小説『ファミリア!』
作者:レイ()

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「あたしは生まれた時から父親の存在って知らなかったんだ、」

「祥二さんの事もあたしはあんまり知らない、その男の人がいるとアヤメさんが嬉しそうで、
優しかったから好きだっただけなんだ、っていっても祥二さんが家にいたのは一週間だけだったんだけど」

あたしには父親がいない
つまり___アヤメさんと一緒に捨てられた

「・・・あたしは大丈夫だったんだけど、アヤメさんはダメだったみたいでさ、
元々祥二さんに依存してたみたいだし」

特に、祥二さんがいた一週間の後からは子供のあたしでもアヤメさんが壊れていっているのが分かった

「小学高高学年にあたしがなった時には暴力なんて日常的になってた」
慣れると違和感とか無くなっちゃうんだよね、とあたしは乾いた声で笑った

返事がないのも、一方的に暴力を受けるのも
だって最初からアヤメさんはあたしを愛してはくれなかったから
知らないものはなくしようがなかったから
『お母さん』と呼ばないでと言われてから『アヤメさん』と呼ぶようになった

だから、あたしにとってこれらのことは
「ただ、それだけだよ」

あたしが話し終えると、鞠愛は声を震わせて恐る恐る聞いてきた

「なに、それ・・・」
「ただそれだけだよ、祥二さんも鞠愛の家族も何も関係ない」

「瑠樹・・・」
ぽたり、鞠愛の涙が床に落ちる

「それだけなんて言わないで・・・っ」
「これ以上、自分で自分を傷つけないでよ・・・」

鞠愛があたしを抱きしめてくる
そんなに強く抱きしめたら苦しいよ、鞠愛

「・・・うっ・・・うあああああああーーーーーーーーーーーー!」

でも、温かい
人ってこんなにあったかいんだ・・・

ずっと心の中で逃げていた

アヤメさんがあたしを嫌っている、それだけ
アヤメさんがあたしの話を聞いてくれない、それだけ
アヤメさんがあたしに暴力を振るう、それだけ

でも、違う

『母親』から嫌われている
『母親』が自分を無視する
『母親』が自分に暴力を振るう

愛して欲しい人に愛してもらえなかった

あたしは泣いた、声も掠れて顔もぐしゃぐしゃで
そして今まで自分についてきた嘘が流れていくようだった

本当は、母さんに好かれたかった
本当は、母さんと話がしたかった
本当は、母さんに・・・こんな風に抱きしめてほしかった

あたしはこの事実から目を背けてばかりいた
でも、それじゃ駄目だ

どんなに悲しくても、もう自分に嘘はつかない
                              


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