小説『真剣で私たちに恋しなさい! 〜難攻不落・みやこおとし〜』
作者:黒亜()

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あのカーニバルから数日後。
川神の治安は良くなる傾向にあった。
それほどあの事件は大きな被害をもたらし、同時に適度な危機感や緊張感を生
み出すこととなった。
当然、事件としては起こしてはいけなかったものだが、あの夜を経てより良い
街になっていたのもまた事実だった。
ひとまず落ち着いて平和な時間が訪れた。
誰もがそう思っていたのだった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


―川神学園

そんなわけで海斗や風間ファミリーの面々も平和な時間を過ごしていた。
まあ、海斗の場合はある意味カーニバル前より波乱に満ちていたが。


「海斗ー、早速帰りましょー。」


帰りのHR。
それが終わると必ずこの戦争が始まる。
今日の口火を切ったのは一子だ。


「おい犬!今日は自分が海斗と一緒に帰るんだ。犬はさっきの授業で海斗とペ
アになっただろう。」

「それとこれとは話が別でしょ!」

「別ではないだろう!授業中だというのに楽しそうに話して……っ!帰り道は
自分が海斗と会話を楽しむんだ!」


クリスはその授業の間、ずっと嫉妬の炎を燃やしていた。
威嚇と敵意のこもった強烈な訴え。
それは誰の目にも明らかであって、気づかなかったのは海斗との話に夢中だっ
た一子本人くらいだ。


「また始まったよ不毛な争いが…。」


モロが冷静なツッコミを入れる。
連続告白から全てを見せられた一人であるモロは特に驚くこともない。
他のクラスメイトも最初こそ“なんだなんだ?”とバレバレだった好意をいき
なりさらけ出し始めた女子に騒いでいたが、毎日こんなのが繰り広げられてい
れば、いちいち反応するものもいない。


「入るなら今しかないぜー、まゆっち。」

「そうですね、松風。私も海斗さんとご一緒したいです。ならば、行動あるの
み!」


ガラガラ

廊下からそんな声が聞こえれば、もう一人の参戦者。
由紀江がドアを開けて入ってくる。


「む、まゆっち。悪いが、今日一緒に帰るのは自分だからな。」

「でも、私昨日も一昨日もご一緒できてませんし。そもそも別の学年ですし、
帰りくらい海斗さんとお話したいです!」

「まゆっちは毎日お弁当を食べてもらってるじゃないか。それだけで十分に幸
せなことだろう。」

「はい…それはとても幸せなことです…。」

「よし、ならいいな。」

「え、あ!それとは違いますよ!」

「もういいじゃん、皆で帰ろうぜ。」


海斗が溜まらずにそう言って、場を収めようとする。
自分のことでこうしてくれるのは素直に嬉しかったのだが、あまりに全員が必
死すぎるので困ってしまう方が強かった。


「なら、海斗の右腕は自分がもらうぞ。」

「待って、それは公平じゃないわ。」


しかし、それでも争いは終わらなかった。
今日はこの程度で済んでいるが、いつもはここにさらに他のメンバーが加わり
海斗争奪戦が繰り広げられている。
それだけ海斗は愛されていた。

ここにいる三人の風間ファミリーメンバーも海斗に恋をした。
そして、自らの気持ちを勢いで告白したのだ。
大人数からの一斉の告白。
すぐに誰かと恋人の関係になることがあるはずもなく、今はより他のライバル
より海斗に好きになってもらおうと戦う日々である。

この一緒の下校も重要なポイント稼ぎチャンス。
二人きりの方が効果は高いというのは誰もが分かっているので、ジャンケンや
話し合いで決めたりすることも珍しくない。
勿論、3人以上で一緒に帰ることもあるが、その途中でバトルが行われるのは
もはや言うまでもない。
交代制もというのも提案されたのだが、今回の会話でも分かるように色々不満
が出て結局定着しなかった。


「しょーもない。」


そんな仲間の悶着を読書しつつ受け流す少女が一人。
同じく風間ファミリーの椎名京。
三人があの状態であり、百代は海斗と勝負をしたいと追い回している現状から
すると、唯一ファミリーで海斗に好意を抱いていない。

というのも、彼女は既に想い人がいる。
直江大和。
彼女が幼いときいじめに遭っていたのを救ってくれたことがきっかけで、それ
からずっと想いを伝え続けている。
ただ未だそれは本人にはかわされ続けていて、実らない。

そんな彼女にとっては海斗に好意どうこう以前に、他の男には興味すら湧かな
いのだ。
だから、他のメンバーがああも一人の男を取り合っているのはなんとも理解し
がたい光景であった。

そもそも、過去のいじめの影響もあってあまり他人と関わりを持たず、寄せ付
けないようにしている京。
勿論、友達なんてのも作ろうとするタイプではなく、ファミリーの仲間たちと
大和がいればそれでいい、そんな生き方をしていた。
そして、そういう姿勢をとる京に無理に介入しようとする者もいない。
大和以外に目が行かないのも当然だった。


「やっまとー、私達も愛を語らいながら帰ろうじゃないか!」

「ごめん、京。俺ちょっと頼まれごとがあるから。」

「うぅ、つれない。一体どこに行くの?あと、大和つきあって。」

「ちょっと親不孝通りの方へ調査を頼まれたからさ。お友達で。」

「親不孝通りなんて1人じゃ危ないよ。私がついていく。」

「今、治安が良くなってくれるから。俺の回避スキルだけがあれば、逃げられ
ると思ってたんだけど、京が来てくれるっていうならお願いしようか。」

「任された。お代は大和の体でいいよ。」

「お断りします。」

「あぁん、待って大和ー。」


教室から出て行く大和と京。
一方でこちらの三人組は…


「ならば、ここは海斗に選んでもらおう。」

「アタシもそれでいいわ。」

「私も反対はありません。」

「いや、だから……。俺は皆のことが大切だし、好きって言ってもらえたのも
嬉しかったからさ。今、優劣はつけられない。」


答えないのはずるいと思ってもそれが海斗の正直な気持ち。
だからこそ、きっぱりと言った。


「海斗…。」

「海斗さん…。」

「海斗…。」


しかし、そういうところがますます乙女達の戦いを激化させているとは鈍感な
海斗には知る由もなかった。


「だから、今日は皆でどっか寄って帰ろうぜ。」

「そうね。」

「分かった。」

「お供します。」


このときは先に出て行った二人も含め、誰もが。
この放課後も日常の延長線上であると信じて疑わなかった。

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