小説『宇宙戦艦ヤマト復活編〜妄想第2部』
作者:kenis()

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宇宙戦艦ヤマト復活編〜妄想第2部?

 無限に広がる大宇宙。静寂と光に満ちた世界。その星々の煌きは、永遠に終わることはない。
 そして、その無限の大宇宙は、何も、我々の住む天の川銀河が存在する宇宙だけに限ったことではない。
 我々の住む、この宇宙とは異なる次元。そこにも無限の大宇宙と数多の星々が存在し、そこにも生命が満ち溢れている事を23世紀に入ったばかりの地球人類は知らなかった。
 しかし、異次元からの侵略者SUSが現れたことにより、地球人類は、異次元世界の存在を知った。それは、無限の可能性を秘めた新たなる新天地であると同時に、また新たな敵が存在する事をも意味していた。
 そして、ここにも異次元宇宙を航行している艦が一隻。この物語は、この艦から始まる―――

 次元航行試験艦【ゲイザー?】―――
 その艦橋では、薄い青色の肌をした人間が、慌しく動いていた。
「次元トンネル発生機、準備完了しました!」
 オペレーターの報告に頷く艦長。その顔は、かつて、次元潜航艇を指揮していた“ガルマン・ウルフ”こと、フラーケン大佐だ。
「うむ。この実験は、我々ガルマン・ガミラスの新たな未来と可能性を広げるものだ。総統のご期待に添えるよう、各員とも全力を尽くせ」
「「ザー、ベルグ」」
「次元トンネル発生機発振準備!」
「システム、オールグリーン!」
「次元トンネル発生機作動します!」
 【ゲイザー】の目の前の空間に次元の穴が広がる。それは、かつてシャルバート星へ繋がっていた次元トンネルに似ていた。フラーケン自身はあの戦いには参加していなかったが、かつてのシャルバート星は、次元航行技術も有していたのだろう。
「出力が不安定ですが、何とか通行可能です!」
「うむ。ゲイザー発進! 次元トンネルに侵入せよ」
 【ゲイザー】が、その目の前に広がる次元トンネルに入っていった・・・。

 異次元空間を航行する【ゲイザー】。辺りは巨大なシダ系植物が茂り、時折、その森の間に巨大な爬虫類の姿が見える。艦橋の次元トンネル発生機の計器が、異常な値を示した。
「艦長! 次元トンネルの出口が見当たりません! 出力不足だった模様!」
「むう、やむをえん。次元トンネルの入り口に戻るぞ。次元トンネルから離脱せよ!」
 しかし、そこにオペレーターの目の前の機器が作動し、非常警報が鳴り響く。
「何事か!?」
「重力震検知! ゲシュ=タム・ジャンプ中の何者かが本艦座標上を通過します!」
「左舷全開! 急速回避!」
 ゲシュ=タム・ジャンプ。地球ではワープとも呼ばれるこの恒星間航法は、無限のエネルギーを生み出す波動エンジンにより、時空間を捻じ曲げ、円状に形成された特異点と特異点を飛び越える航法だ。理論上、その所要時間は“ゼロ”であるが、異次元宇宙の存在を知ったガルマン・ガミラスでは、その“ゼロ”時間の間、不特定多数の異次元空間を通過する事が判っている。
 【ゲイザー】の左舷のバーニアが猛噴射し、ジャンプ中の艦の航行コースから外れる。
 次の瞬間、先ほどまで【ゲイザー】が存在していた空間を大型戦艦が通り過ぎていく。
「あれは・・・!?」
 目の前を通過した艦は、水上艦のようなフォルムと巨大な塔状になった艦橋。三連装の砲身型の主砲。そして艦首のニ連装の巨大な砲口。
「あれは、地球軍のアンドロメダ級ではないのか!?」
「艦長。先ほどの艦ですが、艦体各所に被弾跡があり、装甲片や部品が散乱しています!」
「よし、至急回収せよ! 調査する。艦の映像は撮ったか?」
「はっ、これに」
 【ゲイザー】のメインパネルに先ほど通過した艦が映し出される。どう見ても地球のアンドロメダ級の系列艦に見える。
「あっ!? 艦長! 何名かの乗組員を発見! 艦内から放り出された模様!」
「急いで収容しろ!」
 こんなところで人間を放置したら、たちまちこの次元に生息している肉食恐竜のエサになってしまうだろう。

「乗組員の収容と、サンプルの回収完了しました!」
「艦長! そろそろ次元トンネル入り口が限界です! 脱出しないと、この次元トンネル内に閉じ込められます!」
「急ぎ脱出せよ! 調査隊の撤収を急げ!」
 回頭し、次元トンネル入り口に戻る【ゲイザー】。その背後でワープ中の地球戦艦が消えていった・・・。

・・・・・

 新ガルマン・ガミラス本星。デスラーズパレス―――
「「ガーレ、デスラー! 総統、万歳!」」
 いつもの声を背景に、壇上の席に上るデスラー総統。その手を挙げると、会場に列席している高官たちが静まる。デスラーが席に着くと、高官たちも敬礼の手を下ろす。デスラーが頷くと、全員が着席する。
「総統、先ほど次元航行試験艦ゲイザーより、次元トンネルの生成実験成功との報告がありました」
 居並ぶ高官たちの最上位に立つタラン参謀総長が報告する。
「そうか。まずは第1段階成功といったところだね・・・」
「は!」
「確か艦長はフラーケンだったね?」
「はい」
「フラーケンのことだ。手抜かりはないだろうが、万全を期すように伝えろ」
「ザー、ベルグ!」
 タランが下がる。
「次」
 次にタランの次席に立つガイデルが敬礼し、発言する。
「は。総統、我がガルマン・ガミラス軍は現在、本星からこの赤色銀河の中心方向、渦の腕方向の2方向に展開しております」
 大パネルに赤色銀河と、ガルマン・ガミラス本星の位置、ガルマン・ガミラスの勢力圏が表示される。ガルマン・ガミラス本星の位置は、直系約10万光年の赤色銀河の中心から約2万光年離れた、核恒星系から時計回りに伸びる腕の根元に位置する。その勢力圏はまだ小さい。
「ガイデル。我々はまだ再建途中だ。あまり勢力を広げすぎる必要はない。今はまだ地固めが重要だ」
「承知しております」
 かつて天の川銀河に赤色銀河が異次元から現れた時、大規模な銀河交錯現象で、デスラーはその母なる星を再び失った。当時は国境辺境の視察に赴いていた為、デスラーとデスラー直属の兵たちは助かったものの、キーリングをはじめとした、ガルマン・ガミラスの首脳陣と戦力のほとんどはガルマン・ガミラス本星と運命を共にしてしまった。
 地球の危機を知り、急ぎ駆け参じ、ヤマトの危機を救い、ヤマトの自沈に立ち会った。あの時、デスラーはライバルを失った事に、母星を失ったのと同様な虚無感を覚え、涙したものだ。
 その後、地球連邦から謝礼として、艦隊の修理と整備、補給を受け、兵たちも長旅の疲れを癒した後、再びデスラーは新天地を目指して旅立ったのだ。
 ガルマン・ガミラスはその戦力の大部分を失ったとはいえ、銀河交錯現象から外れた宙域に展開していた、ガイデル提督率いる東部方面軍司令部はほぼ無傷であり、残された全軍を以って、新天地を赤色銀河に求めた。
 しかし、その赤色銀河も急速に元の異次元に消えていき、ガルマン・ガミラス軍も天の川銀河から消えた。そして、赤色銀河のあちこちを十年以上も彷徨い、やっとのことでこの新たな母星となるべき星を見つけた。その時艦隊は、赤色銀河に旅立った時の4分の1になっていた・・・。
 この赤色銀河はまだ生まれたばかりの星が多く、そこに住まう生命も、まだ原始時代であったり、知的生命体誕生以前であったり、知的生命体が存在していても、せいぜいが中世期以前の文明レベルであり、デスラーもそれら知的生命体の存在する星は、“外敵”に対する防衛艦隊を配置、保護下におき、基本的には干渉しない事にしていた。
 外敵。そう、この赤色銀河にはガルマン・ガミラスの外敵がいたのだ。元々赤色銀河に存在していた者ではない。その勢力はSUSと名乗り、異次元の宇宙から侵略してきた、全く未知の生命体だった。
 そのSUSが、天の川銀河侵略のために障害となるであろうガルマン・ガミラス帝国とボラー連邦を一気に壊滅する為に、赤色銀河を出現させた張本人だと知った時、デスラーは激しい怒りを覚えた。第2の故郷、ガルマン・ガミラス星を滅ぼした憎むべき敵。必ずや国力を回復させ、復讐を誓った。しかし、同時に銀河系規模で次元移動できる彼らの技術に畏怖をも覚えた。
 現在、ガルマン・ガミラスはSUSと交戦状態にある。しかし、SUSは神出鬼没であり、ガルマン・ガミラスの勢力圏のどこに現れるかわからない。しかも次元航行技術を持たないガルマン・ガミラスは、SUSに対して攻め込む事ができない。今は専ら専守防衛に徹するしかなかった。よってその版図も最低限のレベルに抑えていたのだ。
 そんな中、ガルマン・ガミラスでも次元航行技術の開発が進められ、試行錯誤の末、ついに次元航行試験艦【ゲイザー?】が完成した。この実験が成功した暁には。必ず奴らSUSの本星を見つけ出し、全軍で攻撃、全てのSUS人を滅ぼし、我がガルマン・ガミラスを滅ぼした罪を贖わせてやる。
「銀河座標C215とE154にSUS艦隊が出現しましたが、全て撃退致しました」
「相変わらず見事な手腕だね、ガイデル。君のような優秀な部下が生き残ってくれた事は、私にとって僥倖だよ」
「は! ありがとうございます! 我々こそ総統がご健在の事を非常に嬉しく思っております! 総統さえご健在であれば、我らがガルマン・ガミラスは不滅であります!」
 かつてヤマトと事を起こした時は、一時デスラーの不興を買ったガイデルだが、その優れた手腕により、今やガルマン・ガミラス全軍を率いる大将軍に任命されていた。
 その後、各任地を任された将軍たちの報告が終わった頃、タランの元に【ゲイザー?】から報告が入った。
「どうかしたかね、タラン?」
「は、総統。【ゲイザー?】より新たな報告が入りました。次元トンネルに突入したものの、次元トンネル発生機の出力不足により、出口が開かず、やむを得ず通常空間に帰還したとの事」
「うむ・・・、次元トンネル発生機の完成具合もまだまだ、だね。技術部に今回の詳細なデータを解析させ、改良版の開発を急がせたまえ」
「ザー、ベルグ!」
 閉会にしようとしたデスラーだが、タランの様子がおかしいことに気付く。
「どうしたかね、タラン? 何か他にも問題点があったかね?」
「いえ、問題点ではないのですが・・・」
「何だというのだ?」
「は。【ゲイザー?】が次元トンネル内を航行中、地球のアンドロメダ級と思われる戦艦とすれ違ったそうです。地球の戦艦はジャンプ中にたまたまゲイザーの航行していた次元を通過したようですが、各所に被弾跡があり、ブリッジの被弾跡から放り出された乗員4名と記録媒体、装甲の一部を回収したそうです」
 地球。懐かしい名前だ。そしてあの艦とあの男・・・
「詳細はこれから調査しますが、装甲の破片に残された放射能から、地球戦艦を攻撃したのはSUSと思われるとのこと。収容した4名は高濃度放射能と宇宙線を浴びて仮死状態にあり、蘇生処置中とのことです」
「詳細な報告を後ほどするように。ではこれで閉会とする。皆ご苦労であった」
「「ガーレ・デスラー! 総統、万歳!」」
 全員がピシリと揃って敬礼する。デスラーは満足そうに頷き、会場を後にした。

 午後、デスラーは自室でフラーケンから詳細な報告を受けていた。傍らにはタランが控えている。
「ふむ、それで?」
『は。装甲片の調査結果ですが、間違いなく地球のものだとの事。そしてこの艦を攻撃した者がSUSだという事も確実です』
「・・・ということは、SUSはその後の銀河系、地球を攻撃している訳か」
『おそらくは・・・』
 あの地球のことだ。そうそう簡単に屈する事はないと思うが。
『あと奇跡的に回収できた記録媒体から地球の状況も、大まかですがわかりました。銀河系核恒星系から移動性ブラックホールが発生し、太陽系を飲み込むコースを取っているとの事』
「何だね? そのあからさまに怪しい移動性ブラックホールというのは」
 理論上、“恒星”の一種であるブラックホールは動く事はない―――正しくは銀河系の中心に存在する超巨大ブラックホールの周りを公転しており、銀河系自体も“動いて”いるのだが―――。少なくとも彗星や回遊惑星のように特殊な動きをする事はない。人為的な力が加わらない限り。
『地球では自然現象と見ているようですが、記録媒体に残されていたデータと、移動性ブラックホールの偏光パターンからの解析結果では、SUSの作り上げた次元トンネルである可能性が高いと技術部は申しております』
「それで地球側の対応は?」
『核恒星系のアマール星の月に移民するべく、大移民船団を建造し、移民を開始したようなのですが、第一次移民船団はSUS艦隊に襲われ壊滅的打撃を受けた模様』
「アマールというのはあの連星のアマールかね?」
『は』
 ガルマン・ガミラス時代、ヒステンバーガー提督が担当していた惑星国家群の一つだ。
「あちらでは地球がSUSと戦っておるのか・・・。何とか地球とコンタクトは取れないものか」
 デスラーの脳裏に一人の男が思い浮かぶ。
『今回形成した次元トンネルは、出力不足で出口まで開くことができませんでしたが、当該宙域で次元トンネルが繋がれば、天の川銀河と通じる可能性が高いとのことです』
「ふむ。次元トンネル発生機の完成を急がねばならないね」
『はっ!』
「それで収容した乗員の様子はどうだね?」
『はい。4名全員が仮死状態に陥っており、蘇生処置を施しましたが・・・、蘇生できたのは、女性1名だけで、他3名は死亡が確認されました』
「そうか・・・。死亡した3人は丁重に弔っておくように。生存者1名は決して死なせぬよう医療部に伝えておけ。重要な情報源だ」
『はっ、了解しました』
 しかし、流石のデスラーも、その生存者が自分の知人だとは思いもしなかった・・・。

・・・・・

「う・・・」
 頭が痛い。目が回る。目の前に暗黒の空間が広がる・・・。
 ピッ、ピッと医療機器の動作音が聞こえる。どうやら病院らしい。女性はゆっくりと目を開けた。
 そこは、女性の知る病院とは様子が違っていた。明らかに自分の母星の病院ではない。しかし自分を治療してくれている事は女性にもわかった。
「っ!?」
 思い出した。自分の乗った戦艦は、ワープイン直前に艦橋に被弾し、自分は爆風と共に宇宙空間に吸い出されたのではなかったか・・・?
 女性は何故自分が助かったのか理解できなかった。それに、ここがどこなのかも。周りに医者と看護婦だろう、よく聞こえないが、かつて聞いたことがあるような発音の言葉を話している。今は自動翻訳機を持っていないのか、話の内容はわからなかったが、どうやら自分の事を話しているようだ。目もよく見えない。身体が動かない。誰かが自分の耳元に何かの機械を取り付けている・・・。同時に医者の言っている事が通訳されて耳に入る。
「気・・・どう・・ね? 今・・・目も・・・見えん・・・耳も・・・えんだろう・・・すぐ・・・治・・・配ない」
 よく聞こえないが、どうやら自分は助かったようだ。じきに良くなるらしい。女性は再び目を閉じ、眠りに落ちた・・・

 再び眼を覚ました時、そこは病院の一室のようだった。眠っているうちに移されたのだろう。今度は目もちゃんと見えるし、耳も聞こえる。身体の節々が痛むが、手も足も動く。・・・実は女性が眼を覚ましたのはあれから3日後なのだが、そんな事は女性には知る由もなかった。
 女性は病室の窓から外を見る。そこには、かつて見た事がある風景が広がっていた。薄緑色の空。土筆状の高層ビル群。そしてそれらを結ぶチューブ状の交通網。その背後に聳え立っているのは・・・
「デスラーズパレス!?」
 女性が驚く。病室の窓から見える風景は、かつて18年前に見た風景と同じだった。しかし、その風景を持つ惑星は、17年も前に滅びたはず。
 トン、トン
 ドアをノックされる。開いたドアから入ってきた二人―――といっても女性には前に立つ人物しか映っていなかったが―――を見て、更に驚く。
「デスラー総統!?」
「おかげんいかがかな、ミセス古代?」
「な、なぜ・・・? それに私は・・・」
 女性=古代雪はどうして自分が助かったのか、そして何故自分がデスラーズパレスにいるのか全く理解できなかった。
「混乱しているようだね、ユキ? 無理もないが。一つずつ話していこうか」

・・・・・

「そんな、そんな事が・・・」
 デスラーから事の顛末と、地球の状況の説明―――デスラーから地球の状況を聞くというのも変だが―――を聞き、雪は言葉に詰まった。
「よって現在、地球はSUSと戦っていると思われる。地球の事だ。必ずやSUSに勝利し、移動性ブラックホールの件も解決策を見つけると信じている」
 雪も頷く。デスラーが地球の力を信じているのだ。自分が信じないでどうするのだ。
「古代が必ず地球を救ってくれるよ、ユキ」
「デスラー総統・・・、でもあの人は・・・」
「今、軍を離れて宇宙を彷徨っている・・・かね?」
 雪は俯いて頷く。しかし、そんな雪にデスラーが語りかける。
「古代は地球の危機となれば、必ずや戦場に戻ってくる。そして例え僅かな可能性でも、必ず地球を救うに違いない。君達はいついかなる時でも、互いを信じあっているのではなかったのかね?」
「・・・・・」
「私はかつて、君達に真実の愛を見た。それが、私の凍てついた心を溶かしてくれた。あの時の愛は、互いを信じる心はどこへ行ってしまったのだね?」
 そうだ。自分はいつでも夫を信じていた。宇宙貨物船の船長となってからも、常にその身を気遣い、いつか必ず帰ってきてくれると信じていた。雪の瞳に、信じる心が、可能性の光が戻ってくる。
「ありがとう、デスラー総統。私も・・・私も信じます」
 愛する夫と娘の顔を思い描く。きっと、きっと自分を迎えに来てくれますね、あなた・・・
「それでこそ君達だ」
 デスラーも満足そうに頷いた。

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