小説『売店のおばちゃんとチョコレート・改稿版』
作者:STAYFREE()

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 いつも乗っている帰りの電車は昨日とは違う空気が流れている気がした。さっきの売店での出来事が、自分の感覚を変えてしまっているのかもしれない。電車が自宅の最寄りの駅に到着した。売店で買ったチョコレートは未開封のままでバックに入っている。
 駅から出て、自宅までの道を歩く。私の横を自転車に乗ったサラリーマンがなかなかのスピードで追い越していく。さらにその横の片側四車線の大きな車道を大きなトラックがかなりのスピードで追い越していく。
 わたしは普通なら自宅まで徒歩十分の道を倍の時間をかけて歩いた。帰り道を歩くときはいつも、暗いことばかり考えていた。でも、今日はなぜだか少しだけ気持ちが落ちついている。
 自宅に着いた。バッグをベッドの上に放り投げて、冷蔵庫を開けて牛乳をだし、コップに注ぐ。
牛乳を一口飲んだら、甘いものが欲しくなった。わたしは、はっと思い出してバッグの中から駅の売店で買った赤いパッケージのチョコレートを取り出した。
 パッケージを開けて、一粒口の中に入れる。
「おいしい」思わず声が出る。
「……おいしい」胸が詰まる。
「おいしいよぉぉぉぉっ……」涙があふれる。
 その時のわたしの頭の中に駅の売店のおばちゃんのやさしい笑顔が思い浮かんだ。
 わたしは赤いパッケージのチョコレートをすべて食べきった。食べきることができた。
 次の日、わたしはまた、駅の売店でチョコレートを買った。トレーに赤いパッケージのチョコレートと百円玉と五円玉を置く。その時のわたしは、ほんの少しだけ、笑顔を浮かべることができた。

                         ※※※

 次の日、彼女はまた売店にやってきた。でも、いつものような暗い顔ではないような気がした。彼女はいつもと同じチョコレートと百円玉と五円玉をトレーの上に置いた。
 その後、彼女はほんの少しの笑みを浮かべた。彼女のその顔を見て、私は決心した。自分も前向きになろうと、ずっと連絡が取れない娘を何とかして探し出そうと……

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