小説『真剣で私たちに恋しなさい! 〜難攻不落・みやこおとし〜』
作者:黒亜()

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閑散とした道。
治安が良くなったとはいえ、やはり雰囲気は変わらない。
いくら安全になっても来る理由がないのだから仕方ない。
あるのは家賃が安いアパートやいかがわしい店、何に使われてるのかも分から
ない倉庫のような建物ばかり。

親不孝通り。
そんな辺鄙
へんぴ
な場所には似合わぬ制服姿の二人。
大和と京は特に普通の道と変わらず歩いていた。

警戒心はまるで必要がない。
カーニバル前には怪しい人影などが辺りを見れば、すぐに見つかったほどなの
だが、今ではそんな負の気配すらない。
こんな表現は一番不相応だが、なんとも“クリーン”だった。


「大和、……二人っきりだね。」

「そりゃ京がついてきてんだから、そうだろ。」

「このまま二人だけの世界になったらいいのにね。そしたら、結婚する?」

「あのな……」


そんな平和な環境だからこそ、いつも通りの会話。
本当に何度も繰り返されてきたいつもの会話。


「どう、付き合う気になった?」

「お友達で。」

「むー……」

「いつも言ってるだろ、京は大切な友達だって。」


そこで1つ深い溜息をつく京。
投げかける問いが同じなら、返ってくる答えも同じ。
そのセットが昔から何度も行われてきたいつもの会話だった。


「私って、そんなに魅力ないかな。」

「いや、そういうことじゃないだろ。」

「ずっとアタックしてるのに、大和は振り向いてくれないし。」

「違う。京が俺のことを好きになったのは京が大変なときに救ったからだろ。
確かにそういうので恋するのも別におかしくないと思う。けど、もう高校生に
なってまで他の男に興味も示さないってのは違うだろ。いつまでも過去のこと
に縛られてほしくないんだよ。」

「大和がいなければ、今の私はなかった。そんな大和以上の男を見つけろって
いうほうが無理な話だよ。」

「じゃあ、もしお前が大変なときに助けた奴が女だったらどうするんだ?それ
ともかなり年の離れたおじさんだったら?同じように恋をしてたのか?そいつ
がいなければ今の自分はないからって、ずっと好きであり続けたのか?」

「でも、助けたのは大和だよ。」

「それは結果でしかない。結局、幼いときのそれはきっかけだったんだよ。気
持ちに答えられない俺が縛り続けるのは嫌なんだ。あんなことがあったから、
こんな事態になってんだけどさ、あんなことがあったからこそ、京には幸せに
なってほしいんだよ。」

「私が好きなのは大和だけ。」

「それだって決め付けだ。確かに俺を純粋に思ってくれてる好意は分かるけど
そこには意識せずとも何パーセントか恩も混在してるはずだ。そして、それは
京にとって大きな恩だから俺を振り切れない。」

「そんなこと言っても、今更大和以外を好きになるなんて無理。」

「別に今すぐってわけでもないし、無理に誰かを好きになる必要なんてない。
けど、京は好きな人どころかクラスメイトとの関わりすら避けてるだろ。いつ
まで経ってもファミリーだけと付き合いじゃこの先生きていけないだろ。皆ず
っと一緒ってわけにはいかないんだし。」

「……うん。」

「だから、ファミリー以外に信頼できる奴でも見つけてさ、せめて友達くらい
は作ってみたらどうだ?そういうところから人間関係も築けて、好きな人も出
来るかもしれない。何にせよ、今のまま閉鎖的でいるってのは正直嫌な予感が
するんだ。」

「…ま、頑張ってみる。」

「ああ、まずはそこからだ。それで新たな恋を見つけな。」

「善処します。」

(ふ、そんなこと言われても大和を諦めるつもりは毛頭ない!何度断られても
待ち続ける粘り強さが最後には勝つんだ!……けど、大和の重荷にはなりたく
ない。)

(とはいえ、全く諦めてないんだろうな。とにかく、どうにかしてファミリー
以外にも心を開ける奴がいればいいんだが。)


お互いに相手を理解している。
だからこそ、それぞれに考えがあり簡単には受け入れられない。
いつも通りであって、いつもより少し深い話は二人きりということもあったの
だろう。


「そこの学生さんたち、ここをデートコースに選んだのは失敗だったねぇ。」

「「!?」」


突然だった。
前から歩いてきた男。


(この男、私が気配に全然気づけなかった!?)


話に夢中になっていたからとかではない。
その距離わずか数歩まで。
京という実力者でもその存在を認識すら出来ていなかった。
それほどの手練れ。


「運が悪かった、としか言えないかなぁ。ほんと同情するよ。ま、言葉だけだ
けどさ。」


明らかに普通ではない強さ。
それはここまで近づかれたことでも分かる。
そんなイレギュラーな雰囲気なのに、どこか知っているような感じ。
だが、これほどの異常な男との出会いを覚えていないはずがない。
湧いてくる疑問は止め処なかった。


「お前は誰だ!」


敵意を剥き出しにした京の問い。
相手は気にした様子もなく、マイペースに構えている。


「誰って言われても、こんなとこで個人情報晒すわけにもね。こっちの世界で
はプライバシーは保護されてんだろ。」

「……!その“こっちの世界”って言い方、お前常夜の人間か?」

「あれま。意外なところから割れるもんだ。」


大和の鋭い指摘にも特に驚いた様子なく、言葉だけの対応をする。
隠していたくせに否定もしない。


「そーかそーか、分かっちゃうのは予想外だったな。ま、関係ないか。どうせ
誰にも喋れないし。」


不可解なことを言う。
大和はそう考える暇もなかった。
男が話し終わったちょうどその瞬間。
大和は背後からの攻撃によって意識を絶たれた。
そこにはまた別の男が立っていた。


「大和に何するんだ!」

(また気づけなかった…!)


抑えきれぬ怒りを感じつつも明らかにアブノーマルな男たちに焦りがなんとか
激情に任せた行動を踏みとどまらせた。
希薄だとかいうレベルではない。
この男たちは気配を消すことを完全に心得ている。


「何するんだって言われても、俺らが良い人に見えんのかー?」

「くっ……」

「油断はいけないなー。不意打ちじゃないと倒せないんだから、人を用意して
おくのは当然だろ?」


京は冷静になろうと努めていた。
そして、その言葉を聞き逃さなかった。

確かに目の前の連中は気配を消す点ではスペシャリストだ。
そこで変に警戒心を持ってしまっていたが、一度も男の強さを見ていない。
大和を気絶させたのもただ意表をついただけ。
そもそも、これほどの気配を隠す能力に見合った実力があれば、こんなにせこ
い手を使う必要はない。

“不意打ちじゃないと倒せない”
ならば、さらに敵の数が増える前に全力で殲滅するのみ。
今なら2対1、十分に勝算はある。


「先手必勝!」

「へへっ。」


パシッ


「なに!?」


京の素早く放った拳は男に受け止められていた。
本来、京は弓の使い手であるといっても徒手での戦いも常人のレベルは遥かに
越えている。
一子などを相手に鍛錬を積んでいるのだから。
その一撃で決めようとした本気の拳を止められた。
つまり意味するところは…


「言ったよな、油断はいけないって。」


大和と同じく意識を刈り取る一撃を極められる。
罠にかけられたのだった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「じゃあね、海斗ー。」

「さらばだ。」

「ああ、また明日な。」

「海斗さん、明日もお弁当持っていきますね。」

「楽しみにしてるぞ。」


適当な場所で別れる。
由紀江とクリスは寮で、一子は川神院に帰るので本当は一斉に別れる必要はな
いのだが、どうやら一緒の時間も平等ということらしい。

さっきまでの騒がしさはなく、一人で帰り道を歩く海斗。
少し前まではこの静けさこそが日常だったのに。
今ではそれに違和感を感じる自分がいる。
海斗にとってそれはおかしくてたまらなかった。


「なんか今日は空気が嫌な感じだ。」


間違いなく幸せな時間だった。
しかし、海斗の直感が何かを伝えようとしていた。
漠然としていてはっきりとは分からない。
それがまた気持ち悪かった。

-2-
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