小説『【停止】キヲクのキロク。』
作者:bard(Minstrelsy)

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 転機は、突然訪れた。
 ジインが引っ越したのだ。
 何のために、しかも何故、と問う私にジインは言った。
「ユウヒのそばにいるためだ」
 ジインは勿論社会人だ。仕事もしていた。それを全て捨ててまで、彼は行動したのだ。
 他でもない、ユウヒのために。


 それを愛と呼ぶのならばそうなのかもしれない。
 仕事を捨て、故郷を捨て、家族や仲間の元から離れる。たった一人愛する者のために。
 美談。第三者からはそう見えるかもしれない。
 ドラマや小説ならば、きっと感動の涙を呼ぶだろう。
 だが、フィクションはそこで終わる。全てを捨て愛する者と結ばれる――物語はいつもそこで終わる。
 現実はそうはいかない。
 その「先」がある。
 愛、涙、感動――そんなものは幻想だ、と私には言い切れる。
 愛さえあれば。
 現実を知らない世迷い言だ。
 少なくとも愛のために崩壊した者達を、私は知っているのだから。


 最初は私も喜んだ。
 ジインの引っ越した先は私の進学先にも近かった。
 遊ぶ頻度も増えていた。
 一緒に呑んで、適当に映画を見てゲームをして、寝るときは床に雑魚寝。
 ユウヒもその頃バイトを始め、ジインのところに足繁く通っていた。
 半分同棲、と言えたかもしれない。
 二人は幸せだったのだろう。
 愛する者と共に居られるのだから。


 私は愚かにも確信していた。
 このまま二人は幸せになっていくのだと。
「幸せそうだね」
 この言葉こそが、現実を知らない世迷い言だった。
 緩やかに崩壊していく関係。
 私に何が出来たのだろう。
 今も解らない。
 どうするべきか、どうすればよかったのか、何が最善だったのか。
 病んでいく二人。
 気付いた時にはもう、手遅れだった。

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