小説『アットノベルスの真実』
作者:rakatonia()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

『とある小説サイトで起こった、とんでもない運営の暴挙』
 彼はすぐに、そのノンフィクションを立ち上げることにした。
 もちろん、そんなものを立ち上げれば、きっと問題になるだろう。そのサイトでのアカウントすら、危うくなる。
 だが、黙っている訳にはいかないのだ。
 正しいことを正しいと言い、間違ったことを間違っていると言うことに、臆することも、ためらうこともしてはならない。
 それが、あの銃撃された少女が行ったことでもある。
 保身――そんなことを考えているようでは、バッドノベルスの運営と同じことだ。
 捨て身でいい。
 あったことをあったままに書き、起こったことを起こったままに、書き綴っていけばいい。そうすれば、きっと誰かに伝わるはずである。
 反面、自分のついた嘘を隠すために、次から次へと嘘をついて行かなくてはならない運営は、説明に矛盾が生じて来るはずだ。必ず辻褄が合わなくなっていく。
 まず、何故、おれのアカウントを停止したのか、という理由。
 彼は、それをユーザーたちに、どう説明するつもりだろうか。
「運営が起こしたメールアドレス事件の真相を隠ぺいするためです」
 正直な言葉で言うと、こういう説明になるだろう。
 だが、あの運営が、そんな立派な言葉を綴るとは思えない。わが身の保身に走るため、おれを悪人に仕立てようとするだろう。
 さて、どんな言い訳を使って、自分を正当化してくるのか。
 いや、他人の心配をしている時ではない。早く一稿を書き上げなくては。
すると――。

すると、驚くことにバットノベルスからメールが届いた。
『重要なお知らせ』
 と、なっている。
 開いて読むと、そこには今回彼(シン)が訴えていた、アドレス流出事件のことが書いてあった。それも、シンの訴えで発覚した、という文言は一言もなく、あたかも自分で気付いて連絡した、というように。
 そしてもちろん、アドレスの流出に気付いて、その危険を呼びかけようとしたおれを、バッドノベルスから登録抹消した、とも書いてなかった。
 自分に都合のいいことだけが書いてある。
 驚くことはそれだけではない。流出被害者44名の中に、悪意あるユーザーがいるかもしれない、と書いてある。
 希望者には、お詫びの品を送りたいとも。
 ――一体、何を考えているのだろうか。
 今更、こんなメールを出すくらいなら、何故、おれが最初に問い合わせた時に、すぐに対応しなかったのだろうか。そうすれば、何事もなく、全てが穏便に済んでいたのに。


 いや、もちろん、彼に呼びかけをされてしまって、慌てて対策を講じたのだろうが。
 だが、所詮、後手後手の対応だ。すぐに破綻し、矛盾だらけの支離滅裂なものになるだろう。
 もちろん、本当に流出者全員に送ったのかどうかも判らない。
おれに判ることは、自分の元にこのメールが来たということだけだ。他のユーザーの元にも行っているかどうかは判らない。
 そう――。行っていない可能性だってあり得るのだ。
 彼の元にだけ、出しましたよ、と送っている可能性も……

 彼はその手紙を読み返し、第一稿を書き始めた……。

-6-
Copyright ©rakatonia All Rights Reserved 
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える