二章 the first halt
2月16日 AM0:30
駅から程よい近さのマンションの一室、あたしと母親の二人暮らしだ
いつものようにあたしは母親が食卓についたのを見て自分の夜食を作り、同じテーブルについた
「水、買ってくる」
ペットボトルの水が無くなり、あたしがコンビニに深夜に行こうとしても母親はあたしを見ようともしない
無表情でパスタを口に運んでいる
こんな毎日が何年も続いてる
慣れている、と思ってしまう自分が本当は少し悔しい
2月中盤ともあって、外は身が縮こまるような寒さだった
路地を歩きながら今日のことを思い出す、初めて話した彼女
あたしのクラスの学級委員、柏本鞠愛
人当たりはいいようだが前に噂で聞いたことがある
『柏本鞠愛は笑わない』、と
他人の過去に興味がなかったあたしだったが、いつも誰にでも良い対応をしている彼女だったあまりに意外だった
買い物を済ませ家に帰ったあたしは印鑑を探そうとクローゼットを開け、奥をあさる
年季が入った写真や家具がいくつも出てくる
やがて15分ほどたったころ、いくつかの印鑑が入った袋が見つかりおもむろに袋をひっくり返すと
『北見』と見慣れた文字とは別の2文字があたしの目に映る
部屋に入ってきたシャワー上がりの母親があたしの手にしたものを見て形相を変える
「祥二さん、どうして・・・どうして、どうしてーーーーーー!」
母親の口調が狂っていき、同じ言葉だけを紡いでいく
長いツメがあたしの右頬に一閃した
嫌な音がして顔が生温かく火照っていく
あたしを恨んだようなする目をする母親から必死で逃げ
印鑑類を引っ掴んで自分の部屋にこもった
『これ』どういうこんなんだ?どうしてなんだ?
母親に痛めつけられた右頬よりも、先に浮かんだ分かりたくない疑問
印鑑に赤く灯されていた、『柏本』の2文字