第一章 はじまり〜3月−冬休み終了〜
「…………」
「今日は市中研があるので午前放課になりますが、3時まで自宅学習です。しっかり復習しましょう。では、雪道なので気をつけて帰りましょうね」
「起立」
シンとした教室が生徒の声、イスを引く音で一気にざわめく。
窓から見える雪景色をぼぅっと見つめていた私はハッと我に返り、慌てて席を立つ。
まるでみんなが立つのを見計らったかのようにチャイムが廊下に鳴り響いた。
「さようなら」
凛とした号令係の声にダルそうな数人の生徒達の声が続く。
「葵衣(きい)ちゃん、今日遊ぼ!」
「あ……うん……」
青カバンを担ぎながら、無邪気な声に曖昧な言葉を返す。
「葵衣ちゃん……ノリ悪い」
「んあぁ、ごめんごめん。ちょっとぼぅっとしてて」
たちまち雛美(ひなみ)の機嫌が悪くなったのを見、内心で慌てているのを見透かされないように落ち着いて諭す。
雛美がジト目で睨んできた。でも敢えて無視。これ以上機嫌を直そうと言い訳を重ねても逆効果になるだけだから。
「…………」
教室から出るとき、前にいる雛美に気づかれないよう十分に配慮したため息を吐いた。
これから親友と遊ぶのに、私の気分はどうしてか沈んでいた。