヴィルヘルム。だが司狼は嘲笑し余裕をもってそのまま言い放つ。

「そりゃ如何かな?」

拷問具というのは元来、異端狩りに使われる器具が殆どである。その多くは魔女であるがそれ以外にも存在しており、それはつまり化物殺しの拷問具の事である。
そして旧来の吸血鬼退治の方法は首を切り落とす、心臓に杭を打つ、死体を燃やす、銀の弾丸もしくは呪いを刻んだ弾丸で撃つ、呪文などを用いて壜や水差しに封じ込めるといった様々な方法が存在する。
司狼はそういった吸血鬼に対して効果のある攻撃を銃弾に仕込んだ。

「BANG!!」

「ッ――――!」

その銃弾はヴィルヘルムに直撃すると共に爆発を起こす。その爆発と同時にヴィルヘルムは燃え上がり、前回と違いその身体に僅かな傷を負わせることが出来るはずである。

「バーカ、質が違うんだよ。前の時に使ったのは針や毒だ。んでもって今回のは火ってわけだ。効くだろ?」

前回の戦いに使われた炎の差異、それは火の質そのもの。単純に火力が高いわけではない。火というものは古来より儀式や呪いといった類に多く使われる。
例えば、酒を使って火を灯すものや、特別な香草を使う儀式なども存在している。火炎グレネードはあくまで人殺しの炎であり、司狼が撃った弾丸に使われた炎は呪いや化物を殺すために使う炎である。拷問を行う上で名目とはいえ化物殺しである以上、その火の質が違うのも当然だった。

「笑わせんじゃ―――ねえェぞッ!このクソガキがァァッ―――!!」

だがしかし、一向に無傷のヴィルヘルム。さらには杭を司狼に向けて断続的に飛ばす。飛び交う杭に撃ち抜かれる司狼。だがここまで想定通り、そう思い口元を歪ませる。

「足元を見てみなよ」

少し距離を置いたところで不敵に笑うティトゥスはそう忠告する。ヴィルヘルムは何かを踏み抜いた事に気付き咄嗟に脚を退けて距離をとった。

(Silber)(des)(Eisens)ってね。血潮に塗れなよ」

Sマイン、ヴィルヘルムが踏み抜いた地雷は歩兵殺しのそれであり、さらにその中に含まれている炸裂片は化物退治の銀片だった。ヴィルヘルムは為す術も無くそれを受ける。が、

「効かねえなァ、効くわきゃねえだろ。今更この程度の児戯でよォ」

全くの無傷。そもそも形成位階であるヴィルヘルムに吸血鬼殺しの攻撃は強い効果を表すわけではない。創造ならまだしも今のヴィルヘルムにそれらが効く道理は無かった。

「だがまあ良い、テメエ等の奮闘を称えて派手な夜にしてやろうじゃねえか。お前等もさっきからそれを望んでんだろ?」

「さて、如何かな?もしかしたらそういう風に装ってるだけかもよ?」

「ハッ、馬鹿言え。テメエ等さっきからご丁寧に吸血鬼殺しの代物ばっか出してるじゃねえかよ。火の弾薬に銀の地雷たァ……随分準備が良いじゃねえか?」

司狼もティトゥスも共にこれらの武器をヴィルヘルムと戦う前から用意していた。前回の戦いで持っている手札が通用しなかった以上、新たな手を用意するのは当然の事。
そして用意したのは吸血鬼の弱点となりうる武器だった。火、呪い、銀、聖水―――この短時間で生成、或いは用意出来るものは出来る限り用意した。

「いいぜェ、俺を満足させるんならそのくらいの事はしてもらわなきゃ困るんだよ。どちらにせよ夜の俺は不死身だ。足掻いて見せろよ、劣等共」

「ハッ、冗談。不死身なんてもん、そう簡単に有るもんじゃねえよ」

「だねぇ。それに有ったとしてもこんな安売りならいらないね」

司狼は鼻で笑いそれを否定し、ティトゥスはそれを肯定して小馬鹿にする。

「クハ、ハハッハハハハッ―――!テメエ等どれだけ俺を笑わせるつもりだよ。まあ取りあえず座興は仕舞いだ」

空気が変わる。明らかに密度がこれまでと違っていた。空に浮かぶ月はスワスチカの陣によってより幻想的なものとなっており、それは赤く染まり始める。

「かつて何処かで そしてこれほど幸福だったことがあるだろうか (Wo war ich schon einmal und war so selig )」

奥底に眠るティベリウスの残滓である聖遺物がまるで打ち震えるかのように蠢きだす。

「あなたは素晴らしい 掛け値なしに素晴らしい しかしそれは誰も知らず また誰も気付かない (Wie du warst! Wie du bist! Das weis niemand, das ahnt keiner! )
幼い私は まだあなたを知らなかった (Ich war ein Bub', da hab' ich die noch nicht gekannt. )」

幾度となく繰り返されてきた創造。それは他ならぬ彼の創造が優秀であり、勝利を掴んできたが故にである。

「いったい私は誰なのだろう いったいどうして 私はあなたの許に来たのだろう (Wer bin denn ich? Wie komm'denn ich zu ihr? Wie kommt denn sie zu mir? )
もし私が騎士にあるまじき者ならば、このまま死んでしまいたい (War' ich kein Mann, die Sinne mochten mir vergeh'n. )
何よりも幸福なこの瞬間――私は死しても 決して忘れはしないだろうから (Das ist ein seliger Augenblick, den will ich nie vergessen bis an meinen Tod. )」

死者は語りなどしない。故に死した姉も僅かな時間の配下も総てヴィルヘルムの都合の良い勝手な解釈によるものだ。

「ゆえに恋人よ 枯れ落ちろ (Sophie, Welken Sie )
死骸を晒せ (Show a Corpse )
何かが訪れ 何かが起こった 私はあなたに問いを投げたい (Es ist was kommen und ist was g'schehn, Ich mocht Sie fragen )
本当にこれでよいのか 私は何か過ちを犯していないか (Darf's denn sein? Ich mocht' sie fragen: warum zittert was in mir? )」

決して報われない。救われなどしない。そんな彼は欲するものを自らの手で得ようともがいた。

「恋人よ 私はあなただけを見 あなただけを感じよう (Sophie, und seh' nur dich und spur' nur dich )
私の愛で朽ちるあなたを 私だけが知っているから (Sophie, und weis von nichts als nur: dich hab' ich lieb )
ゆえに恋人よ 枯れ落ちろ (Sophie, Welken Sie )
創造 (Briah― )
死森の薔薇騎士 (Der Rosenkavalier Schwarzwald )」

さあ、生ける屍共よ語らいつくそう。この紅く染まり吸血鬼と共に。





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後書き

ここまで行くとあとはバトル、バトル、バトルのオンパレードですね。それにしても視点変更しまくるから書きづらいことこの上ない。まあ、楽しく書けてるからいいんだけどね。

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