小説『ファミリア!』
作者:レイ()

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翌日、あたしは早めに学校に着くと、教科書を読んでいる鞠愛の元へとまっすぐに向かった

「鞠愛、ちょっといい?」
「あ、北見さんおはよう・・・ってどうしたのその顔・・・?」

鞠愛に指をさされ、頬に手を当てる
昨日はパニックになっていて忘れていたが、右頬は青紫色に変色して、触れるだけで鈍痛が頭の奥に響いてくる、酷い有様だった

「そんなことより」
「そんなことじゃないよ、大事な顔なんだから」

鞠愛が鞄をあさり、絆創膏と消毒液を取り出す

「なんで消毒液常備してるの・・・」
「あはは、私よく怪我しちゃうから」

鞠愛の細くて綺麗な指が丁寧に大きめの絆創膏を貼り付けていく

「はい、どこか引っかかるところとかある?」
「ううん、ありがとう」

どういたしまして、と鞠愛が微笑む、あたしはもう一度鞠愛、と声をかけた

「今日、鞠愛の家行っていいかな」
「うんいいよ、いったん家に帰る?」
「直接でもいい?その方が助かる」
「分かった」

あたしはそれだけ言うと鞠愛に背を向ける、鞠愛も勉強を再開していた





「それでね、私が行く学校工事とかで春休み長くなるって言ってて」
「・・・・・・うん」
「早く教科書貰えないかなって・・・北見さんってば聞いてる?」
「・・・うん」
「絶対聞いてない・・」

さっきからぼーっとしてるし、授業も上の空だったし、と
鞠愛が委員長らしい愚痴をこぼす

「瑠樹」
「へ?どうかしたの?」
「呼び方、瑠樹でいい」

あたしが突然発した言葉に鞠愛が目を丸くする
あたしが反応したことに鞠愛は柔らかく微笑んだ

「うん、瑠樹、瑠樹、りゅき・・ったあ!舌噛んだ・・・」

ドコン、心臓が痛いほど高鳴った
鞠愛があたしの名前を噛んだとき、何故かは分からないが懐かしかった

授業も今も上の空だったのは、違うことを考えていたからだ
昨日の出来事が忘れようと思っても全く頭から離れなかった

「ここ、狭くて古いけど」

鞠愛がアパートの前で立ち止まる
年季の入った黒ずんだレンガ建てのアパートだった


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